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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第二十二ノ巻
234/460

第二百三十四話 俺の心に靡く『心靡眼』

 もうこの時点で俺は解った、判ってしまった。サンドレッタ=カルナスは、本当に『イデアル』とは繋がりがないということに。

 だが、なぜあの夜―――、そうだ今なら訊くことが叶う、訊いてみよう直接この場で今の状態のサーニャに。俺は眼に力を籠めたまま、サンドレッタを凝視しながら口を開く。

「問おうサンドレッタ=カルナス―――、」


第二百三十四話 俺の心に靡く『心靡眼』


「はい、ケンタ殿」

「あの夜、ランタンも持たずにどこに行っていた?きみの父親である炎騎士グランディフェル、、、『イデアル』からの繋ぎがあったのか?サンドレッタ」

「いいえ」

 きっぱり、と。

 ―――。本当か? 別の日に見たあのランタンは魁斗が持っていたランタンと似ていた気がする。あの氣で輝く青白い光のランタン。

「本当か?サンドレッタ」

「はい、ケンタ殿」

 はい、との返事どおり彼女サンドレッタの思考は『白』だ。

「なるほど。では、きみはどこでなにをしていたんだ?あんな深夜に」

「食堂です、隠れてつまみ食いをしていました」

「つまみ食い、だと?腹でも減っていたのか?」

 つまみ食い腹でも減っていたんだろうか、サンドレッタは。

「はい。お腹が空いていました」

 サンドレッタは胡乱(うろん)な虹彩の乏しい瞳で、まるで催眠にでも掛かっているかのように、―――いや実際俺がそれを『掛けた』に等しいか。サンドレッタは淡々と事実を有りのままに、俺へと語る。

「修練のときはランタンを持っていって、つまみ食いのときはランタンを持っていかなかったな。それはなぜだ?」

「はい。ランタンの光で、つまみ食いが見つかるのを恐れました」

 サンドレッタの思考は『白』。つまり、サンドレッタは俺に本心を、真実を語っている。

「だから、か。だからサンドレッタはあの日はランタンを持っていなかったのか」

「はい」

 隠れてつまみ食い、、、。つまりサーニャ自身は悪いことを、後ろめたいことをしているという自覚があったからこそ、誰かに見つかりにくくするために、光るランタンを持っていなかったというわけだ。

「そうか。お腹が空いていたのか、サンドレッタは」

「はい、とても」


「サンドレッタ・・・っ」

 アターシャの声。『つまみ食いなど卑しいことを』、などのような、ややサンドレッタを批難するかのような、咎めるような少し厳しいアターシャのその口調だ。

「っつ」

 じゃまをしてくれて、アターシャのやつ。アターシャがサンドレッタに声を掛けた所為で、俺が彼女に与えたその『審美眼』いや『心靡眼』の魅了もしくは催眠のような、そんな『心靡眼』の効果が解けてしまうかもしれない。

 すっ、っと。ほら案の定だ。

「ァ、アターシャど、の・・・? あれ、、、私―――」

 虹彩の薄かったサンドレッタの、そのとろんとした瞳に光が戻る。

「っつ」

 くそ、、、。まだ『何を食べたんだ?』とか『飲み物は飲んだのか?』とかまだいくつか、どうでもいいことだけど、サンドレッタに訊きたいことがあったのに。アターシャのやつ。

 それでも、サンドレッタに掛けた『心靡眼』の効果は、いつかは俺が解かなきゃ、とは思っていたが。

「―――ヶ、ケンタどの?わた、わたしは。ぁ、あれ?わたしは、いったい、、、」

 きょとん、っとサーニャは。自分の中で、時間的な感覚が狂っているのかもしれない。

 有耶無耶にさせたままのほうがいいかな。俺が『心靡眼』を掛けたのがバレるかもしれないし。

「つまり腹減ってたんだな、サーニャは」

「え?ケンタ殿?」

「ひょっとして毎日ご飯が足りていないとか?」

「あ、その―――。い、いえ、その、そんなことは・・・っ///」

 いや、サーニャの、恥ずかしそうにするその表情で俺は解ってしまった。腹減りバレが恥ずかしいんだ、サーニャは。だが、空腹は大きな問題だ、ふんすっ!!

 よしここは敢えてサーニャに言うぞ。言ってやる。

「隠すようなことじゃないさ。ま、でもそっか、サーニャきみはたくさん食べることが好きなんだな、はは」

 俺はできるだけ軽いことのように言ってあげる。

 サーニャの体格からはあまり想像できないことだ。あとさっき抱き留めたときに腕に感じたそのサーニャの体の重さ。サーニャは腰回りも細いし、肥えているようにはとても見えない。サーニャはその近衛騎士という役柄から剣を振り回すから分かることだ。上半身はやや肩幅が広い気がする。でも、サーニャは大食いキャラには見えないかな。

「そ、その、、、っ―――私は。はい・・・実は、私はとても燃費が悪くて、ですね・・・、その、まぁ、はい―――っ/// 剣を揮えば、すぐにお腹が空くのですっケンタ殿・・・っ///」


「サーニャ。貴女は隠れて食べ物を食べていたのですか?」

 道場に響く凛とした声。もちろんその声の主はアイナだ。

「もっ申し訳ありませんでしたっ姫様・・・っ」

 しゅん、、、っとサーニャは。

「いえ、いいのですよ、サーニャ。むしろ悪いのは私です。私は無知でした。貴女を解っていたつもりになっていました」

「そ、そんなっ姫様。姫様には全くの瑕疵(かし)などなく―――」

「いえ、サーニャ。大事な臣下であるサンドレッタ貴女の腹鼓を打たせてやることができず、食膳を賑わしてやることができず、私は貴女を解ってやれず、、、っ、、、私は主君であるのに、貴女を追い詰めてしまいました」

 ぐっ、っとアイナは悔しそうに、自分を恥じて唇を噛み締める。だが、それを目敏く見つけたサンドレッタは。

 ざッ、っとサーニャはその場に片膝を着く。

「っ!! 申し訳ございません姫様っ気は咎めましたが、空腹には、堪え難いものがあり、いけないと思いつつ、つい出来事でした。かくなる上は、この私サンドレッタ=カルナスは、、、職を辞して―――」

「いえサーニャその必要はありません。これからは遠慮なくたんと、心行くまで食べてください」

「し、しかし姫様―――」

「認めません。貴女はアターシャ同様に私には必要な人間です。甘い、と祖父である陛下に言われようが、サーニャ貴女が私の近衛騎士の任を辞することは認めません。この件は貴女の主であるこの私の落ち度。アイナ=イニーフィナからの命です、今まで通り近衛騎士の任を続けなさい」

「姫様、、、」

「不服ですか?サーニャ」

「いえ、姫様・・・っ」

「では、この私アイナ=イニーフィナが新たに貴女に命じます、サンドレッタ=カルナス」

「ハッ!!」

「食事の際には心行くまでお腹を満たし、貴女はさらにその任に励みなさい。それを貴女は肝に銘じ、そしてこの私アイナ=イニーフィナは、貴女サンドレッタ=カルナスがお腹を満たし、さらに任を励むことを願っています」

「ハっ。拝命致しました姫様っ!! アイナ様の御言葉身命に(なげう)つ所存であります」

「ふふっ♪ ちょうどいい時間です。では、食堂へ参りましょうか」

「ハハっ姫様・・・!!」


「~~~っ♪」

 うまうま、ぱくぱく、もぐもぐ、ごくんっ、と。この一件より、サーニャが満足いくまで、心行くまで、楽しそうに三食を食べるようになったことは言うまでもない―――。


 さて、、、サーニャに抱いた疑惑、その末に起こるべくして起こった闘い。そして。解決。あのときは怒濤の一日だったが、その一件の影響も徐々に薄れ始めようとしていた、いつもの一日の団欒時のことだった。

 まるで先週の、俺が『待った』と言って議論を止めた団欒時と同じだ。ただ違うのは、あの日は飲み物がチャイだったのが、今は、今日のこの日の飲み物が珈琲なことぐらいだ。

 アイナのその日の気分で、団欒時のお茶会に嗜む飲み物が変わる。チャイの日や緑茶の日、また紅茶の日、ミルクティーの日、柑橘ティーの日、そして今日は珈琲だ。さすがに飲み物がはなかった日はない。ミネラル水や炭酸水の日、棘桃茶の日はあったけど、、、。

「良い香り―――。―――っ、」

 こくっ、一口。アイナのその美しい喉元が揺れる。

「―――・・・」

 アイナはそのみずみずしい唇から、その口元から白磁の珈琲カップを放し、音も静かに食卓の上のその白磁の珈琲皿の上に杯を置いた。

「従姉さん、サーニャ。いよいよですね、これからの打合せをしましょう。楽にしてください」

 アイナのその、楽にしてください、の命によりそれぞれアイナの両隣にいた二人が動く。

 右のアターシャ。

「はいアイナ様」

 左のサーニャ。

「はっ姫様」

 二人はそれぞれの椅子に腰をかけた。

「けっこうです。貴女方も準備はいいですね?」

 俺とアイナは円卓の対面に座し、俺から見て左の椅子にアターシャが、右の椅子にサーニャがそれぞれ座った、ということだ。

 アターシャとサーニャの意志の籠った眼差しの沈黙を、了承の返答と捉えたアイナはいよいよその口を開く。

「ついに我々は天雷山へと、この歩みを進めることになります。いよいよ『雷基理』に触れ、それを引き抜くことのできる『祝福の転移者』の出現―――」

 俺を見て、それは貴方です、と言うようなアイナのその雰囲気。アイナの藍玉のようなその視線が俺を見詰める。

 俺もアイナのその藍玉のような眼を見詰め返す。

「・・・」

 こくっ、っと俺が肯けば、アイナは満足したように優しい笑みを浮かべる。

「―――『七基の超兵器』の一基『雷基』の理は、『祝福の転移者』であり、救国の英雄『あまねく視通す剱王』であるケンタの手でついに天雷山の頂より抜かれるのです。私達は歴史の瞬間をこの眼で見ることになるでしょう」

 演説だ。これはアイナの演説だ。

 アターシャとサーニャは真面目な顔をしてアイナを見詰め、彼女の話に聞き入っていた。

「「―――」」

「『皇国創建記「あまねく視通す剱王の詩」―――かの剱の王は、天に向かって聳え立つ滔々(とうとう)たる雷氣漲る雷の嶽の、その頂にて―――』」

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