第百八十三話 魔法剣の正しい使い方
「ミントが教える『魔法剣の正しい使い方でっす♪』」
にこりっ♪
「っ・・・!!」
もし『その笑み』に擬音があるとすれば、今のミントの台詞と笑みは『きゅぴーんっ♪』、だろう。
ミントは俺を見ながらその顔を破顔一笑させた。
「『魔法剣の正しい扱い方』をケンタさまにきちっと覚えていただかないと、ミントがケンタさまにお声掛けした意味はありませんからっ♪」
俺に声を掛けた意味がない? それも気になるけれど、それよりも俺が気になったのは―――、
「魔法剣の正しい扱い方・・・」
そう、ミントが嬉々としながら言ったそれだ。
第百八十三話 魔法剣の正しい使い方
気になる。とても気になる。ただいつもの木刀のように、、、ちらっ、と俺は自分の右手で持ち下段に降ろしている『大地の剱』を一瞥―――、正しい使い方って、この剱で剱技を繰り出すものなんだよな・・・?
俺はぐっ、っと柄を握り締め、、、―――少なくとも俺は今まで培ってきた小剱流の剱技でさっきまでこいつを揮っていた。
「はい、ケンタさま。『大地の剱』私の大地属性のマナにより精製され、土石魔法で鍛え上げられた魔法剣ですよ?くすくすっ」
いたずらな笑みを浮かべてミントは笑う。もう慣れた。
「うんミント」
「ケンタさまがどこまで『朝凪の剣』のことをお知識りなっているかは、私には分かりません」
『朝凪の剣』を?ミントはなにが言いたいんだ?俺に。
「・・・」
「魔法剣『朝凪の剣』は使い手の意のままに風の魔法を使うことができる風属性の魔法剣にございます。風を纏い使い手を宙に浮かせ、また風魔法の斬撃を飛ばしたり・・・、」
知ってる。
「うん」
その話、三条 悠とラルグスの戦いのことは祖父ちゃんの夜話の中で聞いた。
「くすくすっ・・・だったら私の、地属性の私が剱の魔法で鍛え上げた、この『大地の剱』は土石魔法を揮うことができるに決まっているじゃないですか、もうっケンタさまってば・・・!! ふふ、ふふふっくすくすっ♪」
「・・・なるほど」
別に俺を馬鹿にして笑っているんじゃないと思う、でも、ミントの笑いの対象はもちろん俺だ。ミントはどこが可笑しいのか、、、声を艶のある声色に変え、いたずらっぽく笑ったんだ。
「はいケンタさま。ではケンタさまのアニムスを使ってその『大地の剱』からミントの土石魔法を行使してくださいっ♪ 、、っ」
、、っ、っと片目をつぶってかわいくウインクして、行使してくださいっ♪、、、って。そんな簡単に土石魔法を行使してくださいって言われても・・・、俺一回も魔法なんて使ったことないんだけど?
そもそも俺って魔法を使えるのか?
「・・・」
俺は自分の、『大地の剱』の柄を握る右手を見て、反対側の左手にも視線を送り、、、魔導書もないよね・・・?持ってないよ俺?
俺があれやこれやと頭の中で思案する中、ミントはかわいい仕草で人差し指を立て、
「土石魔法の種類は問いませんからっ♪」
「っつ///」
問いませんからっ♪、なんてかわいく言っても俺はミントちゃんのファンにはならないんだからねっ♪
「さ、ケンタさまっミントの剱『大地の剱』で存分にやっちゃってください・・・っ♪」
行使しろってか・・・。よ、よし。
「、ん゛っつ」
俺は一度咳払い。いいだろう!!とにかくやってみないとなにも始まらねぇっ!! 自分がもう一段階強くなるためにもっ、俺はやる、やってやるっ!!
「―――っ」
ミントがさっき『剱の魔法』を行使するときに魔法を詠唱したように俺も詠唱をすればいいんだろうか?この『大地の剱』を魔導書に見立てて、、、。
魔法を詠唱するのは、、、その言葉を言うのはちょっと恥ずかしい。でもええいっ!!
チャっ、っと俺は両手で持った魔法剣『大地の剱』を頭上に高々と掲げる。その鋩の向きは空だ。
「『剱の魔法』魔法剣を紡ぎ編み出すのはこの俺『あまねく見通す剱の王』―――」
全身全霊で氣を滾らすぜ・・・!!
「―――我、小剱 健太の名の下に、我自身が命じる―――」
頭の中で想像するのは、イメージするのはこの『大地の剱』から飛ばす土石の斬撃だ。両手で握り締め、思いっ切り『大地の剱』を頭上から振り下ろす・・・ッツ!!
やべっ、行使する土魔法の名前を考えてなかった!!
「っつ―――」
ええいっもうテキトーに、だ!!
「―――マナよ、我が力に応え土石の刃と成れッ―――『大地の刃』ッ」
ブゥンッツ―――俺が渾身の力を籠めた振り下ろした『大地の剱』。縦真っ二つに空気を切り裂き、俺は『大地の剱』を振り落とした!!
「っつ」
どうだっ!!見ろっ、俺の地の刃の威力を―――、スカ・・・。
「あれ?」
何も出ないよ?空気を切り裂いたブゥンッ、っという素振り音以外に何もない。なにも起こらない。
しらーぁ。
「うわぁ・・・―――」
ミントの俺を見るしらーっとした白い目と力がこもっていないまるで俺を暗に非難するような声。
「え?ミント」
「『大地の刃』って、、、この人本当に恥ずかしげもなくやっちゃいましたよぉ・・・」
いやいやいや、きみがやれって言ったんだろ、ミント!!
「って、おいっ!!」
ミントの言うとおりやったらこれだよ、この言いぐさだよ。詠唱もその台詞も恥ずかしかったんだよ、俺!?
「てへっ♪」
「・・・」
かわいく、てへっ♪って言っても俺はだまされないよ?
くそ・・・三条 悠に会いてぇ。会って魔法剣の使い方を教えてほしい。
「―――・・・」
俺は『大地の剱』を正眼の構えていた。もう、かれこれ五分は構えたままだ。
「ふわぁ・・・」
ミントは口元に右手を当て小さくあくび。そんな彼女の小さなあくびの声が聴こえた。
「・・・」
これがミントの素ってやつなのかもしれない。ミントってもう自分を隠さなくなったよな。ま、自分を隠されて感情が全く読めないような人よりもいいかもしれない、ほらあの廃砦で出会ったクロノス日下 修孝のように、いつも鋭い目つきで睨んでいるような人よりはいいか。
「っ」
ほんとに三条 悠はどうやって魔法剣『朝凪の剣』の使いこなしているんだろう。祖父ちゃんの話だと、やっぱり『遣い熟している』みたいだし。感覚で使うものなのかな?魔法剣って。
「ケンタさま魔法の民は戦いにおいて魔法剣を使ったりはしません」
っつ。魔法剣は使わない?
「そう、なんだミント」
「はい。戦いにおきまして魔法剣を揮って魔法を行使するより、このように―――、・・・」
ごにょごにょっ、っと。ミントは小さい言葉で魔法を詠唱をした。
「・・・」
ミントはどんな魔法を行使するんだ?
「―――」
ミントが口を大きく開けた瞬間―――、
「ッツ」
ぐぐぐっ、っと。両足になにか振動―――!! まるで地面の中に、地中になにかが棲てそれが蠢いているような変な感触が両足に伝わる。
「―――『地虫』」
ミントの『地虫』という土石魔法の言葉のあとだ、ぶわッ―――っと。森の地面に上に落ちている落ち葉と表層の柔らかい腐葉土を空へと噴き上げるようにそれが出た。ミントの背後に、だ。
「うお―――ッツ」
土気色の、当たり前か土石魔法だもんな。ミミズのような形で、、、なのにミミズのようにてかてかとはしていない。そいつは身体の半分ほど?を地中に埋めたまま、その頭部か?そこが地面から生えるように出てきている。
ミントが唱えた『地虫』というよりは、むしろ『蠢く石ミミズ』と言ったほうがいいのかもしれない。それが、その土気色の土石の長い胴体が左右にゆらゆらと、まるで海水に揺れるイソギンチャクの触手のようにゆらゆら動く。
「そうです私達魔法の民は魔法剣を精製し、行使するよりこのように魔法で相手を攻撃するほうが効率がいいんです」
そうか。
「・・・なるほど」
「それに魔法剣を揮う場合は高い剣技も要求されますし、魔法ならば自分の意のままです、意のままっ♪」
意のまま―――。ミントはそこを強調して言った。そうか意のままか。つまり俺の意志で自然体でこうすればいい、と魔法剣に。
「・・・ふっ」
おっと、思わず笑みが。笑みがこぼれてしまう。そういうことかもしれない。
「おぉっなにか掴まれましたかぁケンタさまっ♪?」
「なにか解った気がする、ミント」
「っ♪」
にこっ、っとミントは顔を綻ばせた。そして、おもむろに。
「ケンタさまを乱してはいけませんので、『地虫』は解きますね―――『解呪』」
光る。ミントの右手にある魔導書だ。でも、その光り方は魔法を発動させたときのように煌びやかに大きくは光っていない。淡く明滅するようなそんな柔らかい黄金色の光だ。
「っ・・・!!」
ぴし。ぴしぴし―――。俺曰く石ミミズ。ミントの唱えた『地虫』の表面に細かい罅が入る。そこからはもう早かった。その罅が『地虫』全体に拡がる。
ぼそ、ぼそ、、、ぼとぼとっ―――、っと『地虫』の身体が崩壊していく、、、。そしてそれは元の土石に還っていく様だ。そして俺が『選眼』で視れば、『地虫』からアニムスつまり魔力、またはマナという名のものが、蒸発するかのように視得る、んだ。
すぅっ、っとその黄金色のミントのマナは、それを『眼』で追っていけば、、、。
「ミントに」
その黄金色のマナはミントに還っていく。そっか行使者にマナは還るのか。でも、全部のマナが元に還るってわけではなさそうだけど、な。蒸発するように消えたものもある。その様子は視得たから。
「はい、ケンタさま?」
いやううん、なんでもないよ、と俺は首を横に振った。
「―――っつ」
よしっ、今度は俺だ。俺がこのミントの『大地の剱』を揮う番だ・・・!! おっと固くなるなよ、俺。自然体だ。いつものように小剱流を―――。俺は左手を腰に、鞘に・・・。あっ・・・。『大地の剱』は抜身の剱だった。
すかすか、、、やっぱり腰に鞘が差さってないのは、まるで下着を着けていないようでなんかしっくりしないよな。
ないものは仕方ないか。
「―――」
チャ―――、俺は『大地の剱』を正眼に構えた。