第二百二十話 さぁ、、、真の『天雷山編』をはじめようか―――
第二百二十話 さぁ、、、真の『天雷山編』をはじめようか―――
脈絡もなく、俺の壺特訓を終えてのときだ。大浴場で俺はレンカお兄さんとまた二人きり。ミントは今ここにはいない、彼女は今女湯だ。
「―――ありがとう健太くん」
なんでレンカお兄さんは俺にお礼を?
「ありがとう、、、っすか?」
「うん、改めて、かな。健太くんきみが『イデアル十二人会』の一角『黯き天王カイト』を倒してくれたおかげだ」
結城 魁斗、、、かつて俺の友達だったやつ。この五世界では黯黒の破戒者『黯き天王カイト』、という大層な渾名で。そいつを、俺は激戦の末、『転眼』で魁斗を地球に送り返してやった。今、何をしているのかな、結城のやつ。
「―――」
「おかげで聖地に『女神の聖剣』は戻り、―――重ね重ねにはなるけれど、二人を―――」
いやううん、っとレンカお兄さんは首を横に振り、
「―――ぼくの妹、火蓮を救ってくれてありがとう」
「、、、」
こくり、っと言葉には出さずに肯いた。あれは『全て』が俺の『力』だったわけじゃない。
『アイナ様・・・』
身を挺してアイナとアターシャを庇ってくれたグランディフェルと、
クロノス=日下 修孝の―――
『お前のその異能は、おそらく『視えること』を概念とし、『眼』を媒体にして発現することができる異能だろう、既存の『概念』を棄てろ、小剱』
『こ、―――小剱・・・っう、うろたえるなっ。小剱 健太・・・聞けっお前は・・・大切な者を・・・護りたいのだろう? ならば・・・既存の・・・概念は棄てろ・・・。きっと、お前は・・・『眼』を、『媒体』にして―――異能を・・・発現させることができる・・・無限の可能性を持った能力者だ。既存の概念を棄て―――、見事『天王カイト』に・・・勝って見せろ―――!! ・・・お前なら、小剱 健太なら・・・それが・・・できると・・・俺は、信じ――――――』
俺への叱咤。きっとあいつらの『あれら』がなければ、俺は魁斗に敗北ていたと思う。
「謙遜する必要はないよ、健太くん。きみは皇国、いや日之国も含めて『五世界』の英雄だ」
俺には『あまねく視通す剱王』なんていう渾名がついて。すこしそれが、我のことながら恥ずかしい。
「いや俺、あのレンカさん―――」
やっぱ言おう、話そうあのときのことをレンカお兄さんに。
「ん?なんだい」
「―――俺、俺が二人を助けることができたのは―――」
いや言い方を変えよう。
「―――俺だけの力ではアイナやアターシャさんを助けることはできなかったと思います。グランディフェルがアターシャさんを庇ってくれて、動揺する俺に、諦めかけていた俺の、そんな俺の背中を押して叱咤してくれたのはクロノス日下修孝なんです。俺はグランディフェルと日下修孝の助けがなかったら魁斗に勝ててなかったはずです」
「ふむ、なるほど。でもね、健太くん」
「レンカさん」
「それも含めて健太くんきみの『力』だ。どうしてグランディフェルがかれんを庇ったのか、どうして日下修孝『先見のクロノス』がきみという存在に賭けたのか―――」
「―――」
「―――それは健太くんきみが諦めずに身体を張って頑張っていたからだ。窮地に陥る普段から怠惰な人を救おうとする人は稀さ。見る人は見ているものだよ、健太くん。その人が負けずに頑張っているからこそ、見ている人は手を貸そうとする。あの二人グランディフェルと日下修孝はきみのその頑張る姿を見て、きみに手を貸したんだ。それも含めて健太くんきみの『力』だよ」
「レンカさん・・・っ///」
うわっこの人、すげぇイケメンだぜ。尊敬してしまいそうだ、レンカお兄さんのこと。
「さ、上がろうか」
「はい」
それは壺特訓三日目を終えたときのことで、俺は、俺達はそうして大浴場をあとにしたのだった。
///
今の時期は日之国というところの、ちょうど夏休み時期だろうか。確かに気温は俺がこの皇国に来た当初より高くはなっているが、俺が逗留する皇国では夏でもとても暑いような酷暑にはならない。
祖父ちゃんは元気にしているかな? 日之国の夏は暑いから、あっちの暑さで参っていないかな?それがちょっと心配だ。
朝食の終えた団欒時のことだ。俺の向かい側、上座となる位置にアイナが座り、俺はアイナの向かい側に座す。
「・・・」
アターシャはというと、彼女は食卓の傍らで、じっと直立不動の姿勢で控えている。いくらアイナが食卓に座るように言葉で促しても、アターシャが座ることはほとんどない。
「―――、―――、、、」
なんでアターシャはアイナの侍女を自ら進んでやっているんだろう。アターシャもアイナと同じ立場で、兄のレンカお兄さんは自由人っぽいし、ホノカも侍女は務めていない。そこが、俺のアターシャに対しての疑問だ。ま、いつか俺に話してくれるときは、、、どうだろう。
俺はそんなことを考えながら、アターシャの仕草を見ていたんだ。
「アイナ様、日之国の日晶州より取り寄せた緑茶になります」
「えぇ、従姉さん。すでに茶葉のいい香りがしています」
「はい」
ぱぱっとアターシャは急須を用い、優雅な手つきでアイナのその白磁のティーカップにすぅっ、っと緑茶を注いでいく。
「ケンタさまもいかがですか?」
「うん、頼むわ」
「かしこまりましたケンタさま」
アターシャはアイナの緑茶を注いだときと同じ仕草で俺の、ティーカップにも緑茶を注いでくれた。
「・・・」
すんすん、っと。匂いは本当に緑茶のそれだ。玉露のような高級感はなく、また泡だったりもしていない普通のやや濁りがある緑茶だ。贅沢ではなく質素、庶民的だ。
アイナのティーカップと俺のティーカップ双方に緑茶が行きわたる。
「緑茶にはやはり、甘糖ですねっ♪ それと―――」
うお、、、アイナさん・・・。緑茶にそれを入れるのか。
「、、、」
皇国はやっぱりちょっと日本とは食文化が違う。アイナは銀色の小さな角砂糖用のトングを手に取り、、、
「~♪」
アイナは上機嫌で、新緑色の緑茶の中に白い角砂糖を、一つ二つぽちょんっぽちょんっ、っと、それから銀の小さな水差しに良く似た入れ物から白いミルクを、たらーっ、っとティーカップの中にぐるぐると垂らしていく。
そんなアイナは上機嫌で、食卓を挟んで俺の目の前に座し、白磁のティーカップを唇に付ける。まずは鼻で、
「―――、ん、いい香りですね。あら?ケンタは入れないんですか?甘糖」
さっき自身が白磁のティーカップに入れた角砂糖とミルクのことを訊いているんだろう、アイナは。貴方はそれらを緑茶に入れないのですか?、と。
「いや、俺はそのままで。そのままがいいかな」
俺の答えを聞いて、にこり、っとアイナは微笑む。
「渋いですね、ケンタ・・・っ」
「まぁね」
俺は相槌を打ち、アイナに合わせるかのように。アイナはシブい、と、渋いを掛けたんだろうか。
彼女は一口自身の乳緑色の『グリーンティー』を口に含めたあと、かちゃっ、っと小さな音を立てて、アイナは卓上の小さなお皿の上にその白磁のティーカップを置く。
「ところでケンタ―――」
俺も、口に一杯緑茶を含む。ちょっと熱い。ティーカップを卓上に置いて俺は顔を上げた。
「ん・・・?アイナ」
「以前、私が貴方に話した天雷山の件についてですが」
どの天雷山の件だろう?『雷基理』それとも、その登山の道中?もしくは、その山の成り立ちか?いっぱいあってちょっと分からない。
「俺に話した件?」
「はい、―――ケンタ貴方にいいお報せがありますよっ♪」
そんなアイナは、にこにこっ、っと。なにかよほどうれしいことでもあったようだ。
「それって?アイナ」
アイナは破顔一笑。とてもうれしそうに―――、
「えぇっケンタっ―――ふふ♪」
もうアイナってばかわいいなぁ。俺がその報せに喜んでくれると思って、あんなにもアイナは嬉々として―――。
「私のお祖父さまからやっと許可が下りましたよっ♪」
マジかっ!! 入山許可だ。ついに許可が出たのか!!
「っ!!」
「天雷山へ行きましょう♪ケンタっ」
「おう・・・ッ!!」
ついにそのときが来たんだ・・・!! やってやる!! やることはいろいろ多いが、俺はやってやるっ、、、必ず成し遂げてみせるぞ・・・!!
頭の中で俺がやることを巡らしていく。まずは、過酷だというその登頂への道のり。天雷山脈があるのは、日之国の南部日月地方。もうそこは月之国との境界。麓は鬱蒼とした森で、高度が上がるごとに、木々は林となり、やがて低木林、森林限界、そして草原やがて雷雲が立ち込め始め、荒涼とした岩と石が散らばる雷氣に満ちた高原へとその姿を変えていくらしい、、、ということは事前にミントやレンカお兄さんに教えてもらったし、自分でも電話を使って調べた。
ちっ、あいつら『イデアル』の奴らは不思議な虹色のマナ結晶でどこでも不自由なく行き来できるって言うのにっ!! それを持っていない俺らは下から登っていくしかない。
「―――ケンタ」
ハッとして俺はその声の主であるアイナに意識を持っていく。
「おうっ」
「私はこちらのこの三人の戦力―――」
アイナは指折りで自身の親指、人差し指、中指と折っていく。
「ケンタ、私、アターシャ」
「うん、それって前に言っていたやつか?」
「はいケンタ。この三人だけの戦力で天雷山脈に挑むのは少々不安感を覚えます。えぇ、もう何人か天雷山へ挑む人員を増やしたほうがいいかと」
確かに。俺としては、頂上に至るそのあとの事をすでに知っている俺としては、アイナの案に賛成だ。
「―――」
「そこでですね、先にケンタや従姉さんに話した私達二人の知己のあの子です」
「あぁ・・・」
そういえば、あの就寝際のアイナの『楽しみにしておいてくださいね、ケンタ。近々、その者をケンタ貴方に紹介すると約束します』―――っていうあの言葉。
「実は私や従姉さんはしょっちゅうあの子に会いに行っているのですが―――、まずはあの子がいるところへ向かおうと思います」
誰だろうアイナやアターシャの知己のあの子って。
「分かった」
ま、近々判るか。
///
「アイナ様、滞りなく準備が整いました」
「分かりました従姉さん」
さて今から天雷山へ、というわけではなく、―――俺達は今から『アイナやアターシャの知己のあの子』を迎えに行くんだ―――。
///
「―――、、、」
つらつら―――、・・・、、、。っと俺は走らせていた筆を一時止めた。
ついにくるのだ、そのときが。これより先、俺は天雷山へとその歩みを進めることになる、雷基理をいただくため、奴らを討ち取るため。
「さぁ、、、真の『天雷山編』をはじめようか―――」
『イニーフィネファンタジア-剱聖記-「天雷山編-第二十ノ巻」』―――完。