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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第二ノ巻
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第十八話 追慕のキャンプファイア

第十八話 追慕のキャンプファイア


 三泊四日の夏キャンプは当時子どもの頃の俺にとっては思い出に残る楽しいものだった。結城はどうだったのか、今俺は目の前にいる結城にそれを訊く勇気は湧いてこなかった。

 二日目の全地区集めての大きな円陣を組んだキャンプファイアは輪の真ん中でカッカと真っ赤な大きな篝火(かがりび)が燃えていたのを俺は強く覚えている。目を瞑ればまるで目蓋に、その炎の放つ橙赤色の光と熱とそのときに感じた感慨深いものがすぐに蘇るほどにな。

 三日目は、もう明日の午前中には帰るということで、各地区がそれぞれ考えたことを独自にそれぞれが自由に行なうというやつだったらしい。おごそかにこじんまりとした夜話(ヤーン)的なイベントを夕暮れどきに外で火を囲みながらやったような気がする。そしてそのあと俺達の地区は肝試しをする予定になっていた。そんなときに、違う地区の組に入れられた結城が、僕も友達と一緒がいい、と俺達の前にやってきたんだ。困ったような顔をしていた引率者やインストラクターの大人達、そんな大人達に俺達は、結城も肝試しに入れてやってほしい、と頼んだ。大人達は最終日だからと、そんな俺達のお願いを聞いてくれた。

 なにしろ小四の頃のことだ。俺は肝試しの組み合わせまでは、そこまでのことは詳しく覚えていない。俺は、真面目で融通が利かない人物ででも敦司と同じくらい仲がいい真という友人と一緒の組み合わせになった。斎藤 真という俺の友人は当時から今もそうだけど、俺曰く『インテリ』メガネをかけ――― 

『幽霊なんて脳が見せる幻覚か目の錯覚だよ。妖怪は未確認動物だ、ほらカワウソの誤認や大きな粘菌の塊がいい例だよ』

 なんて言う物凄くロマンの欠片もない理詰め論で成績もいいやつだけど、ほんとの真は友達想いのいいやつだ。

 そして肝試しの順番が最後の組は敦司と天音とそして、この俺の目の前にいる結城だった。

 敦司と天音がゴール地点に帰ってきたとき、敦司と天音の二人しかいなかった。結城のことで大人達に事情を訊かれた敦司と天音は『結城くんは、やりたいことがあるって急に僕達の前から走り出したんだっほんとだよ!!』『うん、あっくんの言うとおり。急に走り出したの、結城くん!!』としか多くを語らず、朝になって大人達の山狩りが始まっても、結城のその行方は(よう)として判らなかった。そして、何年経っても結城が俺達幼馴染六人の前に戻ってくることはなかった。でも、行方不明直前まで遊んでいたのが俺達六人ということでいろいろな大人達―――(今思えば、彼らは警察とマスコミ関係者だったと思う)―――から彼の失踪のことをしつこく訊かれて嫌だった。―――しかもその『失踪事件』のすぐあと結城の家族もどこかに引っ越してしまった。だから、あの夏キャンプの失踪以降、俺達六人(俺、敦司、天音、 真、美咲、己理)は結城の両親とも連絡を取ることは叶わなくなった。そして毎年の夏に行われていた定例行事だった町内会の夏キャンプは『俺達の所為』で中止になった。

「―――」

 そんなことで、あいつ結城の話は俺達幼馴染六人の中ではタブーになっていた。そんな結城が今俺の前にいる―――。


「久しぶり、結城。・・・結城が元気にしてたみたいで、ほんとよかったよ、俺」

「あ、やっと僕の名前を呼んでくれたね、健太。きみはきっと、僕の名前のことなんかすっかり忘れてしまっているんだろうって僕は思っててちょっと寂しかったんだ・・・」

 結城は儚い笑みをこぼした。

「・・・お前のことを忘れるわけねぇよ、結城。うん、きっと敦司や真だってお前のことをちゃんと覚えてるって」

「・・・そっか。ありがとう健太。気休めでも僕は嬉しいよ」

「―――・・・」

 俺は何も言えなかった。

「だったら健太。昔みたいに僕のことを魁斗って呼んでくれないか? 僕もきみのことは健太ってさっきからずっと呼んでるだろ?」

「分かった。そう呼ばせてもらうよ、魁斗」

「ははっ、それでこそ、僕の友達の健太だよっ」

 今度の魁斗は楽しそうに笑った。

「そういえば、健太。きみは今日気づいたらあの街にいたんだよね?」

「うん、なんか―――」

 俺は訊いてきた魁斗に、俺が今日の夕方まで家の道場で剣術の稽古をしていたこと、剣術の稽古中に妙な白く光る靄みたいなものに纏わりつかれ、それが晴れたら思い出すだけで恐怖感と寒気がする、あの屍だらけの街に突っ立っていたことを魁斗に話して聞かせた。

「僕の場合は―――ううん、成長した僕にとって、あのときのことはとても恥ずかしい話なんだけど―――」

 魁斗は恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべながら、語り始めたんだ昔のことを―――あの小四のときに俺達幼馴染七人で参加した夏キャンプの最終日のことを。

「僕が肝試しのときに、稲村と辻堂さんの組み合わせになったことは憶えているかい、健太?」

「あぁ」

 その問いかけに俺は焚火のゆらゆらと揺れる橙赤色の炎を見つめながら、言葉少なく肯いた。

「・・・あのときね―――」

 そうしてどこか焚火ではない遠いところを見つめるように魁斗は語り出す。

「稲村と辻堂さんと一緒に肝試しへと歩き出した僕達は、ううん僕はあの二人の金魚の糞みたいなものと言ったほうがいいかな」

 金魚の糞って魁斗のやつ―――

「・・・・・・」

「稲村と辻堂さんあの二人はとても仲が良くて、僕は二人の会話に入ることができなかったんだ」

「・・・まぁ、な・・・今でもそうだよ、あいつらは。俺も真も美咲も己理もあいつらが仲良く話してるときは気を遣ってあんまり話しかけないようにしてる」

「ふ~ん。ということは今の稲村と辻堂さんは付き合ってるとかかな?」

「いんや」

 俺は魁斗の問いに首を左右に振って否定した。

「あいつら敦司も天音も素直じゃねぇっていうか・・・なんて言うんだろ―――友達より上だけど恋人未満って感じかな、早くお前らくっつけよって感じだな」

「・・・そうなんだ。とにかく当時の小学生だった僕は、なんとかして稲村と辻堂さんの気が引きたくてさ、稲村と辻堂さん二人より先に行って脅かそうかなって思ったんだ」

「・・・!!」

 そっか、そういうことか。やっぱり敦司と天音が当時言っていたことは正しかったんだな。

「暗い夜の山道を走って、稲村と辻堂さんより先に行った僕は大きな木の裏側に隠れたんだ。・・・でも、いくら待っても稲村と辻堂さんは通りがからなくて、仕方ないから僕は暗い山道を元来たほうへと戻ったはずだった―――」

「魁斗?」

 そこで魁斗は視線を落としてしばし、口を一文字にした。

「だけど、暗い夜の山道をどこかで間違ったみたいでさ。道はどんどん細くなっていくし、周りからがさがさって動物の音とか、フクロウの鳴き声とかが聞こえてくるし、僕は怖くなって夜の山道を無我夢中で走り出した。僕は藪漕ぎしながら夜の山を走って走って、そして気が付いたときはもう遅かった」

「―――」

「ふわっと地面の感覚がなくなってさ、そのときになって僕は気が付いたんだ。足を踏み外したってことに。僕は斜面を、まるで落石のようにごろごろと転がってるってことに。うん、そして僕が最後に覚えているのは、ばっちゃんって水の中に落ちてね。ゆらゆらと流れていくような感覚だけなんだ」

「魁斗―――」

 俺は魁斗になんて声をかけてやればいい?誰か教えてくれ。

「健太、そんな暗い顔をしないでくれよ。でも、僕は死んだわけじゃない。こうして今の僕はちゃんと生きてるんだ」

「そっか・・・そうだよな」

「うん。僕はむしろ感謝しているんだ、ここに来れて」

「感謝って?」

 感謝?どういうことだろう、それは。この外国に来ていいことでもあったのかな、魁斗のやつ? まぁ、日本に帰ってこないってことはそういうことだろうな。

「そう、このイニーフィネという異世界に転移することができてさ」

「はい?イニーフィネ? 異世界に転移だって?」

 ここが異世界って・・・大丈夫か、魁斗のやつ―――

「あれ?健太? 僕達がいるここは地球じゃないよ?・・・惑星イニーフィネという惑星の大地だよ?」

「え?なに言ってんだ魁斗?」

 俺達はお互いに視線を合わせてきょとんとさせていた―――

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