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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第二十一ノ巻
222/460

第二百二十二話 貴女を正式に私の近衛騎士に叙任します 一

「では、出ますね」

 アイナがその右脚を一歩前に出した瞬間―――一瞬にして白い靄のような、白い空間?と言えばいいのか―――それは一瞬で晴れ、サッ、っと出先の本物の光景の光に塗り潰される。昼の場所から、時差などで出先が夜ならば、目が眩んで宵闇に塗り潰される。

 トンっとアイナが地面に足を着く。そして俺が気づき顔を向ければ、そこには―――、


第二百二十二話 貴女を正式に私の近衛騎士に叙任します 一


「教会だ・・・」

 俺の目の前に、アイナの背中越しに荘厳なフィーネ教の教会が鎮座してあった。特段の、十字や月星といったシンボリックな紋章は見えない。

 かつて魁斗と、、、一緒に―――。あの、俺があのとき初めて降り立ったあの街にあった教会と同じような造りの教会だ。こっちの教会のほうがあの街の教会よりずっと大きいけどな。

「はい。実はこの街にある教会は、私が特段思い入れのある教会なんですよ、ケンタ」

 なんでだろう、アイナは。

「思い入れのある?」

 俺は背中越しにアイナに話しかけた。

「え、えぇ・・・私が幼い頃、あの大いなる悲しみが起きたとき、一時―――・・・」

 っつ。アイナの声調が落ちる。

「、、、」

 アイナは、過去を振り返るように、、、。

「その、、、叔父チェスターが王宮を去るまで、・・・私はアターシャとサーニャと共にこの教会に身を寄せていましたから―――」

 アイナは過去を振り返るように回顧的に語り、俺のそのアイナの左肩に触れる右手の手の平に彼女の僅かな震えが伝わってきた。

 王宮から避難していたんだったな、アイナ達は。

「・・・そっか」

 ここは―――俺がアイナを優しく抱き留め―――ううん、背中越しにわずかに震えるアイナの肩を俺が優しくふんわりと抱き締めてあげたい―――。

 俺はアイナの左肩に乗る自身の右手にやや力を籠めて、そのままアイナを抱き締め―――。

 だけどそれは、俺の思いは叶わなかった。

「っつ」

 そこへ、現れる人影があったからだ。その人物は女性で、その人はしずしずとした足取りで俺達へと近づいてくる。

「アイナ様、アターシャ様お待ちしておりました―――」

 白を基調とした服に身を包み、その現れた女の人の姿格好だ。だぼっとした洋服で、まるで教会の修道女が着ているような服に身を包んだ妙齢の女の人だ。

 僅かに震えていたアイナを軽く抱き締めようと思ったんだが、、、今はやめておこう。

「っつ」

 その女の人の声の呼ぶ声が聞えたから俺はアイナをそっと抱くのを止めた。そして俺はアイナの左肩から自身の手を浮かせた。


「司祭さま、此度は―――」

 やっぱりこの人が司祭さまなんだ。アイナが軽く会釈を。すっ、っと続いてアターシャもその腰を折る。

「アイナ様、アターシャ様―――」

 するとアイナに、その司祭さまと呼ばれた女の人は一歩進み出て、またアイナも、そしてアターシャも一歩踏み出す。

「・・・」

 俺の右手だけがぽつん、と取り残されるように。俺は徐々に自分の右手を下した。さびしくなんかないよ?

 俺の目の前で二人アイナとその司祭さまは抱き締めあう。続いてアターシャも。

「司祭さま」

「アターシャ様もお待ちしておりました。・・・あら?」

 アイナとアターシャの抱擁を終えたその司祭さまと俺とは真正面に向き合う身体の向きだから、しぜんと俺はその司祭さまと視線が合う。

「・・・」

 ぺこり。だから俺は遠慮がちに司祭さまに軽く頭を下げた。

「司祭さま、彼は―――」

 と、アイナはこの司祭の女性に俺のことを一通り紹介した。

「アイナ様、ケンタさま、御婚約おめでとうございます」

「ありがとうございます、司祭さま♪」


 司祭さまによる近況報告と雑談ののち―――、

「司祭さま、サーニャは礼拝堂でしょうか」

「アイナ様、推輓(すいばん)致しましたこの私めが案内させていただきます―――」

 ようやく本題だ。

「―――」

 そこは荘厳なる礼拝堂と言えばいいのだろうか―――。俺は、俺達はこの司祭さまに案内されてその彼女の先導でこの礼拝堂に至ったわけだ。

 このフィーネ教の教会というのは、俺が日本で見かけた、見たことがある教会とよく似ていて、煉瓦と石材より建てられている。その高い尖塔にまで登れば、この街の風景が隅々まで見渡せそうだ。その主たる教会にその礼拝堂はあったわけだ。

「アイナ様、こちらへ―――」

 ぎぃ―――司祭さまがゆっくりとした動きで、その木の扉を押し開ける。その木の扉の色合いもまた使い古されたような木目調で、どこか歴史があるのを俺は感じ取った。

「―――」

 アイナは静かに一歩、礼拝堂の中に進む。続いてアターシャも、俺も。


「・・・」

 すごい・・・。中は、厳かで、赤、青、黄、緑。美しい色ガラスの窓を透過した日の光で照らされた礼拝堂の中はどこか清らかだった。

「―――」

 礼拝堂の中は物理的に自然豊かに澄み切っているとかではなくて・・・澄み切っていた。そのなんて言えばいいのか、とにかく嫌な感じとかはいっさいしなくて・・・―――あのときの魁斗がその異能『天王黒呪』で造り出した『黯黒呪界』のときような嫌な感じとは正反対の―――。

 これが女神フィーネの聖なる空間か―――。澄み切った神々しい浩々(こうこう)たる空気がこの礼拝堂の中を支配している―――。あの、俺の心に語り掛けてきた、この礼拝堂に、魁斗との戦いで俺に加護を与えてくれたあの女神フィーネを祀っているのか。

「―――」

 そして、そんな厳かな空間の礼拝堂の中で、ふと俺はある人物に気が付いた。姿形から見てそう察するにその人物は女性だと思う。

 女性が一人礼拝堂の中にいて、そのしゃがんだ後ろ姿が見える。礼拝堂の入り口から見て、その向かいにその人物はいたんだ。

「っ」

 その女性の顔は、彼女が俺達に背を向けて真正面を向いてしゃがんでいる所為で俺達には見えない。礼拝堂の中で一人跪き、あの女の人がグランディフェルの娘のサーニャか―――。

 たぶん、おそらくそう。彼女は白い衣装を全身に纏い、正面を向いた姿勢だ。俺達からはサーニャの背中しか見えず、サーニャは女神フィーネの祭壇に向かって祈りを捧げているようだった。そのせいで俺達には、つまり礼拝堂の出入り口にいる俺達には背を向けているんだ。その姿は一心不乱に女神フィーネに祈りを捧げているように思えてしまう。

 ただ分かるのは、サーニャの髪の色。サーニャは絹のような金髪をしているということだけだった。

「―――」

 あいにくと彼女は俺達に背を向け、さらに首部(こうべ)を垂れているせいでその彼女サーニャ、いや―――サンドレッタの顔も表情も俺には見ることができない。思ったことは、サーニャは俺が想像していた、―――つまり目の前のサーニャは父親のグランディフェルみたいに大柄で筋骨隆々ではなく、また修道服に身を包んだような娘でもなかった。騎士だ。


 腰にいつもの刀とは違う『聖剣パラサング』を差しているアイナは無言でまた一歩、また一歩と踏み出し、進み出て、ぐるりと―――サーニャの正面へ。

 つまりこの礼拝堂の祭壇の前にアイナは至り、祭壇には背を向け、サーニャと対面の位置になった。そこで、アイナは跪くサーニャを見下ろし、、、その藍玉のような眼から放たれる視線は、冷たいまるで蔑むようなものではなく、感情の籠った力強いアイナの意志を感じさせるそんな双眸(そうぼう)のアイナは静かに眼下のサーニャを見つめる。

 アイナのその表情があまりにも真剣で、俺は遠巻きにそんなアイナを見つめ、俺はアイナの行動を視ていた―――。


 さっ―――、っとそんなとき、俺の近くにいる二人は腰を落とす。

「「―――」」

 その二人とは俺のすぐ近くに立っていたアターシャと司祭さまだ。

 えっ―――?どうして・・・なぜだ。なぜアターシャと司祭さままで跪く?

「―――っ」

 アターシャと司祭さまは腰を落とし、礼拝堂の床に片膝をつけたんだよ。ここは俺も片膝をつけばいいのか? よく言うあれだよ、みんながすることを見倣うってやつだ。よし、ここは俺も礼拝堂の床に片膝を付ければいいんだな―――。

「?」

 アターシャ?ふと彼女は俺を見上げ、その視線と合う。

「―――」

 ―――、アターシャの視線は俺は捉え、俺の視線とアターシャの視線が交錯する。

「ケンタさま貴方さまはアイナ様の臣下ではなく配たるお方でございます。そのままお立ちに―――」

 と、アターシャは小声で俺に。

 なるほど。解った。

「―――」

 こくっと俺は肯く。解ったよ、アターシャ。俺は立ったままでいいんだな。

「―――」

 どうやらこれが正解のようだ。

 俺の言動を見て悟ったアターシャは柔らかい表情になって、それからすぐにアターシャは主であるアイナに視線を向けた。

「・・・」

 今から何が起こるのか、俺はアイナと跪いているサーニャに視線を向けた。


 女神フィーネの聖なる神力が満ちる厳かな空間の中。ちゃ、っとアイナは左手を鞘に、そして右手を剣柄に添えて『聖剣パラサング』をその手に取る。

 すぅ―――、

「―――」

 っと、アイナは無言で『聖剣パラサング』を引き抜いていく。アイナが引き抜く剣は直剣で、この剣の剣身自体は、雅な装飾や豪華な飾りはない。でも、なにやら俺が読めない皇国文字が剣身に彫られているようだ。

 鞘とは違い、剣自体は割とシンプルな造りの剣身だ。

 この『聖剣パラサング』は、近衛騎士や皇家の者に与えられる聖剣だ、とアイナは言っていた。きっとそうアイナはここでサーニャを自身の近衛騎士に任じるに違いない。


「―――」

「っつ」

 アイナは抜身の剣を、その白銀に煌めく鋩をサーニャに向けた。対するサーニャは祈りの際に両膝を床に付けていた状態からゆるりと左脚だけを上げた。右膝だけを床に付けた状態で、顔を上げてアイナを見ている。相変わらず俺から見て、サーニャは後ろ姿になっていて彼女のその表情は見えない。

 ちゃ―――、っとアイナは自身がその右手に持つ『聖剣パラサング』の刃の向きを縦から真横に変える。

「―――」

 アイナは指と手の平を動かして、右手に持った剣の持ち手を『斬る』のではなく、『叩く』という向きに変えたんだ。アイナの右手に持つ聖剣の鋩からものうちがサーニャの右肩にすぅっと伸びてきて―――、

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