第百九十六話 気分はいかがですか? と、そう訊かれて俺は、、、
まるで『大地の剱』が剱芯になり、砂氣は剱身を覆う。鋭く太く長大な、まるで今までの『大地の剱』とは別物に視得る。
黄金色のマナの輝きを放ち、それまでとはまるで別物の『大地の剱』だ。その剱身の太さも、長さも、大きさも、鋩も―――その輝きも、だ。
準備は万全―――。
第百九十六話 気分はいかがですか? と、そう訊かれて俺は、、、
「待たせたな『日下修孝石人形』っ!!」
『―――っ』
相変わらず『日下修孝石人形』は言葉を発することもない。でもなんでかな、俺には『日下修孝石人形』が驚き目を見開き、その口元を引き絞ったように視得た。
「小剱流霞ノ構え―――」
俺は砂氣を顕現させた『大地の剱』で、目の前の彼奴を斬り払う覚悟の一太刀を浴びせようぞ!!
「―――『月閃』」
斬―――ッ、
『ッツ』
鋩とものうちを捩じるように、ドッ、ザスッ、っと『日下修孝石人形』の、俺から真正面に見て左鎖骨から右胸へと俺の『大地の剱』が捉えて、そこを切り裂く。
ビュ―――ッ、っと血飛沫ならぬ、土飛沫と言えばいいのかもしれない。空中に『日下修孝石人形』の胸の辺り、俺が『大地の剱』で切り裂いた剣傷より土煙を散らす。それは切り裂いた瞬間に、ピッ、っと直線状に砂塵が飛んだんだ。
「―――、、、っ」
これで終わり、、、なにっ!?
終わっていなかった。まだ『日下修孝石人形』は斃れ伏さずに、その満身創痍の身体で準『霧雨』を握り締め、この俺に報いの一太刀を浴びせようというのか!!
『まだだ、まだ終わってはいない!!』っと言うように『日下修孝石人形』は一瞬僅かにぐらついた己の体躯を立て直す。
『ッ』
ぐらぁっ、っと本当に倒れ伏すその刹那―――。『日下修孝石人形』は必死にもがく様に、その右手に持つ長大な太刀、準『霧雨』を俺に向かって振り上げ―――
「だが、遅い―――『魔岩牆』!!」
ギンッ―――っと俺は土石魔法で六角形の牆壁を行使し、『日下修孝石人形』の準『霧雨』を、それで受け止めた。
そうだ、俺は『大地の剱』を媒体に俺は六角形の『魔力を帯びた岩牆』を行使しただけだ。ミントが何回も口を酸っぱくして言っていた土石魔法だ。前に俺がミントのゴーレムの『石弾』を防いだときに行使させた土石魔法の六角形の牆壁、あれを『日下修孝石人形』の斬撃に合わせ行使しただけだ。
即座に俺は『魔岩牆』を解呪―――、
「ッツ」
ダンッ、っと俺は一歩『日下修孝石人形』に踏み込む。
『ッ!!』
俺は両手で柄を握り締め、天へと掲げるは黄金の魔力に輝く真正なる『大地の剱』。
「終わりだッ『日下修孝石人形』―――ッ」
俺は全身全霊に力と氣を籠めて振り下ろすんだ真正『大地の剱』を。その黄金色の土属性の魔力に纏い、帯び、真の力が解放されたその魔法剣『大地の剱』を『日下修孝石人形』の頭上より斬り下ろす!!
「小剱殲式一刀殲―――」
斬―――ッ。
『―――っ』
ずず、、、―――っと二つに割けた『日下修孝石人形』は、ぐらぁ―――どぉんっ、っとその場に崩れ落ち、、、ずず、、、ぼそぼそ、ぼろぼろ―――、、、っと。
「―――土に、、、」
彼奴は土に還っていく。『日下修孝石人形』を構成していた石や土、それに戻り、還っていくんだ。まるで朽ちて崩れ落ちるように『日下修孝石人形』の土石の身体が、元のただの土石へと還っていく。
人でもないし、動物でもない。生き物ですらないのに、ミントがその土石魔法で造り出した『日下修孝石人形』は。俺が喜び勇んで生き物でもない魔力で動く土石の石人形を倒しただけなのに、でも、、、なんでだろ―――『日下修孝石人形』の最期はちょっと物悲しい。俺が斬り伏せたというのに、、、。俺は『日下修孝石人形』に勝ったというのに。
「お見事ですケンタさま」
っ、っと俺は声の主に顔を向けた。
「ミント、、、うん」
「―――」
すっ、っと腰を折り、ぺこりっ、っと頭を下げて礼をしたミント。彼女を視れば、すぅっと、先ほどの『日下修孝石人形』を足らしめていた黄金の魔力は元の持ち主であるミントに還っていっている途中だ。全ての魔力が彼女自身に還っていくわけじゃないみたいだけど、、、。
すっ、っと顔を元に戻したミントは口を開く。
「気分はいかがですか?ケンタさま」
ミントにそう訊かれて、、、。
「、、、ちょっと―――寂しいかな」
憐れに思う。あの日下 修孝を土石魔法で準えた『日下修孝石人形』のその最期を見てしまうと、俺はそう思ってしまった。
「寂しい?ですか?ケンタさま」
きょとん、っとミントがそんな顔を俺に見せるものだから。
「ううん、なんでもないよミント」
「はぁ・・・?」
首を傾げるミント。やっぱり俺は本心をミントに言うのはやめておいた。『日下修孝石人形』はミントの土石魔法の産物だった。人でも動物でもない、ただの魔法の石だってば。だから、
今はそんな物悲しい気分は忘れて勝利の余韻に浸ろうか。
「・・・あとは心地いい疲れ、、、かな」
ほんとに、それは、、、もう―――。とにかく疲れた。でもその疲れは、『身体がだるくて重くて倦怠感を覚えるひどい疲れ』じゃなくて、『やり切った達成感を覚えるすがすがしい疲れ』だ。
俺がこの全身に覚えるのはそんな疲れ。
「では、ケンタさまマナ=アフィーナの果実を―――」
「ありがとうミント」
俺はミントから回復効果のあるマナ=アフィーナの果実を受け取ったんだ―――。
///
ぱたんっ、っと扉を閉めた。
「・・・」
その日の夜。アイナの館の大浴場から自分の部屋に戻ってきたときのことだ。
「っと」
俺は寝台の上に腰を掛けて、、、掛け布団の上に置いていた電話を手に取り―――、
「ん?」
新着? 俺は新着のお報せ表示があった『通信魔法』のアイコンを開く。おっ、アイナからだ。
えっと―――なになに・・・、、、
「―――」
次の日の朝だ。館のいつものミントとの待ち合わせ場所で俺達は落ち合い、森へと向かう道すがら俺はミントに話を振った。
今日も晴れてるよなぁ、とか朝食のナンは小麦のいい匂いでおいしかったなぁ、なんて話題が尽きたこともある。
「なんか中々決まらない議題があるみたいでアイナ、あと二、三日は経かりそうだって。だからまだここに戻ってこれそうにないみたい、ははっ」
「へぇ、あと二、三日延びたのですか、・・・アイナさまは」
「うん、アイナが言う中々決まらない議題ってさ、『もうっ私のお祖父さまったら『雷基理』がある天雷山は危ない場所だから孫娘の願いであっても、と中々聞き届けてくれなくて』だってさ。『私はもう子どもじゃないんですよっ』って最後に結んでた、はは」
「あぁ・・・なんとなくそれ私も分かります、私のお祖母さまもそうでしたから、ふふっ♪」
ミントはかわいくでもやや呆れたような笑顔を見せた。
「そうなんだ、ミントも」
「はい、ケンタさま」
「―――、」
実はちょっと疑問に思ったことがあるんだ。
昨日、アイナは忙しそう、、、と言うかたぶん時間がないとも思ってさ。そのとき俺は通信魔法で訊き返さなかったんだ。
ふとした疑問、それは今も感じている。
そうだミントならなんて言うかな?訊いてみるか。
「なぁミント―――」
「はい、ケンタさま」
「これを、さ―――」
ミントの注意を引けたところで俺は道着の衣嚢に入っている電話を取り出して画面を認証。画面を上にして・・・つまり俺は画面を見ながら、、、指でちょんっ、っと。
「ケンタさま?」
「うん、ちょっと待ってな」
「はい」
えっと・・・、っと俺は『通信魔法』を開いて、受信のアイコンの『アイナ』と―――、順々に指で画面をタッチしながら開いていく。
「これこれ―――」
俺はアイナから届いた通信魔法を開いて、その全文を表示させたまま、その文面をミントに見せた。
ひょいっと、手の平で持った俺の電話をミントは覗き込む。
「―――わっ、これはアイナさまからの通信魔法じゃないですか!! 私みたいな一介の給仕が見ていいものじゃないですってば!!」
そこは給仕を主張するんだなミントは。
「うん、まぁそうかもしれないけど、俺が見てほしいのはアイナの通信魔法の『内容』じゃなくて―――」
右手で電話を持ちながら、空いた左手の人差し指で俺は、『そこ』をなぞるように指差す。
「―――ここ、これ変じゃないか?」
俺が左手の人差し指でなぞるそこは―――、
「どこかですか?ケンタさま」
きょとん、っとミントちゃん。あれ?ミントはなにも疑問に思わないのか?
「ここ、ここ―――」
俺が左人差し指で差すアイナからの文面の箇所。そこの単語は雷切じゃなくて『雷基理』になっているんだよ、アイナからの通信魔法では。
これが一つだけだったら『あ~、間違いだな』になるんだけど、これは単なる間違いじゃない、、、と俺は思う。なぜならアイナからの返信通信魔法は全部の『雷切』の単語が『雷基理』になっているから。
アイナにこのことを訊き返すのを俺が躊躇ったのは、これは間違いなのか、それともアイナが打った皇国文字の文字化けのようなものなのか、俺には判断がつかなったからだ。
「ん?えっとケンタさま『雷基理』がですか?」
「うん、普通は『雷』に『切る』って書かないか?」
日本では普通に名刀の銘を聞いて、素直に考えるなら『らいきり』と読むのは『雷切』だ。
「??」
でもミントは『ん??』っと、彼女のその表情は、きょとんとしていて―――。