第百八十七話 さ、私のゴーレムちゃんをさくっと倒してみてくださいな・・・っくすくす♪
「んっと―――マナが消える前にですっ」
えいっ、ミントは大根を抜くような動作で『大地の剱』を地面より抜く。ひょいっと。勢い余ったミントは一歩下がって、、、。
「わわわっ!?」
「おっと!! 大丈夫?ミント」
俺はミントの腕を支えて、こっちに引き戻してあげた。
第百八十七話 さ、私のゴーレムちゃんをさくっと倒してみてくださいな・・・っくすくす♪
「はい、ケンタさま、、、///っ」
ちょっと照れくさそうにはにかむミントをあまり意識しないように、俺はミントを支える手を解いた。
「なら、よかった」
俺はそんなミントをなるべく意識しないように、そのミントの腕に抱かれている一振りにだけ意識を向けた。
でも、ミントの顔を見ないようにする、というわけじゃなくてちゃんとミントの顔を見ながらおしゃべりな。
「どうぞ、ケンタさまっ♪ このミントちゃん、鞘がないとだめだめなケンタさまのために鞘を造ってあげましたよっ・・・くすくすっ♪」
もうミントの表情はいつもどおりで、ちょっといたずらっ気を含んだ笑顔だ。
「ありがとう、ミント―――」
俺はミントがよこしてくれる『大地の剱』を受け取り―――、やっぱりか。その見た目の質感から解っていた。
この『大地の剱』の鞘は『陶器』でできている。色は白磁のような白に黄土色が混じったような唐草模様が白い鞘に絡めく蔦のように入る。
そんな白鞘を触った質感はお茶碗か、それかタイルに近い。少し冷たい。それに木の鞘と違ってずしりと重い、鉄アレイのようにめちゃくちゃ重いっていう感じではないけれど。
かちん―――、刀でいうところの切羽とはばきを抜いて越え、、、すぅ―――っと俺は大地の剱を鞘より抜いていく。
日本刀と違って反りがない直刀のような『大地の剱』。しかもその剣身の幅は、日本刀の刀身よりも太い。
「鞘の具合はどうですか、ケンタさま?」
俺はいじりながら鞘の質感、その抜き心地、いろいろと確かめる。
「うん、ミント」
反りが入っていない分、滑らかな弧を描くような抜刀式を繰り出しにくいかもしれない。
「でも―――」
でも、『大地の剱』を抜くときに鞘の角度を、持つ角度を少し横にすれば、、、。一度『大地の剱』を鞘に納め、腰の位置に。
えっと鞘から抜くときの手の位置はこう、、、刀と違ってやや手を前に。よしっすんなりと抜ける。
「―――っ」
薙ぎ切り・・・。いやこれは―――。うん、いけるっ、これならっ。この鞘があれば『大地の剱』でも抜刀式を繰り出させる。
「おっなにか掴まれたようですね、ケンタさま」
鞘があれば抜刀術を、小剱流の抜刀式を打てる!!
「うん、ミント。これならいけるってさ。この鞘があれば―――」
「小剱流の抜刀式をできる、ですか? そのケンタさまの強い目を見れば、このミントでもそれが分かりましたよっ♪」
なんでミントが、それを!?
「ッ!?」
なによりも驚いたことがある。なんでミントは俺が抜刀術の使い手であることを知っているんだ? 俺はミントにそれを言った覚えはないはずだ。なのにミントは―――。
「ミントきみは、、、なんで俺が抜刀式を使うことを知っているんだ?」
「くすくすっ・・・、それはですね、ケンタさま・・・。ケンタさまが抜刀術の使い手だからですっ」
「―――」
俺が抜刀術の使い手だから? それをなんできみが知っているかを俺は訊いているんだぞ?
「だから私は『大地の剱』に『剱の伴侶』の魔法を掛けて鞘を精製したんですっ♪ ふふふっ―――、」
ミントはかわいく笑う。
「・・・答えになっていないよ、ミント」
もったいぶるように彼女は言葉を紡ぐ。
「―――ケンタさまが抜刀術をお使いになられるということは、もう誰でも知っていることですわっ♪ ね?あの『イデアル十二人会』の一角『黯き天王カイト』をお討ちになられた『あまねく見通す剱王』さま♪ くすくす・・・っ」
「―――ッツ」
なぜそれをミントが。なんで俺が、『イデアル』の魁斗を倒したことをミントが知っているんだ?
ミントの目的はなんだ? なんで俺に近づいたのかは、なんとなくその言葉で解った。俺が、この五世界の強者だったという魁斗『黯き天王カイト』を倒した、、、というか地球に転送したからだ。それをミントは知っていたからこそ俺に声を掛けたんだ、きっと。
「なにも驚くことではございませんわ、ケンタさま。先月、アイナさま肝いりで発布された『皇国創建記「外典」』―――にやにやっ」
あ・・・。それで解ってしまった。にやにや―――っ、ミントが俺を見ながらいやらしい笑みを浮かべる。
ミントの言った、アイナの肝いりで発布されたという『皇国創建記』の「外典」とやら・・・。
「・・・」
以前、そういえばアイナのやつ、、、。
『―――私は皇都の宮廷詩人達に、ケンタ貴方と黯き王『天王カイト』の凄まじい戦いを『皇国創建記』の末尾に加え、『あまねく視通す剱王の詩』の節で、それを後世に遺すように命じましたっ♪』
って嬉しそうに俺に。そう報告?してくれたっけ。
ミントちゃん、にやにや。
「―――『あまねく視通す剱王の詩』っ♪ その中で異世界より現れし英雄、すなわちケンタさまが『聖なる眼』の異能と抜刀術を駆使して、五世界の破壊と混沌を目論む黯黒の破戒者『黯き天王カイト』を圧倒していく様が、『それには』生き生きと描かれていますよっ、ふふふっ♪ とても劇的に躍動感たっぷりに描かれていて、思わず私も一気に読んでしまいましたぁ、ケンタさまっ♪くすくすっ」
「お、おう、、、」
「ケンタさまが屍者達を屍術の魔法で操る『屍術師』のロベリアを取り逃がしてしまうところ―――、もうミントは読んでいてとても悔しくてですねっ!!」
ぷんぷんっ、っとミントちゃん。ころころと表情を変えるミントがなんかかわいい。
「私、ケンタさまには絶対に『屍術師』を討ち取ってほしいと思っちゃいましたっ!!」
ぷんぷんっ、っと。
「そう、なんだ・・・っ///」
確かに尖塔にいた『屍術師ロベリア』だっけそいつを見たけど、戦ってはいないよな?
「それと、戦いだけじゃなくてですねっ―――♪ ケンタさまは黯に囚われた元皇国騎士に聖なる布を与えて、彼の騎士を諭し、改心させ―――」
グ、グランディフェル・・・か?聖なる布って、、、俺が使い古したどーでもいいハンカチをグランディフェルにあげたやつだよな・・・。
あせあせっ。
「―――・・・っ」
ミントちゃんの話はまだ続いているよ?
「―――姫の異世界での許嫁だったというところが証明され―――、だがしかぁしっ、ケンタさまを奪おうとする『黯き天王カイト』。彼はなんとぉ―――っ幼き日の自らとケンタさまの思い出は、姫さんよぉきみとケンタの関係は薄っぺらい紙切れのようなもんなのさぁ、っとカイトは姫に言い放ち~、なんとケンタさまは―――」
ちょっと芝居がかってないかな、ミントちゃん?
「あぁ、いや。も、もういいよミント・・・っ、ほんとにいいから。あそこでのアイナと魁斗のやりとりはなんか恥ずかしい―――っ///」
「『アイナ姫が好きだから俺は彼女と一緒にいるのだっ!! アイナ姫は恋人だっ、いい加減理解せよ、天王カイトっ!!』ってケンタさまは自身の―――」
「あー、あー、あー、あーっ、俺は聴こえませーんっあー、あー、あーっ」
「あー、あー、あー、アイナさま? アイナさま、好きですねぇケンタさま、くすくすっ♪」
俺はアイナが好きだってさミントちゃん。ここでそれは否定はしたくない。まぁ、俺の気持ちに偽りはないし。
「あ、いや、、、うんまぁ・・・」
「くすくすっ♪」
まぁ、俺はミントにいじられたというわけだ。
「さてっケンタさまそろそろ私と遊びましょうか・・・くすくすっ♪」
「遊ぶ?」
「えぇ、私のこの石人形ちゃんと、秘密の特訓ですわっ♪」
「っつ、、、ゴーレムと―――」
「―――えぇ、ケンタさま。私の三体の石人形ちゃん達でっすっ♪」
遊ぶってつまりそういうことか、秘密特訓だ。抜刀式の使い手の俺には鞘が。このミントの『大地の剱』の鞘があってこそだから、わざわざミントは『大地の剱』の鞘まで魔法で精製してくれんだ。
「っ」
ミント―――っ。ありがとう。とても嬉しいよ、俺。もし俺がこの五世界で初めて会ったのがアイナじゃなくて、、、このミントだったなら―――。
ううん、と俺は口を一文字に縛った。それ以上のことを考えたらダメだと思う。俺はアイナが好き愛している。
ミントは俺を高みへと連れて行ってくれる師匠とそう思え。
「私の土石魔法で作り上げたゴーレム兵団、私の可愛いゴーレムちゃん達ですわ。ね、ケンタさま、遠慮はいりません『大地の剱』を得物に、まず一体からいきましょう♪ さ、私のゴーレムちゃんをさくっと倒してみてくださいな・・・っくすくす♪」
『大地の剱』それを道着の腰に差す。、、、まるで本物の刀だ、ずしりとくる。さくっと倒せってさりげなく簡単に言われたって・・・。
石の人形だろ?堅いに決まっている。
でも、やってやる。やってやろうじゃないか。昨日はこの『大地の剱』で岩だって切り裂いたんだからな!!
「、、、わかった」
ミントが右手に持った魔導書を構える。その魔導書からミントのマナの淡い黄金色の輝きが大きくなる。つまり比例しているからミントのマナが強くなったということか。
「さぁ、あなたね」
あなた、とはそいつのことか。
ごごごごっ、っという擬音ではないけれど、今までミントの後ろに佇んでいた三体のゴーレムのうち、その中の真ん中の一体が動き出す―――。
『イニーフィネファンタジア-剱聖記-「天雷山編-第十七ノ巻」』―――完。