第二十三話 義兄弟水入らず
第二十三話 義兄弟水入らず
話がよく見えないな、魁斗とクロノスの話すことは・・・。
「・・・」
魁斗とクロノスの会話は聞いていて俺には解らないことだらけだった。でも俺はまだそこを動く気にはなれず、しばらく魁斗とクロノスの話を、まるで立ち聞きしているようにはなってしまうけど、自分の興味のほうが勝った俺は二人の話を少し聞いてみることにしたんだ。
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「健太があのアイナ=イニーフィナにあっさり勝っちゃって・・・仕方ないから僕、ロベリア義姉さんにお願いしたんだぁ」
「ほう、魁斗お前が予想した二の手というやつか」
「うん、そうそう。そしたらね、ははっ僕達っ鬼ごっこする羽目になっちゃったよっ・・・ははっ。でもでも、クロノス義兄さん。幼馴染と鬼ごっこするなんて僕ほんとに久しぶりでね、なんか楽しかったよっ、クロノス義兄さん」
「あ、そういえばさっき僕の電話にそのロベリア養姉さんから連絡があってね」
「ほう?通信魔法か?」
「うんっそうだよクロノス義兄さん。それでロベリア養姉さんからだけど、僕達とは合流せずに先に一旦帰るってさ、クロノス義兄さん」
「そうか」
「もぉ、クロノス義兄さん」
「どうした、魁斗?そのふくれっ面は。なにか不満でもあるのか、魁斗よ」
「だってクロノス義兄さん!! さっきからクロノス義兄さん眉間に皺寄せて『ほう?』とか『そうか』しか言ってないからさぁ!! 僕達みんな血は繋がっていないけど、僕達は家族みたいなもんなんだよ!? 少しはロベリア義姉さんの行動に興味を持ってあげてよっ、クロノス義兄さん!!」
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俺がアイナにあっさり勝っちゃった? やっぱり魁斗のやつ初めから俺とアイナのことを見ていたんじゃねぇか。なんでそのときに顔を出さなかったんだろ?魁斗のやつ。まさか恥ずかしかったとか?
うん、ありえるな。昔の魁斗は己理ほどじゃないけど、恥ずかしがりやというか、人見知りをするやつだったし。
ロベリア義姉さん? あぁ、そっか魁斗のやつこの五世界イニーフィネという異世界で誰かの養子になったと言ってたな・・・。そこの義姉さんのことかな?
「ははっ」
よかった。魁斗のやつ楽しそうにさ。廃砦の一室から漏れ聞こえてくる楽しそうな魁斗の話し声とその楽しそうな様子に俺は思わず頬を綻ばせてしまった。
お義兄さんのクロノスのやつも・・・。そのテンションの高い魁斗をクロノスは邪見にできないみたいだ。
「ふっ」
きっとクロノスもいいやつなんだな。なんだかんだいってちゃんとテンションの高いクロノスを相手をしてくれる。俺、は昨晩疲れていたせいで、なんか魁斗に相槌を打ってばっかりだったと思うんだ。魁斗を引き取ってくれたという養父さんや義兄弟の人の好さが解る気がする。だって今の成長した魁斗がこんなにも明るく育っているんだぜ?
「・・・」
うん。でも二人の会話を聞いていて、いまいち俺が解らなかったことというか、腑に落ちなかったこともあるんだ。それはアイナのことや鬼ごっこ?魁斗が言っていたことと、クロノスの通信魔法という言葉―――、この魁斗とクロノス二人の会話の中で、俺が腑に落ちなかったことは後で魁斗本人に訊けばいい、とそのときの俺はそう思っていたんだ、ほんとにそのときの俺は―――
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「はぁ、やれやれだ、まったく。では訊こう魁斗よ。なぜロベリアは俺達の近くまで来ているというのに先に帰るんだ?」
「疲れてるんだって、ロベリア義姉さん」
「疲れている、だと?」
「うん。なんかね、あの街の任務で魔力をいっぱい使った所為だって、ロベリア義姉さんが言うには」
「ふんっロベリアめ。それはやつの鍛錬が足りない証拠だな」
「まぁまぁ、クロノス義兄さん」
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俺は地面に転がっていた煉瓦に座ったまま、静かに魁斗とクロノスの話を聞いていた。任務?俺は魁斗の言葉に一人静かに首をかしげた。そういえば、クロノスも俺の名前を出して、任務を同じくする、とかどうとか言ってたっけ?
「―――・・・?」
魁斗やクロノスが言ったあの街の任務っていったいなんのことだろう? あの街って昨日俺と魁斗がいたあの生ける屍達で溢れかえったあの街のことかな? じゃあその任務って―――・・・。
よし、今から二人のところに戻って魁斗のやつに訊いてみようかな。っと、俺は下肢に力を入れて―――
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「まぁまぁ、クロノス義兄さん」
「だが、『導師』より与えられた引き継ぎの任を放っておいて勝手に帰るなどあってはならないことだ、違うか魁斗よ?」
「ロベリア義姉さんのこと大目に見てあげてよ、クロノス義兄さん。『屍術』の魔法ってほんとにマナをごっそりと喰うってロベリア義姉さん前に言ってたよ? ラルグス義兄さんに殺してもらった、あんなにも多くの街の死人を屍兵に変えるなんて、並大抵のマナ量じゃできないことなんだ。きっとロベリア義姉さんじゃないとできないことだってば・・・ははっ。だからこの作戦の一番の功労者はロベリア義姉さんだよっ」
「―――なるほど」
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え―――・・・?『殺してもらった』・・・? あれ?『下してもらった』の聞き間違いだよな?
「―――・・・」
いやいや、ほんとに魁斗あいつはいまなんて言ったんだったっけ―――? すまん、俺の聞き間違いかも。もう一回、俺が聞いたことを頭の中で反芻させてくれ。
そう・・・―――得意気にクロノスに話す魁斗はこう言ったんだ―――
『ラルグス義兄さんに殺してもらった、あんなにも多くの街の死人を屍兵に変えるなんて―――』
『下してもらった』でも『卸してもらった』でもない。やっぱり『殺してもらった』にしか聞こえなかったんだ、その魁斗の僅か数秒前の発せられた言葉は。魁斗は『ラルグス義兄さん』って言ったよな?え?つまりえっと・・・ラルグス義兄さんということは魁斗の身内で―――、そいつが昨日の街の住人達をみんな殺したってこと・・・? え? えっ―――
「―――っ」
俺はその魁斗とクロノスの続きの話を聞いてしまって、下肢に力を入れたまま固まってしまったんだ。
「―――――――――」
俺は魁斗の話を立ち聞きし、文字通り言葉を失っていた。ううん、声にはならない声を上げて・・・絶句していたんだ。俺は中途半端に立ち上がった変な姿勢のまま、眼前を見つめていた。俺が見つめる先とは、もちろん魁斗とクロノスが話し合っている所で、俺は魁斗と一緒に火を熾して泊まったあの廃砦の一室へと繋がる古い煉瓦が敷き詰められた床で絶句していた。
「―――・・・」
う、うそだろ? 家族ぐるみでなにやってんだよッ魁斗のやつ・・・!! つまり―――魁斗の話のとおりだと、魁斗の別の義兄・・・ラルグスとかいうやつが街の人々を皆殺しにし、それを義姉のロベリアとかいうやつが『屍術』の魔法で生ける屍に変えただって? なんで魁斗はそんなことを言うんだろう・・・?
まさか―――冗談か? だってそうとしか考えられないよ。そっかそうだよな、絶対そうだよ。こんなやばい会話が本当のわけないってばっ。
またまた・・・俺を怖がらせようとしてそんな嘘をついてさぁ、魁斗のやつ―――。そう俺は勝手に結論付けた。俺がそういうふうに思ったわけはというと―――
魁斗だって生ける屍に襲われていたはずだ。魁斗による仕込だとすると、じゃあ、なんで魁斗本人も生ける屍に襲われたんだ? もし、あれが魁斗やその仲間がやったことだとすると、それこそ整合性が取れないってば―――。
「・・・」
街の住人達を人の好い魁斗やその仲間達が皆殺しにするわけがない。またまたぁ。俺をびびらせるための作り話を俺にわざと聞かせてさぁ・・・魁斗とクロノスやつ。と、そのときの俺はまだ楽観的に魁斗のことをそう思っていた―――。
だが、俺はすぐに彼らに思い知らされることになるんだ―――。
///
「うん。でも当初の予定とは違ったけど、『転移者』の健太は僕が身体を張って確保できたし、ロベリア義姉さんは『死を運ぶ屍兵部隊』の補充はできたし、ラルグス義兄さんはあの街の秘宝を奪取できたし、この作戦は大成功だよ、クロノス義兄さんっ!!」
「そうか、導師とお前の緻密な作戦の結果だな」
「へへっありがとうクロノス義兄さんっ。でも、僕、ロベリア義姉さんの『屍兵』をいっぱい壊しちゃったから、あとでロベリア義姉さんに謝らなくちゃ。でも、ロベリア義姉さんちょっとやり過ぎだってばっははっ、屍兵の演技が迫真すぎて僕ちょっとこわかったよ」
「そうか。では、あとはグランディフェルの到着を待つだけだな?魁斗よ」
「うんっ。これからの予定だけどクロノス義兄さん。グラン義兄さんがここに到着したら、あとは健太を連れて帰還するだけだよ」
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「え―――」
今の話やっぱマジ?マジなのか? じゃあ・・・俺をかくほって?え?えっと、それって・・・確保? うん?作戦? 大成功? 屍兵? な、なに言って、んだ、よ、魁斗。
「―――・・・」
あれは、あの街の死屍累々の人々、生ける屍達―――、颯爽と勇者のように現れた魁斗―――。あれは演技で・・・―――・・・な、なん、だよ・・・それ。どういう、こと・・・だよ―――・・・魁斗―――?
「―――」
ううん・・・実は、ほんとは―――、ほんとは少しだけ、俺はずっと少し違和感を覚えていたんだ魁斗の言動に。あのとき、俺が生ける屍に襲われていると突然、救世主のごとく現れた魁斗。魁斗は一貫して生ける屍達に対し『屍兵』とか『死を運ぶ屍兵部隊』と呼んでいた。普通なら『生ける屍』とか『ゾンビ』とか『グール』とかって言わないか・・・!? 今思えば、なんで魁斗が『死を運ぶ屍兵部隊』―――そう言っていたのか、ちょっと解った気がする。
たぶん、きっと魁斗は生ける屍のことをいつも、そう『屍兵って呼んでいる』んだ―――。