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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十八ノ巻
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第百九十三話 背筋が寒くなる。これが、いやな汗が俺の背筋を、背中を伝うということか、、、

 己と向き合う、、、だと。それもいいかもしれない。

「っ」

 俺が自分自身と戦い。まだ俺が気づいていないことに気づけるかもしれない。

「、でも私は、やはりケンタさまが選ぶのは『先見のクロノス』だと思っていました」

「え・・・、」


第百九十三話 背筋が寒くなる。これが、いやな汗が俺の背筋を、背中を伝うということか、、、


「やはりその通りケンタさまが手に取ったのはクロノスの瓶でした、っ」

 にこりっとミントは。

 どういうことだ?俺がクロノス=日下 修孝を選ぶのが分かっていたかのような、口振りのミントだ。

「ん? 俺がクロノスの瓶を選ぶのが分かっていた? ミント?どういうこと」

「ね?ケンタさま。私の故郷魔法王国イルシオンでは『強い魔力を持つ者同士はひかれ合う』とよく言います、えぇそれはことわざのようにっ♪ でも、私は強い剣士と強い剣士もお互いにひかれ合うとそう思っておりますわっ♪」

 なるほど。ミントの言うことは一理あるかもしれない。ひょっとしたら俺がこうしてミントと出会ったのも―――、、、。

「―――」

「ひかれ合うのは敵か味方の違いはあれど―――、良し悪しの縁でも、ですわ・・・っ」

 ふと思い出すのは、俺がこの『五世界』にやってきたときのこと。あの街でアイナとアターシャと出会い―――、そしてかつての友結城 魁斗。

「っつ」

 なんで魁斗が『黯黒の破戒者黯き天王カイト』っていう大層な通り名で呼ばれていたのか、意味が分からない。あのおとなしかったあいつが。

 それも含めて、

「そう、だなミント」

 俺が出会った奴はそれだけじゃない。廃砦では『炎騎士グランディフェル』と―――、そして今俺の目の前にいる石人形のオリジナル『先見のクロノス』こと日下 修孝だ。今から俺はこのクロノスゴーレム、、、なんか語呂が悪いな。そうだ『日下修孝石人形(クロノ=ゴーレム)』と言おう。語呂も語感もばっちりだ。

 俺は今から『日下修孝石人形(クロノ=ゴーレム)』戦う!!

「では、そろそろケンタさま―――」

 ついに来たか。こくりっ、っと俺は肯く。そして、

「あぁ・・・っ!!」

 俺は力強く意志の籠った声で宣言。どこまで俺の小剱の剱技が日下 修孝クロノスを(かたど)ったこいつに通用するかも確かめる!!確かめたいっ!!

 本当に、

『―――』

 こいつ本人そっくりだ!! その精巧な無表情、きつい眼差し、ぴりっとした雰囲気―――。

「こいつは・・・!!」

 クロノスを準えたゴーレムは無言で俺へとその意識を向けたような気がした。なんとなく『そんな意志』を俺は、このクロノスの髪の毛が混入したゴーレムから感じ取ったんだ。

『―――ッツ』

 ザッ、っと『日下修孝石人形』がその構えを取る!!

「ッツ!!!?」

 なにッこいつも抜刀術なのか!? 『日下修孝石人形』のその構えは、、、俺には、俺にとっては有り触れたほんとに身近に存在しているものだ。

 じゃあオリジナルの日下 修孝も抜刀術の使い手、だということか!? 祖父ちゃんの夜話ではそんな、日下 修孝が抜刀術を使うなんていうことは出てこなかった。それに、野添さんも日下家に伝わるのは、日下流剣術としか言ってなかった。

「―――・・・」

 もし、日下 修孝も俺と同じ抜刀術の使い手ならば、、、ぶんぶん、っと俺は頭を振る。今は目の前の『日下修孝石人形』に意識を集中させろ!!

 彼『日下修孝石人形』は、俺の眼前で数歩の距離を保ち、

『―――』

 腰を落とし、左手を、腰に差した準『霧雨』の下緒に添えるように持ち、その右手は同じく柄を握る。そして、右脚を半歩前やや斜に構え―――、弧を描くように『日下修孝石人形』の右腕が撓る!!

『ッツ』

 『日下修孝石人形』の右腕が撓り、その準『霧雨』がまるで飛んでくるかのような鋭い鋩が俺へと迫る!! その弧を描く斬撃の角度から視て、奴は俺の頸を狙ってきた!!

 斬―――ッ

「っッ!!問答無用かよ・・・ッ!!」

 ダンッタタタタッ、っと俺は咄嗟の判断で『日下修孝石人形』の間合いから後ろへ跳び退る。

 バッ、っと俺は反射的に頸元を手で押さえた。

「、、、―――っ」

 ちゃんと繋がってる、、、。紅い俺の血も出ていない、、、。

 それでも、、、自身の右手、その手の平を見つめる俺の視線は近い、両目を手前に寄せた自分のすぐ頸の前だ。

 ひゅっ、っとさっき、俺の頸元を『日下修孝石人形』が鞘より抜き放った準『霧雨』の鋭い鋩が弧を描いて通っていった―――。

 ずぞぞぞぞ―――、

「―――、、、っ」

 寒い、背筋が寒くなる。もうちょっと、、、跳び躱した距離が短かったら―――、俺の頸が斬られていた―――、、、っ。日下 修孝に斬られた俺の首と胴は生き別れ、、、て、ころころころと、俺の首が地面を転がっていく。そんな嫌な想像をしてしまう。

「―――っ」

 ゆるゆる、っと手を下ろし、、、ごきゅ・・・っと俺は唾液を嚥下した。

『―――』

 キンっ、っと『日下修孝石人形』は、ミントの土石魔法で造り上げられたセラミック化か、もしくはサーメット化した準『霧雨』を鞘に納刀した。

「っつ」

 やばかった、危なかった、、、本当にもう少しで頸と胴が生き別れになるところだった、、、。

 あのときあの廃砦で観た日下 修孝=クロノスの得物『霧雨』は太刀だった。だから今のこのあいつを準えた『日下修孝石人形』もそれ『霧雨』を模した太刀だ。『一颯(いぶき)』や野添さんの『雨水』は打刀。太刀は打刀よりも長大な代物だ。太刀なんて、太刀を得物の奴と戦ったことがないから、どうしても間合いを見極めるのが難しくて、俺の調子が狂ってしまう。

 俺は太刀を使った相手とやり合ったことなんてないぞ。間合いを見誤ったらそこで終わりだ、斬られる―――っ。

「―――、、、」

 それにしても日下修孝のやつ、よくもあんな長大な太刀『霧雨』で抜刀術をやっていられるよな。そこだけはすごいと思う日下のやつを。

 抜刀術は一対一で、最速の業で相手を斬り伏せるのが神髄の剣術だ。この『日下修孝石人形』は平気で俺に斬りかかってきた。こいつは本人日下 修孝=先見のクロノスをミントの土石魔法で精巧に模したもの。きっと日下 修孝本人もこんな戦いをしているんだろう。一方的に不意討ちで斬り殺す、、、果たしてそれが『戦い』なんてもので(くく)られるのかは分からないけれど。そうだ、そう言えばあのときあの廃砦で―――、

 魁斗、そして日下 修孝と、

「―――っ」

 俺はあのときのやり取りをまざまざと思い出す。


『どうだ?『転移者』よ。素晴らしい『日之太刀』だろう?この『霧雨』は』

『は、はい・・・』

 あのときの俺は、その日下 修孝が抜いた刀『霧雨』とそれの使い手である日下 修孝の気迫にすっかりと()てられていたっけ―――。


『ちょっ・・・っ!! クロノス義兄さんっ、ダメだってっ、健太は僕の友達だよっ、斬らないでねっ・・・!!』

『『斬らないでくれ』?ふむ、魁斗お前はなにか勘違いしているようだ。まぁ、よいか。それより遅かったな、魁斗。いつの間にか俺のほうがお前の脚を抜かしていたようだ』

『魁斗よ』

『なに?クロノス義兄さん?』

『銀の甲冑ということは、グランディフェルもこの廃砦へ向かっているのか?』

『うん、そうだよクロノス義兄さん。だってクロノス義兄さんってすぐに刀を抜くでしょ? 健太を斬りそうでちょっと心配だったからね、僕がさっき呼んでおいたんだよ、グラン義兄さんも』

『魁斗よ、一つ言っておく。俺は『仲間』には刀は抜かん』

『それ冗談だってば、クロノス義兄さん』


「っ」

 あのとき魁斗が言っていた『クロノス義兄さんってすぐに刀を抜くでしょ?』というあの言葉。俺はあれを聞いて、日下 修孝とは辻斬りのように相手を待ち伏せて抜刀術で人を斬り殺すってそんなイメージを持った。それと祖父ちゃんの夜話であった戦闘機のパイロットを斬り殺していた若き日の日下 修孝―――。

 ざッ、っと、またすぐに抜刀術の構えを取る『日下修孝石人形』。

『―――』

 俺も自身の小剱流の構えを取る、

「―――」

 そんな俺達は互いに得物を構えて互いに睨みあう。もちろん相手は石人形だから精巧に造られているもののその両眼はただの粘土か石膏で造った、造形美に近い。

「―――っ」

 このゴーレムは日下修孝を準え模したものだ。日下修孝のオリジナルの『先見/先読み』の異能もこの『日下修孝石人形』は使えるのだろうか。

 ゆらぁり・・・。

『・・・』

 『日下修孝石人形』が動く!!

「っ!!」

 来るか!! 来たか!? あれ?『日下修孝石人形』はその体躯をやや僅かに右に傾けただけだった。なにも来ない、抜刀はない。動いたからきっと準『霧雨』を抜いてくると思ったのに来なかった、『日下修孝石人形』は太刀を抜刀しなかった。

 っつ、フェイント。ただの『日下修孝石人形』の見せかけか。

「―――っ」

 じりじり、じりじり、、、―――俺達は僅かずつ、その足を擦るように位置を変え、体勢を変え、長時間柄と鞘を握る右手と左手が痺れるように疲れてくる。俺から斬りかかるのは、、、いや長大な太刀を持つ相手『日下修孝石人形』から見れば『大地の剱』は準『霧雨』よりも短い得物だ。だから躊躇して、どうしても先手を『日下修孝石人形』に取られてしまう。

 間合いは向こうの『日下修孝石人形』ほうが有利、つまり準『霧雨』のほうが斬撃範囲が広いってことだ。

「―――」

 いやな汗が俺の背筋を、背中を伝う。ちょうど凹んだ背骨を上から下へと伝うのがその感触で判った。

『・・・』

 くくっ、っとその鞘を持つ奴の左手が動く。

 っつまた見せかけか?

「―――っ」

 来るか―――!? 『日下修孝石人形(クロノ=ゴーレム)』の鞘にある左手がくくっと僅かに縦に動く―――。

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