第二百一話 『転移者』の『血』
ミントはやけに神妙な、、、ともすれば怖いくらいの真剣な表情になり、、、ミントらしい笑みのないそんな表情になった。
「アイナさまはケンタさまに、元居た世界に戻りたい帰りたいですか?と尋ねられたのですよね―――?ケンタさま」
アイナに訊かれたか、だって。そう、あのときはたしか、、、ホタテガイを食べていたときだったはず―――。
第二百一話 『転移者』の『血』
「あ、あぁ、、、うん」
俺は適当に相槌を打つ。俺の脳裏によみがえるのは、あのときの。
アイナの―――、
『―――ケンタ。もしかして、貴方は元の世界に帰りたい、と? も、もしケンタ貴方が元のその、日本という場所に戻りたいというのなら、私はその方法を探し―――』
「―――」
それを俺が断っても、アイナのやつはなおも懐疑的だったっけ、、、。
『今の俺にはアイナもいてさ、みんなよくしてくれて―――それに、アイナと別れたくねぇし、俺―――』って、ようやく俺のその言葉で納得してくれたアイナ。
俺はミントとの会話中に、ふとあのときのアイナとのやり取りのことを思い出した。そして、俺はミントの言葉に耳を傾ける。
「そのとき、アイナさまの問いかけに、もしケンタさまがアイナさまに『俺は元の世界に帰りたい』、と言っていたらどうなったでしょう」
またか?ミントのやつ。これで二度目だ、ミントがこれを俺に言うのは。
「さっき―――」
―――言ってたよな、ミント。きっとアイナは俺のためにその帰る手段を探してくれたはずだ。
「いいえ、ケンタさま。もし、ケンタさまがアイナさまのご好意を裏切り、帰ろうと、逃げようとしていたならば、おそらく捕まって宮殿の地下に幽閉されていたと思いますよ、ミントは。一生です、ケンタさまの命尽きるまで一生幽閉ですっふふ、くすくすっ♪」
にこりっ♪、っと。やけに神妙な面持ちから一転、ミントはいつもの調子に戻る。それよりも―――。
一生幽閉だと!? 俺の聞き間違いじゃないよな・・・?
「はい?」
俺の命が尽きるまで幽閉される?って―――、いきなりなにを言い出すんだ?ミントは。
「皇家はケンタさまを逃がすようなへまはきっとしませんわ。その宮殿の中でケンタさまの命が尽きるまで種馬のような、目眩るめく一生が、、、なんて♪」
てへ♪、っなんてミントはかわいい笑みを浮かべる。
まじか?まじなのか、、、そのめくるめく一生って。
「っ///」
冷静になれ俺。て言うか、血税を投じてまで転移者を生かす、そもそもそれは誰得だ? ・・・あ、いやイニーフィネ皇家だ。そうだったよな、ミントの話では。俺はそこに思い至り、、、。
つまり皇国は―――、ううんイニーフィネ皇家はミントの言っていた強い異能の力を持つ『転移者』の血を受け継ぐ者をつくる、、、ってことで。きっとそういうことなんだよな・・・。『転移者』は元々能力が高くて、、、そんな俺のような強い異能の力を持つ『転移者』の『血』を後代のイニーフィネ皇家に入れるためだ。
「―――っ」
―――強い『転移者』の血を皇家に入れ、『転移者』の血と力を受け継ぐ、、、。イニーフィネ皇家を、いやもっと先の、イニーフィネ皇国をより強くするために。
俺が断れば、逃げれば、そのために幽閉されるんだ、『転移者』が、俺が。この『五世界』から元の地球に帰ろうと―――、そうすれば。
ん?でも待てよ? この『選眼』―――、この俺の異能は『概念』までも覆すことができるんだ。『それ』ができないわけがない、幽閉場所から『逃げる』ことができる、この『眼』があれば。『選眼の力』があれば、俺は『転眼』を行使して地球に帰ることができるんだぞ。あの魁斗を地球に、日本に、俺達の地元の街に『転送』したように、な。
俺は右目を閉じる。左目は開いたまま、俺はミントを見たまま―――、氣を高め、あのとき魁斗に行使したのを、した方法を思い出すように―――、、、実際に『転眼』を発動するわけではないが、同じように全身に氣を漲らせ昂める。
「なぁ、ミント。この『眼』の―――」
すぅ―――っと俺は右手で、その右瞼を軽く押さえた。
「貴方さまが言わんとしていること、解りますわケンタさま。でも、その眼の力で逃げようとしてもきっとできません。なぜならば―――それが、ケンタさまのその『聖なる眼』の異能が封じられてしまうからです♪」
っ、封じる、だと!! 手を除け、ハッとして俺は右瞼を開く!! 俺の『選眼』を封じる、だとっ!?
「・・・俺の『選眼』を封じる?」
「えぇ、ケンタさま『能力封殺』です♪」
えぇ、なんてあっさり。ミントはあっさりとそう言った。一方の俺はといえば―――、
「―――、、、」
ゴゴゴゴ―――っと俺は心が沸き立つ動揺を抑え、、、。
バ、バカな。の、『能力封殺』、だと。そんな話はアイナにもアターシャにも誰にも聞いたことがない!!
「・・・っ」
努めて冷静に、、、。でも内心ではめちゃくちゃ動揺してる、動転してるさ。でも剱士たる者そんな心を面に出さないようにしないと!! ほんとはミントに掴みかかるように、捲し立てるように、
『―――ミントきみはいったいなにを言っているんだっ!?』
って俺は叫びたいさ!!
「実はイニーフィネ皇国は、氣や魔法、異能といった能力の『封殺』に長けているんです。『封殺基』、『白き禍』の力を解し、凝縮したかのような、チェスターめのあの『封殺剣』あれはその能力封じの代表作って言っていいですね♪」
『封殺基』・・・?ひょっとして新たな『七基の超兵器』、、、か? それと―――、俺の興味を惹く―――。
「ふ、『封殺剣』っ!?」
なんだ、その剣!?
「えぇ、ケンタさま、全ての『能力』を封じる聖なる剣。その『封殺剣』、彼奴があれを持つ所為で私達魔法の民は彼奴チェスターめを殺すことができません、、、悔しいことですが―――、っ」
ぎゅっ、っと。らしくないミントのその顔。その悔しそうな、憎しみさえ覚えているようなそんな顔だ。
「・・・ミント」
ミントは視線を落とし、それはもう悔しそうに口を一文字にして歯噛みしたんだ。よっぽどミントはチェスターのことが、、、。アイナの親父さんルストロさんを殺めた、あのチェスター皇子が嫌いで憎いんだって。ミント彼女自身も様々な事情があるのかもしれない・・・。
「ケンタさま」
ふっ、っとミントは顔を上げた。そのミントの顔には先ほどの負の感情の表情は消えていた。
「ん?ミント」
「失礼しますね」
一歩、二歩、、、すすっ、っと―――。
「―――っ」
すすっ、っとミントは俺に近づき―――、顔を寄せ。それはもうミントの肌のぬくもりを間近で感じ取れるほどに近い。
ま、さ、か俺―――ミントに接吻される?
「ミ、ミント近い、、、っ」
―――、すっ、っとミントはそのみずみずしい血色のよい唇に自身の右人差し指を縦にして当てる。『しぃ静かに』の仕草だ。
「しぃ―――っですわ、ケンタさま。騒いではなりません」
ごくっ、っと俺は、ミントのその仕草と距離の近さに思わず生唾を呑んでしまう。
「、―――っ、」
ミントがあまりにも俺に近すぎる位置に立っていて、、、その、なんというか、ミントの身体から漂う、その、爽やかな、まるで香草のmintのような匂いを感じるから。
「ケンタさま」
ちょこん、っとミントは背伸び。顔が近いっ///!! すっ、っとミントは顔を俺の顔に近づけ―――。
や、やっぱり・・・っ
「っ」
つ、ついに接吻か?ミントのやつ―――っ/// お、俺にはアイナという愛しい人が・・・っ///
ひょいっと。あれ? ミントはそのみずみずしい唇を俺の顔の真正面に近づけるわけではなく、俺の側面に。俺から見て右に回り込む。
「、、、」
なんだ、そういう、つまり接吻じゃないのか。ざ、残念なんて思っていないよ? ちょっと安心もしている。
ミントは俺の耳元で。つまり内緒話だ。
ふふふっ、っと。そんな俺にミントはあやしい艶めかしい笑みを浮かべる。
「私がケンタさまに入れ込む理由、知りたいと思いませんか?ケンタさま」
「え? あ、まぁ、それは―――知りたいかな」
ミントが俺に近づいてきた理由。なんでこんなかわいらしい子が俺なんかに?とはかねてから思っていた。なんでミントは俺に近づいてきたのか、ずっと疑問に思っていた。単なる俺への厚意だけじゃないだろう。俺に稽古つけて、俺を強くする理由―――。
知りたい、と思っていたんだ俺は。
「しばし、お耳をケンタさま」
こくん、と俺は肯いた、
「・・・」
「実はケンタさまに討ち取ってほしい者がいるのです」
ひそひそ、っとミントは。
なんだそういうことか。
「それは―――っ」
誰だろう?ミントが俺に討ち取ってほしいと思っている奴は。
「イルシオン五侯家レギーナ家の、このアネモネよりの改めて正式な依頼をしてもいいですか?」
依頼か。受けるかどうか、それ以前に、議論する前にまずは、ミントの、ミントが思う所のあるそいつらのことだな。つまり、俺に討ち取ってほしい奴。
「まぁ、取り敢えず聞くだけなら・・・」
伸るか反るかは―――、それから、だな。
「はい、ケンタさま♪ 私が遺恨に思っているその者達の名は『屍術師ロベリア』と『不死身のラルグス』―――、、、」
その名は、まさか―――ッ!!
「ッツ」
あいつら・・・かッ!! 『イデアル十二人会』の―――、魁斗がへらへらしながらその名を口に出していた『ラルグス義兄さん』と『ロベリア義姉さん』―――、ふざけんな、あいつらッ!! あの街での殺戮、、、そして、バカ魁斗の芝居。
魁斗は倒したが、俺はあいつらも赦しはしないッ!!
ひょっとしてミントはあの街でのあいつらの行ないを知っているのかもしれない。もしくは他に、あいつらに煮え湯を呑まされているのかもしれない。
ミントは言おうか、言わないか。
「それから―――」
ややミントは自身の言葉を躊躇うように、逡巡したと思う。