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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第二十ノ巻
219/460

第二百十九話 兄さん。なにを企んでいるのですか? そのような『魔導具の壺』などを持って

 数日後。朝、食堂にて執務に赴くアイナとその従者のアターシャと別れ、

「―――」

「・・・」

 俺はレンカお兄さんについてその脇を歩いていた。今はちょうどレンカお兄さんのうんちく話のネタが底を尽いて、たまたまお互いが無言になっていた。レンカお兄さんのうんちく話に付き合いながら館内をぐるぐる、ぐるぐる―――と。最終的に向かう先は、この洋風なシャトーにあるのが不思議なぐらいの和風の板張りの道場だ。


第二百十九話 兄さん。なにを企んでいるのですか? そのような『魔導具の壺』などを持って


「、、、」

 俺をもっと強くするって。それはそれで俺にとってもとても嬉しいんだけど。レンカお兄さんって暇なのか?この人、妹のアターシャと違って、仕事はなにをやってるんだろう? そもそも仕事をしているのか?

 無言のレンカお兄さんはかなりのイケメンだ。なにも言わなければ、口を開いてのマニアックなうんちく話がないときの、真面目モードのレンカお兄さんはとてもイケメンだと思う。ときおり野心的な悪い笑みを浮かべて、少々近寄りがたいところもまた、彼の雰囲気の一つと言っていいのかもしれない。

 ま、俺はもうレンカお兄さんのそういうところまで知ってしまったから悪くは思わないかな。彼自身が思う為すべきことを、、、宮廷内で『大いなる悲しみ』が起きた後、首謀者たる『イデアル』に一矢報いるためにレンカお兄さんは野心的な悪い笑みを、妹達の前では隠している。その目的のために俺をも使おうとしているのだが、その本性だけど。―――そのおかげで俺だって、俺はもっと高みへと。

「っつ」

 俺もレンカお兄さんとミントを利用してさらなる高みへと登ろうじゃないか、登ってやるっ。

 そんなレンカお兄さんは一つの紙袋を手に提げている。その中身は―――、そろそろ頃合い、とレンカお兄さんは。

 角を曲がり、同時に俺達は向こう側からやってくる人物二人に気が付く。

「お?」

「あれ?アイナ」

 ちょうど俺とレンカお兄さんの声が重なった。向こうから、対面から回廊を歩いてくるのはアイナとアターシャだ。ホノカはいない。

「あっケンタ、ごきげんよう・・・♪」

 にこり、っとアイナが微笑む。このアイナの微笑んだ笑顔、俺は好きだ。

「お、おう・・・っ///」

「二人はどちらに?」

 向かうのですか?っとアイナは俺とレンカお兄さんの顔を交互に見て、最後に俺を見る。

「あ、うん。道場かな」

 きょとん、っとアイナは、そんな表情になる。

「剱術の修練ですよね?ケンタ」

 レンカお兄さんの胸を借りて修める業だ。

「うん、そう」

「、、、でも、ですが道場があるのは向かいの棟ですよね・・・?」

 やばっ。アイナが疑問を持ってしまった!!

「そうなんだけど、、、」

 俺は、動揺を隠して、此度の『首謀者』であるレンカお兄さんにその視線を向けた。

「ごきげんようございます、アイナ姫」

 ぺこり、っとレンカお兄さんはアイナにご挨拶。

「ごきげんようレンカ」

「ふむアイナ姫。それについてはぼくから説明しましょう」

「はい、レンカ」

「まずはこの先にあります執務室にアイナ姫を訪ねようと思ったしだいですね。執務に勤しむアイナ姫と我が妹のかれん(アーちゃん)の雄姿を健太くんに見てもらおうと、そうぼくは思いまして。つきましてはまずは、アイナ姫の執務室に馳せ参じようと思ったのですが、どうやら執務は終えられたようですね、いやはや残念ですアイナ姫」

 ちらりっとレンカお兄さんは俺に。それは、まるで俺に目配せをするように。

 一方で、俺はレンカお兄さんに、その理由テキトーすぎるだろ、っと心の中で叫んでいた。宮殿内をぐるぐると回るより、俺達が落ち合う時間をもうちょっとあとにしたほうが良かったんじゃないのでしょうか?レンカお兄さん。

 目の前のアイナには、俺がこんなわるいことを考えているなんて一寸も悟られるわけにはいかないから、俺はいつもの剱士然としたポーカーフェイスを決めている。

「・・・」

「えぇ、まぁ私の執務を配たるケンタに見てもらうというのは、とても有意義に思います。ですが、あらかじめそれを私に知らせてほしかったですね。そうすればきちんと心の準備やその他の準備、時間の配分も完璧でしたのに、、、」

 ははは、っと、ちょっと困り顔のアイナだ。

「それは申し訳ないアイナ姫。以後気を付けます」

「はいレンカ。・・・―――、」

 言い終えたアイナの視線がすぅっと俺へと移ろいでいく。そして、その藍玉のような眼から放たれる視線が俺と交錯する。

 アイナは俺になにか言いたいことがあるのだろうか。

「アイナ?」

「ケンタっ昼食のご予定などはお決まりですか? その、レンカと二人で城下になどは出られたりするのですか?」

 あれ?アイナのやつ。俺と一緒にこの館の食堂で昼ごはんを食べたいのかな? そうかもしれない―――。

 俺ももうアイナとの付き合いは長い。だからアイナの表情や口の動き、仕草、たとえばその『目』で語るその様子などで、それを視ただけでアイナの機微や感情、心の動きが大体解るんだ。この眼の異能『選眼』の影響かもしれないけれど、な。

「うん、レンカお兄さんと行く予定は―――、」

 俺はレンカお兄さんに目くばせ、というか気を遣いながら。だってこの人、執務室に俺を連れて行くつもりだったとか、確かに俺を連れて行くんだろうけど。あせあせっ

 嘘も方便的すぎだぜっ。本当はアイナの執務室にあるという特級のマナ結晶を勝手に拝借するつもりで、、、それを俺の修練のときに使い、、、くっ、これ以上は口が裂けても言えない、、、っつ。心の中ではほとんど言っているけどな・・・、俺!!

「―――ないかな」

 ぱぁっ、っと俺の言葉を聞き終えたアイナの顔に花が咲く。

「でしたらっ、昼食はご一緒しませんか?私とっ」

「うん、分かった。よろしくな、アイナ」

 俺は快諾。

「はいっ。では、執務が終わりましたら道場に伺わせていただきますね♪ケンタ」

「分かった、待ってるな」

「はい♪待っていてくださいねケンタ・・・っ」

 あれぇ?アイナのやつやけに上機嫌になったな。ま、最近のアイナは執務に忙しくてあんまり一緒に昼食を食べたことなかったもんな。

「従姉さん聞きましたね、今日はケンタと一緒に―――」

「はい、アイナ様」


「・・・、、、」

 この前に、アイナに訊いたことがある。そしたら、秋に催される皇国の『収穫祭』のだんどりにアイナは忙しいそうだ。


「ではケンタ。またのちほどっ♪」

「おうアイナ」

 アイナは上機嫌で俺に挨拶して、、、その後ろに続くのはアイナの従姉であるアターシャっだ。そんな彼女は―――無表情で一瞬立ち止まる。

 その猜疑の色が漂う彼女の視線の先にいるのは、そんなアターシャの兄レンカお兄さんだ。アターシャの頭一つレンカお兄さんのほうは背が高い。

「兄さん。なにを企んでいるのですか? そのような『魔導具の壺(アンフォラ)』などを持って」

「企む?」

 妹からそんな猜疑の視線を受けても、レンカお兄さんは、どこ吹く風のように澄まし顔だ。

「はい兄さん」

「魔導具壺取扱認証司の認定を受けているこのお兄ちゃんだよ? かれんちゃん、ぼくが『魔導具の壺』を持っていても不思議じゃないと思うけど?」

 猜疑の視線がレンカお兄さんから外れて、今度はアターシャの視線が俺へと向く。

「―――、ケンタさまにお尋ねしたいことがあるのですが」

 俺へと向けるアターシャの視線はうすく笑みを浮かべる柔らかいものだった。でもそのアターシャの柔らかい笑みもこわい。まるで真綿で首を締められるような尋問がくるのかと思うと・・・。

「お、おう、、、」

「兄さ、、、兄はその魔吸の壺で、なにを―――」

「っ」

 あ、振り返ったぞアイナのやつ。一歩、二歩、数歩前に行っていたアイナが振り返ったんだ。俺から見て歩みを進めていたアイナは、アターシャの後ろに位置している。

「従姉さん?どうしました」

 やったっナイスアイナ!!

「あ、いえアイナ様・・・っ」

 アイナは一歩、二歩脚を前に出し、こっちへ俺のほうに戻ってくるようなそんな様子を示した。もちろんレンカお兄さんは涼しいどこ吹く顔で、さっ、っとその『壺』が入った紙袋を自身の背中に隠す。

「かれんちゃん。アイナ姫が呼んでるよ?」

 一瞬。絶対にその涼しげな口調のレンカお兄さんのせりふはわざと、だ。

「兄さん―――、っ」


「ッ!!」

 視得たんだ一瞬。今アターシャの異能。紅色をした氣が彼女アターシャから溢れ出しかけた。


「悪いことはしないし、ないさ、かれん。この壺特訓で健太くんの可能性はさらに増す」

 壺特訓って、、、さらっとアターシャに言っちゃってるし、レンカお兄さん!!

「!!」

「本当ですか、ケンタさま」

「うん。レンカお兄さんが言っていることに間違いはない」

 そうさ、このレンカお兄さんと、道場に先乗りしているミントによる秘密の、『魔吸の壺』特訓で俺は・・・!! 俺は必ず奴らをこの手で討ち取るっ!!

 ただ一つレンカお兄さんの悪巧みというのは、アイナの執務室にあるという、特級のマナ結晶を勝手に拝借しようしている、ということだけだ。

 な?そうだろう、ほらやっぱり、と俺を見て、それからアターシャを見るレンカお兄さん。

「ぼくは健太くんがさらなる剱儀を体得できるよう全力を尽くす、尽くす所存だ―――」

 レンカお兄さんは、近づいてきていたアイナにも聞こえるような声で、やや演技っぽかったけどな、そんな力の籠った声色で言ったんだ。


「――――――」

 それがよかったのかどうかはわからない。アイナやアターシャに俺の、『魔吸の壺』と、その後、勝手に拝借した特級のマナ結晶を使った修行の詳細がバレなかったことに関してだ―――。


///

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