第二百話 祝福の転移者
「はい、ケンタさま♪ 貴方さまは『祝福の転移者』でございますっ♪」
女神フィーネの声が聴こえた、、、だけで―――。否、女神フィーネ彼女の声が聴こえる存在が『祝福の転移者』だ・・・。俺がそうと言われても、そんな実感なんて全くない。
「っ」
女神フィーネの声が聴こえるという存在。―――つまり、俺だ。
第二百話 祝福の転移者
「数百年、数千年に一度現れるとされる『祝福の転移者』はイニーフィネ皇家の人々にとって、この『五世界』―――いえ、この惑星にとっても、つまりですね」
「っつ」
「ケンタさま貴方さまという存在は絶対的な価値がある、貴重で稀有で唯一無二の特別な存在なのですっ♪」
唯一無二の存在―――っ、この俺が・・・。
「っ」
にこりっ♪
「っ♪」
ミントは、俺が今までに見た彼女の中で一番、とびっきりの笑みを浮かべる。そして、くすくすっ♪、っと、さも愉しそうにミントは笑う。
特別な価値のある存在、俺が。正直、嬉しい。なんか照れる―――てれてれっ///。
「たとえばケンタさま話は変わりますが―――」
はっ、と俺は顔を上げる。ミントの呼びかけに俺は、頭の中で考えていたことを中断させて、ミントを見つめた。
「あ、うん」
「―――ケンタさま、私は『転移者』という存在は強い異能の力を持つと言いましたが―――、、、」
「うんミント」
俺は歩きながらミントに適当に相槌を打つ。おっ、日の光が差し込む明るくなってきた。もうそろそろ視界が開ける。森の中のいつもの訓練の場所だ。
ざっ、ざっ、ざりっ、っとミントはその歩みを止めた。俺も歩みを止めた。いつもの『大地の剱』の修練をする森の中に着いたから。
でもミントは話を切るつもりはないみたいだ。ミントはとことこ、すとん、っといつもの石に腰かけたんだ―――。
「そんな『転移者』がこの、、、そうですねイニーフィネ人にしましょう。『転移者』がこの五世界のイニーフィネ人との間に愛を育み、その結果生まれた子どもはどうなると思いますか?ケンタさま」
「ん??」
子ども? どうなるかって? いやミントの問いの意味がよく分からない、分かりづらい。ミントが言っているのは、その子どもの教育権とか親権の話か?
それとも。この五世界の現地の人と俺のような転移者との間に儲けた子どもは特別な扱いがされる、とかか? まさか英才教育とか? その子の立場に立ってみれば、、、英才教育を施されるってどうなんだろ。・・・なんか勉強漬けの学生生活とかは、、、俺だったらいやだな。
「どうなるか、、、それは―――?」
どうなるか、、、『どうなるか』って、抽象的すぎて分からない。
「ふふっ」
ミントは不敵に笑う。
「・・・」
「強い異能の力を持つ『転移者』。イニーフィネ皇家は『転移者』の血を利用し―――」
ミントは―――。ぞわぞわするような、また話がきな臭くなってきた。
「血を利用?ミント」
利用って、、、血を? ・・・まさか飲むとか? 吸血鬼じゃあるまいし。アイナやアターシャを見ても、視ても彼女達が吸血鬼になんて見えない。他には、、、なんだろう薬とかに? あとは考えたくはないけどもっとおそろしいことに使い、、、―――。
「はい、ケンタさま。あ、いえ、、、ケンタさま・・・」
ミントはやや戸惑っている? なんで?なにか言いにくいことでもあるのか? やっぱり俺が思ったようなことが・・・?
「ミ、ミント・・・?」
おそるおそる俺は、訊き返す。
「、ん゛っ、、、先ほどの私の問いですが―――」
ミントはかるく咳払い。話を元に戻した? 私の問い?ミントの問いってなんだったっけ?
「あ、う、うん?」
「答えは『子ども』です、ふふっくすくすっ♪ イニーフィネ人と『転移者』との間に生まれた子というのも皆、須らく『能力』が高いんですっ強いんですよケンタさまっふふ、くすくすっ♪」
なっ!! 混血の子どもは強い、能力が高い、だと・・・っ!! ミントは本当に愉しそうに語る。
でも、俺はと言えば、そんな、、、ミントのように『ははは、そうなんだ♪』なんて軽口で自身の心情を言えるわけでもなく、、、―――。それはそうだ、だって俺は当事者だから。
「―――・・・、、、」
浮かぶのはアイナの顔―――。それも楽しそうに俺との未来を語る夢見るそんな彼女―――アイナの顔だ。
ざわざわ、ざわざわ。ぞわぞわ、ぞわぞわ。ぞくぞくぞくぞく―――、忍び寄る不安、這い寄る怖れと懼れ、白日の下へと晒される真実。
だって考えてしまうじゃないか。『それ』が俺の心に、まるで暗い影が掛かるかのように、皇家への猜疑がまるでぞわぞわと心に、忍び寄る黒い靄のように、、、。
「っ!!」
もし、ミントが言うことがほんとだとしたら、なんで俺がこんなにも皇家に厚遇されるかが解った、、、気がする。
「驚かれましたか、ケンタさまっ?ふふっくすくす♪」
「―――、、、」
「実は―――イニーフィネ皇家は『能力』が優れている『転移者』との子どもが欲しいんです♪ これ―――、この方法を以前より皇国は行なっておりまして、ケンタさま・・・っ、ふふっくすくすっ♪」
ミントは含みのある笑い方で―――、俺を見ながらその口を閉じることはない―――。
「イニーフィネ皇家は『力』の強い『転移者』の『血』を自らの血統に取り込み、皇家の異能に、力に、その『力の可能性』をさらに見出したいんですっ―――くすくす♪」
「―――」
そうか、、、だから。
合点がいった。得心がいく。そう、心に、俺の中でふうっ、っと腑に落ちたんだ、ミントにそう言わ―――、いや吹き込まれて。
アイナはいいや―――、俺は首を横に振る。
「、、、」
だからと言って、たとえアイナの祖父さんである皇帝や、アスミナさんに俺への下心があったとしても、イニーフィネの皇家、少なくともルストレア宮殿にいる人々はみんな俺によくしてくれている。それは紛れもない事実だ。それこそが全てが下心に拠るものだ、と言ったら元も子もないけれど。
俺は、俺は―――、アイナに、アスミナさんに。いや、、、でも、だからといって、俺は。もしかして向こうがそうであったとしても、俺はアイナやアスミナさんに冷たく事務的に接するということはしない、できない、と思う。
「おやぁ、悩んでいますね、ケンタさま♪」
声を掛けられて俺は意識をミントに戻す。
「ミント―――きみは」
どう思う? ともし、ミントきみが俺の立場だったらどう思う? どうしたい? どうする? どう動く? 俺はどうすればいい。
「あれこれと思い悩む必要はありませんわ、ケンタさまっ♪ 日之国のことわざ♪『毒を食らわば皿まで』でっす♪ふふっくすくすっ♪」
毒を食らわば皿まで、、、って。そう単純にさぁ、ミントちゃん。
「―――っ」
俺は愉しそうに微笑むミントを見詰めながら、そう思う。
「―――ケンタさまは、アイナさまが『嘘デレ』でないことは解っているはずですよ。でなければ、あんなことやこんなことまで―――、」
、、、いったいぜんたいミントちゃんはなにを想像して、あんなことやこんなことまで、と言うんだろう、、、っ///。
「っ///」
「―――それに皇家の人間は自らの異能を、一生の伴侶以外には絶対に晒さないとされますが、私の個人的な想像で言います」
知ってる。俺はアイナの真なる異能を。彼女自身から直接聞いた。
「う、うんミント」
「ケンタさまはアイナさまの真なる異能をお聞きになられましたよね?」
アイナの真の異能は―――、、、あのとき道場でアイナは俺に、アイナはとても、物凄く神妙な面持ちだった。そして俺は『それ』をアイナに口止めをされている。
うっ、俺はアイナの異能を絶対に喋らないからな!!
「―――っ」
「ふふっ、ケンタさまのそのお顔を見て、このミント察しがつきました。おかしいと思っていったんですよぉ、ミントは。アイナさまったら、ほいほい自身の『空間転移』を発動されるのですから。見ているこっちが気が気ではありませんでしたぁ、ミントは―――ふふっくすくすっ♪ ケンタさま♪ちょーっとだけ、ヒントだけでいいですから、このミントちゃんにアイナさまの秘密を教えてくれてもいいんですよぉ?ふふっくすくすっ♪」
「秘密―――」
アイナの秘密、、、いや機密でそれは皇国の極秘情報で国家機密。ううん、心情的には違う。それは俺とアイナとの『約束』だ。誓約だ。血盟だ。
「はいっケンタさまっアイナさまの秘密でっす♪」
ミントはにこやかに―――。『アイナの真なる異能』、そのことを俺は口を割るわけにはいかないんだ。
「あ、いやそれはごめんミント。いくら師匠のようなきみにでも話すことはできない」
ひょっとしてミントは俺がアイナのことを、口を滑らすと思っていたのかもしれない。
「―――ちぇっ、、、さすがは皇女の配たるケンタさま」
ミントちゃんはかわいく、口元をへの字に曲げた、、、。
「・・・」
「でも、ふふっそれだけアイナさまが自身の真の異能を明かされるほどに貴方さまはアイナさまに愛されているということでございますよ、ケンタさまっ♪」
あと、にこっっといつものかわいい笑みを浮かべた。
「そう、、、っ///―――だな、ミント」
「―――ね?ケンタさま自信をお持ちくださいな、アイナさまは『嘘デレ』ではなく―――」
すぅっ、っと、話の途中、そこでミントの顔から感情が抜け落ちる。
「ミント?」
ミントはやけに神妙な、、、ともすれば怖いくらいの真剣な表情になり、、、ミントらしい笑みのないそんな表情になった。
「アイナさまはケンタさまに、元居た世界に戻りたい帰りたいですか?と尋ねられたのですよね―――?ケンタさま」
アイナに訊かれたか、だって。そう、あのときはたしか、、、ホタテガイを食べていたときだったはず―――。