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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十七ノ巻
180/460

第百八十話 『剱の魔法』魔法剣を紡ぎ編み出すのはこの私―――

 すぅ、っとミントは左の人差し指を自身の口元に持っていく。人差し指を自分の口元に立てる、『静かに』の『しぃ』の仕草に近い。

 ミントの笑みの種類が、ころころとしたかわいい笑みのものから違う種類の『にぃっ』っとした笑みに変わる。

「―――たのしいたのしいアレですよ、ケンタさま―――くすくすっ」

 あれって、やけにもったいぶるじゃないか、ミントのやつ。ミントはくすくすっ、っといやらしい笑みを浮かべたんだ。


第百八十話 『剱の魔法』魔法剣を紡ぎ編み出すのはこの私―――


 もう俺は理解した、ミントはこういう演技をする性格の人だ。

「あれって?」

「はい、もう『一つ』の魔法剣です・・・っ」

「魔法剣っ・・・!!」

「はい、そうです・・・ケンタさまっ♪」

 ざりっ、っとミントは森の中で足元を正すかのように踏み締めた。淡い笑みを浮かべ、まるで見ていてくださいね、と言いたげな顔のミントだ。

「―――っ」

 ミントは、すぅっ、と息を吸う。


「っ」

 もうなにかの詠唱に入るみたいだ。


 息を吸えば一転し、ミントは真剣な表情になってその口を開く―――。

「『剱の魔法』魔法剣を紡ぎ編み出すのはこの私―――」

 すっ―――、そうしてミントは魔導書を持つ左手を高々と空に向かって掲げる。

「―――我、・・・・=、ギ、、ナ、・ディ・、、シオンの真名の(もと)に、我自身が命じる―――」

 ぶつぶつ、っとミントは声小さく、その血色のいい唇を震わせるように小さく呟く。ミントのその呟く声は俺には小さすぎて全ては聴こえない。

 ぱぁ―――っ、っと光が溢れ・・・っ。ミントのアニムスつまり魔力(マナ)が急速に高まっていく、それを俺は肌でその感覚で感じ取り、そして、それが視得る。


 うわっ・・・ッ

「―――ッツ」

 ミントのその左手がっ!! 左手に持って掲げた魔導書もっ―――黄金色に視得る眩い光を放つ!! さっき視得た強弱を繰り返す変光星のような儚い光り方なんかじゃない!! 強い強い眩しい魔力の輝きだ!!

 ミントの左手に持つその一冊の魔導書が光り輝いたんだ。ギラギラしたどぎつい光なんかじゃなくて、、、言い表しにくいんだけど、暖かみのあるような、柔らかい太陽光のような。彼女のアニムスを見て感じて、そんな印象を受けるミントの魔力の輝きなんだよ。

「―――っ」

 かっこいいな、ミントは。俺はもう食い入るように、ミントに見とれているのかもしれない。

 俺がそんなことを感じ思っている間にもミントの魔法の詠唱は続いていく。


「マナよ、レギーナ家との盟約に応じ、我がレギーナ家の血筋に応え―――」

 先ほど俺と話していたときの柔らかい口調と声色では既になく、今のミントの声色とその調子はまさに凛としたかっこいい女性のものだ。

 スゥっ、っとミントは屈伸をするように腰を折り曲げて魔導書を持っていないほうの右手の掌を土の地面に押し当てた。

「―――大いなる女神の祝福を受けたこの豊かな大地より、この我アネモネ=レギーナ・ディ・イルシオンに一振りの剣を編み出し、この我にかの剣を(あた)えたまえ―――『大地の剱(エグエアーデ)』・・・っ!!」


「―――っつ」

 黄金色のアニムス(マナ)に包まれるミントを中心にしてこの大地が震えるような感覚を俺は得た。その刹那ミントの中心に、同心円状波状の黄金色の彼女のアニムスが拡がり、地が胎動する。まるで地がミントの魔法のアニムス/マナに応えているかのようだったんだ。

 同時にアネモネ?俺にはミントの言ったそれもよく分からなかったんだけど、そんな疑問なんて吹っ飛ぶほどだったんだその『大地の剱(エグエアーデ)』という剱の魔法は。それを今俺はこの眼で視ている―――!!

「ふぅ・・・―――」

 ミントのふぅっという小さく呟いた声。ややっとミントは大地に当てた右掌を、地面から僅かに離す。

「な・・・っ」

 思わず俺は声を上げてしまった。ミントは地面から僅かに数センチ離れた何もない空中を、まるで順手で棒状の物を握り込むような仕草をした。

 俺が驚いたのは、ミントが順手で握る格好をしたのは、何もないはずの空中だというのに、そのミントの手の平に棒状の『光』が生じたからだ。まるで剣の柄のような円柱型をした光柱だ。その光柱は地面へと、地面の中に潜り込むようにこの俺が踏む大地と繋がっている。

 キュア―――っ、っとそれは、やがてその光る魔力の丈は実体を伴い。俺にもはっきりと判ったんだミントがその右手で握っているのは、剣の柄だってことに。

「―――っ」

 地面に刺さった剣だ、まるで。ゲームとかアニメをしないあんま見ない俺だってそれぐらいは知っている。

 昔のヨーロッパの伝説にあるような岩に刺さったまま剣とか、日本でも九州の山の上に刺さるように鎮座する有名な伝説の剱なら聞いたことがあるさ。


 ふんすっ。

「えい・・・っ」

 ミントがかわいい声を出して、まるで畑から生えた大きな根菜を抜くような仕草で踏ん張った。

「!!」

 ずずっ―――、っと彼女自身の手によりこの大地より抜かれつつある『大地の剱』。それを中心にこの地面より黄金色をしたミントの魔力の光が、何条にも別れて旭日のように輝きを放つ。

 すげぇ・・・!!まじで凄い。これが魔法の民イルシオンの魔法かっ!! ちゃんとした魔法は初めて見るよ、俺。あの街で生ける屍達を生み出したロベリアの屍術は俺の中では数えていないから。

精製(でき)ましたよ、ケンタさま。ミントの大地の魔法剣『大地の剱(エグエアーデ)』ですっ♪」

 ミントは俺の見たかぎり、野太い豪腕の持ち主には見えない。すっ、っとでもミントはその『大地の剱』を、鋩までを地面より軽々しく抜き切る。きっとさっき踏ん張ったのは、ミントなりの演出だろう。

 すげぇ―――、ほんとに魔法剣きたー!!

 俺はミントがこの地面、大地より引き抜いた『大地の剱』を視る視得る―――。

「―――っ」

 ミント自らのその手によって引き抜かれし魔法剣『大地の剱』。

 普通に見たその剱の形状は俺が想像していたいわゆるヨーロッパのすらっとした剣身のブロードソードとも、尖端に行くしたがって剣身が太くなり重みが増すファルシオンのような『洋剣』やシャムシールのような刀身に反りが入り、曲がった刀とも違う。

 『大地の剱』は直刀のような剱だ。定規のように正確に、その先端へと向かう。その鋩はまるで剣身の途中で斜めに切り落とされたかのように鋭角だ。ちょうど先が鋭角の菜切り包丁に近いかもしれない。

 鍔はない。無骨で直接剣身に繋がっているような簡単な造りの柄だ。そうか、『エグ』すなわち『刃』という意味なのかもしれない。その長さは日本刀の打ち刀よりは少し短いかな?たぶん、だいたいその『大地の剱』の長さは八十センチくらい。

 でも確実に刃の横幅は、打ち刀よりは太い。

「・・・っ」

 あっ、そうかあれは―――祖父ちゃんの庵で薪づくりをしていたときに使っていた鉈。それぐらいの太さかも。俺はそこに思い至る。

 『大地の剱』は、無骨な鉈の刀身を長くし、鉈身の途中で斜めに切り落とすようにして(こしら)え、鋩を尖らせた鉈に近いようなそのような形状だ。

「なぁ、ミント」

「はい?ケンタさま」

 その真正面から見た『大地の剱』を観てみたい。

「俺に向けて『大地の剱』を構えてみてくれないかな?」

 とくにその刃の形状な。

「えっと、、、こう、ですか?」

 ミントはややぎこちなく。その『大地の剱』を順手に持ち、俺へと向かい合う。

「・・・」

 う~ん、ちょっと違うかな。俺が見てみたいのは正眼の構えだ。

「えっとこんな感じ、、、」

 俺は、すすっ、っと腰に差していた鞘付木刀から木刀を抜く。ミントの目の前に俺が来るように、おっと近いと危ないな。俺は一歩、二歩、三歩後ろに、後ろ向きで下がる。

「足を肩幅に開いて、手は順手な」

「は、はい・・・ケンタさま」

 ざっ、ざりっ、っとミントは足回りを正してちょうどミント自身の肩幅ぐらいに足を開いてくれる。これで、ミントの構えは正眼の構えになった。

「ふむ。いいよミントそんな感じ―――」

 俺は正眼の構えを解き、木刀を鞘に納めた。

「―――まるで剣士みたいだな、ミントも」

 やや照れたようにミントは俺から視線を逸らす。

「そ、そうですかケンタさま、私・・・」

 白い給仕服姿で、自身が編み出した『大地の剱』を構えるミント。なんかカッコいいな。メイド剣士だ。

 つぎ給仕服姿のアターシャにも同じようなことをやってもらおうかな?実際に剣を構えてもらって。あっ、アターシャなら研ぎ澄まされた刀も似合うかも。

「うん、ミントはイルシオンの人だから魔法剣士って言ったらいいのかな?ははっ」

「わわっ私が、そんなっ。私が『魔法剣士』だなんてっ―――!!」


 じぃっ、っと俺は『大地の剱』の刃の部分を見詰め。

「―――」

 思ったより薄くて鋭いな・・・。俺はミントが正眼で構える『大地の剱』の刃の形状を真正面から観察していた。いや、ううん真正面から左側面に行ったり、、、右に移ったり、、、俺は―――。

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