第二百二話 現われし者。―――謎の男、現る
ミントは言おうか、言わないか。
「それから―――」
ややミントは自身の言葉を躊躇うように、逡巡したと思う。
第二百二話 現われし者。―――謎の男、現る
「―――もう一人いまして、、、ケンタさま。その者は、日之国を裏から支配せんとする『流転のクルシュ』という者です」
「ッ」
る、『流転のクルシュ』―――・・・ッ
祖父ちゃんの夜話の中でも、ちらっとでてきた『イデアル』の奴だ。『第六感社』の頭目。クルシュ=イニーフィナという女の人。
「もし私の言った者達をケンタさまが討ち取ってくれたならば、このミントそれに見合う報酬をケンタさまに御支払うことをお約束いたします」
いや報酬はともかく。
「―――」
討ち取るって、まるで江戸時代の、刀で商売をしていた剣客のように、ってことを俺がするということだ。
「やっていただけますか?ケンタさま」
「―――」
ミントの話に伸るか反るか―――迷いは一瞬。
俺は、いや、俺自身決着はつけたい。だが―――、『イデアル十二人会』の一人『不死身のラルグス』。きっと恐ろしく強い奴だろう。でも、祖父ちゃんは夜話の中で言っていた三条 悠。彼はラルグスと互角の戦いを演じたらしい。俺と同じ魔法剣を持つ三条 悠ができて俺にできないことはないさ!!
「ミントそれは、、、」
討ち取らなければならないのか? でも―――、俺は。『殺し』をしたくはない。
「ケンタさま?」
どっちみち俺はラルグスとは決着をつけたいを思っている。結城 魁斗をあんな外道な人間にした、魁斗が言う自身の師匠だという男ラルグス。
「ミントそれは、、、確かに俺はラルグスに思うところはあるし、決着はつけたいあの街での借りは返す。でも、俺は日下 修孝のような『殺し』は」
日下部市に侵攻した戦闘機のパイロットを斬殺したという日下 修孝。剱技で勝ったあと、捕まえて突きだすのはともかく。人殺し、はしたくないのが俺の本音だ。でも、ラルグスはあの街で凄惨な惨劇を―――、俺は赦さない。罪は償わせないと・・・っ。
「えぇそこは解っていますわ、ケンタさま。そこが人の好いケンタさまの美徳ですものね、ふふっくすくす♪」
それそのミントの言葉とくすくす笑い、『殺さない』と言った俺への、ちょっと皮肉っぽく俺へ当てつけたものかもしれない。甘いやつだ、とミントは暗に言っているのかもしれない。
「・・・・・・」
「それでかまいませんわケンタさま。討ち取った者を通常どおり皇国か魔法王国イルシオンへと引き渡してもらえればそれで。ふふっ♪」
「うん、それならミントの依頼は、、、ううん―――」
俺は首を横に振る。
「ケンタさま?」
「俺は自分のために、俺の意志でラルグスと決着をつける!!」
「はい、ケンタさま♪良しなに」
にこりっ、っとミントは微笑んだ。俺はそんなミントから視線を落とす。視界に納めるは、腰に差す、一振りの魔法剣『大地の剱』。
「っ」
しゅらぁ―――っと俺は陶器の鞘より、『大地の剱』を抜いていく―――。抜身の『大地の剱』を目の前で水平に構える。
素晴らしいまるで鏡のような銀色の剱身に映るは俺自身の眼差し。自分で言うのもなんが、俺は力強い意志の籠った眼をしていると思う。
俺はラルグスは赦さない。あの街での惨劇―――、街で斃れていた人々はみんな酷い傷を負っていた。裂傷だった。ラルグスはあの街の人々を虐殺し、ロベリアはその死した人々を『屍術』で操った。
っ。柄を持つ右手、その拳を握り締める。俺はラルグスを赦さない。どのみち必ずこの手で決着をつけてやりと思っていた。これはちょうどいい機会だ。
「―――」
誓いの一振り、一斬。俺は静かに、だが、この心に、身体に滾るような闘志を、闘氣を奮い立たせ、昂らせ、、、
ズズズ、―――ズぅ・・・っと、、、『大地の剱』を取り巻いて纏うように、剱身に氣を帯びた細かい砂塵が浮かび上がる。
『大地の剱』が剱芯になり、砂氣は剱身を覆う。鋭く太く長大な『大地の剱』だ。砂氣を纏いし真なる力が解放された『大地の剱』。土石魔法を帯びた真なる魔法剣『大地の剱』。
チャ―――っと、真なる『大地の剱』を、肩に担ぐように、振り被るのように構える。
あの街で、あのような非道なことをした奴ら。お前らも魁斗のように俺が引導をわたしてやるっ!!
「逃れられないぞ―――」
もちろんそいつらは、俺が逃すつもりもない奴らは『不死身のラルグス』、『屍術師ロベリア』だ。ついでに『流転のクルシュ』も。
めいいっぱいの『力』を籠めて―――、昨日よりももっと強く、鋭く、激しく―――!! ギィイイイッ、、、っと『大地の剱』が俺の氣の高まりに応じて振るえる―――!!
この『大地の剱』を振り被り、是やッ、っ
「『大地の剱』―――ッツ」
斬―――ッッツ
俺は空に向かって。真なる力が解放され、砂氣を帯びた『大地の剱』を振り下ろす・・・ッツ!!
ゴアァアア―――っと、特大の、黄金色の輝きを撒き散らし、砂氣を帯びた氣刃が飛んでいく。森の木々の、重なり合った枝を、葉を抜け、空へと―――、キラっと黄金色の輝ける氣刃はどこまでも飛んでいった、はずだ―――。
「~~~、~~~、はぁ、ふぅ―――」
チャっ、っと俺は『大地の剱』を再び水平にして眼前に。『大地の剱』は砂氣の輝きを失い、ではなく俺が解いたため、すでに綺麗な銀色の刃に戻っていた。
「―――っ」
水平にした銀色の剱刃に映るのは俺の意志の籠った眼差しだ。
「私の『大地の剱』を見詰めるケンタさまのその強く熱の籠った眼差し、、、このミントまで熱く、、、その―――私照れてしまいます、ケンタさま♪ 」
さっ、っと俺は『大地の剱』を元の下段に降ろす。視線もミントに移す。
「あ、いや―――」
ふぅっ―――とこぼすようにこぼれるようにミントは、
「どのみちケンタさまの征く道に―――」
だから俺は改めて、その声の主であるミントを意識した。
「ん?」
どのみち―――、なんだ?ミントのやつ。ミントは何を言おうとしているんだ?
「―――ケンタさまの前に彼ら『イデアル』が再び現れるのは避けられません」
俺から会いに行くのではなく、俺の前にまた『イデアル』の連中が現れるのは確定してるってこと? ミントが言うには。
「え―――?」
「このミント、いえアネモネには解るのです、ケンタさま。失われし『七基の超兵器』の回収・保有を推し進める当代の導師率いる『イデアル十二人会』。彼彼女らの、『煉獄』の次なる狙いは『雷基』です」
ッツ!!
「な、なんだって!!」
俺が求める『雷基理』の筐体。『雷基』を動かす導力たる力を秘めた『雷基理』。ミントに訊かなくても解るさ。
「奴ら『イデアル』が次に狙っているのは、俺と同じ―――」
俺の言葉に合わせるように、ミントはその口を開く。
「はい『雷基理』。ケンタさまが求めるものと同じものですわ―――ふふっ♪ さぁ、早くケンタさまは『彼ら』より早く回収に行かないと―――ねっ☆♪」
な、なんだとっ
「な―――、っ」
それはやばい!!あいつら『イデアル』に、俺より先に『雷基理』が回収されてしまうのはやばいっ!!
「えぇ、ケンタさま。『イデアル』の彼奴らに取られてしまいます♪」
奴らに取られる!?『雷基理』がっ!? 七基の超兵器の一基『雷基』が解放されるッ!! あいつら『イデアル』の手に『雷基』が渡れば碌な事にしかならないッ!!
「っつ」
それじゃあ俺はあいつらよりも。早く、速く、疾く、はやく取りに行かないと!!天雷山に早く行かないと!!俺。
「そうなってしまってはさぁ大変♪ あの『不死身のラルグス』ですよ?彼が『雷基』をその手にしたら―――。あぁ!!皇国や日之国はどうなってしまうことやら、でっす♪」
「ッツ」
ミントはとても愉しそうだけど、俺は違う!! それを聞いてしまったからには焦る、焦ってしまうどうしても。
あの街と、あの夜話に聞いた日下で、日下部市で、あんな殺戮を平然やって行なう『イデアル』の連中なんかに『雷基』が渡ってしまったら大変なことになる!!
「ミント!!」
すぐにアイナに連絡を取って報せないと!! 早くなんとかしないと!!
「はい、ケンタさま♪ ふふっすぐにでも取りに行くのですね?『雷基理』を」
「あぁ―――!!」
これは悠長に、アイナの祖父さんである皇帝の許可を悠長に待っているなんてそんな時間は惜しい!!
「ではでは~♪ 通信魔法を―――」
がさがさがさ―――っと。
「っ!!」
森の中を、下草を分け入ってやってくる誰かの気配―――。それがした。咄嗟に俺はその音が聞えたところに顔を向ける。
誰だ?この男―――、、、ここに森の中にやってきた男は俺の知らない男だった。
「ふ・・・っ、そうか先ほどの、は」
「・・・」
現れた男は、ふっ、っと顔に淡い悟ったような笑みを浮かべた。そして、ややっと口を開ける。
「大丈夫焦らなくてもいい―――、」
口を吐いて出た言葉がそれだ。
「?」
大丈夫焦らなくてもいい?だと。どういうことだ。
「―――心配は要らない。彼ら『イデアル』では天雷山の『雷基理』は引き抜くことはできない、彼らは『雷基理』に触れられこそすれ、抜くことは叶わないから。『雷基理』を引き抜くことができるのは―――」
ッツ!! 俺はこの現れた男を注視つつ―――、『イデアル』では『雷基理』を抜くことができない―――? それはなぜだろう、なんでこんなことを俺に?