表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第三ノ巻
26/460

第二十六話 俺を早く迎えに来てくれ頼む・・・!!

第二十六話 俺を早く迎えに来てくれ頼む・・・!!


「『殿下』より俺に下賜された御言葉は絶対であり、道理なのだ。若かりし頃、『殿下』に近衛騎士として拝命された俺の心と身体は既に『殿下のもの』だ。『殿下』は俺にとっては太陽であり、何を以ても、何を措いても俺は近衛騎士として『殿下』のために殉じなければならないのだッ」

 そんな鎧男の若い頃の話なんて俺にとっては知ったこっちゃない。話をすり替えんなよ、そもそもの論点はそこじゃねぇ!!鎧男あんたの意思を訊いているんだ、俺はッ。

「―――ッ!!」

「『殿下』に忠勤する俺の心と意志は『殿下』と共に在る。その『殿下』は今や『イデアル』にその身を置く。ならば俺が『殿下』のために『イデアル』に力を尽くすのは道理であろう?違うかね『転移者』の少年よ」

 『イデアル』はなんかめちゃくちゃやばそうな組織だと言うことは解った。だったら、主君がそのやばい組織に入ろうとするなら、従者、部下としてそれを止めないか?普通なら止めようとするだろ? ほら、友人や仲のいい先輩や後輩がやばそうなことをしようとしてたら一言いうのと同じようにさ。だから、俺はこの鎧男にもそれと同じようなことを言いたくなって口を開く。

「いや、違うな。自分の師や主が間違った道へと行こうとするなら、それをただすのも従者の役目だろ? 違うのか?」

「否ッ近衛騎士に拝命されし者が主君に対し疑念を持つことこそ『悪』なのだッ!! 俺の主君チェスター殿下こそが真の正義だ。そのチェスター殿下こそ俺の存在できる場所。俺が俺であり、俺の存在を証明できる場所なのだッ!!」

「~~~!?」

 はぁ!? 俺が言って鎧男に伝えたかったのは、道を踏み外そうとしていたら例え師匠や上役であっても一言進言しようよ、みたいな意味なのにさ・・・。この人・・・主君にただすことを『疑念』を持つことだと言ってるよ。あ~ぁしまいには『悪』とか『証明できる場所』とかまで言い出したよ、この人・・・。なんか思考がやばくないか?

 で?鎧男の『イデアル』に入った主君『殿下』の名前はチェスターっていうのか。まぁ、今はチェスター殿下とかいうやつのことは置いておいて・・・この鎧男だ。

「―――・・・」

 でも、この鎧男の言い分は・・・考えた方は俺とまるで違う。・・・それともこれが、この鎧に身を包んだこの人のような思考がこの五世界では常識なんだろうか。

 ―――いや、ううん、たぶん鎧男がちょっと特殊なんだ、たぶん。だってアターシャは、めちゃくちゃ俺を疑っていたもんな。そのとき俺の脳裏に浮かんだのは、アイナに進言するアターシャの姿だ。アターシャはアイナの世話係だとアイナ本人が言っていた。そんなアターシャは主であるアイナにちゃんと進言をしていたぞ、主に俺を疑って。だから、この『盲目的に主君は正義だ』という鎧男の言うことのほうが変なんだ。

「『転移者』の貴公に、俺の心は解るまい・・・!!」

「・・・解りたくねぇよ、あんたのそんな心なんてよ。あんたに俺の考えを押し付けるみたいで嫌だけどさ、でも、敢えて言わせてもらうッ。やっぱりあんたは間違ってる、と俺は思う」

「転移者の少年よ、俺が間違っているとはいったいどういうことかな?」

 うッ顔恐ぇな。―――思わず鎧男の圧にビビる。ザリッと鎧男が一歩俺へと踏み出した分、俺は一歩脚を後ろに退かせた。大柄で白銀の鎧を身に纏ったこの男の威力に()てられたからだ。

「わ、解らないのか、あんたは」

 鎧男の顔がまじすぎて、ちょっと俺及び腰・・・。 

「ほう―――・・・?」

 う・・・、その銀色の手甲の拳で殴られただけで大怪我しそう・・・。ううん、たぶん死ねる。

「―――・・・」

 鎧男の鎧を纏った両の手の拳はぎゅっと固く握り締められている。たぶん手甲の正拳を腹に一発貰っただけで、肋骨を粉々にされてしまいそうだ。よしんば木刀でその拳を受け止められたとしても、その木刀は粉々に砕かれてしまいそうだ。そんな恐怖感さえ俺は覚える。それにこの場にはこの鎧男以外にもクロノスや魁斗もいる。もしかしたらその他の奴らも・・・。

 やばい。とにかくやばい。鎧男を怒らせてしまったかも・・・。鎧男に半殺し、か、殺される前に早くここから立ち去りたい。アイナ、なんでもいいからとにかく、俺を早く迎えに来てくれ頼む・・・!!

「・・・」

 下手を打てば、本当に俺はここで消されるかもしれない。平気で人々を殺めるような、ううん殺めるだけでは飽き足らず、生ける屍にして、なおも使役するようなそんな悍ましい『イデアル』なんかには絶対に、死んでも入りたくない俺は。

 そう、そんな俺が窮地に陥っているときのことだったんだ―――、


「ケンタ、約束通り貴方を迎えに来ましたよ」

「ッ!!」

 アイナの声だっ!! ―――俺の窮地を助けてくれる(だろう)アイナの声が聞こえたんだよ!! 俺の幻聴じゃないっ!!だってなぜだか知らないけど、鎧男も目を見開いたまま、まるで金縛りに遭ったように固まってるからっ。

「っつ」

 きょろきょろ―――どこだっどこにいるんだアイナっ。その懐かしい『彼女』の声。でも、その凛とした声はすれど姿は見えず。あの死屍累々の街で別れたっきりのアイナの姿はどこにも見えなかった。でも、その直後のことだ。

「―――!!」

 そこかっアイナッ!! 俺と鎧男が向かい合うちょうどその真ん中。そこの空間がまるで水面が漣立つように、そこの空間が細かに、小刻みに揺れ始めたんだ―――。

 こんな光景を俺は昨日見た。それは、アイナがアターシャと共に俺の目の前からその姿を消したときだ。

 ほ、ほんとに、来てくれたんだなっアイナ―――俺を迎えに・・・。ありがとうっアイナさんっ!!

「アイナ―――っつ」

 その脚やっぱりそうだっアイナさんっ来たぁあああっ!!うんっ必ず来てくれると思ってたぜっ、俺は!!

 ―――漣立つ空間の中からまず、その、別れたときと同じズボンの右脚がすぅっと一歩足を運ぶように現れ、右脚がすぅっと歩くように地面についてその後はもう、アイナの全身が何もない漣立つ空間の中から現れた。

「アイナ・・・っつ」

 また一歩アイナは左脚を前に出して歩み、完全にこの廃砦の地面に舞い降りるように降り立ったんだ。そのときアイナの固い靴底が廃砦の地面に散らばる煉瓦の破片や砂を踏んでザリッと音を立てた。

「遅くなって、ごめんなさいケンタっ・・・!!」

 この口調がアイナの素かな?アイナのその少し泣きそうな表情と絞り出したその声色にも少し感情的な色が着いている。

「アイナ―――っ」

 俺も感傷的になって思わずじわっと。でも泣くものかっ。アイナとは昨日ぶりの再会なのに、いろいろとありすぎた。生ける屍達に襲われて幼馴染の魁斗に助けられて、幼馴染だった魁斗のことを思い出し、俺は物凄く嬉しかったんだ。なのに、それなのに俺は魁斗に裏切られた。全ての事は魁斗達『イデアル』によって仕組まれていたことで―――嬉しかった俺は山の頂上から恐怖の谷底に蹴落とされたに等しかった。そんな中、今まさに俺のこの鎧男の危機に際して、俺を迎えに来てくれたのはアイナだ。

 魁斗達によって仕組まれていたあの死屍累々の街―――動き出した生ける屍達―――たくさんの恐ろしい出来事がいっぱいありすぎたんだ。

「ケンタっ―――・・・」

 俺の姿を見止めたアイナは、タンっとその煉瓦の破片が所々に散らばる廃砦の地面をタッと蹴って俺のもとへと、まるで俺にバっと跳びつくように駆け寄る。

「ケンタ―――よくぞ御無事で・・・っ」

 うおっアイナってば!!そんなっ!!

「おっと・・・!!」

 そのアイナの心底安堵したような顔とその口調―――俺は思わず両腕を伸ばしてアイナを受け止め―――

「っつ!!」

 わっ!!わわっ!! アイナに跳びつかれた勢いで俺はその場にたたら踏んだ。でも、足捌きなら小剱流の剣術で慣れてるぜ。

 勢いよく、でも上品にタンっと足を踏み鳴らして俺にバっと跳びついてきたアイナを両腕で抱えるようにして受け止め―――わわっ・・・身体が傾いて―――!!

「くっ・・・!!」

 絶対こけねぇから俺・・・!!

「ケンタっ!!」

 アイナは絶対落とさないっ離さねぇ!!こけてなるものか!! アイナの受け止め余ったその勢いを殺すために、俺は二、三度、まるで舞を(たしな)むような足取りでくるくると。俺はアイナのその身体に手を回してしっかりと抱き留めると俺はその場でくるくると回った。

 ふぅ・・・アイナを落としそうになったときはほんとに焦ったぜ。

 くるくるとした回転も収まり、身体から力を抜いたときだ。

「っつ///」

 アイナさんが熱っぽく俺を、じぃ・・・。

「―――っつ///」

 うっ、そんな熱っぽい目で俺を、じぃ・・・。―――俺、なんか照れるってばアイナ。それでも俺はアイナから目は逸らさない。潤んだような眼をしたアイナと俺は見つめ合う。アイナの背中に腕を回す俺の顔を、下から上目づかいで覗くようにしながらアイナは言う。

「―――ご、ごめんなさい、ケンタ。わ、私としたことが、少しおてんばがすぎました・・・」

「!!」

 そのふるえる藍玉のような色をしているアイナの眼が、その俺への罪悪感からふるふると震えているように俺は思ってしまったんだ。

「ううん、いいよ。アイナ・・・」

 だから、俺はアイナにその言葉を言わずにはおれなかった。あぁ、なんかさぁアイナをよしよしとしてあげたいなぁ。そう思って俺はアイナの背中をよしよしとやさしくさすってあげた。

「あの街で・・・貴方が御無事でいてくれて、ほんとうによかった・・・―――」

 ひしっ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ