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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第二十三ノ巻
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第二百四十八話 そして、始まる彼女の御茶会―――。さて、、、俺も好機を見て動こうかな―――

 ざっ、っと塚本さんはその場に立ち上がる。


 俺は塚本さんのそんな様子を見詰め、、、

「・・・っ」

 ついにこの人の登壇か。何を語るんだろうか、塚本さんは。きっと、俺が夜話で祖父ちゃんから聞いたことは、ひと言も言わないだろう、今の塚本さんは―――。


第二百四十八話 そして、始まる彼女の御茶会―――。さて、、、俺も好機を見て動こうかな―――


 今の塚本さんは、自身が実は『灰の子』のリーダーであること、自身の二つ名が『哂い眼鏡』であるということなど、そして、その自身の『曲がる異能』を駆使して、『イデアル十二人会』の一角、皇国近衛異能団団長エシャール・ヌン=ハイマリュン『紅のエシャール』を倒したことも、決して言わないだろう。


「僕は塚本 勝勇といいます。皇国の皆さまがご存知のとおり、僕は国家警備局において、特別監察官の役職に就いています。あぁえっと堅苦しそうな『特別監察官』などと言いますが、要は僕の仕事は、境界警備隊所属の隊員達の悩みや要望を聞くような、まぁ『特別監察官』は、そのような相談を聞く肩書だけの官位ですけどね。皇国の皆さま以後お見知り置きを・・・っ」


 塚本さんは最後に―――にこりっと。よくもまぁ、塚本さんはそんな、にこにこ、と。自身はまるで『毒にも薬にもならぬようなそんな人物』を演出するかのような。

 そんな塚本さんは、マニュアルどおりの典型的な挨拶を脚色させたような挨拶を終わらせると、席に座る。

「っ。―――・・・」

 なにが悩み相談のような役職だよ、この曲者め。俺はそう心の中で呟いた。


 次の登壇者は、黒髪の、ポニーテールの髪型の一之瀬 春歌という、俺と同じ齢の女の子だ。警備学校の学生でありながら、この少女一之瀬 春歌は、精鋭部隊である境界警備隊の部隊長の任に就いている、と名簿には書いてあった、その人だ。

 黒い警備局の制服を着ている一之瀬さんは、優雅な、よどみのない動きで、静かに椅子から立ち上がる。

「っつ」

 っつ、一之瀬さんの動きは、明らかな武道を嗜んでいる熟練者の身体の、その動きだ。一之瀬さんは、どういった武道を嗜んでいるのだろうか?


「私は一之瀬 春歌と言います。日之国国家警備局境界警備隊の隊長をやっております、以後お見知り置きを。以上」

 さっ、っと一之瀬さんは席に座った。凛とした、はきはきした声で、なんて簡潔な挨拶なんだろう、一之瀬さんの挨拶は。

 まるで、学級委員長の挨拶『起立・礼・着席』のような必要なことしか言わなかった。


「くくっ、春歌くん、、、くくくっ」

 塚本さんの、苦笑しながらの一之瀬さんを呼ぶ声。

「はい、塚本統括官」

 ふぅ、、、っと塚本さんは軽く息を吐き、その表情を柔らかくして見せる。

「もう少し、自己紹介は柔らかくいこうか、ね?」

「は、はい。私の挨拶は、堅苦しいものでしたか?塚本統括官」

「ちょっとね、その紹介では」

「、、、そう仰られましても―――」

「そうだねぇ。きみの趣味とか、特技とか、それらを挨拶に入れてみるのもいいんじゃないかな?」

「分かりました、塚本統括官」


 一之瀬さんは、再度席から立ち上がり、俺達をその意志の籠った眼で見詰める。

「―――、っ。これを趣味と言っていいのか、私自身も分かりませんが―――」

 一之瀬さんは、一度、こほん、っと咳払いしてからその口を開いた。

「―――私の好きなことは、私自身をより高みへと持っていくことです。私の家一之瀬家は、武芸を奨励しており、私の異能や流派をここで詳しく説明するのは、任務遂行上の守秘義務があるため、この場では言えませんが、私は一之瀬家に連なる者として、信頼に恥じないよう自身をより強く、さらなる高みへ持って行けるよう、毎日鍛錬し精進しております。そして、ゆくゆくは、私の人生の目標は、諏訪侑那局長のような立派な人になることです、以上」


 固いよ、一之瀬さん。その説明を聞いて俺は、余計に、ますます一之瀬さんきみに対するイメージが固くなった。

「―――」

「解ります、ハルカ。私は貴女の意志の強さ、決意の固さを知ることができました、ありがとうございます」

 アイナには、一之瀬さんの言葉が受けている。俺は、俺には、ちょっとやっぱ一之瀬さんの挨拶は固いかな、と思う。まるで決意表明のような、そんな感じだよな?

「こちらこそお気遣いいただきありがとうございます、アイナ皇女殿下」

 一之瀬さんは礼を行なうと、またそのきれいな所作で椅子に腰を下ろした。


 続いて―――、すっ、っと音もなく立ち上がる人物が一人。

「私の名前は羽坂 奈留―――・・・。そこの春歌と一緒に、警備学校に、通いながら、一応、警備局境界警備隊の副隊長をしてる、よろしく・・・」

 その人物というのは自身を羽坂 奈留と名乗った銀髪の女の子だ。やや口ごもりながら静かに吶々(とつとつ)と話す様は、、、。人付き合いが、苦手な子なのかな?俺は羽坂さんにそんな印象を覚えた。

 それから、すとん、っと―――、いや羽坂さんは座りかけて何かに気づいたように、また立つ。

「あ、忘れてた・・・。好きなものは、、、好きなもの、好きなもの、、、えーっと、私の好きなものは、、、―――お母さんの形見?」


 えっ―――・・・!! こんなときにっそれを言う!?

「っ」

 ―――・・・、形見? そう本人が言うぐらいだから、羽坂さんは、母親が既に亡くなっているということ? でも、『形見?』ってイントネーションが明らかに疑問形だった。

 母親が既に亡くなっていることが、本当のことだとしたら、重い。重いよ、羽坂さん。別にこの場で、お母さんは死んでいる、なんて言わなくてもいいのに。


「? ・・・、、、」

 きょとん、っと。俺と羽坂さんの視線が合うも、、、彼女は。


「・・・っ」

 まさか、羽坂さんが、そんな自分のことを言うとは思っていなかった。この子は、そんな自分のことを、身内のことを言うとは思わなかったんだ。俺の羽坂さんへのイメージは、ちょっと浮世離れしていて、あまり自分のことを喋らないような、寡黙な人だと思っていたから。

 すとん、っと羽坂さんがその席に着いて降壇。


 次に登壇したのは、あの人だった。俺の因縁の相手の。

「俺は、俺の名前は定連、定連 重陽って言います、よろしく。あぁっと―――」

 ばりばり、っと定連さんはそのスポーツ刈りの後頭部を右手で掻くと、やや逡巡するように、その口を開く。

「―――警備局では、その精鋭部隊境界警備隊の部隊長をしています。特技は、近接戦闘っす。あぁ―――、俺の異能は戦闘には向いていないんで。取りあえず、皇国の皆さま、短い間っすけど、よろしくお願いします」


 定連さんは着席した。あまり俺に視線を合わさず、俺のことを見てくれなかったけど、まさか、特技は近接戦闘なんて本当のことを言ってくれるとは思わなかった。

 まぁ、俺とは一度戦っていて、その手の内が俺にはバレているから、そんな発言をしたのかもしれないがな、定連さんは。


「ありがとうございます、警備局の皆様方―――、さ、遠慮は要りませんわ。これより、この私、皇女アイナの御茶会を始めましょう・・・っ♪」


「―――っつ」

 そして、始まるアイナの御茶会―――。さて、、、俺も好機を見て動こうかな―――。


///


 黒いスーツ姿の背中―――、それが見える。

「塚本さん・・・っ」

 俺は、たぶんトイレに行こうとしていた塚本さんを、俺もトイレに行くふりをして、そのトイレの手前で呼び止めた。やっぱり塚本さんは、トイレに向かっている途中だった。

 塚本さんは、俺の呼び止めるの声にくるりっと振り返った。

「これは健太殿下っ!! あの、僕に何か?」

 ぶわさっ、っと。

 ったく、この人は。演技ったらしく。リアクションをオーバーに。

「少し話したいことがあるんです、塚本さんに」

 塚本さんには、一瞬の迷いもなかったし、そのような素振りも見えない。

「いいですよ、健太殿下。でもその前に、用を足しませんか?僕はもうブルっと来まして」

 塚本さんは快諾してくれた。

 おっとその前にトイレで用を足さなきゃっ、俺も。

「すみませんっ。そうですね」

 トイレで用を足した後、俺と塚本さんは、周りに誰もいない、津嘉山邸の迎賓館のバルコニーにいた。

 時刻は午後。迎賓館のバルコニーから、日府の大都会の街並みが見える。俺がよく知る、元居た世界見ていたビル群。道路。そこを行き交う人々と車。ここ日之国は本当に日本と変わらない光景だよな―――。

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