第二百三十八話 護衛官名簿
でも、アイナと違ってその子は黒髪のポニーテールだ。そして、その女の子の眼差し。強い意志を感じさせるようなその『眼』だ。凛としていて、やっぱりこの子はどこかアイナに通じるところがある。っつ―――、アイナに似ていて、このような感じの女性は、俺の好みのタイプの女性ではある。っ、それは横に置いておいて、ふむ―――。
この女性隊員の異能などの特記事項は、特に記載がない。異能に関することは極秘事項なのかもしれない―――。
第二百三十八話 護衛官名簿
ふむふむ―――、ついついっ、っと俺は指で電話の画面を下へ下へとスクロールさせていく。次の人物もまた女性だ。上記の黒髪の女の子と同じで、国立警備学校の学生でありながら、その能力の高さを買われて境界警備隊に配属されたと記されている。
ファイルを開いて上から二番目に記載されていたその女の子は、やや、じとーっ、っとしたような力の籠っていない目つきだ。なにか不満でもあるのか、口はなぜか『△』にしている。
「銀髪?」
ついポロリと、その言葉が出てしまう。
「ケンタ?」
「あ、いやいやなんでもないよ、アイナ」
俺はアイナを向いたあと、再び画面を見た。
その画面の女の子を一番特徴的に捉えてしまうのは、やはりその女の子の髪の色だ。まるで、銀糸のような綺麗な髪をしているんだ。髪の長さは肩ほどだろうか。その銀髪の少女の身長は、上記の女の子より低い。
そういえば、、、祖父ちゃんが夜話で、日下部市には銀髪の人がいたって言っていたなぁ。そう、俺が魁斗から元々その銀髪の人の持ち物だった氣導銃を取り返して、それを今俺は預かっている。氣導銃『くさか零零三號』、その所有者の人だ。でも、まさか偶然だろうか?だってこのリストに記載されている女の子の名字は『近角』じゃない。祖父ちゃんはその日下部市にいた氣導銃の持ち主である銀髪の人の名前を『近角信吾』って言っていた。きっとこの女の子は、たまたま同じ銀髪なだけだろう。近角信吾さんに所縁のある人になら、俺が預かっている氣導銃『くさか零零三號』を返したい。でも、間違って無関係な人に氣導銃を渡すわけにはいかないよな。
一通り目を通した俺は、
「、、、」
ついつい、っと俺は指で下へと画面をスクロール。次は広芝 正俊という名前の男性隊員だった。齢の頃は二十代半ばで、実年齢もそうだった。妻帯者との記載もある。ちなみイケメンだ。その部類はきりっとしたかっこいいイケメンになるだろう。
ふんふん―――、
っとその次は古堂 美耶という名前の女性隊員。柔らかそうな表情の優しそうな人柄の二十代の女性だった。
写真の表情からの印象は、ぽわぽわしていそうな優しい女性に見える。あまり俺の周りではいないタイプかも。
アイナに、アターシャ、サーニャ、ホノカ、あとミント―――、、、みんな強くてかっこよくて美しい。
「・・・」
えっと次、次、次の人だ―――。俺はついつい、っと画面上で親指を上下に動かし、、、―――
おわっ・・・!! うぇ・・・っ!?
「ッツ・・・!!」
思わず二度見するように観てしまったわっ・・・!! その人物の顔はだって、俺が見たことのある、俺が知っている人物だったから・・・っ!!
マジかっ!!マジだったのかっあのとき祖父ちゃんの家の道場で、あの人が俺に見せてくれた身分証明書はっ!? 実はちょーっとだけフェイクか偽物かも、とは思っていたんだ、俺は。でも―――定連さん、まじか。
「定連、、、重陽・・・だと・・・っ?!」
あの人本当に、まじで警備局境界警備隊の隊長だったのか・・・。写真の定連さんの髪は短くて、スポーツをやる人の髪型だ。あのとき襲撃してきた定連さんと全く同じ髪型だ。
どっちにしてもこいつやべぇ奴だ。本当は第六感社の諜報員で、おそらく警備局に潜入しながら、その情報を集めているんだろう。ひょっとして今回のアイナの護衛の件も自ら志願したのかもしれない、情報収集の一環で。
「なぁ、見てくれ―――、」
アイナやアターシャ、サーニャ特定の誰かに言ったのではなく、この場の全員に向かって俺は口を開く。そして、俺が腹の中で思いついたことも、言う。
悪い笑み。だって面白くなりそうで、おもしろいから。
「くくっ、この定連さんだけど―――」
もちろん、定連さんの護衛官を外してくれ、というわけじゃない。
「なぁ、アイナ覚えているかな、第六感社の泥棒の話。俺が祖父ちゃん家の竹藪で倒れていたあの日、俺はこの人定連さんと戦ったんだよ」
野添さんはちゃんと日下修孝に会えたのかも気にはなっている。
「っつ!!」
アイナもその重大な事実に気づいたようだ。
「アイナ様ケンタさまお二人で納得されて、私やサンドレッタはうまく話が読み込めておりませんが・・・」
「つまりですね従姉さん。このジョーレン何某という者は実のところ日之国の『第六感社』の諜報員でありまして、警備局に潜入しているということです」
「っ。アイナ様っその『第六感社』の正体につきまして」
「はい、従姉さん」
「はい。『第六感社』は、実は『イデアル十二人会』の下部組織であるということが、既に判明しております」
「、・・・やはり、そう・・・ですか従姉さん」
そう、アターシャが言うとおりだ。第六感社を裏で率いる者の名は―――、
「『流転のクルシュ』」
俺は言った、ミントにもその名前を出されたし、祖父ちゃんからも夜話の中で聞いた。世界統一化現象時代の、先住者イニーフィネ人と来訪者エアリス人今の日之民との間に産まれた『混濁の徒』。その最後の生き残りだ、という―――クルシュ=イニーフィナ、、、彼女のことだ。俺はその彼女には会ったことはないが。
「はい、その通りでございますケンタさま」
「―――っ」
一方でアイナは、一瞬顔を強張らせ、、、それがとても俺の印象に残った。アターシャやサーニャはアイナの一瞬の緊張に、気がついた、気がついているのかは、俺には判らなかった。
ひるがえってアターシャはアイナに向き直る。
「然らばアイナ様。この定連重陽なる者を我々の護衛官から外すように、日府側に申し入れますか?」
「その必要はないでしょう、従姉さん。その場に彼の裏の正体を知るケンタがいるだけで、ジョーレン何某には牽制となり得ますし―――、」
「・・・」
アイナはたぶん定連さんのことが嫌いだ。俺を襲った人だからだろうな。定連さんは祖父ちゃんの土蔵を破り、祖父ちゃんの大事なコレクションも台無しにした。アイナはずっと定連さんのことを『定連何某』と言っているし、本当は『定連』さんの名前も呼びたくないんだろうな。
アイナはアターシャから俺に、その意志の籠った視線を移す。アイナの藍玉のようなきれいなその目と目が合う。
「―――、たとえ彼ジョーレン何某が、その異能で他の人物の姿に身を窶して化けてもケンタならば見破ることもできます」
そうでしょう?ケンタ、と言いたげなアイナのその表情。俺はそれを見て、アイナの考えを悟り―――、
「あぁ、任せてくれ・・・っ」
この俺の異能『選眼』ならば、定連さんの異能『現身』を見破ることなど造作もない。俺はこの『選眼』の概念すら覆す『顕現の眼』で、眼に焼き付けた定連さんの異能『現身』だって準えることができる。なんなら定連さんの異能『現身』を準える修練だってしてもいいさ。
―――、俺は大きく肯いたんだ―――。
「では、日之国に行って参ります、お母様」
「えぇ、楽しんでらっしゃいアイナ」
「はい・・・っ」
その言葉を最後にアイナは『空間跳躍』の異能を発動させる。中庭に立って俺達四人を見送ってくれるアスミナさんが、みわみわ、っと歪んで見え、もちろんその他の臣下達や給仕の人達の姿も同様だ。
俺達はアイナに触れて掴まって長大な空間を越える。このアイナが使う『空間跳躍』の異能にも限度があり、一緒に『跳躍』させる人数が増えれば増えるほど、多くのアニムスを消費するそうだ。せいぜい十人までだそうだ、アイナが言うには。
そして、白い、まるで白く輝く霞か霧のような白い空間を越えれば―――、サーっ、白く淡く光る霧が晴れる―――っ。
一瞬目が眩み―――、
「っつ」
―――思わず目を閉じてしまう。
そのとき、
「遠いところよう参られた、アイナ姫」
初老の男の人の声が聞こえ―――、