表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十八ノ巻
189/460

第百八十九話 ゴーレム戦 二

 ギャリンッ―――ツ!!

「な・・・ッツ!?」

 な、なんだと? 『大地の剱』が跳ね返された!? 弧を描く斬撃に沿って火花が散って・・・!!

 しかも、なんだか反発するようなそんな手応えを右手に感じた。『大地の剱』の柄を握っている右手にだ。こうなんか、堅い石か、なにかそういう物を金槌で叩いてカンッ、っと反動で跳ね返ってくるようなそんな感覚に近い―――。


第百八十九話 ゴーレム戦 二


 硬い―――!!

「ッツ」

 鉈を使って木を割り、薪を作るようなときに手に感じる、刃が『入る』『進む』のようなそんな感覚ではない。

「ふふっふふふっ―――ケンタさま・・・くすくすっ♪」

 ミントが笑う。

「ミント・・・!!」

「ふふっくすくすっ♪」

 ゴーレムの後ろに佇むミントがその左手に自身の魔導書を持ったまま薄く、、、しかもなんでだよ。その笑みは人懐っこいものなんかじゃなくて、なんて言ったらいいんだろう余裕の笑みに分類される笑みだ。

 その、俺の『大地の剱(エグエアーデ)』の一斬を弾いたゴーレムの右腕とは反対側の左腕のほうが迫る―――。

「くっ―――」

 左腕の一撃を間一髪で避け、、、ぼごっ、っとその左腕も地面に突き刺さる!! その一方で先行の右拳が地面より、ぼごっ、っと引き抜かれる。

 ―――ぱらぱら・・・っとその岩の拳から砕かれた石の破片が地面に落ちる―――、ゴーレムが先に地面に刺さったその右の剛腕を勢いよく地面より抜き去ったからだ。

『―――』

 すでにゴーレムの身の丈どれぐらいになっているだろう・・・。俺が見上げるほどだから、七尺つまり二メートル以上はあると思う。さっきまでは本当に三尺(一メートル)もなかったのに―――、っつ。

「っつ」

「あぁ、もっとですもっともっとです、ケンタさま。私がケンタさまをもっと追いこんだら、ケンタさまは私に素晴らしい光景をお見せしてくれるのでしょうか? ・・・くすくすっ♪」

 俺をもっともっと追いこんだら、、、だと? ったく、愉しいそうに言いやがってミントのやつ。

「・・・ミント」

「ふふふふ・・・っ♪」

 俺を追い込んで素晴らしい光景を見てみたいって、きみはいったいなにが目的なんだ?それにヤバいぞ、ミントその恍惚に満ちた表情は。ミントはドSか?

「!!」

 やば!! そんなことを悶々と考えている暇はない!! だってミントの左手に持つ魔導書にマナが、その光が点ったから。

 魔法詠唱だ。ミントのやつまたなにか魔法を仕掛けてくるぞ!!

「ケンタさまは魔法の民と戦うのは初めてですね? 魔法の重ねがけ、こんなこともできるんですよ、ケンタさまふふふっ。アネモネ=レギーナ・ディ・イルシオンが命じるマナよ、ゴーレム兵の右腕は刃となれ―――『石刃』」

「石の刃だと!!」

「はいっケンタさま♪」

 っつ楽しそうにしやがってミントのやつ。ミントがその左手に持つ魔導書が彼女の黄金色のマナの眩い輝きを放つ!! すると、魔導書から光る気体の形状になったミントのマナがゴーレムのその岩の右腕に纏わりつく!!

「ッ!!」

 そういうことか!! ゴーレム兵の右腕が黄金色のミントのマナに包まれたかと思ったら、その岩の腕の上腕部が、まるで剣の姿へと再構築されていく。『剣』と言ってもその形は『剣』のような姿じゃない。むしろその姿は―――魚を捌く出刃包丁に近い。

「忘れたんですかぁケンタさま?昨日貴方が放ったあの『砂の氣刃』を―――、くすくすっ、それを忘れたのなら、ぜーったいにこのミントちゃんには勝てないですよっ?ケンタさま。くすくすっ♪」

 ・・・。氣を纏った『砂刃』―――、なるほどな。昨日のあれか。

「・・・なるほど」

「くふふふっ―――さぁ、行けッゴーレム兵っ、フルボッコだっ!! ケンタさまをぎったんぎったんだーっ♪」

 いぇーい!!みたいなそんなノリのミントだ。いや、ミントの本名は『アネモネ』か。きっと魔法詠唱のときはずっと『アネモネ=レギーナ・ディ・イルシオン』とそう言っていたんだし、なによりも花畑での一件もあった。風の花、ボタンイチゲ、アネモネ。誕生日は四月六日と言っていたミント。そんな彼女だ、きっとミントの本名は、真名は『アネモネ』だ。

 ふと思う。でも、その石刃でどう俺をフルボッコにしてくれるんだろう?

 チャ―――っ、っと俺は『大地の剱』を構えた。その鋩はゴーレムを向けている。

「ったく」

 フルボッコよりもむしろそのゴーレムの右手の石刃で『細切れ』が正しいように思う。細切れにされるのは断固お断りだけどな!!

 彼女はなんで自分自身のことを『ミント』と名乗っているのかは判らないけれど。ミント本人に訊いてみるのもいいかもしれない、でも本人がわざわざアネモネという本名を隠しているんだ。ミントがその理由を俺に教えてくれるかは微妙なとこだろうな。

『・・・っ』

 ブンっと横薙ぎに振るわれたゴーレムの右の剛腕を―――、

「―――っと」

 タタっ、っと後ろに跳んで回避。続けて切り返された右腕の石刃も、その斬道を『先眼』を行使して先読み、視得たものでなんなく回避する。

「避けてばかりじゃ私には勝てませんよケンタさま♪」

 いや違うな。俺の狙いはそこじゃない。ゴーレムの右の剛腕の石刃を避けつつ、俺は勝機を伺っているんだ。それもとびっきりのやつをな・・・!!

「避けたばかりじゃ勝てないか。そうだな、ミント。じゃあ俺は、どうしようかな―――」

 ニヤリも、してやったりな表情も、俺はそんなミントに自身の真意を悟られるような顔を一切(かお)には出さない。それは心の中だけで思うだけで充分だ。

「くふふっ♪」

 ミントが含み笑いの笑みをこぼし、、、そのミントのゴーレムが、まるで人のような動作でその体躯を(よじ)る。左の剛腕を肩の後ろで引き絞ったということだ。改めて思うことだが、そのゴーレムは、ミントの意志を反映しているんだな、って。

 そしてゴーレムが繰り出してくるのは、たぶん左の剛腕のパンチだ。きっととんでもない威力の岩の正拳突き、超重量級の、しかも岩だから堅い。すでに俺よりもずっとずっと背が高く大きくなったゴーレムによる振り落とされる大岩のような強烈な岩拳。人間なんて当たったら一たまりもないだろうな。

 ゴ―――ッ

 きた―――!!

「!!」

 ほら案の定、引き絞られた左肩より、その左の剛腕は上から斜め下に俺に向かって降ってくる!!

「―――」

 一か八か。こんなところで生死を分けるような選択をするのは違うとは思う。でも、ぜってぇミントには吠え面をかかせてやる!! 一泡吹かせてやる。

 ダンッ、っと俺は地を蹴る。向かう先は目の前の岩壁のようなゴーレム!! タンッぴょんっと地面すれすれでゴーレムの左の岩の剛腕に飛び移った俺はそのまま石の坂道のような剛腕を駆け上がる。その直後、ドカンッ、っと地を震わすような強い衝撃。ゴーレムの振り下ろされた左の剛腕が地面を砕いたんだ。

 その衝撃を諸共せず、、、タンっタタンっと、俺はゴーレムの岩の左腕を一気に駆け上がる!!

「―――っ!!」

「―――ミント!!」

 一歩、二歩、三歩―――ほらもうゴーレムの肩口だ。

 さすがのミントも俺の行動は予想外だったようだ、ミントのその表情で解る。ミントは驚いたように目を見開いたから。

「ケっ、ケンタさま―――ッツ!!」

 ひゅっ―――ダンッ、っと俺はゴーレムの肩口、その岩の背中から地面に飛び降りる。

「じゃあ、勝つためには術者を叩くまでだ。違うか―――ミント」

 あのとき、あの生ける屍の徘徊するあの街で、あの魁斗は俺に言った―――、


『先に術者を見つけて倒しておけばよかったよ・・・ッ!!』

 あのバカ魁斗は、筒状の火炎放射器を構えて悔しそうな顔を作りやがって、俺に『術者』とこぼしたんだ。全部あいつ自身が造り出した状況下で、あいつ結城 魁斗は俺に。

『術者?』

 あのとき俺の問いに魁斗は。

『うん。『屍術』の魔法だよ。イルシオン王国では禁忌の魔法に指定されててさ。たぶん、その術者―――屍術師がどこかでこの屍兵達を操っているに違いないよ・・・!!』

 その屍術師ロベリアはあの街の尖塔にいて生ける屍から逃げ回る俺を見ていたに違いない。


 術者を先に倒す。―――だから、この場合もそれが当て嵌まるよな、ミント。


「ケンタさま・・・、~~~っつ」

 くぅっ、っと悔しそうな顔のミント。図星だ。

 俺を本気でやろうしたミントにはお仕置きだ。『大地の剱』で斬るわけでも、その鎬で峰打ちにするのでもない。

「俺の勝ちだ、ミント―――」

 くるっ、っと俺は器用に右手に持つ『大地の剱』を反転させた。柄でちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、ちょんっとするだけだ。

「そ、そんなっ、ちょっと待ってくださいぃケンタさまぁ~私―――」

 その泣き言は聞いてやらない。

 どすっ、なんてそんな本気ではしない。ミントは俺を鍛えようとしてくれているんだし、でもちょっとだけ、ほんのちょっとだけ。

 ほんの先っちょだけだから―――、ほんの先っちょだけならミントにやってもいいよな?

 寸止めの、僅か数ミリ伸ばしたところ。柄頭が触れるか触れないかで止めておいてやるか。

「小剱流打突頭。、、、っ!?」

 ちょんっ、っと、俺はミントのその鳩尾を、触れるか触れないかで。柄頭で―――、っつ!? こ、これは―――、この固い感触―――。

 そのときミントは半歩足を出して、彼女のほうからわざと俺の『大地の剱』の柄頭に当たりにきた。

「くふふふっケンタさま―――くすくすっ♪」

 そのとき手に覚えた感覚は生身のものではない。金属か陶器のような堅い感触だ。堅いっていっても、身体の堅さやゴムのような堅さなんかじゃなくて―――ほんとに硬い感触だったんだ―――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ