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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第二十一ノ巻
226/460

第二百二十六話 俺が彼女に抱いた妙な違和感

 今は深夜。草木も眠る丑三つ時だ。

「夜食でも食ってんのかな?」

「ふ。まさか、ケンタさま」

 そのようなものは用意してはいない、とアターシャは吹きだすように小さく笑ったんだ―――。


第二百二十六話 俺が彼女に抱いた妙な違和感


 夜食か。でも俺は―――、

「いや、俺は、というか俺が居た日本では夜食を食べることってわりと普通のことだったけど?」

「まさか、身体に悪いですよ?」

「うーん、でもついつい食べてたかな、夜食」

「、、、そうなのですね」

「うん。ちょっと小腹が空いたときなんか、わりと」 

 例えば夜に試験勉強のときとか、深夜にベッドの上でごろごろしながらネット上の動画を見ているときとか、ちょくちょく。カロリーの低い食べ物を選んで。俺はそうしていた。でも、このイニーフィネ皇国に来てからはそういうことはしなくなったなぁ、―――そう言えばそうだなよな、ここに来て深夜に夜食なんかを食べたことがないや、俺。

 そもそもそういう文化・風習がないのかもしれない、このイニーフィネ皇国は。

 アターシャは一歩踏み出す。その扉に手を添え―――、まさか開ける気か?アターシャは。

 こつこつこつ―――、っと。食堂の中からこちらへと歩いてくる足音。ハッとアターシャは手を退く。

「「っつ・・・!!」」

 こちらに、すなわち扉に戻ってくる気配がした!! うんっ、っと互いに肯きあって俺達は、一か八かの掛けだ。だが、隠れるところなど―――。

『ん・・・?』

 サーニャは一瞬きょとんと。

 き、気づかれたか?

「「――――――」」

 俺とアターシャは開き戸の際に隠れたんだ。つまり扉を開いたサーニャには俺達の姿は見えない。さらに息を殺し、、、ほっ、よかった気づかれなかったようだ。サーニャはランタンを片手に去ってゆく。


 そんなサーニャを尾行しつつ、、、サーニャが次に向かった先は中庭だった。次にサーニャが出て行ったこの扉の向こうは、夜のルストレア宮殿の中庭だ。

「「・・・」」

 アターシャを見る。俺達はまたもお互いに顔を見合わせ、、、。するとアターシャもこっち俺のほうを見て、ん?っと、やや困惑したように首を傾げた。

 俺は顔を前へと戻す。この扉の向こう、サーニャは中庭で何をしているんだろう? アターシャは一歩進み出て、中庭へと続く扉にその手を掛ける。

「っ」

 ちょっアターシャ。アターシャは中庭に出て、サーニャの様子を隠れて見るんだな。仕方ない。サーニャに見つかってしまいそうで、俺は中庭にはあまり出たくないんだが。

 中庭に出るアターシャを追うように、俺もアターシャに続いて中庭に出た。

 アターシャはサーニャの様子を隠れて窺うことはなく、超どっ直球だった。そこはアイナと同じ。

「サンドレッタ」

 ビクっ!! 中庭の中程、そんなところに一人しゃがんでいたサーニャは慌てて立ち上がる。

「ァ、アターシャどの・・・っ!?」

 ぴゅーっと、サンドレッタの足元から逃げていく黒い影。それはネコっぽい小さな動物にように思えた。

「そこで何を―――して、、、いるのですか・・・」

「あ・・・、―――」

 アターシャの声とサーニャの慌てた様子に驚いたのか、その小さな動物は逃げていった。そして、あっという間に、中庭から走り去って、、、その姿を消した。

 しゅん、、、っと。サーニャは、じぃっとその小さな動物が走り去った方向を見る。そんなサーニャの足元には、小さなお皿が一枚。まだなにか、きっと餌だ。食べかけの餌がお皿の上に残されている。

「―――私のかわいいもふもふが・・・、、、」

 しゅん、、、としたサーニャの残念そうな声。

「そ、それは、悪いことをしてしまいましたね、サンドレッタ」

「い、いえアターシャどの、、、」


///


「―――つまりは。はい、姫様の許しは得ております」

「解りました、サンドレッタ。アイナ様のため夜にわざわざ修練の時間を取るとは、ご立派なことだと思いますよ」

「ありがとうございます、アターシャどのっ」

「ですが、きちんと睡眠を―――」


「―――」

 俺は傍でアターシャとサンドレッタの会話を聞いていた。

 サーニャは鍛錬の時間を作るために寝る間も惜しんでこの中庭で、剣の稽古を一人でしていたらしい。そのときに偶然に出会ったネコをかわいがるようになったそうだ。そして、いつしか餌をあげるまでに、という具合で、すでにそのことはアイナの許可は得ているらしい。

 だが俺はこのとき、ふと心の中でサンドレッタに疑いを抱いたんだ―――。いや、ますます俺の心中に、疑念という雲が垂れ込めた、というべきか。

 アターシャはサンドレッタの説明になにも疑いを抱いていないみたいだったが―――。


///


 この宮殿の中で俺がこのことを相談できる相手は、この人しかいない。そうこの人こと、津嘉山 煉火だ。

「レンカさん―――」

 稽古のあと一緒に風呂に入りませんか?と俺は心に決めてレンカお兄さんを風呂に誘った。それで、ちょうどいい頃合いで湯槽に浸かっているときだ。

「レンカさん、ちょっと訊きたいことがあるんですけど?」

 いいっすか?と言った具合で俺はレンカお兄さんに話しかけた。

「なんだい健太くん」

 レンカお兄さんは、『水も滴るいい男』の具合になっている。実際は『水』ではなくて『お湯』だけどな。その濡れた地毛は赤い髪のイケメン。

 なんかもう大浴場は、レンカお兄さんと入る男湯は俺達の密談の場所になっているな。今度は俺からの密談だ。盗聴器なんか仕掛けられていないだろうな?一抹の不安がよぎる中、俺は湯槽でぬくもりながらレンカお兄さんに話しかけたんだ。

 この質問は、相談はアイナやアターシャにはできない。

 俺は一拍置いて、本当にレンカお兄さんに訊いてもいいのだろうか、、、どうなってしまうんだろう、という一抹の不安が頭の中をよぎるものの―――、

「―――、サンドレッタっていう人はどんな人だったんですか?子どもの頃とか」

 ―――俺は意を決して口を開いた。

 レンカお兄さんは考え込むように湯船の中で、腕を組む。

「ふむ、、、子どもの頃ねぇ。サンドレッタがどんな人だったかって言われてもねぇ・・・」

 俺の質問が少し抽象的すぎたのかな?

「ほら、あの性格とか、人柄とか。ちょっと知りたいと思って、俺」

 あと嘘を吐いたり、吐かなかったりすることが一番重要だ。

「いや実は、僕は子どもの頃あまりサンドレッタとは交流がなくてね。僕よりかれん(アターシャ)のほうがサンドレッタに詳しいかな。一度かれんに訊いてみるのもいいかもしれないよ?健太くん」

 アターシャか、、、それなら『俺の疑念、その答えに行き着く』のはあまり期待できないかもしれない。あの夜のアターシャはかなりサンドレッタに好意的だった。もしろ夜の人知れずの修練に勤しんでいるというサンドレッタを讃えていた。

 一方であの夜、サンドレッタに俺が抱いた妙な違和感、それにアターシャは気づいていないようだったから。

「、、、」

「浮かない顔だね、健太くん。なにかあったのかな・・・?」

 にやっ、っとレンカお兄さんが笑う。自身に興味のあるものを見つけて、なんか楽しいことが起きそうだ、と言うような、やや口角を吊り上げるそんな笑みだ。

「実はレンカさん、この前の夜ことなんですけど―――」

 と、俺は先日の夜にあったこと、起きた事を包み隠さずレンカお兄さんに話した。レンカお兄さんは俺の信頼のおける師のような人だから俺は包み隠さずに話すことができるんだ。なにか些細なことを話さずに、『もしものこと』が起きてしまったら取り返しがつかないことになってしまう。

 一方的に『そうだ』、と決めつけるのはよくないことだ。でも、もしものときに備えて対策を立てておくのは普通のことだ。

 俺の疑念。初めてサーニャと会ったときからの懸念。なんたってサンドレッタ=カルナスはグランディフェルの娘なんだから。あのかつて皇国に反旗を翻したチェスター皇子の直属の部下だった男だ。もう一人の直属の部下だった男は皇国近衛異能団団長エシャール・ヌン=ハイマリュン。その血の異能『血世界』を発動させ、宮廷内で多くの人々の生命を奪った男。レンカお兄さん、アターシャ、ホノカ津嘉山三兄妹の父親正臣も、その血の狂気の中で、、、生命を―――落とした。

 彼奴ら三人チェスター皇子、炎騎士グランディフェル、血塗れのエシャールは正真正銘の『イデアル』だ。だから、俺が慎重になるのは当然だ。

 そんなチェスター皇子の直属の部下だった皇国近衛騎士団団長グランディフェル=アードゥル。あの廃砦でも、アイナに敬意を払いつつも、皇女であるアイナの言葉をきっぱりと拒絶した男。非合法組織『五世界の権衝者』を名乗る『イデアル』の構成員。

「特に俺が違和感を覚えたところは、一回目と二回目ではサンドレッタが違っていたんです」

「違っていた?」

「はい、レンカさん」

「それは、どんな風に違っていたのかな?健太くん」

 レンカお兄さんの問いに俺は、あのときトイレに行こうとして見かけた夜の闇に浮かぶサンドレッタの場景を思い出しながら口を開いた。

「最初のとき俺が尿意を催して、夜見かけたサンドレッタはなにも持っていなかったんです。手ぶらだった」

「手ぶらだった?その言葉からすると二回目のサンドレッタは手に何かを持っていたっていうことだよね、健太くん」

 二回目、アターシャと一緒に見たサンドレッタはその手に青白く光るランタンを持っていた。

 きっと同じものだ、あいつのと同じ。あのとき屍者達が徘徊する街から逃げるときに隧道(トンネル)の中であいつ魁斗が持っていたのと同じ照明器具、氣で灯るランタンだ。

「はい。持ってたんっすよ、サーニャはランタンを」

「なるほど、、、」

 レンカお兄さんは考え込むように、その視線を湯船の水面に落としたんだ。

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