第二百二十四話 そして始まる四人の生活。俺以外は全て女性で、彼女達とのドキドキ共同生活、、、なわけがない
あのとき銀の甲冑の兜の隙間から見えていたグランディフェルの金色の髪の毛と同じ、もしくはよく似た髪の毛を、このサーニャはしている。つまりサーニャは映えるような金髪。そして目の色は澄んだ湖と同じ青色だ。そのサーニャの目の色も父親のグランディフェルに似ている。
第二百二十四話 そして始まる四人の生活。俺以外は全て女性で、彼女達とのドキドキ共同生活、、、なわけがない
「ハハっ!!ケンタ殿下っ。私はサンドレッタ=カルナスと申しますっ以後お見知り置きを・・・!!」
ケンタ殿下だって!? 俺のことだ。そこも、それを言うのも父親であるグランディフェルと一緒だ、、、。いや、俺なんて殿下なんて柄じゃないし、殿下って呼ばれるとなんかむず痒くて恥ずかしい。
「で、殿下・・・、、、って。あぁ、いや普通に俺を呼ぶときは健太でいいよ?」
「そっそそ、そのようなっ!! 私に『ケンタ』などと呼び捨てで呼べと申されますかっ・・・っ/// そのようなこと、、、この私にはそのような不敬、できませぬっケンタ殿下・・・っ///!!」
お、おふぅ・・・。ダメだこの堅物め。父親と一緒だな。
現にホノカは俺のことを『健太』って呼び捨てだし。アイナも俺のことをそう呼ぶ。アターシャは侍女だからか、『殿下』とそう思っているのか、どうかは分からないが俺のことを『ケンタさま』と呼ぶ。ちなみにレンカお兄さんは『健太くん』だ。ミントはアターシャと同じで『ケンタさま』。
「・・・あ、いやうんサーニャ。俺は別に気にしないけどな、きみに健太って呼び捨てで呼ばれても」
あれ?
カーっ、っとサーニャは頬を、まるで熱のあるときのように紅くして。ひょっとしてサーニャってば、顔色が悪い?
「・・・っ///」
「ん?サーニャ」
サーニャのやつ、、、片膝を礼拝堂の床に着けたまま、俯いたちゃったぞ? 気分も悪くなったのか?
一方のアイナは―――、
「ケンタっふふっ♪」
―――にこにこ、にこにこ。やけに上機嫌になったアイナは、にこにこっ、と笑みをこぼす。なんでアイナのやつはこんなにも上機嫌になったんだ?
「アイナ?」
にこにこ、にこにこ。
「えぇ、ケンタがそうしたいのなら私はとめませんよ。ですが、私が一番ですからねっ♪」
私が一番?意味が分からない、アイナの言っていることが。
「えっ、と―――?私が一番」
「えぇケンタ♪ 私が一番で従姉さんが二番っ、サーニャはその次ですわっくすくす♪」
なんかそのアイナのくすくすっ、と笑う笑みがこわい。ぜったい黒い感情が混じっている、と見ていて俺は思う。
「、、、?」
「御戯れを。アイナ様」
後ろからアターシャさんの声。
「えぇ、従姉さん」
すすっ、っと。そのときアターシャは音もなく俺に近寄り、俺の耳元で。
「ケンタさましばしお耳を―――、っつ、ったくなに言いやがりますかねケンタさまは」
いや、俺はなにも言ってないよな?
「はい? っ」
それより今の聞いたよな? アターシャさんってば、っつ、と軽く舌打ちしたよ。
「つまりケンタさまは、初対面のサンドレッタを見初めて口説いた、ということになるわけでございます」
俺がサーニャを口説いた?
「へ?」
「お忘れですか?ケンタさま」
///
「えっと、、、つまりそれは―――」
つまりそれは、互いに名前を呼び合うということは―――、以前アイナが、あの廃砦で俺を『イデアル』に勧誘しようと必死の魁斗の前で威風堂々と語っていたことに繋がるわけでして、、、
『彼ケンタは、私の『貴方のことをケンタと呼び捨てで呼んでもよろしいですか』、との要求に二つ返事でそれを了承してくれました。さらに、私はケンタより『俺はきみをアイナと呼称する』との宣言を受け、私はそれを大いに喜びその『宣言』を快諾しました。私の家柄イニーフィネ家にとって互いに下の名前で親しく呼び合うという関係は、契りを交わした婚約者同士、もしくは家族親族間に限られます。つまり、私とケンタ、ケンタと私は名実共に『婚約者』という間柄になったのですっ』
これに則ると俺は初対面のサーニャに対して、『俺と付き合え』とか『結婚しよう』って言ったことになる、ということだったんだ。
「おふぅ、、、じゃあ俺のことは健太殿って呼んでほしいかな、サーニャ。さすがに健太殿下は、まだ俺はそんな、そうやって呼ばれるほど、功績もあげていないしな、、、俺」
かなしいかな、今の俺はアイナに、いや皇家に『おんぶにだっこ』の状態だ。
「はっ畏まりましたケンタ殿・・・!!」
「改めてよろしくサンドレッタ」
「はいっケンタ殿」
愛称である『サーニャ』と、彼女サンドレッタにそう呼ぶのは今はやめておこう。また誤解させると、ね。
そして始まる四人の生活。俺以外は全て女性で、彼女達とのドキドキ共同生活、、、なわけがない。このルストレア宮殿で確かに四人での生活は始まったが、常に俺達は一緒にいるわけでもないしな。
アイナに侍女のアターシャが就いているのは今までと同じであるが、それにもう一人護衛として近衛騎士のサーニャが加わっただけだ。
///
「―――、、、」
ふと真夜中に目が覚めた。尿意・・・っ、、、俺はそれを感じて半ばぼーっとする中、枕元の電話に右手に伸ばす。
今何時だ? 電話の画面で時間を確認すれば、、、一時四十二分の表示。ほんとに真夜中だ。このルストレア宮殿の完全消灯が二十二時だ。
「トイレ行こ、、、っ」
もれちゃう、あせあせ。電話の画面の眩しい光を見て意識が覚醒した俺はベッドを抜け出した。
赤の絨毯が敷かれている宮殿内の廊下は常夜灯が点いているとはいえ、、、中々の薄暗さで雰囲気満点だった。ちょっとこわい、ということだ。
「~~~」
しかも廊下の端には彫像や絵画が並び、シャトーのような洋館は雰囲気もばっちりで、、、つまりちょっと怖い。でも探検とか肝試しとかできそうでちょっとおもしろそう。アイナには、こわいとかお化け屋敷なんて、口が裂けても言えないけどな。肝試しか、、、まるでそうあのときの、、、小学生の頃幼馴染達とやった肝試し―――俺はそのときのことを思い出しながら、トイレへと向かった。
トイレはこの宮殿の、俺の部屋から右へと向かうその突き当たりにある。
「ふぅ~♪」
余裕で間に合った。ジャーっと水を流しつつ俺は。誰もいない電気を消した真っ暗のトイレを退室し、、、
ずるずる―――、、、
びくぅ・・・っ!!俺は身体を震わせた、震わせてしまった。
「―――ッツ!!」
確かに聞こえた。小さな音だったけど、確かに俺の耳にこの赤い絨毯の上を歩く誰かの足音が・・・!!
な、んだ、ろう―――その引き摺ったような足音。
「、、、―――」
迷ったのは一瞬。もしもアイナになにかあったら、と思うと俺は速足でその足音の出所に向かった。もちろん俺は足音を立てないようにやや慎重な足運びで向かったんだ。
「!!」
いた!! その人物は上階からやって来るようで、とんとんっ、っと階段を下りてくる途中だった。どこか隠れられそうなところは―――!!
あった。
「っ」
俺は一階の廊下の窓にかかっているカーテンの裏側へと身を潜めた。そして息を殺し、、、カーテンの隙間からその人物を凝視―――。
「―――っつ」
あいつは・・・っ。遠目からでもこの『選眼』の異能の一つ『千里眼』がある俺はその人物が誰だかすぐに判った。
こんな真夜中だぞ?日本で言う所の丑三つ時。宮殿はもうみんな寝静まっているのに、なんでこんな真っ暗な宮殿内を、その張本人であるサーニャは明かりを持たずに一人で歩いているんだ?
そうその足音の正体はサーニャ、、、サンドレッタ=カルナスだった。アイナの部屋は二階。護衛ならばサーニャはアイナと同じ階にいるだろう?でもサーニャは持ち場を離れようとしている?
サーニャを追う? いやでもあの階段は隠れる、身を隠すようなところはない。絶対に、すぐサーニャ本人に俺が尾行していることが分かってしまう。どうしよう?追うか?それとも、、、写真を撮る?いや、電話は置いてきたし、シャッター音でばれてしまう。うーん、、、どうしよう・・・。
悶々、、、。くっ俺がそうこうしているうちに明かりも持たずサーニャは暗闇の中どこかへと去って行った、、、。
「・・・明日、また、、、様子を見るか・・・」
仕方なく俺は、心に決めたことを抱いて悶々としながら自室に戻ったんだ。
次の日の夜のことだ。
「―――」
俺は真夜中の一時半に目を覚ました。電話のアラーム機能を解除し、ベッドの横に腰かけた。すっ、っと手を伸ばすのは、慣れ親しんだ『大地の剱』ではなく、木刀。それと、一応電話も。俺はそれらを手に自室を後にする。
「・・・」
息を殺し、足音を殺し、氣を殺し、、、―――俺は階上から至る階段へと、その踊り場へと向かう。すぐに一時しのぎだが、身を隠せる回廊の窓のカーテンの側を静かに気配を殺して歩みを進める。
今の時間は何時だろうか。電話を見ればその画面の光が漏れ出て、『誰か』に気づかれるからそれはしない。きっと昨夜と同じ一時四十分頃のはずだ。
『―――』
誰かの息遣いっ!! 人の気配!! 階上からつまり二階よりそれが俺がいる階段の踊り場へと近づいてくる!!
「ッツ」
サッ、っと俺は、焦らず騒がず、音も立てずに、冷静に窓枠から掛けられたカーテンに入り、その隙間から外の様子を窺う。
サーニャならたぶんこの踊り場を越え、、、昨夜と同じくきっと角を折れて向こうの反対側に行くはずだ。でも、その足音の主は反対側には行かず、、、こっち側に!? こっちに来るぞっ!!
スっ、っと俺はカーテンの細い隙間を隠し、ますます息遣いを殺す。