第二百四十二話 皆様方明日の予定ですが―――
第二百四十二話 皆様方明日の予定ですが―――
俺達が日府にある迎賓館を兼ねている津嘉山邸を訪れて数日経ったある日のことだ。
「はぁあああぁあああ―――ッ」
「やぁ・・・っ」
俺はホノカとサーニャの手合せを眺めていた。今は猪突猛進のように真っ直ぐにサーニャに向かっていくホノカ。同じく真っ直ぐのサーニャは真っ向勝負で、ガッ、っとホノカの木刀を受ける。
「「ッツ」」
ザッ、っと両者は、跳び退って、―――眼光鋭く、僅かに睨み合ったのち、また
「「ッツ――――――!!!!!」」
ガガガガガ・・・ッツ 斬っ、ざざッ―――っと、圧しつ押されつの、激しい斬撃戦。斬り合いの応酬だ。
光り輝くようなサーニャの金髪。
燀え弾けるようなホノカの赤髪。
「やりますね、、、ホノカどの・・・!!」
「そっちこそ―――、サーニャっ」
両者はにやり、っとその口角を吊り上げて笑みをこぼす。
俺が見ているかぎり、なんだかんで二人は友情のようなものが芽生えたっぽい。
「―――」
「二人とも今日はそこまでにしておきましょう」
サーニャとホノカの両者にかかる声。その声の主のアイナだ。
「「っ」」
いつの間に、アイナのやつここに来たんだ? ひょっとして『空間跳躍』の異能を使ってか?
「あれ?アイナもういいのか?」
アイナは昼の十三時から、日之国のなんとかいう局の局長と会談していたはずだ。イニーフィネ皇国の皇女であるアイナが日府に滞在しているのを好機と捉えて、日之国の要人達が連日ここ津嘉山邸を訪れ、アイナと意見交換をしていた。いわゆる皇族外交である。
「はい。日之国の内務局長との意見交換会は盛況のうちに終わらせましたわ、ふふ♪」
終わらせた、か。そのアイナの不敵な笑みにはいったいなにが含まれているのだろうか。次は俺にも参加しほしい、ということだろうか?
「―――」
タタタタ、っとホノカは駆けてきて、
「アイナ―――っ、っと」
「えぇ、ホノカ。やっと貴女と湯浴みできますね」
と、ホノカはアイナのところへ。
湯・浴・み、、、だと。
へぇ、アイナとホノカは二人揃って風呂に入るのか、、、。アイナはその、、、今着ている水色を基調としたドレスを脱ぎ―――、ホノカと言えば、紺色の道着姿を。二人して、湯浴みか。
なんかいいなぁ、二人は一緒に風呂か。
いかんっ、いかんぞっ俺っ―――今は彼女らの湯浴みを想像してはだめだ、するなっ。
「っ」
さもなくば―――、
俺は、アイナとホノカが共に、キャッキャッ、っと入浴している妄想を打ち消すように、ぶんぶんっ、っと頭を横に、左右に軽く振る。
そうだ!!レンカお兄さん、レンカお兄さん、レンカお兄さんの・・・形のいい大胸筋、そして僧帽筋、腹筋・・・を、、、。筋肉に引き締まったレンカお兄さんの裸体を敢えて思い出し、想像し―――、心を静めろ。
「~~~」
やっぱレンカお兄さんの裸体は思い出せねーっ。いや思い出すんだけど、やっぱりアイナのその綺麗な裸体が頭の中でちらつくんだよ、っ///。
「、、、」
俺が悶々と、アイナやホノカの、そんな想像を頭の中で巡らしていたとき、だ。
すっ、っとアターシャは音もなく進み出る。そんなアターシャの今の格好は―――、
「お姉ちゃんが給仕服じゃないのってなんか新鮮っ絶対に今の紅い着物のほうが似合ってるってば・・・っ」
「そうでしょうか?ホノカ」
「うん、お姉ちゃんっ」
「えぇ、従姉さん。私もそう思いますよ」
きれいな着物姿のアターシャだ。『津嘉山の祖母に着替えさせられました』、よよよ、っとアターシャはこぼしていた。
「、、、」
アターシャの着物の色柄は鮮やかな赤ではなく、えんじ色を基調とした着物。その着物にえんじ色よりやや色の薄い紅葉があしらわれ、その紅い葉が舞う着物。なんだろうとても艶やかで、美しい色柄の和服姿のアターシャだ。その着物の色は、アターシャの赤い髪ととてもよく似合っている。
「、っ、ん゛―――」
照れ隠しか? アターシャはまるで恥ずかしさを打ち消すように、一拍置いて咳払い。その口をややっと開く。
「―――アイナ様。今からホノカと湯浴みですか?」
「えぇ、従姉さん。そうだっ従姉さんもサーニャも一緒にいかがですか?湯浴み」
アイナのその言葉に、アターシャとサーニャはお互いに顔を見合わせる。
「「―――」」
俺でも、今の二人のアターシャとサーニャの気持ちは解る。両者とも自分達が従者であり、主人であるアイナと一緒に湯浴みなどと、そのことを気にしているような二人の表情だ。
「アターシャ、サーニャ。一緒に湯浴みなさい、皇女たるアイナ=イニーフィナが貴女方へ、主としての命を与えましょうっ♪」
「畏まりました、アイナ様」
「姫様っ拝命致しました」
アイナの鶴の一声で、二人は了承。四人は湯浴み。
「―――、、、」
そして、俺は悶々と。当然のことながら俺は一人で入浴―――、と思っていたら三兄妹の祖父季訓氏に捕まって、大浴場の湯船に浸かりながら、季訓氏の若かりし頃の武勇伝や、うんちく話を延々と聞かされたのは言うまでもない、、、。
「うむ、小剱くん。私には、泰然という名の友がおりまして―――」
「はい」
「いやぁ、私達も若かったのだよ―――」
「へぇ、―――」
「まったく最近の家電はよく分からん―――」
「ま、まぁ。そうっすよね・・・」
などと、季訓氏がうんちく話を長々とするのは、レンカお兄さんとそっくり・・・いや違うか、レンカお兄さんは、祖父である季訓氏のそういうところに似たのかもしれない。
季訓氏は、皇国で起きた『大いなる悲しみ』で息子の正臣さんを亡くしてからレンカお兄さんを引き取ったと言っていたから―――。
夕食後―――、団欒時のいつもの打合せとミーティング。
つい一時間ほど前の夕食は、切れば、じゅわっ、っとした肉汁が湧き出るとても柔らくておいしいハンバーグがメインディッシュの洋食だった。その食卓の席には、アイナの意向で、近習のアイナとサーニャも同席することなった。
サーニャは、うまうま、ぱくぱくっ、っとハンバーグを、いくつもその底無しの胃袋に納めたんだろう、サーニャが五つ目のお肉たっぷりのハンバーグをおかわりした後はもう俺は数えるのを止めたっけ。
サーニャってば、
「~~~っ♪」
まだ口角が幸せそうに緩んでいるぞ。
「アイナ様、皆様方明日の予定ですが―――、」
アターシャは皆様方とは言ったものの、今この津嘉山邸の談話室には、アイナ、アターシャ、サーニャそして俺の四人しかいない。さしものホノカも、皇国の密談?のような話には参加は許されなかった。『天雷山』の話を出せば、たぶんホノカも、行く、と言い出しそうだ。そこはホノカには秘密。俺としてもホノカを、危ない『イデアルとの戦い』に巻き込みたくはない。
「―――、十時よりこの津嘉山邸に日之国国家警備局の方々が、我々の入境許可証を持って来られます。アイナ様には、謁見を求めている日之国国家警備局局長ならびに同局第三席特別監察官二名と面会をしていただきます」
「はい。従姉さん」
「はい、アイナ様。そのあとの流れですが、警備局は我々に対して日之国への入境許可証を即日発効致しします。アイナ様をはじめとする我々は、その場にて入境許可証の受け取りとなります」
「はい、従姉さん」
「その入境許可証の手渡しの受け取りは安全面に考慮致しまして、サンドレッタが一括で受け取りを行なう段取りでございます」
「はい。サーニャ頼みましたよ」
「ハッ!! 拝命致しました姫様っ」
「その後で日之国国家警備局の局長がアイナ様へ謁見。アイナ様との会合を求めております」
「えぇ、従姉さん」
「また、当日一緒に来邸される日之国国家警備局第三席特別監察官ですが、その彼が護衛の統括官も兼ねているとのことです」
「・・・、―――、」
ふーむ―――、っとアイナは胸の下でその両腕を組む―――。