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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第二十三ノ巻
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第二百四十六話 皇女の御茶会

「それは、日之国が素晴らしいところだからです。スワ局長、私は敢えて本音を言わせていただきますが、その理由は補給地の確保です、日之国はその全土において隅々まで、日府と同じ環境が行き届いています。それは電気や瓦斯、水、鉄路、道路。それらは日月地方まで万遍なく網の目のように網羅されていますね? 皇国から高地である天雷回廊を進むより、また環境の整備されていない月之国より入山するより、きっちりと法整備されている日之国に、私は魅力を感じるわけです」

 口火を切るのはアイナ―――。そして、諏訪侑那局長―――。


「―――っ」

 そうして始まる日之国国家警備局局長諏訪侑那との会談―――、その行方は如何に。


第二百四十六話 皇女の御茶会


「なるほど。ではなぜ、天雷山へと行かれるのですか?私の目から見ても天雷山は、過酷極まる環境にて、そこに入山されるに当たり、とても利などは見当たらないと私は思うのですが?これは私の個人的な疑問でありますが、もしよろしければ、私に皇女殿下の心を聞かせてはくれませんか?」

「はい、スワ局長。我々イニーフィネ皇国の聖地である天雷山。私はその聖地に、亡き父の名代として参らねばならないのです、これは皇国の審神者(さにわ)である私の宿命。同地の頂において皇女たる私は女神フィーネ様へ五穀豊穣の祈りを捧げるのです」

「そのような儀式を行なうのですね」

「はい。それは皇女たる私の宿命ですから」


 アイナは嘘を言ってはいない。聖地である天雷山の、その頂にて、女神フィーネに祈りを捧げることに間違いはない。

 ただ、アイナは『雷基理』のことを言わないだけだ。それは俺達四人で、事前に意思統一をしている。

「―――」

 警備局との会談は終始なごやかに進んだ、表面上は。何回か休息を挟み、諏訪さんと塚本さん、それと護衛官の三人。俺達も同じように。


「皇女殿下どの。私は、貴女がたのおっしゃることが、充分に理解できました」

「それはスワ局長の心が晴れた、と私はそう受け取っていいのですね?」

「はい、そう取っていただいてもかまいません、アイナ皇女殿下。イニーフィネ皇国の皇家である貴女方が、我々日之国の規則規定に従い、それに則って日之国に入境してくださることに、私は好感を得ました。日月より、気を付けて行ってらっしゃいませ、としか私には、言えませんが、きっと事は上手く成就することでしょう、アイナ皇女殿下」

「ありがとうございます、スワどの」


「っ」

 もちろん、彼ら警備局には、俺達がこの津嘉山邸を拠点にして、アイナの『空間跳躍』で、ここ津嘉山邸と天雷山、その二か所の間を行ったり来たりすることは言っていない。

 それは絶対に、警備局には、ばれないようにしないと、な。ま、どうせ日が出ているうちは天雷山にいるし、夕飯と風呂、そして寝るだけの津嘉山邸に、『空間跳躍』で帰ってくるだけだから、日之国国家警備局には、見つからないと思うけどな。

 くくっ―――うまくやれそうだぜっ!!

「―――っ♪」

 くくっ―――。思わず笑みが漏れてしまいそうなる。これにて俺達と警備局との会合は終わりだ。だがまぁ、まだ油断はできない。

 なぜなら塚本さんと諏訪さんが帰っても三人はここ津嘉山邸に残るからだ。その三人とは黒髪の少女一之瀬春歌と、銀髪の少女羽坂奈留、そして定連さんのことだ。

 その警備局の精鋭部隊境界警備隊より選抜された三人の護衛官が、津嘉山邸に駐留する。それも、彼女達とは、日月地方までだが、そこで俺達はこの三人の監視役の護衛官を出し抜く、というわけだ。


 そして、アイナから充分に納得できる回答を得られた警備局局長諏訪 侑那は、―――えっ?塚本さんもここ津嘉山邸に残るのか!? それが急遽変更になった事柄だったのだ。

 そう彼女諏訪侑那は、特別監察官塚本 勝勇と他三名を津嘉山邸に残して、その彼女本人は帰局の途に就いたんだ―――。


///


 さすがの日之国国家警備局より選抜の護衛官と言っても、食事や風呂、団欒時のお茶会にまでくっついてくることはなかった。

 そこは、事前の日之国政府とのすり合わせで決められている。彼彼女らは、普段は津嘉山邸の守衛室に詰めており、俺達が、俺達の誰かが津嘉山邸より外出する場合に限り同行するのだ。


「―――」

 だが、今は―――。

「此度はアイナ皇女殿下のお茶会に、我々をお招き頂きありがとうございます」

 俺は、口を開いてその言葉を述べた塚本さんと、円卓の向こう側にいる日之国の護衛官達を見詰めていた。

 円卓を半分に割る、もしくは区切ると言えばいいのか。ようするにこちら側には、俺達が席に着く。つまりいつもアイナが座す上座には、俺とアイナ、そしてアターシャとサーニャが席に座っていた。


 そして、円卓の、俺達四人と反対側のには、俺から見てアイナとまるっきり対面の位置に、護衛官達の統括官である塚本勝勇さんが座り、その横には定連さん。塚本さんを挟んで、二人の女の子が。俺から見て左側には、その黒髪でポニーテールの少女と、銀髪でその髪の長さは肩ほどまで少女が席に腰を掛けている。

 黒髪のそのポニーテールの少女の名前は『一之瀬 春歌』と、銀髪の少女のほうは『羽坂 奈留』と、護衛官の名簿にはその名が記載されていたっけか。


「―――」

 黒髪のポニーテールの少女もとい一之瀬春歌は、その両手を組んだまま机の上に置き、意志の強そうな眼差しで、こちらを、たぶんアイナを見詰めている。

 一方で―――、

「・・・」

 銀髪の女の子羽坂 奈留のほうは、やや退屈そうに、その気だるそうにしている様を隠そうとせず、しかもアイナが用意させた紅茶にはいっさい口を付けず、その両手を机の下に入れ、その太腿の上に置いているのだろう。


「、、、」

 定連さんはと言えば、やや緊張しているのかもしれない。

 ピク、、、っ、っと定連さんは。

「っ」

 あっ。視線を逸らされた。定連さんは、俺が、定連さん自身を見詰めていることに気づいたみたいで、彼は俺からその視線を逸らしたんだ。


 塚本さんは―――。すっ、っと静かに一口飲んだその白磁の杯を円卓の上に置く。

「これはいい香りだ。わずかな苦みと、この鼻に抜ける香り、、、。この紅茶は日晶州産の茶葉でしょうか、アイナ皇女殿下」

「えぇ、よく判りましたね特別監察官どの。舌が肥えていらっしゃるのですね」

 ふふっ、っとアイナは交渉的な笑み、もしくは営業スマイルのような笑みをその顔に浮かべる。

「いやぁ、この紅茶の茶葉を選ばれる貴女ほどでもありませんよ、皇女殿下どの」

 塚本さんもアイナと同じだ。つまりもう、互いの腹の探り合いと言うか、そんなものが始まっているんだ。

「いえいえ、ご謙遜を」

「いえいえ皇女殿下に置かれましては、日之国名産の―――」


「ふわ・・・」

 アイナと塚本さんの探り合うやり取りに退屈したのだろうか?そこで、銀髪の羽坂奈留という女の子が、小さなあくびを漏らす。

「・・・ごめんなさい。塚本の話がいつになくおもしろくなくて、、、」


 その塚本さんへの謝罪の言葉と、その態度に裏打ちされるものなど、本人は微塵もそう思っていないのかもしれない、その退屈そうにしている眼が彼女羽坂さん自身のその本心を物語っている、、、と俺は思う。

 それにしても羽坂さんって塚本さんには、敬語を使わず、いつもため口なんだよな。二人はよほど親しいのか、それとも―――、いや恋人と言った感じではないな。むしろ、親子のような、もしくは友人同士のような、、、。そのような雰囲気を俺は塚本さんと羽坂さんの間に感じる。


「僕の話がおもしろくないだって?奈留?」

「うん、全く。塚本の話はいつもそう、春歌の冗談よりも滑る。ね?春歌」

「す、すべる?!ちょっそこで私に振るんですか!?奈留さん―――っ」

「うん。春歌の家の床下にはおばけ蛙がいるんでしょ? 春歌の家はお化け屋敷・・・?」

「お、お化け屋敷ではありませんよっ、、、確かに怖くて薄暗い座敷牢や蔵はありますが・・・っつ―――し、失礼しました皇女殿下」

 そこで一之瀬さんは、ハッとしたように気づいて、アイナに謝罪。

「いえいえ、かまいませんよハルカ。貴女の話はとてもおもしろそうですね」

「え、えと、はい・・・っ」

 一之瀬さんは、アイナに『ハルカ』と呼ばれて、それがやや恥ずかしいのか、視線を逸らす。

「ふふ」

 一方のアイナは、そんな一之瀬さんを見て、屈託のないきれいな笑顔で、その笑みを一之瀬さんと羽坂さんに向けた。

 アイナは、まるで、暖かいほほえましいものを見ているような、そんな笑顔の表情だった―――。

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