第二百五十八話 油断は禁物、ついにこの人の来訪だ・・・っ。日之国国家警備局第三席特別監察官、来邸へ
ちらり、っと泰然さんはアイナを見て、すぐに孫である一之瀬さんに視線を戻す。
「どこまでいっても互いの議論は平行線。然らば一度お前の上官である諏訪局長か塚本くんに此度の事を報せ、彼らの指示を仰いでみたらどうかな?」
「ッツ・・・!!」
ハッとして一之瀬さんは、目を見開く。まるで、今気が付きました、というような言動だった―――。
第二百五十八話 油断は禁物、ついにこの人の来訪だ・・・っ。日之国国家警備局第三席特別監察官、来邸へ
泰然さんは、それから―――、やや、ゆるりと、アイナに、その視線を持っていく。
「アイナ殿」
「はい、タイゼン」
うぉ、アイナって、俺達よりずっと年上の泰然さんに対して、呼び捨てなんだ。
その間に、まるで示し合わせたかのように、一之瀬さん(春歌)は、すっ、っとこの場から数歩遠ざかり、電話を取り出した。
きっと諏訪さんか、塚本さんに連絡を取るに違いない。
「っつ」
塚本さんが来るのか。ちょっと面倒くさいことになったかもしれない、、、。
俺は、そんな一之瀬さんを注視しつつ、、、。いや、俺だけじゃない―――、―――っと、無言でサーニャも、電話を触る一之瀬さんを、注視している。
その一方で、アイナと泰然さんは、、、
「孫と貴女方の話を聞きましたところ―――、要点を纏めますと。日之国政府は、日之国に入境してくるイニーフィネ人の貴女方に、『入境許可証』を出したということであってますな?」
「えぇ、タイゼン」
「ふむ、アイナ皇女殿下。そして、国家警備局は、貴女方が日之国にいる間は、安全面を考慮し、日之国政府は皇国の要人である貴女に、警備局より護衛官を選抜し、身辺警護に付けたということですな?その選抜された護衛官の一人に我が孫の春歌がいた」
「そのとおりです、タイゼン」
「そして、警備局は、貴女方を日月地方まで送り届けた。貴女方は、月光という町の外れより、そこからイニーフィネの聖地の一つである天雷山へと向かった―――。そうですな?アイナ皇女殿下」
「えぇ、タイゼン」
「だが、孫である春歌が言うには、今頃天雷山にいるはずの貴女がこの季訓の、、、いえ津嘉山の迎賓館にいる。季のやつめ―――」
「・・・」
きっと、アターシャやレンカお兄さん、ホノカの祖父である季訓さんは、友である泰然さんにも、俺達の事を話していなかったんだろう。
「タイゼン。おじさまを責めないであげてください、全てはこの私の一存です」
「しかしですな、アイナ皇女殿下―――」
ふぅ、、、っとアイナは一つため息を吐いた。
「タイゼン。我々が天雷山に挑んでいることは事実です。ね、ケンタ」
おっと。アイナに話を、同意を求められた。
「あぁ」
「ふぅ、、、仕方ないですね、、、。ケンタ、なにか我々の主張の、証拠になるような写真でも撮っていますか?」
写真かぁ。もちろん天雷樹海の中でいろいろ写真を撮った。
「あぁ、ちゃんとある」
まさか、こんなかたちで、その写真を見返すことになるなんてな。
「ふぅ、、、すみませんケンタ。ご足労をかけます」
アイナはため息。
「いや、これくらい平気」
俺は衣嚢より電話を取り出し、ちょいちょいっと―――、『写真』を開く。
「アイナ様。日之国では、そのようなため息を吐くと幸せが逃げていく、と言います。できれば人前では、ため息を吐くのはお控えくださいませ」
「従姉さん、、、はぁ・・・。サーニャ、、、はぁ・・・。はぁ、―――・・・」
「ひ、姫様・・・っ!?」
「アイナ様?どうか私の諫言を、お聞き届けてくださいませ」
「わたくし、、、あぁもう―――、はぁ、、、つかれました、よよよ」
ここ、アターシャの実家津嘉山の迎賓館に、一之瀬さん(春歌さん)より連絡を受けた塚本さんが来ることになり、アイナも演技っぽくため息で疲れたアピールをしていたので、取り敢えず俺達は、場所を移した。
ちゃんとした椅子と机が、設置されている部屋、ふかふかの絨毯が敷かれ、壁にはいくつかの絵画が飾られている応接の間だ。
季訓さんはこの場にいない。アターシャにより、出席させるのを見送られたからだ。ここまで話が大きくなってしまったからには、アイナはきっと、自身の空間跳躍の異能のことを言うに違いない。
俺は対面に座った泰然さんを見据え、
「泰然さん、天雷山はその麓に、天雷樹海が拡がっていたんです」
「小剱どの貴殿は、アイナ皇女殿下の配たるお方だ。そのお方が―――」
アイナはさっき俺に、『ケンタなにか証拠になるような写真は撮ってますか?』と言った。なら、これを出すか。
やっぱりインパクトのある写真は、、、っと、俺は場所を変える前に、選んでおいた取って置きの写真があるんだ。
「泰然さん貴方は、俺の言うことを信じられないかもしれない。だが、俺達が天雷山に挑んでいるのは事実です。ちょっと待ってくださいね―――、」
ほんとよかった、天雷樹海でいろんな写真を撮っていて。俺は衣嚢より電話を出して、ちょんちょん、っと指で、そして『写真』から、撮っていた写真を画面に。
「―――ほら、これを」
うえっ、っと、飛び上がるほどびっくりする大きなテンライムカデを撮った写真だ。もちろん大木の幹回りを、一周するほど巨大で危ないムカデだから、離れてズーム機能で撮った写真だ。そいつは木をなめるように、まるでヘビのように鎌首を擡げている。鎌首を擡げていて、飛び掛かってきそうで写真を撮るときはまじでびびった。
「ほう、、、これは大きなムカデだ」
「はい、テンライムカデと言います。それと―――」
俺は、ついついっ、っと指で写真を選ぶ。えっとどれがいいかな?
天雷樹海の中で。ちょこちょこ噴き上がっていた間欠泉? それとも、川で捕まえた川魚かな?それを食べている俺達の写真とか。それを見せれば、完全に俺達が天雷山に、ちゃんと行っている証拠にならないか?
そんなこときだ。人の気配がした。応接の間の開き戸が開いて、やって来た人物が一人。
「お待たせしました」
眼鏡の、、、その人物は、柔らかい笑みの表情を湛え、この応接の間へ。
来たッ塚本さんだ・・・っつ。この人、、、油断は禁物だ・・・っ。
「っつ」
ついにこの人の登場か・・・っ。油断ならないぞ、この人は・・・っつ。
「お久しぶりですね、ツカモト。ようこそおいでくださいました」
「これはこれは、アイナ皇女殿下、と、その関係の方々。いやぁ遅れてすみません、、、」
ぺこぺこ、っと塚本さんは頭を下げる。きっとそんな『すみません』なんて塚本さん自身は建前で、その本心は、その気持ちを微塵も、思っていないと思う。
「この夕暮れの時間帯は少しばかり、道が混んでいまして。すまない春歌くんも、少し来るのが遅れてしまった」
ざっ、っと一之瀬さんは、円卓の席を立つ。そんな一之瀬さんは、対面の俺から見て、泰然さんの右に座っている。
びしっ、っと、右手を、自身のこめかみから右目右眉付近に持っていき、一之瀬さんは、その場で塚本さんに敬礼。
「いえ、塚本特別監察官。お忙しい中、私の急なお呼び立てにも関わらず、ここ迎賓館までご足労いただき、感謝の念でいっぱいであります」
塚本さんも、一之瀬さんの敬意に応え、びしっ、っと敬礼で返す。
「うん、よく頑張った、春歌くん」
塚本さんは、すっ、すっ、っと二段階の動きで、その敬礼していた右手を下ろし、体側の位置へ戻す。
「はッ」
一之瀬さんも同じように、すっ、すっ、っと右腕を斜め下へ、そして、右手を体側に持っていく。
くるり、っと、塚本さんは、一之瀬さんから視線を外し、俺達のほうへ、その中心人物であるアイナへと、その視線を向ける。
「さて―――、っと、先ほど僕はそこにいる一之瀬春歌境界警備隊隊長より連絡を受けまして―――」
ひょいっ、っと、すると、塚本さんの後ろより女の子が、現れ、、、。
「塚本じゃま。早く部屋に入って」
「おっと」
ぐい、っと、塚本さんを押し退けるように扉から、ここ応接の間に入ってきたその女の子。その人物は、私服姿で、青いジーンズのようなズボンを穿き、そして、銀髪のきれいな髪をしていた、、、。
えっと確かその子の名前は、羽坂―――
「奈留さん、貴女も来てくれたのですか?」
「っ」
そう奈留だ。一之瀬さんが、応接の間に入ってきた銀髪の女の子のことを『奈留さん』と言ったことで、俺はその銀髪の少女の下の名前を思い出した。
そう、この銀髪の女の子の名前は『羽坂 奈留』という女の子だ。