第二百五話 魔導具屋に行ってみよう
「ごちそうさまでした」
食べ終えた皿を下げて合掌。初めての入院が、俺が元居たところじゃなくて、まさかこの五世界で、なんてな。初めての病院食はちょっと味が薄かったかな。
俺がアニムス消耗、、、気力精力を使い果たしてぶっ倒れた日から数えて今は三日目。大事を取ってもう一日このルストレアの副都にある施療院に世話になった。これが最後の病院食だった―――。
第二百五話 魔導具屋に行ってみよう
病室を辞して、てくてくと。俺は施療院の出口に着いた。
「、、、」
施療院から初めて見る副都ルストレアの街並み。すごい煉瓦造りの街並み。赤茶色の壁の外観に、屋根を葺くのは、青やいぶし銀。どの家もこんもりと、もしくは尖がった屋根の形状をしていて、しかも煉瓦造りの煙突が空へと伸びている。
立ちっぱなしというのもなんだかなぁ、、、。
「・・・」
てくてく、っと歩いて俺は施療院の前の木のベンチに腰掛けた。衣嚢より電話を取り出し―――、
「・・・」
レンカお兄さんからの通信魔法。約束の時間までもう数分もない。俺の目の前は緑に萌える公園がある。その公園は小さな、手入れの行き届いたきれいな林になっていて、その公園を周回するように石畳舗装の道だ。
ルストレアの街はこの公園の向こう、際限なく拡がっている。アイナのルストレア宮殿はこの施療院からはどの方角になるんだろう。
残念ながら、ひしめき合う背の高いヨーロッパ風の建物のせいで遠くは見渡すことはできない。
『ぼくがルストレアの副都を案内するよ、健太くん』
きっと、そろそろ―――。電話に着たレンカお兄さんの通信魔法によれば、もう迎えが来るはずだ。
「―――っ」
わくわく―――っつ。
初めて、初めだ。初めてのイニーフィネ皇国の街。なんだかんだで俺はイニーフィネ皇国の街並みを見ることができなかった。でも、今日初めてゆっくりと見れそうだ。あ、そう言えばあの、アイナと初めて会った街も皇国だったっけ。でもあれはノーカウント。
「あれは・・・車?」
ずいぶんとレトロ調な車だな・・・。博物館にならありそうかも、、、。
そのときだ。灰色の石畳舗装の道。目の前のこじんまりとした林の公園の向こうから、ゆっくりと走ってくる一台の車が見えた。
公園を取り囲むように回る石畳舗装の道をこっち施療院の、俺のほうへ向かってくる一台の車。黒塗りの、俺がよく知る一般的な四輪の自動車と違って、まるで、、、昔の、
昔と言っても一昔やふた昔の時代の車ではなくて、もっと前、日本史の資料集に載っているような、セピア色の写真の自動車とそっくりの車だ。
その四つのタイヤはふつうの俺がよく知る自動車より細くむき出し。二つのライトも前面に飛び出るように点いている。
すぅっ―――っと、滑らかに、まるでホームに滑り込む電車のように滑り込む。その古式ゆかしい黒塗りのクラシックカーは音も静かに俺の目の前に、ベンチに座る俺の目の前で停車した。
この車は電気自動車かもしれない。フイィィ―――っという電気自動車が走るときに立てる本当に静かな制動音とそっくりの音だったから。
来た。ガラス張りの運転席の向こうでハンドルを握る執事服姿の人物。
「・・・、っ」
その後ろ、後部座席に座っているのは二人。共に俺が知っている人物だ。運転席の中で運転していた執事が外に出ようとしたのを、その赤い髪の人物は手を挙げて、執事を制する。その赤髪の人物は右の座席に座るレンカお兄さんだ。その横、左の外のベンチの俺に近いほうの座席には給仕服に身を包んだミントがいる。
そんなレンカお兄さんと視線が合う。
「!!」
俺が思わず腰を掛けていたベンチから立ち上がった!!
「っつ」
やぁっ、っとたぶんレンカお兄さんは窓越しに俺に話しかけたんだと思う。そのすがすがしい甘いマスク。
がちゃ―――っ、
「やぁ、健太くん」
っとクラシックカーの右扉が開く。ざっ、っとその場に降り立ったのはレンカお兄さんだ。
「おはようございます、レンカさん・・・っ。ミントもおはよう」
同じように左側の扉も開いて、降り立つのはミント。
「はい。おはようございます、ケンタさま」
俺達が揃ったのを確認した運転士の執事は、クラシックカーより降り立ち、胸に手を当てて深々と一礼。再び黒塗りのクラシックカーに乗り込むと去って行った。
「じゃ、行こうか健太くん、ミントさん」
そうして俺はレンカお兄さんに、アイナが住むこの街ルストレアを案内されることになったんだ。
///
きょろきょろ―――。
「―――」
石畳舗装の道をゆっくりとした速度で車が走っている。フイィィ―――っというとても静かな制動音だ。
一方で俺はレンカお兄さんに連れられて一段高い沿道を歩いていく。レンカお兄さんは俺とミントを連れてどこへ向かっているのか。
「ケンタさま?なにか珍しいものでもありました?そんなにきょろきょろとされて」
その声の主はミントだ。珍しいものか。特にはこれといって特に珍しいものはない。でも。
「あの車って電気自動車?とても静かだけど」
もう一台向こうからやって来て俺達と擦れ違い、ゆっくりとした速度で街中を走っていく今度は白い車。相変わらずクラシックカーだ。俺がよく知る、俺の家にもあった父さんが運転していた車のようなガソリン車のようなエンジン音は聞こえない。
「電気自動車?いえいえケンタさま。あれは氣導車ですね♪」
「気動車?」
やっぱりガソリン車かディーゼル車じゃねぇか。
「はい、ケンタ様♪ 先ほど私が乗ってきた黒塗りの車もそれになりますねっふふ♪」
この五世界のイニーフィネ皇国にもガソリン車ってあるのか。なんかこの世界はバイオマスを使ったようなクリーンなイメージが俺の中にはある。
「へぇ、、、」
でも、ガソリン車か。
「や、健太くん―――」
「あ、はいレンカさん」
俺はレンカお兄さんに話しかけられてミントからレンカお兄さんに視線を移す。
「―――日之国には気動車が多いけど皇国では氣導車が主流なんだ」
ん?日之国には気動車つまりガソリン車が多くて、イニーフィネ皇国では気動車が主流? 同じ?
「はぁ・・・?」
「はは、ちょっと混同してるかな? つまり僕とミントさんが乗ってきたさっきの車も、今通り過ぎた車も、氣導具と同じでアニムスで動いている車ってことかな」
っ!?
「っ、へぇ・・・」
そういうことか。つまりこのイニーフィネ皇国では氣が身近に存在している。俺のこの電話もそうだ。
「たまに、たまにだけど運転手のアニムス不足で停車してしまうことがあるかな? ま、そのときは充電池に切り替わるようにはなっているよ、健太くん。―――」
だから安心してくれ―――、ってレンカお兄さんは続けた。
「すげぇ」
俺が元居た地球とこんなにも違うんだ。ま、でも地球の現代の技術が劣っているとは思わないかな、技術の方向性が違うだけで。
それから三人で歩くこと数分―――。沿道には人が増えていき、いつの間にか車道から車もいなくなり、日本でいうところの商店街や繁華街のような感じになっていく。
どこに向かっているんだろう、レンカお兄さん。
「・・・っ」
だが、日本の商店街や繁華街の様子はだいぶ違っている。日本でいうところの明治・大正時代の風情を残した港町の異人館街や赤煉瓦造りの建物のような家屋が目立つ。
パン屋。あの店はカフェか。こっちはがっつりと食べられるご飯やさん。店先を飾る色とりどりの看板、道を挟んで建物と建物の間には横断幕やペナントが掛けられている。
また店先に併設された食卓が並び、沿道を歩く街の人々、そして飲食を摂りながら団欒している人々もいる。
「健太くん」
レンカお兄さんだ。
「あ、はいレンカさん」
俺はレンカお兄さんを意識を向けた。
「まだ昼食には早いと思うんだ」
まだ、たしかに昼前だ。
「そうっすね」
「それで―――、今は飲食店の地区だけど、どこか他に行ってみたいところとかあるかな?」
「う~ん」
行ってみたいところか、、、。あるにはある、俺の行ってみたいところ。
「なんでも言ってくれ、ぼくが案内するよ」
「―――」
この『五世界』の武器屋。刀剣類を見てみたい。でも物騒かな?ここで言うのは。
「~~~」
んぅ~・・・。
「それでしたらケンタさま―――」
「ミント?」
俺が言いにくそうにしていたのを、『悩んでいる』とミントはそう思ったのかもしれない。ま、いっか、刀剣類は折を見て話すとするか。
「はい♪ケンタさま。それでしたら魔導具などはいかがですか?」
マジックアイテム―――!?
「マジックアイテム!? それなんか、おもしろそうだなミント・・・っ」
「はい魔導具でっすっ♪ ふふくすくすっ♪」
「いいね、ミントさん!!」
おっレンカお兄さんも、か。中々の食いつき。
「ぼくも魔導具を健太くんに見せてその反応が楽しみだ・・・!!」
俺の反応が楽しみ?
「レンカさん?」
にやりっ、とレンカお兄さんがいやらしい笑みを浮かべる。
「決まりだね。さっ健太くん!!よし行こうそれ行こうやれ行こうほら行こう・・・!!」
ぐいっ、っとレンカお兄さんは俺の肩に手を乗せ、
「さ、ケンタさまっ♪ ふふっくすくすっ♪」
ミントは俺の背中を手で押す。
「わ、ちょっ―――」
そして、俺は半ば連れ去られるかのように、魔導具がある店に行くことになった。
///
このルストレア宮殿の街の、リビングストリートたる飲食店街を抜け、そこから石畳舗装の道を左に折れる。
そんなときだ。ふと―――
「さっきちらっと話したけど、健太くんは『魔導具』についてどのくらい知ってるのかな?」
魔導具? 魔導具のお店があるらしいところへ向かう、、、レンカお兄さんに連れられてそこへと向かう途中、俺はレンカお兄さんに魔導具について訊かれて―――。