第二百五十九話 先に僕の見解を率直に言わせていただきたい
「奈留さん、貴女も来てくれたのですか?」
「っ」
そう奈留だ。一之瀬さんが、応接の間に入ってきた銀髪の女の子のことを『奈留さん』と言ったことで、俺はその銀髪の少女の下の名前を思い出した。そうこの銀髪の女の子の名前は『羽坂 奈留』という女の子だ。
第二百五十九話 先に僕の見解を率直に言わせていただきたい
「うん、春歌、一応―――、、、。塚本に付いてくるように言われたの」
羽坂さんは訥々と、あまり『嬉しい』や『楽しい』といったような、自身の感情を言葉には乗せず、一之瀬さんに、そう答えた。
「ありがとうございます、奈留さんっ。友人であり、同じ隊員の奈留さんがこの場に来てくれて心強く思います、私はっ」
「う、うん。一応、、、春歌とは友達だし・・・っ///」
あれ?羽坂さんってこんなふうに照れの感情は出すんだ。意外だ、この羽坂っていう女の子はもっと寡黙な印象が俺にはあったのに。
「えぇ、ふふっ奈留さん」
「・・・っ」
そして、羽坂さんが、ここにやって来たことで、明らかに一之瀬さんの雰囲気も変わった。その雰囲気は境界警備隊とか、その隊長っぽくなくて、本当に俺達と同年代の友人同士に相応しいものだと思う。
この応接の間は、アターシャによって追加の椅子が二つ運ばれた。
「僕はここに。失礼します」
塚本さんは、泰然さんに軽く会釈し、その脇に座る。
「じゃ、私はここ」
羽坂さんは、一之瀬さんの横の席に就く。
ちょうど対面になる俺から見ると、彼ら日之国国家警備局の人員達とは、円卓の机上を挟んで左から、『塚本 勝勇』『一之瀬 泰然』『一之瀬 春歌』『羽坂 奈留』の順番に座っている。
俺達皇国の面々は、俺の左隣にアイナが、そして、そのアイナが前になるような位置取りで、アイナの左後ろに近衛騎士のサーニャが微動だにせず控え、アイナの右後ろに近習長のアターシャが立っている。
「さて、と。では、始めさせていただいてもよろしいですか?アイナ皇女殿下―――」
塚本さんは終始、にこやかなその態度だ。
「はい、ツカモト」
アイナはそれに答える。
「―――」
俺はと言うと、もちろん塚本さんの言動に、注意を払っているものの、ほかの一之瀬さんや羽坂さんの動向や様子にも気を配って、、、見張る、というのとはちょっと違うが、様子を見る。
「―――」
一之瀬春歌さんは、腕を自身の太腿に添えるように置いて椅子に座っている。相変わらず、やや厳しいその真面目な眼差しは、白い歯を見せない。
その一之瀬春歌さんの視線は俺ではなく、常にアイナを、そして後方に控えるアイナとアターシャを見ているようだった。
泰然さんも、一之瀬(春歌)さんと同じような態度だ。
「、、、」
だが、その双眸は孫の一之瀬春歌さんほど厳しいものではない。
「・・・」
羽坂さんは、なにを思っているんだろう?やや気だるそうにしたその目とその目つきは。それに、以前、羽坂さんを見たときと同じように、なにか自身にとって不満に思うようなことでもあるのだろうか?羽坂さんは、その口元を△にしている。
「先ほど僕は、そこの一之瀬境界警備隊隊長より報告を受けまして、急ぎ迎賓館に足を運んだ次第なのですが、、、。やはりアイナ皇女殿下、先に僕の見解を率直に言わせていただいてもよろしいですか?」
「はい、ツカモト。なんなりとあなたの忌憚のない意見を述べてください」
ぺこり、と塚本さんは席に座ったまま軽く会釈。
「お気遣いいただきありがとうございます、アイナ皇女殿下」
「いいえ、ツカモト」
「はい。では―――、ん゛、、、」
咳払い。そして、塚本さんは口を開き語り出す。
「先ほど僕は、ここにいる一之瀬 春歌境界警備隊隊長より報せを受けましてね。その報告内容を簡潔に纏めますと、我々日之国国家警備局が、天雷山へ送り届けたはずの、アイナ皇女殿下一行が、津嘉山の迎賓館に滞在している、と―――。僕は一之瀬隊長の報告を聞いたとき、最初は自身の耳を疑いました。おかしい、一之瀬隊長の報告は間違っているはずだ。ですが、僕のその期待は裏切られた。アイナ皇女殿下貴女は、確かにここ津嘉山の迎賓館に滞在をしていたから。これが事実あれば、貴女方は日之国への入境に際して、僕達日之国国家警備局に虚偽の申請と報告をしていたことになる。なぜ、そのようなことをしたのか、その理由を僕に教えていただきたい」
「答えましょう、ツカモト」
「ぜひ、アイナ皇女殿下」
「はじめに。我々イニーフィネ皇国は、あなた方日之国国家警備局に対して虚偽の入境申請は行なっていませんよ。ツカモトあなた方の主張は、そもそもの前提から間違えていると言わざるを得ません」
「僕が間違えている?」
「はい。我々は、そちらが許可し、発行した『入境許可証』の効力に従って、ここツキヤマの家にいます。『これ』の効力は―――」
ちらり、っとアイナは懐より『入境許可証』を見せ、すっ、っとまた『それ』を懐に仕舞う。
「―――『日之国内において自由に行動しても構わない』、はずですね?よって、『入境許可証』を所持するイニーフィネ皇国の我々が、ここ日府にあるツキヤマの家に滞在していても、私は、そこになんら問題も発生していないという認識です」
「なるほど―――」
塚本さんは机の上に両手を出して置いていたが、両肘をついて両手を合わせる。その合わせた両手は自身の顎の前で組んだ。
「―――ですが、アイナ皇女殿下」
「はい、ツカモト」
「御言葉ですが、そもそも、あなた方皇国からの申請とその内容が、意図的な隠蔽を行使したいがための『虚偽の内容』であったとしたら、そもそもの『入境許可証の発行』自体が取り消され、『入境許可証』の効果は失効することになります。僕達が、貴女方を天雷山に送り届けたあと―――、アイナ皇女殿下一行は、すぐにここ日府に戻ったしか考えらない。そうとしか言わざるを得ない。なにが目的なのですか?貴女方は」
「、、、」
アイナは、口を閉じて黙る。
アイナが、押し黙ったことが自体が、彼女アイナ自身の心理戦なのかもしれないが。でも、塚本さん―――
「っ」
―――この人、なにを言い出すんだ!? 俺達が天雷山に登っていないだと!? そして、まるで塚本さんは俺達が。
俺達は日之国に犯罪まがいのことをするために入境したんだろう、と、まるでそう言っているようで。
「心外ですね、ツカモト。先ほど、そこにいるタイゼンにも、天雷山踏破の証拠の写真を見せたとおり、我々は、ちゃんと天雷山を登っていますよ」
「ほう?」
くるり、っと塚本さんは、泰然さんに振り向く。
でも、そこで口を開いたのは一之瀬さん(春歌)だ。
「塚本特別監察官」
「なにかな、春歌くん」
「た、確かに、そこの健太殿下は、私の祖父に、天雷山で撮ったと思われる写真を見せていました」
「そうなのですか、泰然さん」
「うむ、本当だ塚本くん。だが、確かに私は、その写真を見せられたが、、、おそらく写真加工を行なえば、あのような大きな、木の幹を一巻きするようなムカデの写真ぐらいは、作れると思うが、な」
泰然さんよりそれを聞いて、塚本さんは思案顔。
「ふむ、、、」
それより、なんだって・・・っ。俺の、撮ったテンライムカデの写真が!!
「っつ!!」
泰然さん―――、俺の写真が偽造したもの、、、だと、いうのかっ・・・!!
///
「―――、、、」
つらつら―――、・・・、、、。っと俺は走らせていた筆を一時止めた。
「どうしてこうなった」
あのときどうしてこうなったんだろう。確かに、あのとき俺は塚本さんに言ってやった。その俺の一言で、また一つ議論が紛糾するのだ。
だが、その俺の一言がどうして、話がこういう方向に進んだのだろう、と。今となってそう思う。どうしてこうなってしまったのだろうか、と。
次巻二十四ノ巻では、ついに天雷山脈の樹海越え、高山地帯へと進んでいくというところなのだが―――それまでに、、、。
『イニーフィネファンタジア-剱聖記-「天雷山編-第二十三ノ巻」』―――完。