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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十七ノ巻
178/460

第百七十八話 誕生花風の花、その花には毒があるのです

「そういうことか・・・!!」

「はい、ケンタさま。魔力とはイニーフィネの方々が言うアニムス、そして日之民や月之民が言う異能や氣になり、それを帯びた『朝凪の剣』のような魔法剣が、私の言った一種類目の魔法剣になります」

「へぇ・・・俺でも使えるかな魔法剣、、、」

「きっとケンタさまも自在に扱えると、このミントはそう思います」

 そう言ってくれると俺もうれしいかな。


第百七十八話 誕生花風の花、その花には毒があるのです


「、、、」

 風の魔法剣『朝凪の剣(シルフィード)』を自在に扱える三条 悠っていう人。あの人も使いこなせるんだし、、、もし魔法剣があれば、俺もそれを使えるかもしれないな。

「ケンタさま」

「うん、ミント」

「私達魔法民は植物をとても大切にします、と言いましたが、それはもう生活にまで及んでいまして・・・っ」

 ミントは苦笑いを浮かべる。くるりっ、っとわずか半歩先を行くミントは俺に振り返る。

「イルシオンを出た私はもうカルチャーショックっ!!みたいな? だからこそ私は今までのイルシオンでの生活の不思議に気づけたのですよっケンタさま!!」

「ほうほうそれは?」

 びしっ、っとミントは人差し指を立て―――、

「ずばり誕生日ですっ」

 このミントって子、リアクションが大きいから長々と話していてもずっと新鮮な子だ。

「誕生日?」

「はいケンタさまっ!! 私達魔法の民は生まれた日でその子の名前が決まっちゃうですよ・・・っ」

 それって普通のことなんじゃあ?? 赤ちゃんがまだ産まれる前から名前を決めていたりもするよな?

「??」

「あーケンタさま分からないって顔ですねっ」

 にやにや、っとミントは。

「う、うん?」

「誕生花ってご存知ですかケンタさま」

 誕生花?あぁ、

「誕生花ってあれ? 生まれた日の日付の花だったっけ?俺も聞いただけで詳しくは知らないけど、誕生日のその日の花を贈ったりするやつ?」

「そうです、そうなのですよっケンタさま・・・!! 私達は生まれた日で名前まで決まっちゃうんですっ。それが慣習と言いますか、伝統と言いますか私達魔法の民は生まれた日の誕生花でその名が一生のものになります」

「だからミントは『ミント』」

 そういうことか。ミントの生まれた日は『ミント』が誕生花なんだな。

「はい。ちなみにリラっていう名前の子は大抵が六月十二日生まれで、たまに五月三十日生まれの子ですねぇ。その日生まれの子は祝福聖花リラによる御加護がありますように、ってですねケンタさま・・・♪」

 自分が生まれた日の植物、、、花で名前が決まってしまうのか。そこも異世界なんだなぁイルシオンって。

「へぇ、じゃあミントの誕生日は―――」

「はい、私の誕生日は四月六日になりますね、ケンタさま」

「なるほど」

 四月六日その日がミントの誕生日、、、か。

「ちなみに実家にいる私の妹のイーリスの誕生日は五月五日ですよケンタさま」

 五月五日って日本じゃあ―――。

「あっそれ、子どもの日だわ」

「子どもの日?ですかケンタさま」

「うん、俺が住んでいた・・・故郷になるのかな。そこでは五月五日は―――」


///


「・・・」

 石畳の道をミントとお喋りしながら歩くことしばし、けっこう広い裏庭だ。たぶん、郊外の森林公園ほどの大きさはないとは思うけど、それでも一般人の俺から見たら充分に広い庭だってば。

「―――」

 ふりふり、と給仕服が動く。ミントが歩いているから彼女の給仕服のスカートになった裾がふりふりと揺れる。

 ミントについていく俺は。

「っ」

 そんなところも見つつ、凝視はしていないよ? 前にこの館にきて俺が視てしまったアターシャの。アターシャがアイナの部屋を氣導具の鍵で閉めていたとき、この透視眼で視てしまったようなことは、今のミントに対しては視ていないよ? ミントもアターシャのように腰はとてもくびれているけれど。

「・・・・・・」

 ま、それは置いておいて、、、っと。俺はミントに案内されて、誘われて給仕服姿の彼女のあとについていった。


「―――」

 振り返れば、アイナの城が遠ざかりつつある。ミントのやつどこまで行く気だろう?でも、アイナの自宮ルストレア宮殿を離れて見て、初めてその威容がうかがい知れた。

 まるで、ヨーロッパの宮殿(シャトー)のような姿をしているんだ。いくつかの洋風の建物が繋がっているような構造の城だ。いくつかその建物の、振り返った俺から見て真正面の右側の建物は尖塔がある。まるで、俺が最初に見たあの、俺がこの五世界に転移してきたあの街にもあったあの尖塔がついた建物だ。尖塔を除けば、日本でも普通に建っている歴史的な建物の外観に近い。歴史的な建物って言っても日本の城や古民家じゃなくて、例えば明治大正の頃に建てられた都道府県市町村公館のゴシック建築のような外観だ。

 アイナの自宮ルストレア宮殿は、外観の色は白を基調としていて、でも屋根だけは青というか、ちょっと灰色がかった青色だ。蒼色と言ったらいいのかな?

「ミントどこまで行くんだ?」

 俺は後ろに向けていた顔を前に戻し、目の前を歩くミントに声を掛けた。

「あちらになりますケンタさま」

 ミントは軽く右手で指し示す。

「・・・」

 ミントは森までは至らず、その途中の石畳の道を左に折れた。そしてしばらくすると、緑の一面の庭園のそこだけが違う。木が植えられ、そこは区切られるように緑一面の芝生は生えていない。そこには―――。

「ケンタさまここが特に私の好きな一角です・・・っ」

 赤、白、紫、ピンク、そして青―――、

「―――」

 それぞれ色とりどりの五色の花がそこに。赤い花、白い花、紫色の花、ピンク色の花、青い花。また、それらの中間の色をしたような色合いの花―――、いろんな色の花がいっぱいあれど、花も茎も葉っぱもみんな同じ形だ。どうやら花の色は違えど全部同じ種類の花みたいだ。

 例えば白いオシロイバナと赤いオシロイバナ、黄色いオシロイバナが在るみたいに、俺のこの眼下に広がるこの鮮やかな花達は、色は違えど、花の形と葉っぱの形は同じだからそのどれもが同じ種類なんだろうと思う。

 綺麗で鮮やかな花が、緑一面の中でそよ風に吹かれて華麗に踊る。全開まで花を開かせ、日の光を全草で浴びるその色とりどりの花達の花びらの枚数は六枚から八枚ほどだろうか。花の真ん中にある種ができる部分は、赤い花も白い花も紫の花も、そのどれもが紫色をしている。

 俺がその名を知らないこの花の葉っぱは、その葉の部分はヨモギの葉のように、ぎざぎざした葉っぱだった。

 これがミントの好きな花、その光景、好きな花畑か―――。うん、なんとなく解るよ、だって俺もこの色とりどりの花畑を見てそう思うもん。

 特にこの鮮やかな赤い花はアイナに似合いそう、、、なんてな。

「綺麗な花だね、ミント。これなんていう花?」

 佇んで静かに花畑を見詰めているミントに話しかけた。

「『風の花』と―――」

 ぽつり、っとミントが呟く。ミントのその『風の花と』と言った言葉が、その口調が、俺の耳には儚げに聴こえたのは気のせいかだろうか?

「『風の花』?」

 そんな花の名前は聞いたことがない。俺はそんな風の花なんて聞いたことは一度もない。

「はい、色とりどりのこの花を私達魔法の民は『風の花』と呼んでいます」

「へぇ、、、イルシオンの花か」

 くるっ、っとミントは。

「いえ、ケンタさま―――」

 それまで花畑を思い詰めたような顔で見ていたミントは俺に振り向く。

「うん」

 振り向いた拍子に、ミントはもうそんな思い詰めたような顔じゃなくなっている。

「―――日之国ではこの鮮やかな花のことをハナイチゲもしくはボタンイチゲと呼ぶそうですよ?」

「あ、いや・・・」

 知りませんか?なんてそんな風にミントに訊かれても俺はハナイチゲなんていう花は知らなかった。もちろんボタンイチゲも。

「この風の花のお仲間にはフクジュソウがいます・・・っ」

 にこりっ、っとミントが微笑む。フクジュソウか、確か俺ん家でも正月に・・・。

「それなら聞いたことがあるかな」

 フクジュソウっていう名前だけだけどな。なんか正月の縁起物の一つだったような?

「・・・」

 すっ、っとミントはそのイルシオンでは風の花という花の傍にしゃがんだ。少しだけお腹のほうにその左手を押さえ、その給仕服の裾を地面につけないように気を遣っているみたいだ。

 ミントは、じぃっ、っと真面目な顔で色とりどりの風の花を見つめ、

「祝福聖花『風の花』・・・―――、、、」

 ぽつり、っとミントはその口から何かの言葉をこぼす。俺にはミントの言葉が小さすぎてその全部の言葉は聴こえなかった。ただ―――、

「ミント?」

 ミントのその表情があまりにも真剣で、、、まぁ、要するに何かを思い詰めたような儚げなものだったんだ。だから俺は思わずミントに声をかけたんだ。

「っつ」


「・・・」

 驚いたのか?ミントは。彼女は俺の呼びかけにわずかにその身体をぴくっとさせた。でもそれも束の間、

「―――」

 ミントはすっ、っとその場に音もなく優雅さえ思えるほどの動きで立ち上がったんだ。

「・・・」

 もし、なにかミントが自身の過去のことで、過去にあった何かを思い出し、その所為(せい)で彼女が思い詰めたような表情になったのなら、俺はあまりそこには触れないほうがいいかもしれないな。俺は普段通りだ。普段通りに行こう。

 立ち上がったミントに代わるように、今度は俺が一輪の風の花のすぐ傍に腰を下ろした。赤い一輪の花を間近でよく見れば、『風の花』というこの花の緑の茎には一対の葉っぱしか生えていない。

「へぇ」

 その緑の葉っぱはぎざぎざだ。茎にビロードのような細かな毛が生えているようにも見える。この赤い花の花びらは柔らかいのかな? すっ、っと俺は右手を伸ばし、この人差し指で―――、

「風の花には触ってはダメです、ケンタさま」

 ミントの真剣な声。

「!! ―――」

 ぴたっ、と俺は赤い花に伸ばしかけた手を止めた。どうして?とばかりに俺はしゃがんだままミントを見上げる。

「その花には毒があるのですケンタさま」

 毒!?

「っつ」

 よかったぁ、ミントが言ってくれなかったら、俺絶対に風の花に触っていたわ―――。

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