第二百三十九話 うわっ重っ愛が重い!!
一瞬目が眩み―――、
「っつ」
―――思わず目を閉じてしまう。
そのとき、
「遠いところよう参られた、アイナ姫」
初老の男の人の声が聞こえ―――、
第二百三十九話 うわっ重っ愛が重い!!
―――その人物はアイナに労いの言葉を掛けた。
「、、、」
誰だろう?その声の人物は。俺は目を開き、、、その初老の声の主を探り見る。
「お久しゅうございます、ツキヤマのおじさま・・・♪」
アイナがその初老の男の人にそう言ったんだ。『津嘉山のおじさま』つまり、、、その意味の成すところは、レンカお兄さんやアターシャ、ホノカの縁者親戚の人?ということだよな?
アイナは、いつもの水色のドレスの裾を摘まんで優雅な挨拶を行ない、―――ほほほ、っとどこか造ったような笑みで。
「うむ。話は火蓮より聞いておりますぞ。この津嘉山の家を自分の家と思ってゆるりと過ごしてくだされ、アイナ姫。わはははっ」
「それはどうもご丁寧に、では遠慮なく使わせてもらいますね、おじさまっ♪」
「うむ遠慮はいらんよ? 私にもう一人、年頃の孫娘が増えたようで嬉しいかな。お小遣いあげちゃうっ♪ わはははっ」
「またまた、おじさま」
「っつ」
ったく、このおやじは、、、。この初老の男の人が、三兄妹の祖父季訓氏か・・・。俺がそう確信したときだ。
すっ―――、っと一歩進み出る人物が一人。
「お祖父さま―――。お祖父さまを不敬罪で拘束します」
「おおうっ火蓮ちゃんっ♪」
その初老の男の人改め、津嘉山三兄妹の祖父である津嘉山 季訓氏は、目をキラキラっと輝かせ、孫のアターシャに接近―――。そのまま両腕を伸ばし、胸襟を開くかのようにアターシャへと。その嬉しそうな様子は、身内として孫娘としての親愛の情を表しているものだろう。
季訓氏は、さぁ私の胸に飛び込んでおいで、っと両腕を出し、自身の孫であるアターシャへと、親愛の証である篤い抱擁を―――、
サッ、っと。
「―――」
だがしかし、季訓氏の篤い想いは届かなかった、、、。つまり孫であるアターシャはそれをスルー。避けられてしまった、、、。
「さてお祖父さま。私達は時間が惜しいので、さっそくですが、お祖父さまに皆様方を紹介していきます。まずはこちらにおられますのが、皇女であられるアイナ様でございます」
何事もなかったかのように、アターシャは淡々と季訓氏に。いや―――、この『眼』でよく視れば。
「、、、」
アターシャさん、怖ぇ・・・。季訓氏に、その燀えるような異能の痕をしっかりとつけてる・・・、服の下の、皮膚に、身体の表面に―――、まるで灸の痕のようにっつ!! 怖ぇーアターシャさんまじで怖い、、、。怒らせないようにしないと。
ちなみに俺がこの『選眼』で『視た限り』津嘉山三兄妹の異能は同じだ。
「う、うむ・・・っ。で、では、よろしく頼めるかな、火蓮」
「はい、お祖父さま・・・っ。では、まず先に伝えましたとおりこちらが『近衛騎士』の―――」
にこり、とアターシャは柔らかい笑みを浮かべる。そして、アイナの次にサーニャことサンドレッタの紹介に始まり―――、
「そしてお祖父さま。アイナ様の右側におられますのが、―――」
―――最後に俺の紹介だった。季訓氏の視線もそれに伴って俺へと移ろう。
「ふむ・・・」
っ。
「・・・っ」
きっと、季訓氏は、俺のことをアイナの婚約者とは思っていなかったに違いないさ。一度は、その視線で見られたが、それ以上の興味と言った目の色はなかった。きっと季訓氏は俺のことを従者か、日之国を案内するためにアターシャが雇った日之民の水先案内人とぐらいしか思っていないと思う。そもそも今の今までこの津嘉山邸に来るまで、身バレを危惧して『俺の存在』は機密だったのだから。
「―――アイナ様の王配となられる、小剱 健太さまです」
「アイナ姫の王配っ!? なんとっそちらの御仁が―――っ?!」
ぎょっ、っとしたように目の色を変える。そのあとはもう俺には、季訓氏が興味津々と言った色の視線や、値踏みする視線で俺を観るのしか感じない。
レンカお兄さんやアターシャ、ホノカには悪いけれど、この祖父さん季訓氏はかなりのタヌキおやじかもしれない。俺はそういう風にしかこの人を見れない。
「っ。・・・はい。紹介にあったとおり、俺は小剱 健太っていいます」
季訓氏は、アイナに視線を向ける。まるで、アイナ自身からその言葉を聞いて、確かめたいかのような。
「アイナ姫、つまり彼は―――?」
この小剱何某という男(つまりの俺)の言ったことは、与太話ではなくて?といった目でアイナを見る季訓氏を、俺は見ていた。ま、季訓氏の反応は、当然の反応だな。たぶん俺だって逆の立場だったら同じことをすると思う。
「はい、おじさま。彼ケンタの言うとおり私は彼と将来を誓い合った仲なのです、あのとき、あの場で―――あれは奇跡の出会いでした。私の目の前に、彼は空より舞い降りたのです」
「空より舞い降りたのです、は脚色しすぎかな?アイナ」
確かに、転移者をこっちの世界の人が見れば、そう思うのかもしれないけれど。
「そうでしょうか?ケンタ。事実、私の人生にケンタ貴方は空より舞い降りた、まるで白鳥のように。もう私の前から飛び立たないように、逃げないように、逃げられないよう配たる貴方に、愛と既成事実という重しをつけないとっ、ふふっ♪」
うわっ重っ。アイナの愛が重いよっ。アイナは笑いながら冗談めかして言ったんだろうけど。
「愛が重い!!愛と、その、、、っ///、それは二重で重いってばアイナっ」
はっきりと、『既成事実』というのはちょっと恥ずかしくて言いよどむ―――っ/// まだ『既成事実』は将来的に、の話だろうけれど。ま、俺はアイナの前から去るつもりは毛頭ないんだけど。
「ふふっ♪」
「―――!!」
「っ」
そうやっとだよ。やっと俺にかよ、季訓氏がそういう目の色を向けるのは―――、などというその気持ちは顔には出すなよ、俺。
「火蓮。私は、小剱殿がアイナ姫の王配であるということは、聞いてはいないが。これは、どういうことかな?火蓮―――」
季訓氏は、孫のアターシャに話と、その疑いの視線を向けたところで俺は、口を開く。喋るんだ。
「すみません、季訓さん。身バレ、、、日府との交渉の段階で俺の正体が漏れ発覚するのを恐れて、俺からアイナやアターシャに今まで黙っていてもらえるように頼みました」
「―――っつ」
「すみません、季訓さん。今まで黙っていて」
ぺこりっ、っと俺は直立不動で頭を下げる。こちらから下手に出るように。俺が下手に出て頭を下げることで、相手が不満を表明しにくいようにする。この場合の相手とは津嘉山三兄妹の祖父である季訓氏だ。
「っ。おっ、おおう―――っ、そういう事情があったのか小剱殿・・・っ」
「はい。これからも俺の事は内密でお願いします、季訓さん」
特に俺が『転移者』だと日之国で知られれば、また『招かれざる客』が押し寄せないとも限らない。
「なるほど、、、うむ解った。―――っ」
話が煮詰まったのを見計らって、パンパンっ、っと季訓氏が手と手を合わせて、手を叩く。誰かを呼び寄せるんだな。
ぴくっ、っと。
「っ、―――」
さっ、っとサーニャはその手を、『聖剣パラサング』に掛ける。
この子ってば、季訓氏の人を呼ぶ拍手を敵襲と勘違いしたのかもしれない、だが、アイナの近衛騎士としてならば、至極当然の行為だ。俺達が季訓氏と話している最中にもサーニャはただの一言も発することはなく周囲に氣を向けるように、周りを警戒していた。
「サーニャ」
すっ、っとアイナは静かにその自身の手を、その『聖剣パラサング』の柄に掛けるサーニャの手に置く。そうサーニャの抜剣の行動を制止したんだ。
「姫様!?」
「大丈夫です、サーニャ」
その直後、たくさんの人の気配がして、わらわら、っと人がやってきた。
「ささ皆さま、こちらへ―――」
「これはこれは火蓮さま―――」
などと、アターシャと同じような給仕服姿に身を包んだ女性達に囲まれ、俺達は奥の部屋に通されたんだ―――。