第百九十話 さ、続きを始めましょうかっ♪
そのときミントは半歩足を出して、彼女のほうからわざと俺の『大地の剱』の柄頭に当たりにきた。
「くふふふっケンタさま―――くすくすっ♪」
そのとき手に覚えた感覚は生身のものではない。金属か陶器のような堅い感触だ。堅いっていっても、身体の堅さやゴムのような堅さなんかじゃなくて―――ほんとに硬い感触だったんだ―――。
第百九十話 さ、続きを始めましょうかっ♪
「ミント、それは」
「じゃーん!!見てみてケンタさまっ。私の土石魔法で作り上げた、防弾防刃衣ですよっ・・・くすくすっ♪」
防弾防刃衣だと? ボディーアーマーのようなものか!!
「っつ」
そんなミントは嬉々としている。
「私達魔法の民はこうして術者も防御魔術を仕込んで戦うのが基本なんです、ケンタさま。魔法が破られて術者がやられてしまっては元も子もありませんから―――っ♪」
なるほど。
「なるほどな・・・」
でも、勝てたと思っていた俺として、ちょっと心情的には、もやっとする。
「ケンタさま、私を見てください」
その言葉に俺はミントを注視する。
「ん?」
するとミントは魔導書を持った右手で器用に自分のその外套の下の燻された黄土色のような服を捲り揚げ、
「ちらっ―――っ♪」
かわいく『ちらっ』っなんてミントちゃん。
空いた左手でその黄土色のさらに下の服を俺に見せつけるように、よっと、ぴらっ、っと上のほう、ミントは下の服を自身の胸よりも上に捲り上げた。
「おわっミント!!おい見えるっ、見えるてばっ」
「おやぁなにが見えるんですかぁ?そんな慌ててぇ?ケンタさまぁ~~~っ♪」
にやにや、ミントちゃんにやにや。
じぃ、、、俺は見る。―――あれ?下着じゃない。その服の下は下着でも柔らかそうな素肌でもない。
あ、残念―――なんて微塵も思っていないよ?俺は。
「・・・」
そこに、あったものは
ミントが外套の下をはだけさせて、その下を俺に見せると、見せてくれると・・・。暗色の、なんだろ昔の、特にヨーロッパのかな。世界史の資料集に出てくるような軽鎧を着込んだ兵士と同じのようなものを着込んでいた。ミントはそれらの兵士か騎士と同じような格好をしていたということだ。
ミントは上着の下にセラミックかサーメットでできた小さな板が張り合わされた鱗のような防衣を着込んでいたんだ。
「まぁ、こんな感じの防衣ですケンタさま、地属性の私は。剣士とやり合うんだもん、そりゃ対策立てないとねっ♪ もしケンタさまが私以外の魔法の民と戦うことがあったら間違いなくこれくらいの対策はしてくると思いますよ? ふふっくすくすっ」
魔法の民と戦うことがあれば、、、か。一瞬―――俺の脳裏に浮かんだのはあの街の生ける屍の、、、。『屍術師ロベリア』―――、もし戦うことがあれば、な。
「―――なるほど」
ミントがつけてくれる特訓は勉強になる。
「これなんですけどね、ケンタさま。見ててくださいね」
ミントは一枚。自分が着込んでいる防衣の、その鱗のような一枚を指で摘まんだ。くにくに、くにくに。
「あれ?柔らかいの?ミント」
くにくにっとミントは指でその鱗を縦に、まるで十円玉を指で挟むように摘まむのと同じ持ち方で摘まめば、それはまるで、かまぼこかちくわを摘まんだようにくにくにと鱗は曲がる。
「ふふっ、柔らかいですよね?ケンタさま♪」
ミントの様子を見た限り、その防衣に使われている鱗状の小さな板、、、硬貨を繋ぎ合わせたようにも見えなくはないものだ、その鱗の一枚。
「うん」
「では今度ケンタさまがミントがしたのと同じように触ってみてくださいな♪」
「分かった」
俺は手を伸ばし、ミントの防衣の鱗の一枚を指で摘まむように手に取った。
よじっ、っミントが少し身体を捩る。
「触っちゃいやんっケンタさまっ♪」
ミントがこういう反応をしてくるのは想定内だ。ったく、くすぐってやろうかな。
「はいはい」
だから適当に彼女をあしらう。
「ぶー、ノリわるい!! ケンタさまぶーぶーっなにも解ってないぜぇ!!」
「はいはい、ミントちゃんはかわいいね。 、、、それよりも、―――硬い?」
そんなことよりも、訂正ミントに対してそんなこととは思わないけれど、それよりも俺が縦に摘まんだ鱗はまるで硬貨のように硬かった。その鱗の大きさと厚さは五百円硬貨ほどの大きさだ。
「はい、そうですね。魔導理論上、普通の銃弾や刃なら完璧に防御できますよっ♪」
まじか。それはすごい!!
「へぇ・・・!!」
斬撃の刃ならともかく銃弾も!? こんなにも薄いのに、この鱗。
「ただ―――」
ただ―――、っとミントが言うには、アニムスを纏った武器、、、例えば氣導銃などそのような武器が相手ではやや耐久力が劣るらしい。でも、自分のアニムス強度よりも相手のほうが劣っていた場合はまず問題ないそうだ。
「さ、続きを始めましょうかっ♪ケンタさまっ」
結局勝ち負けなんかはうやむやになった。別にミントがつけてくれる俺の特訓だし、勝ち負けなんか関係ないしな。
「おうっよろしくな、ミント」
「剱技ではなく今度こそ『大地の剱』で魔法を行使してくださいね」
お、おふぅ―――、なんかそれは難題。
「難題だぁ―――」
はぁっ、っと俺はちょっとため息。
「肩の力を抜いて、こう―――自然体で自分の意志のまま、思うが儘に、ですわケンタさまっ、、、ふふっ」
だからそれが難しいんだって。
「うん・・・」
「先ほどの砂刃の斬撃を思い出してくださいなケンタさま。あれは私の魔法とケンタさまの氣の斬撃を組み合わせた土石魔法の刃―――」
あれか、『抜刀式二連刃』で放った砂の刃。
「・・・・・・」
「―――私達魔法の民は自身のマナを、もしくは大気中に在るマナを取り込み、魔導書を媒体に詠唱することで魔法を発動させます。マナと魔導書と魔導理論と想像力と意志。マナを用いて頭の中に思い描いた『そのかたち』を具現化するものが魔法」
そんな簡単に言われても、、、。
「・・・っ」
「ケンタさま。マナはあります、ほらそこに。魔導書の代わりはその『大地の剱』。想像力と意志はケンタさまには当然ありますわよね? そして最後の魔導理論なんて頭でっかち達がギムナジウムで専攻する頭でっかち論で今は必要ないものですわケンタさま。さぁ、今度こそミントの『大地の剱』を媒体に、土石魔法を行使してくださいませ。それができないのなら、ミントの『大地の剱』でさえ遣い熟せないのなら、『雷基理』なんて到底扱えませんよケンタさまっ、くすくすっ♪ 苦労して天雷山の頂上まで登って『雷基理』を抜けませんでしたぁ、なんて話になりませんわっ、くすくすっ♪」
ミントは早口でまくし立てるように言った。俺は『雷切』なんて到底扱えないってか―――、このミントの『大地の剱』を遣い熟せないというのなら。
だったら―――、
「―――ッツ」
―――いいぜ、やってやる。俺はお前の『大地の剱』をぜってぇ遣い熟してやるよ、ミントっ!!
「くすくすっ・・・いい顔になりましたわケンタさまっ♪ ふふっくすくすっ―――私の期待を裏切らないでくださいましね五世界の英雄『あまねく視通す剱王さま』くすくすっ♪」
「・・・」
どーでもいいけど無駄に俺を挑発してくるよな、ミントのやつ。ま、俺に発破をかけるために挑発してくるんだろうけどな。
そうだ、じゃあ俺だって、俺も一つミントに言ってやるか。
「あぁ・・・、俺はきみの期待を裏切るつもりはないさ、ミントいや、、、アネモネ、アネモネ=レギーナ・ディ・イルシオンだったっけ?きみの真名は」
「あら、ケンタさま。ふふっくすくすっ♪」
俺の見るかぎりミントは『笑み』しか読み取れない表情で薄く笑った。その笑顔の仮面のような顔で、彼女の真意は読めない。
かこん、くくっ、ぐぐっ、っと
「ッ!!」
俺の背後で石同士がかち合い、擦れる音 バッ、っと俺がその気配を感じて振り返れば、やっぱりその音の主はミントのゴーレムだ。
『―――』
物言わぬゴーレムはその土石でできた剛腕を構えていた。当然その剛腕は俺を向いている。
「ケンタさまいきますわ。今度こそ『大地の剱』より土石魔法を行使してくださいませ」
さっきとは違って真面目なミントの声。相対するゴーレムを注視しているから、ミントを見られないけれど、たぶんミントは真面目モードになったんだろう。
「あぁ・・・!!」
だから俺も真面目にミントに向き合わなきゃ!! いくぞ、ミント・・・っつ!!
「『解呪』」
解呪? 魔法を解いたってこと? ミントは『解呪』と言った。
「??」
ぴし、ぴしぴしっ―――、
「!!」
驚いた、ミントのゴーレムの右の剛腕の『石刃』に罅が入ったかと思ったら、それはばらばらに砕けて、ぱらぱらっ、っと土と小石に還って地面に落ちた。
そして、そのゴーレムの剛腕は『石刃』になる前の普通の拳に―――、、、
「マナよ―――、・・・、・・・、、、」
「なにッ!!」
ミントが口の中でぶつぶつなにかを呟いた、その瞬間だ。ミントの魔導書から出でた黄金色のミントのマナは靄のようになり、ゴーレムの右の剛腕に纏わりついた。
「くすくすっ♪」
ぱちんっ、っとミントが指を鳴らすと、黄金色に光るミントのマナが霧散する。そのおかげでようやく俺にも、ゴーレムがどのように変化したのか見て取れた。
マジか!! マジなのか!? そのゴーレムの腕が剣から―――
「大砲っ!?」
ゴーレムの右の剛腕が筒状になって、その真ん中には黒い穴が開いている。そうまるで大砲か大筒のような形状で、その丸い黒い穴。砲口だ、それは。俺を殺す気か。俺を追い詰めて真の実力を引き出そうとするのは解るけど、それはありがたいけど、明らかやり過ぎだよな?これ―――。