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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第二十ノ巻
218/460

第二百十八話 密の濃い話をしよう―――

 頭を洗い終え、俺とレンカお兄さんは再び湯船に浸かっていた。

「日之国では、身体を洗ってから湯船に浸かるのが礼儀なんだけど、実はね、温泉というものはね」

 温泉? 今度は温泉の話か。

「はい」

 俺は適当に相槌を打つ。


第二百十八話 密の濃い話をしよう―――


 このレンカお兄さんが、理由もなく俺を風呂に誘うというのはちょっと考えにくい―――、俺はすでにレンカお兄さんに対してそう思うようになっていた。たぶん俺と二人で話がしたくて、ミントや、そしてアイナ達がいない、風呂というのを狙っていたのかもしれない。

「そう。そうなんだよ健太くん」

 レンカお兄さんのうんちく話がまた始まったのかもしれない・・・。まぁ、話を聞きながら適当に相槌を打ってればいいんだけど。

 一人で納得したようなレンカお兄さん。

「はぁ・・・?」

 俺は分からず相槌を打った。

「温泉は女神フィーネの力に満ちている」

「っ」

「おや、その顔。知らなかったのかい?健太くん」

「はい」

 温泉は女神フィーネの力に満ちている―――? それは初耳、そんなことを聞いたのは初めてだ。

「女神の力である大地の力の湧出場。力に特に満ち足りている温泉は『聖地』と呼ばれているんだ。そこには神殿や施療院、大浴場が建てられていてね―――。健太くんきみが入っていた施療院もそうだ。女神の力に満ちた温泉を引いている」

 そう言えば前にアイナがそういう施療院も訪問すると言っていたなぁ。

「っ」

 俺はレンカお兄さんの話に耳を傾けつつ、なぜレンカお兄さんがこんな話をし出したのか、、、。真意は、レンカお兄さんの真意はなんだ、どこにある。

「―――天雷山もそのような『聖地』の一つだ。聖なる女神の山と言えばいいかな、ね?健太くん」

 俺が近々挑む山。そうか。だからレンカお兄さんは俺に、そんな聖地=温泉の話を振ったのか。

「天雷山も・・・」

「あぁ。雷氣漲るあまりにも過酷な環境だから山頂には誰も常駐していないけどね」

 レンカお兄さんのその言葉、口調、ニュアンスを聞いて俺は。

「あの、レンカさんって天雷山に登ったことあるんですか?」

「いや、ないよ。ただ父が言っていた。ぼくの父が登ったことがあるらしい、アイナ姫のお父上ルストロ殿下と一緒に」

 もう亡くなったあの二人か、、、アイナの親父さんはルストロ=イニーフィネ、レンカお兄さんを含めた津嘉山三兄妹の親父さんは・・・確か津嘉山 正臣という人だったか。そして、レンカお兄さん達の父方の祖父の名前は津嘉山 季訓(すえくに)、、、だったような。

「っつ」

「ぼくの父も、ルストロ殿下も、もう二人ともこの世にはいないから、天雷山がどういった場所なのか、もう一度訊くということはできない」

 そっか・・・。もう天雷山のことも、なにもかも、訊くことはもうできないんだ。

「・・・」

「健太くん。男同士の密の濃い話をしよう―――」

 すすっ―――、っと。

 男同士の密の濃い話をしよう―――、だと・・・っつ

「っつ」

 おわっ、っと俺は内心焦った。湯船の中で波も立てずに、すすっとレンカお兄さんが俺に近づいてきたからだ。それはもう湯船の中で肩が当たらんとするぐらいの近さだ。

 きっともし近づいてきたのがアイナだったとしたら、きっと彼女の息が、息遣いを感じることができるぐらいの近さだ。

 ひそひそ、っと、レンカお兄さんは俺の耳の傍で、

「実はね、健太くん。ぼくにはカノジョがいるんだ、周りによってお互いに将来が決められた。でも、実際会って、付き合ってみて解ったんだ」

「え、えっと、そうなんすね」

 そうなんだレンカお兄さんってカノジョがいるのか、、、それも許嫁。

「うん。許嫁のその彼女は、ぼくにはもったいないくらいの人だった。ただね―――、」

 許嫁。将来が決まった仲の人のことだ。レンカお兄さんの、のろけ話が始まろうとしている、、、。

「許嫁、っすか?」

「あぁ。今、健太くんに近づいたのは、ぼくの話を誰かに聴かれているかもしれないからさ。ぼくがする話はたとえぼくの妹でも聞かせたくない話だ」

 カノジョとののろけ話が、確かに俺もアイナとの、を身内には話したくないな。

 ひそひそ、こそこそっとレンカお兄さんは俺の耳元で囁くように。大浴場はよく反響するから、とも。

「っ!?」

 許嫁の内緒話をか!?カノジョとのお付き合いに関してなにか悩んでいるのかなレンカお兄さんも。でもこれで俺は確信した。レンカお兄さんは俺と二人になるためにわざわざ大浴場に俺を誘ったんだってことに。

 ひそひそ、っとレンカお兄さんは。

「カノジョとのことじゃなくて、、、『氣動式魔移送機関搭載保管輸送専用壺』のことなんだ」

 壺?許嫁のカノジョの、悩み話じゃなくて、魔吸の壺? あの、なんでも吸い取る壺? 通称『魔吸の壺』だったっけ。

 先にカノジョとの話を出して置いて、、、ったく思わせぶりが好きだな、この人は。

「あ、はい・・・?壺っすか・・・?」

 ひそひそ、っと、、、。

「そうさ、魔吸の壺。きみとぼくの密の濃い内緒の話さ・・・っ」

 にこりっ、っとレンカお兄さんは笑みを浮かべる。

「??」

 なんで壺の話が内緒なんだ? レンカお兄さんは内緒話のように俺の耳の傍で、あの壺の話を振る。

「魔吸の壺は離れた位置にある物を取れる便利な魔導具ってことは解るよね?健太くん」

「えぇ、はい。俺の『大地の剱(エグエアーデ)』のこともありましたし」

 レンカお兄さんに魔法剣が吸われたんだよな、実際。

「そう。そんな感じにさ。いやぁ、頭の回転が速い健太くんと話していると、いいね、話がさくさく進む」

「ど、どうも・・・っ///」

 すぐにレンカお兄さんの目の色が変わる。実際に虹彩の色が変わったわけじゃなくて、変わったのは、そのレンカお兄さんの雰囲気だ。

「それは彼らも同じさ」

 彼ら? レンカお兄さんは確信めいた口調とその感情をこめた目で語る。

「彼ら?」

「あぁ。彼らはおそらく『天雷山』で健太くんきみを待ち受けていることだろう」

 彼ら? 俺を待つ、待ち受けている、、、って?

「えっと―――?」

 当惑している俺を置いていくようにレンカお兄さんは語る。

「彼ら『十二人』の誰かまでは分からない。でもきっとミントさんの手引きできっと彼らの実行部隊『十二人会』は健太くんきみを待ち受けていることだろう。『壺』できみが引き抜いたあとの『雷基理』を吸い取り、奪うべく」

 十二人会!! 奪うっ!? ミントの手引き? まさか―――っ!!

「ッ!?」

 まさかその彼らというのは―――。

「ふっ・・・、きみを信頼しているからこそぼくは全てを話そう―――」

 レンカお兄さんは、にやり、とその形のいい口角に笑みをこぼす。俺に全てを話して、、、レンカお兄さんは、、、俺を試そうと、しているのかもしれない・・・っつ。

「―――っ」

「彼らとは『イデアル』のことさ。ミントさん、、、いや魔法王国レギーナ侯爵家アネモネ殿下どのは『イデアル十二人会』にその籍を置く、置いているんだ」

 な―――ッツ、なんだって!?

「ミ、ミントが・・・っ!!」

 イデアル十二人会っ!! うそだろ!! クロノス=日下修孝やグランディフェルと同じ・・・っ!!

 しぃ―――、声が大きいよ、っとレンカお兄さんはその口元で右人差し指を立てる。

「そうミントさんは『イデアル十二人会』の一角さ」

 レンカお兄さんは薄く笑みを浮かべながら、自信ありげに俺へ全て語る。

 ミントがあの、、、日下修孝やグランディフェル、ラルグス―――そして魁斗と同じ・・・っ。

「―――っつ」

 レンカお兄さんはやや表情を曇らせる。表情を曇らせたのは俺の、この驚きの表情を見たせいかもしれない。

「・・・健太くん、日之国では『虎穴に入らずんば虎子を得ず』というだろう?」

 確かにそれは聞いたことがある。俺は無言でこくりと頷く。

「―――は、い」

「自身の偉大な目指すものを達成するためならば、危険なことも敢えて行わなければならない、などといった意味さ。ミントさんは己の目的の為に、それがぼくの目的と一致しただけさ、、、くくっ」

 悪い笑み。もちろんその野心に満ちた悪い笑みを、口角を吊り上げてその笑みを湛えているのはレンカお兄さんだ。

「・・・」

「くくっ―――、そして健太くんきみは知ってしまった。それに健太くんはすでにミントさんからの討伐依頼も受けている」

 それも知っているのか、レンカお兄さんは。

「―――っつ」

 俺の脳裡にあのときのミントの言葉、表情、やや楽しそうな声色が鮮明に蘇る。

『実はケンタさまに討ち取ってほしい者がいるのです』

『はい、ケンタさま♪ 私が遺恨に思っているその者達の名は『屍術師ロベリア』と『不死身のラルグス』―――、、、』

 それはミントから俺への依頼だった。

「―――、―――、・・・」

 ミントは、遺恨に思う、とはっきりと口に出した。じゃあミントは、復讐の機会を窺うためにそこに、『イデアル』に入っていて、、、。

「健太くん。ミントさんは―――」

 やや動揺し、はっきりとそれを口に出せない俺。まるでレンカお兄さんはそんな俺に代わるかのように口を開くんだ。

「―――間者?密偵?間諜?そう思うかい?いや違う。魔法王国五賢者たる彼女(アネモネどの)を誰も使役することはできない。彼女は『イデアル』を内から喰い破らんとする者だ」

「―――っ」


///


 数日後。朝、食堂にて執務に赴くアイナとその従者のアターシャと別れ、

「―――」

「・・・」

 俺はレンカお兄さんについてその脇を歩いていた。今はちょうどレンカお兄さんのうんちく話のネタが底を尽いて、たまたまお互いが無言になっていた。レンカお兄さんのうんちく話に付き合いながら館内をぐるぐる、ぐるぐる―――と。最終的に向かう先は、この洋風なシャトーにあるのが不思議なぐらいの和風の板張りの道場だ。

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