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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十九ノ巻
204/460

第二百四話 先日、日府で晩餐会があってね

「―――はぁ~、つれないな健太くん」

 がっかり、と津嘉山さん。

「えっと・・・、津嘉山さん?」

 たぶんレンカお兄さんは心底がっかりしているわけではないと思う。ちょっと芝居がかったような冗談まじりのノリだ。


第二百四話 先日、日府で晩餐会があってね


 どうして、彼レンカお兄さん的に、俺の何がどこがつれないんだろう?

「それだよ、健太くん。ぼくときみは家族同然さ、ぼくのことは煉兄とそう呼んでくれ、☆っ」

 レン兄って・・・。きらーんっ、っと。その真っ白な前歯が覗く。めちゃくちゃイケメンのこのレンカお兄さんにそんな感じで言われたら、どきどきしてしまうような女の子もいるかもしれないな。

「えっとじゃあ―――レンカさんで、いいっすか?」

 年上だろうし、あの日下修孝とも互角って、だから『レンカ』って呼び捨てにするのは気がとがめる。だからと言ってあまりに畏まるのも、レンカお兄さんに不快感を与えるかもしれない。

 きっとこのレンカお兄さんは俺の『剱士』としての先達だ。いずれ俺はレンカお兄さんにも、俺の『剱筋』を見てほしい。そんな『師』のような人には礼節を重んじたい。『煉兄』と気安く呼ぶなんて俺にはちょっとできない。

「『煉火さん』か。うん、それでいいよ、健太くん」

 にこり、っとレンカお兄さんは頷く。

「・・・」

 俺はこのレンカお兄さんをかっこいい人だな、と思う。例えばだけど、もし仮にアターシャが男だったとしたら、そのイケメンの部類は、きりっとした引き締まったようなイケメンだと思う、若干冷たい感じのするような、な。

 でも、レンカお兄さんのその『イケメン』の感じは、きりっとしたところに柔らかいものも入ったようなそんなかっこいいバランスの取れた爽やかなイケメンの部類だと、そう俺は思う。

「えっと、なんだっけ健太くん―――」

「レンカさん?」

 レンカお兄さんは考えること僅か数秒―――、はっ、と、ぽんっ、っと閃くように。

「―――そうそう!!本家のほうの用事が、だったね。はぁ、、、先方にキャンセルされちゃったんだよ、ぼく。はは・・・」

 力なく苦笑いのレンカお兄さん。レンカお兄さんが、ぽんっ、っとひらめいたのは、俺がさっき訊いたことだったのか。

「え? っあ、はい。その、アターシャ・・・さんと―――」

 ついいつもの癖で『アターシャ』って言いそうになったのを訂正。

 それから、さすがにそのまま直接レンカお兄さんに、アターシャがお兄さんのこと『っつ。使えない駄兄ですね・・・、っ(いらっ)』って言ってましたよ?なんて言うのはよくないな。

「ぼくのかわいい妹が、なにかな?」

「えぇ、アイナとアターシャさんが、レンカさんは日之国の津嘉山の本家のほうに用があるって話をしていたんで―――、それなのになんでレンカさんは、キャ、、、」

 ンセル、、、その先の言葉が続かない。しまった!!『なんでキャンセルされたんですか?』なんて、その先の言葉を口に出すのはどうも(はばか)られる。つまり、俺はなんで日之国に行っているはずのレンカお兄さんが、この場に、このイニーフィネ皇国の副都でもある、ここルストレアの宮殿の裏の森に来られたんだろうと、思って。

「あぁ―――、そういうことか。日之国にいるはずのぼくがなんでここに来たかってことだよね、健太くん」

「あ、はい。まぁ、そんなところです」

「そう、、、だね、それは―――。おっともう昼時じゃないか。ここで立ち話もなんだから館に戻らないかい健太くん」


///


 俺達三人は歩みを進め―――、もう森を抜けようというところだ。

「先日、日府で晩餐会があってね、日之国の名家一之瀬(いちのせ)家主催の、、、―――まぁ、その詳しい話は帰ってゆっくりと話そうか」

 日之国で、晩餐会か。

「え?もう・・・そんな時間、、、ですか」

 電話を衣嚢(ポケット)より・・・、取り出すまでも、なく、、、空を見上げれば―――、・・・あれ? あれれ?

「―――?」

 おかしいよ、俺。視界が、ゆらゆら、、、なんて―――。ゆれる、ゆれる、ぐるぐるまわる。ふらつく。ふらっ、っと。身体に力が入らない。気怠い、というか、あれ?あれれ?これが立ち眩みってやつか?

「、、、あれ?―――俺・・・どうし、て」

 空を覆うほどの緑。その木々の葉より、その木漏れ日が、、、ふぅっ、っと後ろに仰ぐように、移ろいでいく―――。

 ふぅ―――っ、っと俺の視界は反転―――。

「ケンタさま―――っつ!!」

「健太くん!!」

 がしっ!! ばっ!!

「・・・」

 俺は―――、たぶん二人に支えられた、、、二人は俺が森の中の地面に倒れ伏す前に支えてくれた、んだろう、と思う。ミントが俺の後ろ背中を。レンカお兄さんが俺の腕を。

 ふらふらな頭ではよく分からないや。

「ケンタさまっしっかり!! ケンタさまっケンタさま―――っ!!」

「・・・あ、あぁ、うん。だい、じょう、、、ぶ・・・ミント」

「ミントさん取りあえず健太くんを寝かしましょうっ!!」

「は、はいレンカさま!!」

 あれ?俺。

「ケンタさまっミントですよっ!? 私が分かりますかっ?」

 ぺちぺちぺちっ。いや、うんそんなに頬を叩かれなくても分かるよ?俺。

「・・・」

 こくり。『大丈夫』って、なんか声に出すのはしんどかったんだ。だから、俺は最小限な動きで意思だけをミントに伝えた。

 木漏れ日、、、。木々の、たくさんの葉っぱを通してきらきらと太陽が見える。あぁ・・・、俺ほんとどうしたんだろう。急に身体の力が抜けて、、、身体が重くて思うように動かせない。

「―――、、、」

 ざっ、っとレンカお兄さんは俺の傍らにしゃがむ。

「ふむ、どうやら健太くんはアニムスを消耗し過ぎたようだ―――、先ほどの斬撃か」


 アニムスを消耗? 傍らのレンカお兄さんの声が遠くに、でもはっきりと聴こえた。

「・・・」

 俺が? でも、これが、そうなのか―――。

『きっとケンタさまもさきほどまで、その『大地の剱』を揮われていましたので、きっとご自身の気付かないところでアニムスを消耗されていると思うんですよぉ、ミントは』

 ふと、先日あのときミントが言っていたのを思い出す。

「・・・」

 これが。


「ミントさん、ぼく達で健太くんの応急処置をしましょう。マナ=アフィーナの果実を」

「はいレンカさま、かしこまりました。―――」

 ごそごそごそ、、、ミントはその小さな鞄の中に手を突っ込んでまさぐる。何かの探して―――、しかしその右手がぴたりと止まる。

「あ―――、ちょうど今マナ=アフィーナを切らしていました、たくさん使ったので。すみません」

「なるほど。それは仕方ありませんねミントさん。では、ぼくがなんとかします」

「すみません、レンカさま・・・」

 しゅん、っとミントが申し訳なさそうに俺とそしてレンカお兄さんに頭を下げた。

 レンカお兄さんはその端末でどこかに連絡したあと、わらわらと人々がこの森にやって来た。

 相変わらずまだ身体はだるくて重い。力はうまく入らないけれど、幾分かは楽になったと思う。

「・・・」

 すぐに担架に乗せられた俺は、横目でちらり、と観る。

「レンカ様準備が整いました!!」

 びしっ、っと誰かがレンカお兄さんに敬礼。その男の人は、制服?のようなものを着込んでいた。救急隊のような部隊かもしれない。その制服はずいぶんと、俺が知る救急隊の人々が着ている制服とは異なっているけれど。ヨーロッパ風で、でも前をファスナーのようなもので締める紺色の制服だ。見様によっては学生服に近いかもしれない。ただし学ランではない。

「うむっすぐに彼を搬送してくれ。ただのアニムス消耗による疲労だ、くれぐれも事が大きくならないように」

「ははッ!!」


「よっ、っと」

「、、、」

 あれよあれよという間に俺はレンカお兄さんの呼んだ部隊に担がれて―――。

「ぼくも一緒に行こう」

「はい、私も。責任の一端は私にもありますので」

 レンカお兄さんもミントも搬送される俺についてきてくれるみたいだった―――。


///


「あれ?、、、―――・・・俺」

 目を開ける。白い天井。清潔そうな空間。ここは―――?

 気が付くと俺は寝台(ベッド)に寝かされているみたいだった。俺いつ寝落ちしたんだっけ? 分からないはっきりと覚えていない。

 一番直近の記憶は、俺たしか―――。森の中で急に立ち眩みのように視界が反転して、、、。全身から力が抜けたかのような、気力が抜けて、、、ミントとレンカお兄さんに抱き留められて―――・・・。そこまでははっきりと憶えている。

「・・・」

 それからどうしたんだっけ? 頭がくらくらしていたせいであんまり覚えていない。人がたくさん来て、俺を寝かしてくれたんだっけ?

 それにしてもここはどこだ―――。

「ふふ―――っ」

 自然と笑みがこぼれる。そう言えば、魁斗のときも俺ぶっ倒れたんだったな。そして、目が覚めたらアイナのベッドに寝てた。

 ふっ、なんかあのときと同じだな。

 ぎゅ―――っ、っと右手を握り締め、左手も同じように。次にグーパー、グーパー、結んで解いて、結んで解いてなるほど手は動く。

 あぁ―――、

「―――・・・」

 ―――でもまだもうちょっとこのベッドの上で横になっていたい、かな。おやすみなさい。まだまだふわふわする頭。俺はそんな蕩けたような思考の中―――、ふぅっ、っと再び目を閉じたんだ―――。


///


「ごちそうさまでした」

 食べ終えた皿を下げて合掌。初めての入院が、俺が元居たところじゃなくて、まさかこの五世界で、なんてな。初めての病院食はちょっと味が薄かったかな。

 俺がアニムス消耗、、、気力精力を使い果たしてぶっ倒れた日から数えて今は三日目。大事を取ってもう一日このルストレアの副都にある施療院に世話になった。これが最後の病院食だった―――。

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