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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十九ノ巻
206/460

第二百六話 なんだろ眼が、ね

 このルストレア宮殿の街の、リビングストリートたる飲食店街を抜け、そこから石畳舗装の道を左に折れる。

 そんなときだ。ふと―――

「さっきちらっと話したけど、健太くんは『魔導具』についてどのくらい知ってるのかな?」

 魔導具? 魔導具のお店があるらしいところへ向かう、、、レンカお兄さんに連れられてそこへと向かう途中、俺はレンカお兄さんに魔導具について訊かれて―――。


第二百六話 なんだろ眼が、ね


 かくいう俺は魔導具についてはほとんど知らないし、見たこともない。あるとすれば、

「いや、俺はほとんど、、、そうだあの、ミントが持っていた茶色い小瓶―――」

 ミントが持っていた新鮮なマナ=アフィーナが入っていたあの茶色い小瓶しか知らない。

「私のあれですねケンタさま。私のあの魔法の小瓶♪」

 俺はレンカお兄さんから視線を外してそれをミントに。

「うんミント」

 マナ=アフィーナの新鮮な果実の他に日下修孝の短い髪の毛も入っていたっけ。

 それを聞いてレンカお兄さんは右人差し指を立てる。

「なるほどアレね。あれは『魔移送機関(まいそうきかん)』の魔導回路が組み込まれていて―――」

 魔移送機関!? なんだそれ、なんかかっこいいぞその名前。

「・・・っ」

 ついっ、っとレンカお兄さんは左人差し指を進行方向に向かって出す。レンカお兄さんの差し出す左人差し指は右を向いている。

「こっちこっち健太くん」

 ひょいっ、っとレンカお兄さんは道を右に折れ、

 てっきり俺はこのまま広い石畳舗装の道の真っ直ぐに行くと思っていた。でもレンカお兄さんが進んだ先は。

「えっ、そっちっすか?」

 レンカお兄さんが選んだそっちの道は鬱陶し暗そうな、、、いや煉瓦造りや石造りの建物が両側から迫ってくるような薄暗い細い道なんだけど。

「うん、そうだよ健太くん」

 そっちですか?の俺の問いに、レンカお兄さんは簡潔にそう答えた。

「ケンタさま?」

 ミントもそうだ。別に俺と違って不思議そうには思っていないようだった。

「へぇ・・・っ、・・・、」

 この裏通りは風体のあやしそうな人々がたむろしているといったことはない。でも、なんか変な感じする。眼がしぱしぱするというか、、、きゅんきゅんする。と言っても、そのような物貰いになったようなそんな病気の症状じゃなくて、、、。もちろんスゥっとする目薬を差したような目の感覚でもない。なんて言ったらいいんだろ?うまく言えないや。

 にやにや―――っそんな俺にミントちゃん。

「えぇ、確かに薄暗くて夜通るときは少々不気味ですが―――、あっひょっとしてケンタさま怖いんですか?ふふっくすくすっ♪」

 むっ、なんですとぉっ。

「―――っ」

 って、ミントちゃんはにやにやしながら、そう俺に言ったんだ。

 むっ。

「いやこわくないよ。そういうことじゃないってミント。なんだろ眼が、ね」

「眼鏡? ケンタさまは眼鏡を掛けられるんですか?」

 ?? 眼鏡? あ、そっか『眼が、ね』か。

「そうじゃなくて『眼鏡』って言ったんじゃなくて、『眼が、ね』って言ったの。なんだろ、眼がしぱしぱするというか、、、」

 ごしごし・・・俺は眼をこすった。少しましになったかもしれない。

「あ~」

 納得!! ぽんっ、っと合点が言ったとミントちゃんは左手の手の平を右拳で打った。

「そういえば、ミントはケンタさまに訊きたかったことがありまして~」

 俺に訊きたいこと?

「ん? なにかなミント?」

「、、、人の生き死にと言いますか、、、。ケンタさまのその『眼の力』は、人の『死』などは視得たりしないのですか?」

 人の死が視得たり、なんてなんか物騒だな、ミントちゃんってば。

「人の死? ・・・どうだろ」

「くすくすっ♪『死』とか視得たりしないんですか?『死を視通す魔眼』などどうでしょう。ふふっくすくすっ♪」

 死が視得る?『死を視通す魔眼』?? なんだろそれ?人の寿命が視得るってことか? やろうと思えば、俺なら視得るかもしれない。でも、あんまり人の死に様は視たくないな。

 この眼で、、、『死』を。眼を閉じて、すっ、っと俺は右手で目頭を押さえる。

「『死が視得る』?いや視ようと思えば『人の死』が視得るかもしれないけど、俺はそんなものは視たくないよ?人の死に様だろ?」

 ゆっくりと眼の目蓋をさすって俺は眼を開く。

「ちぇ・・・いけずですねケンタさま。―――、っ」

 あっ、ミントちゃん。っ、って軽く舌打ちをしたよ!!

「!!」

 俺になにか、この『選眼』で、もしか誰かの『死』を視てもらいたかったのだろうか?


「ふむ・・・」

 じぃっ、っとレンカお兄さんはそんな俺を見つめ、てる? 凝視というか、熱視線だ。

「レンカさん?」

 なんだろ?そんなに俺を興味深そうに見つめて。なにかあるのかな?俺に。俺はレンカお兄さんに訊いた。

「あ、いや―――、健太くんのその選眼の異能は―――、」

 『選眼』の異能? レンカお兄さんは話を切るように。俺の異能について?

「はい」

 レンカお兄さんは歩みを進めつつ、再び言葉を紡いでいく。

「―――確かぼくが聞いたところによると多岐にわたる『眼』の力だったかな?」

 多岐にわたる? あぁたくさんということか。

「多岐にわたる、、、はい、そうかもしれないっすね俺の『選眼』は」

 そんな言い回しで誰かに言われたのは初めてだ。そうか確かに多岐にわたる力なのかもしれない、俺の異能『選眼』は。

 俺は話しながらレンカお兄さんとミントに続く。

「『選眼』か、、、。なるほど。っ、たとえばだけど健太くん―――きみのその眼の異能は、その能力は・・・ぅん、、、―――」

 レンカお兄さんは足を止め、、、俺の足も止まる。眼の異能は、か。レンカお兄さんはやけに真剣な表情で、ぅんっ、って唸ったんだよ。

「はい、レンカさん」

 よっぽどの真剣なことか、それとも深刻なことなのか。それも俺の『選眼』に関して。

「なぁ健太くん」

 キリっ、っと。とても真剣なレンカお兄さん。その甘いマスクがぎゅっと引き締まる。

「は、はい・・・っ」

 きっと真面目な話だ。こっちまでなんか身構えてしまう。

「ぼくの上の妹のアーちゃんにも訊いてみたんだが、『最高機密です』と、妹はぼくに答えてくれなくてね。健太くんきみの異能は透視もできるって本当かい?」

 うわ、、、。アターシャさん、実のお兄さんにそういう話はしないんだ。別に俺としてはそれぐらいは知られてもいいんだけど。

「透視っすか?はい。ポケットに忍ばせているものぐらいは簡単に視得ますよ、レンカさん」

 魁斗がその胸ポケットに隠していた『氣導銃』を見破ったときの、な。あれだ。

 そう、俺の奥の手は『選眼』の『概念づける眼』による事象改変だから。俺の思ったこと、思考をそのまま事象化する『慈眼』『祓眼』『鎖眼』『縛眼』『転眼』。さらに俺自身が魁斗を視て視得て準え『魁斗化』した『顕現(あらわし)の眼』。その分、多くの氣を喰うけどな。つまり燃費が悪い。

 だから表側の表層部と言っていいのかもしれない『透視眼』や『先眼』を知られるのは別にかまわない。むしろそれで相手に油断させるぐらいがいいかもしれない。


「な、なんだって・・・!!透視は簡単って、それは本当かい健太くん・・・っ!!」

 ぶわっのけぞりっ、っとレンカお兄さん。

「はは、えぇレンカさん」

 なにもそこまで驚かなくても、レンカお兄さんってば。

「バ、バカな!! それじゃあ、、、健太くん。削って当てる富籤(とみくじ)も最初から、削る前から当たりが視得るってことかいっ!?」

 俺もぶわっ・・・っと。

「っつ・・・!! たぶん、判るっす!! 視得るっすレンカさん!!」

 そうか!!その手があったか・・・っ。俺のこの『選眼』で・・・!!

 ゆるゆる、っと俺は右手を上へ。そして、手の平を開き、眼前に(かざ)す。指と指の半影から、

「―――っ、―――・・・、、、っ―――、ひょっ、、、―――」

 レンカお兄さんの声なき声。驚愕に満ちたその顔。その揺れる目のかたちからレンカお兄さんのその心の動揺。慟哭(どうこく)が視得た、気がする。

「―――ひょ?」

「うん。ひょ、ひょっとして健太くん!! まさかその『透視眼』は―――、」

 透視眼は? レンカお兄さんは目をさらにカッ、っと見開き、

「えぇ、っと・・・はい」

「透視眼はポケットに忍ばせているものぐらいは簡単に視得るって言ったね。じゃあひょっとして、ひょっとするとだよ? それはひょっとして」

 レンカお兄さん、『ひょっとして』ばかり。もったいぶる感が多い。ま、べつにたいしたことじゃないけど。

「・・・」

「お、おパンツさままで―――?」

 お、おパンツさま、、、だと?レンカお兄さん。それは唐突に、突然に、いや必然に。

「っつ」

 レンカお兄さんのその言葉で俺は思い出す、あのときの、初めてこのイニーフィネ皇国に来た時のことを、俺がこの街の宮殿で目が覚めたときの―――。アターシャがアイナの部屋の扉の鍵を閉めたときだった。

 あのとき―――、アターシャの持っていた氣導回路が仕込まれた鍵と錠を―――、っ///。


///


 カチャリ―――。

『っつ』

 アターシャが一番下の閂の鍵を閉めようとしたとき、扉の前でしゃがんだアターシャはその腰ほどまでの赤い髪を床に付けないように、いやみならないような動きでさりげなく、しゅるっと頸に纏いながら、長い後ろ髪を前に持ってきて、給仕服のその胸に、長い赤髪を抱くように―――。

『―――っ』

 いや、あのとき俺が視得てしまったのはアターシャのことじゃなくて、扉の三つの鍵のかけ方でもない。アターシャの腰ってめちゃくちゃきれいに括れているよなぁっとは思ったんだけど、そのことじゃない。

 本当にそのことじゃなくて―――っ。

『っ(あせあせっ)、―――』

 ―――本当は『鍵』と『錠』以外のものも、全て透けるように視得ていたんだよ、実は俺。俺の持つこの『眼』は。


///

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