第二百三十一話 俺の奥の手『顕現の眼』―――、準えし『剱聖』
「強行突破かッやってみろサーニャッ」
木刀が『鎖』に触れた瞬間、サーニャを絡めて巻き取ってやるッ!!
「ふ―――、っ」
にぃ―――っ。
「・・・?」
なにがおかしい?サーニャのやつ。サーニャは笑ったんだよ、こう―――、にぃっ、っとこんな感じに口角を吊り上げて不敵な笑みを浮かべて。
第二百三十一話 俺の奥の手『顕現の眼』―――、準えし『剱聖』
サーニャは右手に持つ木刀を、まるで投げるみたいに、めいいっぱい後ろに引き絞るように、肩から背中側まで振り被る!!
「ハッ・・・!!」
サーニャは、気合の籠った大きな声で、右手の木刀を振り被り―――、振り抜き、俺のその『氣鎖』を断ち切―――、
「え―――っ!?」
だが、俺の予想を裏切るサーニャの行為だった。っつ先読みの『先眼』で視るべきだった!!
サーニャは、自身の金色に輝く氣を纏った木刀から右手を放して、つまりその木刀を俺に向かってぶん投げたんだよ・・・っ。
「「ッツ」」
ジャリンッツ―――、っとサーニャが手を離してぶん投げてきた木刀と、俺の『氣鎖』がぶつかり合う、、、というか、サーニャの木刀が『氣鎖』に当たりっ―――、
反対に、俺のところにまで木刀に巻き付き絡まった鎖が飛んでくる!!
「うお・・・っ!!」
バッ、っと避け、それを躱す。あぶねーっこれが狙いかよ、サーニャのやつ。でも、しめた。これでサーニャも得物を失ったはずで、
「はぁああああああああぁッ!!」
なっなんだと!!
「なにッ!!」
こいつ突っ込んできやがる―――俺にっ!! あいつ猪突猛進の猪かよっ!!
サーニャの突貫はそこで止まらず、終わらず―――、ダダダダッ、っとみるみるうちにサーニャが俺に肉薄し―――。
く、そ、、、。猛スピードで突っ込んでくるサーニャを避けられねぇ―――っ。これは当たる―――。体当たりだ、、、これがサーニャの真の狙いか!!
「私の勝ちです、ケンタ殿・・・!!」
いからせたサーニャの右肩が―――、その動きがやけに緩慢に視得る。俺を目掛けて、まるで俺の胸に吸い込まれるかのような動きで、サーニャの肩口が俺の身体にめり込む。
ぉぐ、、、ぐぅ―――カっ・・・ハ・・・ッ!!
「カっ、ハッ―――!! ぐっ、、、ぐぅ・・・!!」
俺はサーニャの突貫の途轍もない圧に抗うことができず、、、か、身体を後ろに・・・!!俺はサーニャに圧し負けて、足が板張りの床から浮いて、サーニャにタックルされて後ろへと吹き飛んだんだ。
そのまま俺は壁に衝突。
「ガッ、ハ―――ッ!!」
俺は道場の壁にめり込んだ。、、、めり込んだ、というのは少し語弊があるか。実際には俺は背中からしこたま道場の壁にぶち当たっただけだ。
ずるずる―――、どしゃ、っと俺は道場の壁に沿って、そのままへたり込むように。
くっ、うぅ―――痛ぅ・・・、、、。このやろう・・・よくもやってくれたな、、、うぅ。背中が痛ぇ・・・、、、。
「・・・っ」
へたり込んだまま俺は上目遣いで、サーニャを見遣れば、
「―――」
武人のサーニャは無表情で、まるで『勝利を手にした』聖騎士のように負かした相手に追撃はせず、俺を見下ろす。そこに再度俺にタックルしてくるような追撃はなく、自身の勝ちを確信したかのような表情だった。
「ありがとうございますっケンタ殿っ。貴方との試合は、私にとって新たな発見もあり、とても有意義なものでした。さぁ私の手を」
さっ、っとサーニャは俺に向かってその右手を差し出す。そこに敵意や悪意と言ったものは視得ない。サーニャは純粋に俺を気遣ってくれているのだろう。
通常の手合わせならばそれでいい。そうだったとしたら俺だって喜んでサーニャのその、剣を持っていても不思議なぐらいのその綺麗なサーニャの手を取ろう。
だが―――俺は。
「、、、、、、」
サーニャ自身は俺との手合わせ、練習試合での勝利という『彼女自身の目的』は達成されているんだろうが、そこに俺の『真の目的』はない、ないんだ。
俺の『選眼』の新たに開眼した『審美眼』のその異能で、サーニャ彼女の真意を確かめなければならない。サンドレッタ=カルナス彼女自身が、父親であり『イデアル十二人会』であるグランディフェルと繋がっているのか、いないのか。俺の『真の目的』はそこに帰結する。
っつ、サーニャを負かして俺は確かめなければならない・・・!! サーニャに二心があるか、否かをなっ!! 自分のために、アイナのためにも、俺はそれをやる。
「、、、まだだ、まだだよサーニャ」
ぐっ、っと俺は膝に力を入れる。
「え・・・?ケンタ殿?」
ぴくっ、っとサーニャは俺に差し出した手を震わせた。
「続きをやろう、サーニャ。いや、サンドレッタ=カルナス―――」
さぁ、やろうサーニャ、お互い心征くまで。
俺から不穏な『空気』を感じ、サーニャはそれを悟ったのか―――、驚きに目を見開き、
「ッツ」
バッ、っとサーニャは俺から跳び退いた。そして、後ろへ、タタっ、っと用心してか、さらにサーニャは二、三歩続けて退き、俺と距離を空けた。
ゆらぁ―――っと俺はへたり込んだ姿勢から、ゆらりとその場に立ち上がる。吹っ飛ばされた壁に凭れながら俺は、考えを巡らす。
サーニャに俺は完勝し、敗けたサーニャの心の動揺という隙を突いて、俺はこの『審美眼』で彼女の感情を、心を視透かすのだ。
「あー、効いたぁ―――、―――」
概念づける俺の『選眼』がサーニャに敗れた以上、彼女自身に俺が完勝するにはもはや、俺の『選眼』の奥の手『顕現の眼』しか遺されていない―――。
だが、もしサーニャに二心があり『黒』だった場合。俺の奥の手『顕現の眼』の『視得た異能を準える』という真の力を知られるのはかなりまずい。そのまま俺の異能の情報が『イデアル』の奴らに筒抜けになるだろう。
天雷山の頂で、彼奴ら『イデアル十二人会』と戦闘になるのは必定だ。既に俺はそれを知っている。『魔吸の壺』を持ち出してくる彼奴ら『イデアル』。もし先にあいつらが俺の『顕現の眼』を知った場合、その対策法を考えてくるのは、火を見るよりも明らかだ。
だがしかし、この場でサーニャに完勝するには、やはりこの『顕現の眼』は必須だ。『顕現の眼』を発動させつつ、サーニャに勝つにはどうするか。
この『顕現の眼』で準える人物は誰がいいか、ということだ。『顕現の眼』を行使しても、サーニャに『顕現の眼』の真価がバレない人物の異能を準えればいいということだ。
俺がこの『眼』で視た視得た、眼に焼き付けた異能。それを使う人物、俺が視た異能の持ち主達は。視得た順番に。
一人目は黯黒の破戒者『黯き天王カイト』こと結城 魁斗。その異能は『天王黒呪』。
二人目は俺の祖父小剱 愿造。その異能は『剱聖』。
定連さんのも視たが、定連さんの異能『現身』は今は使おうとは思わない、意味がないからだ。そして、
三人目は俺の師のような人津嘉山 煉火。その異能は―――。
「―――」
俺の『顕現の眼』の異能。その『他の人の異能を準えるという力』の真価がサーニャにバレないのは。俺が『保持』するこの三人『結城 魁斗』『愿造祖父ちゃん』『レンカお兄さん』の異能のうち誰か―――。正しい選択は誰だ。誰を準えるのが一番いいのか―――。
決めた。
「―――」
ゆらぁり、っと俺は足腰に力を入れ、その場で自分の力で姿勢を正す。
「ケンタ殿、、、っ」
「・・・」
時間はあったはずだぞ、サーニャ。俺があんなにも頭の中で考えを巡らしていたというのも拘らず、サーニャきみは動かなかった。勝たせてもらう。
サーニャは木刀を構えつつ、俺の様子を、動きを、俺がどう動くが探っているかのようだった。
勝たせてもらう。勝ってきみに二心がないか、お前の心の内を、きみの心の色を視させてもらうぞっサーニャ。
「いくぜ、、、サンドレッタ=カルナス」
「―――っ」
俺が見ているのは、目の前のサーニャ。サーニャは驚きに満ちたその見開いた目で、そんな表情で俺を見つめ返す。そして、
俺が視ているのは、あの道場付きの庵で孫である俺に稽古を付けてくれた大好きな祖父ちゃん『小剱 愿造』。
祖父ちゃん、使わせてもらうよ祖父ちゃんの異能『剱聖』をっ。
「きみで二人目だ、俺の『本気』を見せるのは、サーニャ」
祖父ちゃんの異能『剱聖』―――。顕現の眼の祖父ちゃんの『剱聖』をこうした場で使うのは、定連さんに続き、これで二回目だ。
「私で二人目、、、?ケンタ殿貴方が本気を見せるのは」
「そうだ、サーニャ」
俺はサーニャのその澄んだ湖のような碧眼を、真っ直ぐに見据え、そう断言してやった。そこに、俺が本気を出した魁斗はその『俺が本気を見せた』人の中には入っていない。
確かにそうなんだ、定連さんに続いてサーニャが二人目だ、俺がこの『顕現の眼』の力を見せるのは。
「そ、それはなんという誉れか、『あまねく視通す剱王』っ!!」
誉れか、、、。
思う―――、
「―――、、、」
サーニャと俺では価値観が少し離れたところにある、と。さすがは武人であり聖騎士、そしてこれが五世界か。日本で育った俺とは違うんだな。
「ケンタ殿っぜひっ私に黯黒の破戒者『黯き天王カイト』を倒した貴方の力をお見せくださいっ・・・!!」
「そうかよ」
魁斗を負かした俺の力が。正確には『顕現の眼』は、魁斗を負かした『転眼』とは違うんだがな。
もちろん完全に自分の技にするために、俺は『顕現の眼』の力を行使し、何度か『剱聖』の練習はした。
そうかよ、っと俺は吐き捨てるように言ったあと―――、さっ、っと俺は開いた左手を自身の眼前に翳す。じくりっ、っと眼が痛くなるほど瞼を見開き、その『先』を凝視する。その『先』というのは。
「―――、、、」
―――それは現実的な俺自身の目の前の対象者、今はサンドレッタ=カルナスのその姿。彼女が自身の『氣』を解放したその金色に光り輝くその姿だ。
―――そして俺が準え成るその対象者、今俺が準え成ろうとしている祖父小剱 愿造のその姿。祖父がその異能『剱聖』を発動させたその姿だ。
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「―――、、、」
つらつら―――、・・・、、、。っと俺は走らせていた筆を一時止めた。
「さて―――」
長々と書くのは頂けないな。飽いてしまう者もいるかもしれん、と俺は。一抹の不安が心中をよぎるのだよ。
ふふ、、、。
「、、、」
俺は誰に言うとでもなく、独り心の中で呟いたのだよ。
『イニーフィネファンタジア-剱聖記-「天雷山編-第二十一ノ巻」』―――完。