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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第二十三ノ巻
249/460

第二百四十九話 それでもいい。だが俺に言わせてほしい

 トイレで用を足した後、俺と塚本さんは、周りに誰もいない、津嘉山邸の迎賓館のバルコニーにいた。

 時刻は午後。迎賓館のバルコニーから、日府の大都会の街並みが見える。俺がよく知る、元居た世界見ていたビル群。道路。そこを行き交う人々と車。ここ日之国は本当に日本と変わらない光景だよな。


第二百四十九話 それでもいい。だが俺に言わせてほしい


 塚本さんもその夕暮れに近づく街の光景を見詰めている。そんな塚本さんは、ややっ、っと口を開く―――。

「それで僕に話とはなんでしょうか?健太殿下」


 殿下ねぇ、、、俺は、そんな敬称で呼ばれるほど、自分で思う功績があるとは思えないし、俺の齢より二倍ほど上の人に、そのように健太殿下と、敬称を付けられて呼ばれるのは、むずがゆいものがあった。

「あの、塚本さん」

「なんでしょう?健太殿下」

 その眼鏡の、レンズの奥にある塚本さんの深遠なることを考えている、その眼、その瞳。まるで俺の真意を測るかのような、そのような塚本さんの眼差し。俺には視様と視れば、なんとなく解って視得る。


 深慮遠謀たる目的を持つ男塚本 勝勇(かつとし)『哂い眼鏡』。その二つ名を持つ男塚本 勝勇。俺は、そのことを塚本さん本人に、問い詰めるつもりは毛頭なく。俺は、塚本さんが自身で決意したことに対して口を出すつもりはない。だって、塚本さんと、その彼が率いる『灰の子』の目的と、俺の目的は合致するのだから。『イデアル』を討ち取る、とな。


 その『灰の子』のことを、今から塚本さんに質すつもりはない。そのことはではなく―――、塚本さんが俺に対する呼び方のことだ。

「その、殿下って呼ばれるのは、俺ちょっと、むずがゆくてですね、普通に健太でいいっすよ、俺のことを呼ぶときは。あぁ、でも呼び捨てよりも『健太くん』がいいっすかね」

 俺は、やや苦笑交じりで。俺的には『くん付け』で呼ばれたほうがしっくりとくる。例えば、姓で小剱くんとか。

「ふむ―――。・・・、」

 塚本さんは、思案するように腕を組む。

「―――健太殿下。貴方はイニーフィネ皇国皇位継承権第三位アイナ皇女殿下の配たるお方だ。いくら貴方自身が、僕に『健太』と呼べと仰られても、健太殿下貴方はそれでいいかもしれない。だが、周りはどう思うでしょう?この一介の日之民の僕が、貴殿を呼び捨てに、もしくは仮に僕は貴方のことを『健太くん』と呼んでいるのを聞いたら。僕は衆人達の悪感情を集めてしまうかもしれない・・・っ」

 集めてしまうかもしれない、の言葉を最後に、塚本さんはその口角にやや笑みを湛えた。


 言う。俺は言うぞ―――塚本さんに。今から絶対に言う。

「塚本さん―――、」

 塚本さんと会うことが決定してから、俺がこの人にずっと言いたかったことを。

 塚本さんは、おそらく俺が小剱 愿造祖父ちゃんの孫だってことに気が付いているはずだ。定連さんと野添さんを、祖父ちゃんの庵へ、遣るように仕向ける工作を行なったのは、きっとこの塚本さんのはず。祖父ちゃん→塚本さん→九十歩颯希さん→定連さん/野添さん、と皆が立場上この図式で繋がっているのだから。祖父ちゃんも、その口角をにやり、とさせて、それとなく、認めていたし。

「なんでしょう、健太殿下」

「俺の愿造祖父ちゃんを助けてくれてありがとうございます」

 ばっ、っと俺は黒い燕尾服姿で頭を深々下げて塚本さんに一礼した。

「はて?なんのことですかね健太殿下―――。愿造祖父ちゃん?僕にはさっぱり分からないですね」

 にやりっ。俺が顔を上げれば、案の定塚本さんは、その口角に、にやりっ、っとした笑み(哂み)を浮かべていた。

 だが、それでも俺に言わせろ塚本さん。

「塚本さん、それでもいい。だが俺に言わせてほしい」

 すっ、っと塚本さんの笑みが減退し、真面目な表情になる。

「―――、、、」


 塚本さんの沈黙を了承と受け取った俺は口を開く。

「塚本さん貴方は、破壊された日下府を、あてもなく彷徨っていた俺の祖父ちゃん小剱 愿造を助けてくれた、仲間に迎え入れてくれた。たとえ、それが打算的なものであったとしても。だから俺はずっと直接貴方に会ってお礼が言いたかったんです」

「っ・・・」

「塚本さん。祖父ちゃんを、助けてくれてありがとうございます。数年ぶりに、この世界で再会した祖父ちゃんは何度も、『眼鏡の御仁に大きな施しを受けてのう』っと俺に話してくれました」

「そうか、、、。愿造さんが孫のきみにそんなことを」

 よしっ!!ついに塚本さんは認めたっ。

「はい、塚本さん。祖父ちゃんは俺に」

「ふっ、ふふ・・・僕の負けだよ、健太くん」

「!!」

 !! 塚本さんが俺のことを『健太くん』って・・・っ。うれしい。

「いいよ、健太くん。事情の知る者達の前では、きみのことを健太くんと、そう呼ぶことにするよ」

「ありがとうございます、塚本さんっ」

 ばっ、っと俺は塚本さんに頭を下げた。

「ふっ。そういう筋を通すところ、きみは愿造さんにそっくりだよ」

 顔を上げた俺は、、、。


 塚本さんは薄く笑みをこぼしていた。嫌味のような笑みでもなく、嘲笑うような笑みでもない。悟ったようなそんな薄い笑みだった。

 俺と祖父ちゃんが似ている? 筋を通す?ところが、俺は祖父ちゃんにそっくり?

「え?」

 いまいち実感はない、俺と祖父ちゃんが、そっくりと言われても。でも、嫌じゃない、俺が祖父ちゃんと似ていると言われても、むしろ好感が持てる。

「まっ。僕達のほうが、愿造さんにはとても世話になったんだけどね。健太くんきみが次、愿造さんに会ったときでいい。そのときは僕がお礼を言っていた、と愿造さんに伝えてくれるかい?」

「はい。伝えておきます、愿造祖父ちゃんに」

「ふぅ。やれやれ、きみ達には敵わないな」


 しばし、俺と塚本さんは何言うとなく、バルコニーから日府の景色を見詰め―――、この街、大きな街、ビル群が見え、道を行き交う人々も、車もたくさん走っている。この日府にも、皇国の副都ルストレアと同じようにたくさんの人々の暮らしがあるんだ。


「「―――」」

 日は陰り、空を赤く染めつつある。そろそろ夜景が映える頃に、差し掛かるだろう。アイナ主催の御茶会は架橋に差し掛かる頃だ。

 五分ほど、日が沈みゆく赤く染まった日府の街を、眺めていたと思う。

 塚本さんはなにを考えていたんだろう、夕焼けに染まる街を見詰めて。

「そろそろ戻ったほうがいいね、健太くん時間をずらしてそれぞれに、ね」

 あまり俺達二人で、席を外しているのはいただけないかもしれない。諜報行動をしている?定連さんに、なにか勘付かれてしまうかもしれないし。

 アイナだって俺のことを捜し始めるかもしれない。

「、、、そうっすね」

 よっと。俺は、姿勢を正すと、バルコニーから踵を返し―――、

 その前に塚本さんに、俺は。

「塚本さん」

「なにかな、健太くん」

「俺が愿造祖父ちゃんの孫ってことに、初めから気づいてましたよね?」

「ふっ、ふふ・・・。きみのほうこそ健太くん。その言葉そっくりと返すよ―――」

 塚本さんのその笑みがなによりの証拠だ、と思う。最初、黒塗りの車から降りた塚本さんの眼は、先ず俺を見たから。でも、そのときは確証はなかった、塚本さんと話してみて確証が持てたんだよ―――。


 アイナ主催の御茶会は、つつがなく盛況の内に終わり、天雷山へと、それに繋がる日之国の、月之国と接する日月地方に入るのはもうあっという間だった。

 俺達は、アターシャが津嘉山家の縁故で手配した航空機のチケットを片手に、日府の飛行場から日月地方へと飛んだ。高速鉄道を使ってもよかったらしいが、飛行機を使ったほうが到着が早いという事で。

 飛行場から天雷山脈の裾野近くにある日月の地方の小さな町までは、日之国政府の手配した黒塗りのハイヤーだった。

 そのハイヤーの運転手は、なんと塚本さんだった。先頭の車の導きで、後続の車に挟まれつつ、俺達一行はその月光町という名の小さな町に至ったのだった―――。

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