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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十九ノ巻
203/460

第二百三話 そうだね、きみの想像どおりで合っていると思うよ

「―――心配は要らない。彼ら『イデアル』では天雷山の『雷基理』は引き抜くことはできない、彼らは『雷基理』に触れられこそすれ、抜くことは叶わないから。『雷基理』を引き抜くことができるのは―――」

 ッツ!! 俺はこの現れた男を注視つつ―――、『イデアル』では『雷基理』を抜くことができない―――? それはなぜだろう、なんでこんなことを俺に?


第二百三話 そうだね、きみの想像どおりで合っていると思うよ


 俺はすっかりと男の話に魅了されていた。話して、、、みようと思う。俺と、いや俺とミントから十数メートル離れた位置に立つこの謎の男と。

 この名も知らない男が俺にとって興味深いことばかり言うものだから俺はついに口を開いて訊き返す。

「―――抜くことはできない?」

 俺の『抜くことはできない?』の言葉に、こくり、っと男ははっきりと肯いて示す。

「あぁ。『雷基理』を握り締め引き抜くことができるのは、当代の『祝福の転移者』たる君だけだからさ」

 なッ、―――なんだと!! しかもこいつアイナのこと、しかも俺が『祝福の転移者』だということも知っているだと―――ッツ!!

「―――ッツ・・・!!」

 何者だこの男は―――、、、ち、近づいてくる。

 がさがさ、っと草を別け、男は下草を踏み締め、こっちへとゆっくりとした、余裕のある足取りで近づいてくる!!

 でも近づいてくる彼から敵意や殺気という類の負の感情は感じ取れない。

「それにしても、すこし脅かしすぎではありませんか?彼の不安をいたずらに煽るのは感心しませんね、ミント、、、いえアネモネ殿下どの」

 彼はミントに向かって言った。

「あら・・・♪そうかしら―――」

 相変わらずミントはいつもの軽い調子だ。ミントは怯えることもなく、威嚇することもなく、なんとなく、、、そうだ言い得て妙かもしれないけれど、今のミントは愉しそう。そんな愉しそうな口調で、彼の言葉に答えたんだ。

「・・・」

 この現れた謎の男は、めちゃくちゃ、強く通る精悍な声だ。しかも丁寧な口調で柔らかく優しい声色でもある。そんな声で、彼は静かに、でも確実に一歩一歩と俺達に近づいてくる。俺は謎の男のその姿を見とめる。視界にしっかりとおさめた。

 彼が近づいてきてくれたおかげで俺は、この森の中にやってきた彼の身体的特徴をはっきりと観ることができた。

「―――・・・」

 この森にやってきた彼の背丈は俺よりも高い。長身の男だ。齢は若い、、、と言っても俺よりは年上に見える。二十代か?

 祖父ちゃんが言っていた日之国の塚本さんか?まさか。ここはイニーフィネ皇国だぞ?しかもこの目の前にいる彼は眼鏡はかけていない。


 でも、ミントはこの現れた男が誰だが知っているみたいだ、隣にいるミントの態度で俺はそれが解った。

 イケメンだ。この現れた謎の男の優しそうな眼差しと口元、いわゆる甘いマスク。眉目秀麗の紳士だ。

「・・・っ」

 赤髪、、、っ。髪型は、、、いや一番目を引くのその彼の髪だ。正確には髪の毛。その髪はやや赤味がかった色の着いた髪だ。その髪は長髪ではなく、またスポーツ刈りのような短い髪でもない。ツンツン髪でもない。普通に下ろしてある髪型だ。


「やぁ、きみが小剱 健太くんだね、きみのことは常々話に聞いているよ」

「っ!?」

 俺の名前を知っている、、、だとっ!? 誰だ、誰なんだこいつは・・・っ!! 赤髪の謎の彼は、ミントに話しかけたときの慇懃(いんぎん)な態度とは違って、俺にはざっくばらんな、フランクな態度とその口調だ。

 すらっとした体格。でも彼の胸周りは、大胸筋が引き締まっているのが見て取れる。そんなイケメンはかっこいい服に身を包み。彼が着ているその服はなんだろう、、、スーツのような、、、でも少し違う。

 俺は視線を、赤髪の彼の頭の先から顔、肩、胸へと下げつつ―――、そこで止まる。

 あれは―――、赤髪の彼の腰・・・っ!!

「!!」

 彼のその腰に差さっているのは、剣だ。彼がその腰に差している得物は、反りのある日本刀やサーベル、クルチ/キリジのような刀剣と違って反りのない直剣だ。

 まるで物を測るような定規のような形状の直剣だ。そんな直剣を、この赤髪の彼はその腰に直剣を差している。

「すまない、この剣の所為(せい)で驚かせてしまったみたいだね。おっと、ぼくの自己紹介もまだだった・・・!!」

 ハッと気が付いたように赤い髪のイケメンは目を閉じて、軽く頭を下げた。嫌味にならないような軽い会釈だ。

 正直言うとちょっと拍子抜け。

「はぁ・・・?」

 俺はその彼の態度に適当に相槌を打つ。

「ふっ」

 顔を上げたそのイケメン、、、いや赤い髪の若い男の人が笑みをこぼす。その笑みは気色悪いものでも、挑発的な種類の笑みでもない。本当に爽やかな会釈を加えての笑みだ。

「ぼくは津嘉山(つきやま)―――」

 えッ津嘉山!? びっくり!!

「津嘉山・・・っ!?」

 はっとして俺は思わず叫ぶように言ってしまった!! まさか、、、まさか、この赤髪の男の人は―――。

「そうだね、健太くんきみの想像どおりで合ってると思うよ」

 落ち着いた口調で爽やかな声色だ。じゃあこの人が。アイナが俺に紹介すると約束してくれた―――、

「―――っ」

 アターシャとホノカのお兄さんっ!!

「ぼくは津嘉山 煉火(れんか)。いつも上の妹のアターシャ(かれん)がお世話になっています」

 ぺこりっ、っと。妹のアターシャ/火蓮ということは、、、。やっぱりこの赤髪の男の人はアターシャのお兄さんだ、レンカお兄さんだ。

「アターシャの、、、―――いえ、アターシャさんのお兄さん!! あの塩派のっ」

 あの長々とした講釈を垂れるってアターシャが言っていたレンカだ。あの話の中のあれが俺の中で最もアターシャのお兄さんに抱く強い印象だ。

 そっか。今、俺の目の前にいる彼がアターシャのお兄さんのレンカか。柔らかそうな目つきの、優しい目の人だ。

 この人が、目玉焼きの、、、塩派の。アターシャが呆れたように語っていたお兄さん!!

「塩派?あ~あ、ははっうん、そうだよ。以後お見知りおきを、よろしくね健太くん。おっと健太くんってきみのことを呼んでもいいかな?ぼく」

 アイナがあの『先見のクロノス』=日下 修孝と同等の強さ、、、もしくはそれ以上の『剱士』って前に言っていた、途轍もなく強い手熟練(てだれ)れの―――レンカお兄さん。

 だからかな、その所為かな、ちょっと緊張する。

「あっ、はいっ構わないっす・・・!!」

 しゃんっ、っと俺は背筋を伸ばしてしまう。えっと―――、じゃあ俺はレンカお兄さんのことを、なんて呼べばいいかな。

「ははっそこまでかしこまらなくても。あ、そうだ、ぼくってあんまり妹のアターシャ(かれん)と似ていないだろう?見た目」

 うん、それが容貌ならばそう、お兄さんの言うとおりだ。でも、髪の質というか色合いはアターシャとよく似ている、と思う。

「あ、まぁ、はい」

 それを言った通りにこっちも否定したら角が立つかもしれない。だから、レンカお兄さんに合わせるように俺は相槌を打った。

「どちらかと言えば、ぼくと下の妹(ほのか)が母親似で、上の妹(かれん)が父親似かな?」

「へぇ・・・そうなんすね」

「うん」

 俺はまだこの三兄妹の母親というウルカナフラムという人には会ったことはないから、ほんとは分からないんだけどな。この三兄妹の父親は、、、そうだエシャールに殺されたって言っていたっけ、祖父ちゃん。

 わざわざ地雷を踏むようなことは口走らないけどな、俺は。俺はそんな地雷を踏まないように、口を開く。

「えっとところで・・・、えっと―――」

 えっと俺はこの人、アターシャのお兄さんのことをなんて呼べばいいんだろ? 『レンカさん?』『レンカお兄さん?』それとも普通に『津嘉山さん』?

「あぁ、ごめん。ぼくのことは普通に―――」

 普通に?じゃあ津嘉山さんでいいのかな。

「・・・」

「そうだね、ぼくのことは『あーちゃんとほのちゃんのお兄さん』と呼んでくれていいよ?」

 長い。『あーちゃんとほのちゃんのお兄さん』って。

「え?」

 『あーちゃん』それって―――、あっ、そういえば。前にアイナとアターシャのやり取りで、朝食のときだったっけ?

『いえ、従姉さんそれは。レンカは日之国の津嘉山家のほうに用があるそうですよ?なんでも、レンカの気になっている女性がツキヤマの本家を訪れるそうで、その方にご挨拶に行くそうです。だからレンカにはすでに予定が入っていまして、レンカからの伝言によれば、『よろしくなアーちゃん』だ、そうです従姉さん。~~~♪っ』

 にやにや。アイナがにやにや。

 ・・・っ、っと舌打ちアターシャさん。

『っつ。使えない駄兄ですね・・・、っ(いらっ)』

 それから―――、ぼそっ、っとそう彼女はつぶやいたんだ。

「っ!!」

 ひぃっ、アターシャさん怖すっ!! その口からぼそっ、とこぼした言葉の口調が、ちょっと怖すぎた件だ!!。だって、あのときアターシャって、、、相当キレてたぞ?この俺の目の前にいるレンカお兄さんのことを『使えない駄兄』って―――っ!!

 そんなお兄さんがなんでここに来たんだ?


「健太くん?」

 はっ―――、

「津嘉山さん?」

 ―――っとして俺はその声の主である津嘉山のお兄さんに視線を向けた。

「や、どうしたのかなって思って。健太くんなんか険しい顔をしていたよ?」

 よく見ているなぁ、津嘉山さん。

「え、っとまぁ、、、そうだ、津嘉山さんって本家のほうに用事はなかったんですか?」

 アイナはそう言っていた、と思う。レンカは津嘉山本家に、そこに彼の気になっている女性が訪ねてくるとかどうとか。

「―――はぁ~、つれないな健太くん」

 がっかり、と津嘉山さん。

「えっと・・・、津嘉山さん?」

 たぶんレンカお兄さんは心底がっかりしているわけではないと思う。ちょっと芝居がかったような冗談まじりのノリだ。

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