表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第二十ノ巻
216/460

第二百十六話 大浴場にて、お兄さんとの秘密の話 一

「おおぅ!!ホノカたんじゃないか!! 来てくれたのかな?お兄ちゃんのところへ」

「うんっお兄ちゃん。お兄ちゃんは剣術の試合をしていたんだよね!?」

「試合?」

「だってほらお兄ちゃん―――」

 ホノカは振り返り俺を見る。その、やや目を細めてのホノカの視線は俺に対して、猜疑心でもあるかのようなそんな眼差しだった。

「―――あの人木刀を持っているから」


第二百十六話 大浴場にて、お兄さんとの秘密の話 一


 すっ、っと。俺とホノカがそんな険悪な状態になったときに、俺に近づいてくる人の気配。

「っ」

「ケンタ貴方がレンカを倒したのですか?」

 その気配の正体はアイナで、アイナはそんなことを言った。

「いや俺じゃない。そもそもあの人全然隙が無くてさ。俺はレンカお兄さんに一太刀も、、、ううん届かせることができなくて」

 剱士って言っているくせに情けない話だけど。それで膠着状態のように、レンカお兄さんの出方を伺っていたというわけだ。

 前にアイナが言ったようにレンカお兄さんは『先見のクロノス』=日下修孝と同等もしくはそれ以上の剣士、という事を俺は思い知ったんだ。

 俺の話を聞いたアイナは俺から視線を外し―――、すぅっ、っと眼前に視線を向けた。そのアイナの藍玉のような双眸の向く先は彼女の従姉妹である津嘉山 火乃香だ。

「聞きましたねホノカ。レンカを打ちのめしたのは、ここにいるケンタではありません。きっと他の誰かがレンカを倒したのでしょう」

 っ・・・!!すごいっ。アイナって仲良しにもそんな公正な言葉をかけられるんだ。俺は友人に、アイナの立場だったらそれを言えるだろうか?

 アイナの言葉を聞いて一方のホノカの顔が驚きに染まる。

「えっ!?ちょっアイナ―――」

 なに簡単に信じているの!?とホノカは言いたげな、そんな驚きの感情が前面に現れた表情だ。


 すっ、っとそのとき姉であるアターシャは一歩を踏み出す。

「落ち着きなさいホノカ。兄を打ちのめしたは―――」

 凛とした落ち着いた声でアターシャは。

「お姉ちゃん・・・?」

「この私です」

「はぁ?お姉ちゃんが?お兄ちゃんを」

「そうですね?兄さん。―――、ううん、ほ、ほんとにお兄ちゃんは、ば、ばかなんだから―――っ///」

「ぐふ―――っ」

 どちゃっ―――、レンカお兄さんはまた倒れた。


「あ、、、ほんとだ」

 ホノカの呟き。

「えぇ、分かりましたかホノカ。貴女も兄の事を普段から『兄さん』と呼ぶようにすれば、兄を倒すことなど容易くなりますよ」

「うん」

「ぐっ、かれんっ、ほのかたんにお兄ちゃんを倒せと、唆すことは、ゆ、ゆるさん」

「へいへい兄。早く起きてください」

「へいへい兄ぃー。早く起きるんだ」

「痛てててっ二人ともお兄ちゃんの両腕を引っ張らないでっ!! 腕が抜けちゃうっ!!」


「―――」

 仲のいい兄妹なんだな。ちょっとうらやましいな、俺。

 俺はこの三兄妹のやり取りを観て―――、

「・・・」

 ―――もし一人っ子の俺にもそんな兄弟姉妹がいたら、こんな風になっていたんだろうか―――。兄弟姉妹が欲しいなんて言っても過去は変えられない、変えられることができるのは未来だけだ。

 っつ、ミントのやつ―――転移者との子どもがどうとか、愛を求めるとか―――、俺にいろいろと吹き込みやがって。でも俺は―――、俺は、俺の両親父母と違って、たくさんの家族を―――、自然に、俺の視線はアイナへと移る。

 ふふっ、っとそのとき、アイナの上品な笑みが。そんなアイナは俺を見つめ、俺はアイナを見つめて、俺達の視線は重なり合う。

「本当におもしろい兄妹ですよねっ、ふふっふふふ」

 と、彼女アイナは笑ったんだ。


///


 後日。

 そんなこんながあり、後日ホノカと手合わせすることになり、レンカお兄さんと比べたら、なんちゃって剣士のホノカなんて断然余裕だぜ、なんて言うことは全くなく―――、ホノカ、津嘉山 火乃香は本物の剣士だった。

 俺は息も荒く、、、。

「はぁ、はぁ、はぁ―――、・・・」

 興奮しているような鼻息荒くではなく、俺は肩で息をしていた。

 ホノカの太刀筋はしつこく、、、いや、言い直そう。とにかくがむしゃらに俺に向かってくる攻めの太刀だった。なんとか俺の勝利。辛勝だ。薄氷の勝利だ。

「健太っ次は私の完全勝利だからっ・・・!!」

 彼女ホノカは悔しさ満々で落としてしまった木刀を拾う。―――、たぶん木刀を握る手は、汗も一緒に握っていたに違いない。

 俺は賭けに出たんだ。自身の木刀をホノカの木刀に絡めるように、掬い取るような動きで、ホノカの木刀に、まるで搦手から責めるような攻めで。

「ちゃんと聞いてるっ?!」

 たじろぎっ、ホノカの雰囲気に、だ。

「お、おう・・・、お手柔らかに、なホノカ」

 俺が勝てたのは、ホノカの自爆のようなもので、きっとホノカは今も自分の負けを認めていないだろう。

「ま、まぁ、でも楽しかったよ、健太っ。行こアイナ」

 タタタタっ、っと捨て台詞的なものを吐いて彼女は道場を足早に去って行く。

「まぁ、というわけですのでケンタ。きっとホノカは悔しがっていると思うので・・・」

 そんなアイナの意志をくみ取る。

「うん。俺も、そうかな」

 アイナはやや苦笑いで肯き、ホノカの後を追う。

「すみませんケンタさま、妹が―――」

 俺はアターシャに最後まで言わさず、

「ううん俺に気にしていないよ、アターシャさん。俺もさっきのホノカとの試合で身に付いたものは大きいから」

 反対に、アターシャにお礼を言った。そんなアターシャはきれいな淡い喜びの表情になり、ありがとうございます、とお礼を言ってアイナと実妹ホノカを追うように道場から去って行ったんだ。

「健太くん、見事な試合だった―――」

「レンカさん」

 そして、道場に残ったのは、俺とレンカお兄さん。

「さすがだ、すごいよぼくの妹ホノカに勝つなんて。くっそーっよくもぼくのほのかたんに土をつけてくれたなーっ」

 喜び、悔しぃ。―――忙しい人だ。

「どっちなんすかレンカさん。いえ、でもまぁ、、、結果に関しては俺の勝ちじゃないっす。俺はホノカさんには―――」

 少なくともホノカに完勝とは言えないような、俺の辛勝で。

「ふっ、―――」

「レンカさん、、、」

 そのレンカお兄さんの笑みは、全て解っている、ような笑みだ。

「汗を掻いたろ健太くん。僕と一緒にちょい出掛けないかい?」

 レンカお兄さんの怪しそうな誘い。その口調と、白い歯の覗く爽やかな笑み。レンカお兄さんの誘いを俺は断り切れず、、、。汗拭きタオルを持って、レンカお兄さんに付いていった先は浴場だった。

「ふぅ―――いいお湯だねぇ健太くん」

 俺はやや緊張気味で、、、。

「はい、身体の芯から温まります、、、」

 レンカお兄さんと並んで湯船に浸かりながら、、、なんかこのお湯、いやこの空間自体が柑橘系のいい匂いが漂っている気がする。

 ルストレア宮殿の浴場はいくつかあり、今レンカお兄さんと一緒に入っているこの浴場はメインの大浴場だ。和風の温泉や銭湯と違い洋風で、白い石造りの大浴場だ。

 ミントは今はいない。

「ゆず湯ってやつかな、日之国では。ね?健太くん」

 ゆず湯か、確かにそうだ。

「そうっすね」

 いま、この大浴場の湯船にゆずは浮かんでいないけどな。

「あ、でもゆずを湯船に入れ過ぎると、身体が痒くなったりしないかい?健太くん」

「はは、まぁそうっすよね」

「ミントさんが言っていたんだけど、魔法王国でも香草を入れた風呂に浸かるという習慣があるんだってさ」

 ミント『さん』、か。そのレンカお兄さんの言葉尻を聞いて俺は思い出した。

「へぇ、、、。そういえばレンカさん訊きたかったことがあるんですけど」

 それで思い出した。なんでレンカお兄さんは。俺は話を変え、レンカお兄さんに訊いてみた。

「なんだい健太くん?」

「なんでレンカさんってミントに敬語なんすか?」

 敬語というか丁寧語か。

「あぁー、」

「ミントが魔法王国の侯族だからっすか?」

 考えられる理由はそれだ。

「まぁそれもあるけどね。ほらあれだよ、おとなとして剣士として礼儀を尽くし、敬意を払っているのさ、ぼくはミントさんに」

「敬意」

「そうさ、健太くんだって試合では相手に礼節を尽くすだろう?それと同じさ―――、」

 やや波が立つ。レンカお兄さんは、湯船の中で腕を組んだ。

「はい、そうっすね」

 俺も礼儀は大切だと思う。俺はそう思うようになったのは、祖父ちゃんによる『剱の教え』に依るところが大きい、とそう思う。

「よかった、健太くんとぼくの価値観が同じで。それにミントさんはぼくよりもずっと年上だからね。魔法王国五賢者の一人だし」

「はい?年上?魔法王国五賢者?」

「え?」

 きょとん、っとレンカお兄さんは。そんな顔をして『聞いていないのかい健太くん』なんて言ったんだ。


「ふぅ、、、ったくあの人は―――」

 やれやれ健太くんに話していないのか、とレンカお兄さんは湯船の中で肩を竦めた。

「おふぅ、、、」

 ミントを見た目で、容貌と容姿と言動で、勝手に俺よりも年下と判断をしていたぜ。

「ま、そういうことだね。ちなみに剱の魔法の使い手で『魔法剣』をこの世に顕現させることができるのは、あの人を含めて魔法王国では数人しかいないそうだよ」

「え、そんなにっ!!」

 凄い人だったのかミントは。 

「あぁ」

「じゃなんでそんな魔法王国の偉い人が、この宮殿で給仕をしてるんすか?」

 ミントは堅苦しい『家』が嫌になって、そんな家を飛び出したとは言っていたけれど、、、。

「―――、どこから・・・話せば、、、いっそのこと―――」

 うーむ、と胸の前で腕を組むレンカお兄さん。ちなみにレンカお兄さんの大胸筋はすごい。腹筋も割れている。レンカお兄さんのその引き締まったお腹には無駄なお肉はいっさいついていない。

 そんなレンカお兄さんが、うんうんと悩ましげにものを考えている。

「レンカさん?」

 にぃ―――。突然あやしい笑みをこぼすレンカお兄さん―――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ