第二百九話 一流の魔導具屋? あやしい、、、お店。と、そう思ってしまうのは俺だけか?
「ここ、ここ」
レンカお兄さんの言葉に俺は顔を上げた。
「―――」
このお店の、その看板は木製だ。その看板には緑色地で赤文字を使い『まりもとかりんの小部屋』と書かれている。
第二百九話 一流の魔導具屋? あやしい、、、お店。と、そう思ってしまうのは俺だけか?
なんの店だろ・・・? どんな商品を売っているんだ?
「、、、」
どんなものを売っているんだろう?雑貨屋? その『まりもとかりんの小部屋』の文字だけじゃ判断できないや。まぁ、いいや。
「ケンタさま、どうかなさいました?」
隣できょとん、っとさせているミント。
「あ、いやミント」
俺はその毒々しい色の看板から視線を外したんだ。
「ここ、このお店ですよケンタさま―――」
お店? 毒々しい色の看板を出しているわりには、店先には商品と思しきものはなにもない。 ぴしゃり、っと―――
「まじか」
―――店の引き戸も閉まっている、、、ように思うんだ。
その木の、一見すると和風に見えなくもないその扉は、ぴたりっと閉められ閉じられている。周りの多くの雑貨屋のお店と違って、この店には店先にも商品はない。陳列すら、また商品の宣伝すらされていない。
「―――、、、」
『まりもとかりんの小部屋』というお店の扉の前には、ただの古そうな土器のようなぼろの壺や、提灯か?あれは。ぼろぼろのやぶけた赤い提灯が無造作にまるで投げ捨てられたかのように放置されている。どう見てもゴミだろ。ゴミ屋敷だ。
閉店しているんじゃ・・・、見た目では、木造の古い茶色のガラクタ屋、、、ううん普通のぼろ家にしか、、、見えないんだけど・・・。
「ケンタさま♪ここ『まりもとかりんの小部屋』は一流の魔導具屋さんですよっ♪」
え? マジか? マジで一流の魔道具屋さん? どう見てもガラクタ屋にしか見えないよ?
っ!! 誰かに、なにかに見られている気がする!!
「ッツ」
ハッとして俺は、視線を感じたほうへと、俺は視線を上げて―――、ぷらーん、っと人形!?。
あいつか!!俺を見ていたのはあいつか!! って人形に見られていた?
「っ!!」
でもあれは・・・っ、あの人形は正直怖いよ!!
顔の『目、鼻、口、耳』の位置がずれたようなグロテスクな人形が!! 髪の毛は茶緑色でざんばら髪。口の歯はギザギザ刺繍。目はビー玉のような物が埋め込まれていてギラギラ。
なぜかそのざんばら髪の上には新緑色の球体が。毬藻を模しているのかもしれない・・・。たぶんそう。毬藻を模したフェルトのような球体が人形のざんばら髪の上に乗っている。
まるで、キツネやタヌキが人間を化かすというときに頭の上に乗せる葉っぱと同じ位置にその新緑色の球体が乗っている・・・。
ぷらーん、ぷらーんっと。そして、その人形が置かれている状況がこわい!! そいつは首を紐で結ばれて、このお店の軒先からぶら下がっている、んだ・・・っ。
「―――」
ふっ、っと俺は『ほんとにここが一流の、ですか?』といった意思を籠めた視線をレンカお兄さんに送る。
「そうだよ、健太くん」
まじかっつ。
「っつ」
真面目モードのレンカお兄さんはかなりイケメンだ。いつもこうならレンカお兄さんは絶対にモテると俺は思う。
「ミントさんお願いします」
レンカお兄さんがミントに言った。そのレンカお兄さんは相変わらずミントには丁寧語。
「はい、かしこまりましたレンカさま」
するとミントは一礼。彼女は一歩進み出て、すっ、っとその扉に向かって手を出す。このボロ屋の?
「ミント?」
俺の声が届いているかいないのか―――、ミントはその、すっ、っと出した右手をこの店の扉の、取っ手に持っていく。
「―――」
カラカラカラ―――、っと軽快な音を立ててその木の扉をミントは横滑りさせた。簡単に、ぴしゃり、っと閉ざされていた扉が開いたんだ。
「さっ、お入りくださいませケンタさま、レンカさま。・・・くすくすっ♪」
開いた扉。その店の奥が見える―――。うわぁ・・・、、、。
「っ」
所狭しといろんな商品?ガラクタが陳列、、、いやあるものは棚に並んでいたり、あるものは雑多に床と壁の間に立て掛けられている。ガラス製のようなショーケースの中にも何やらよく分からないガラクタ?のようなものが入っている。
部屋の中はと言うと、足の踏み場が少なく、、、いやいや―――こじんまりとしていてその部屋は薄暗い、、、。というかその照明の所為かもしれない。
まるでレトロ調な黄味がかったランプのような。そんな照明でも点いているのかもしれない、そのような部屋の中の灯りは。
焚火が照らす火の灯りのように明るさがゆらゆらと揺れている様子には見えないからきっと炎を使った照明ではないと思う。
薄暗い照明に照らされて。うわ、あやしそうな壺が、、、並んでるなぁ。
「、、、」
ガラス製のショーケースの向かいには壺が並び、その横はなにかの動物の角?ぐにゃりと曲がった角だ?
そのようなあやしい雰囲気を醸し出す物体が店の中に所狭しと置かれてあるのが見える。あやしい、、、お店。と、そう思ってしまうのは俺だけか?
「、、、」
そんな俺を置いて、『どうも』っという雰囲気でレンカお兄さんも、そしてミントも続く。まるで知り合いの如く、その暖簾をくぐってそのあやしい壺や変な置物が見える薄暗い店の中に、普通に二人して入っていく。
「あら?いらしゃいっ」
中から人の声。女の人の声だ。店員さんかな?もしくは店主とか。
くるり、っとそのときだ。
「ケンタさま?」
そのミントは店の玄関口からくるり、っと振り返り、まだ外にいる俺へと呼びかけた。
「お、おう・・・」
「どうぞケンタさまもお入りくださいませ、ふふっくすくすっ♪」
ミントはかわいく笑った。
「、・・・っ」
その屈託のないミントの笑みと彼女の様子に俺はつられるかのように、俺もこのお店の敷居を跨いだ。敷居を越え、一歩店の中に踏み入れば―――、
「―――・・・」
やっぱり黄味がかった照明の薄暗い部屋。店の外から見えて判っていたとおり、店の中の照明は光量不足で薄暗く、いかにもあやしい雰囲気を醸し出していた。
そのまるで直火、もしくは裸電球のような黄味がかった光は、店内をあまねく照らし出しているとはとても言い難い。
あれは、なんでだろう?
「??」
ここは道具屋、、、いや魔導具屋と言っていたよな、レンカお兄さんは。それなのに、なんで店主がいるすぐ前はラーメン屋のようなカウンター席になっているんだろう? ひょっとして何かしらの食べ物も出しているんだろうか?ここは。
カウンター席の後ろには、たとえばラーメン屋だったら何人かの店員さんや従業員達が忙しなく動き回っているはずだ。でも、この店には従業員の姿は見えない。
「えぇ、今日は―――」
「ねぇねぇ、いい品物が入ったのー」
「へぇ、そうなんですね。ところで、それはどのような?」
「えっとねー」
和気あいあい。
「・・・」
他に店員さんはいないが、一人の店主と思しき女の人だけがいる。その人は丸っこい眼鏡をかけていて髪の長さは肩ほどまでの小柄な人だ。
その女の店主が一人居てレンカお兄さんと会釈を交えながら和気あいあいと話をしている。
「・・・」
レンカお兄さんとこの店主のおねえさんは知り合いかな? その言葉の端々とその表情からそう思える。あれ?そういえばミントの姿が見えない。
きょろきょろ、っと俺は辺り見回し、どこへ行ったんだろう?ミントのやつ。さっきまでそこにいたのに・・・?
「―――健太くん」
「っ」
レンカお兄さんに呼ばれた。こっちこっち、っと。店主の側で俺に向かって手招きをするレンカお兄さん。
「あ、はい」
俺は店内を見回すのを止めて店の奥、店主とレンカお兄さんがいるほうへと向かった。もうすっかり店の中の暗さに俺の目は慣れている。足の踏み場を気にしつつ、誤って壁に立て掛けられている―――、
「・・・っと!!」
―――この商品? この筒状の薄汚れた物なんだが、それらを蹴ってしまわないように、さらに店主の前に横に長いカウンター席に設置されている木の椅子の四つ足にも気を付けながら俺は、狭いところを縫うようにレンカお兄さんのところに向かった。
レンカお兄さんと店主に近づくにつれ、俺はその店主の容姿がはっきりと判った。
「健太くん」
「あっはい―――」
レンカお兄さんは右手を出して、その隣にいる小柄の店主を指し示す。その店主とは丸っこい眼鏡を掛けている女の人だ。齢の頃は、、、どうだろう妙齢だと言っておこうかな。店主の女の人は小柄で、身長はたぶん百五十センチはないだろう。ひょっとすると、百四十センチ代かもしれない。
「こちらの御婦人は―――」
「はい」
俺はレンカお兄さんに返事と相槌を打ちながら、だ。
「―――かりんさんっと言って、この『まりもとかりんの小部屋』の麗しい店主さんだ」
へぇ、かりん、っていうのかこの人。小柄の、丸っこい眼鏡が似合う妙齢の女の人だ。
「あ、どうも」
ぺこりっと俺はかりんっていう女の人に頭を下げる。
レンカお兄さんは俺に示したのと同じような仕草で今度はかりんっていう人に右手で示す。
「で、それからかりんさん。こちらにいるのは健太くん」
「ねぇよろしくー、健太くんっ」
かりんさんは屈託のない笑顔で俺を迎えてくれたんだ―――。
『イニーフィネファンタジア-剱聖記-「天雷山編-第十九ノ巻」』―――完。