第百七十七話 魔法剣
「ミントは『魔法剣』って知ってる?」
魔法剣って言うからには魔法つまり魔法王国イルシオンと何かしらの関係があるのかもしれない―――ってずっとそう思っていたんだ、祖父ちゃんの夜話を聞いてからさ。
すぅっ、っと。
「え?ケンタさま―――」
「・・・っ」
あれ?ミントの顔から楽しそうな雰囲気が、すぅっ、っと消えたぞ? 訊いちゃいけないことだったのか?魔法剣って。
第百七十七話 魔法剣
「―――『魔法剣』ですか・・・?」
ま、いっか一度口に出してしまったんだし、もうちょっと突っ込んで訊いてみよ。
「あ、うん。前に『魔法剣』っていう剣が在るって聞いたことがあってさ。魔法剣?いったいどんな剣なのかなって。俺の単なる興味本位」
「魔法剣というものはですね、ケンタさま―――」
ミントはおもむろに口を開いた。
「うん」
俺も適当にそれに相槌を打つ。ミントはそのまま口を開いたまま、またその次の言葉を紡ぎ出す。
「魔導術式が組み込まれた剣のことで、その組み込まれた術式に準えて魔法を行使できる剣になります」
氣導銃と似たようなものかな?魔法剣というものは。魔導術式?ミントに聞いて俺は氣導銃を思い起こした。
「へぇ・・・」
「ケンタさまは実際に魔法剣を見たことはないのですか?」
いいや見たことない、っと俺は首を横に振った。
「・・・」
俺がなぜ魔法剣っていうのを知っているかといえば、祖父ちゃんの夜話に出てきたからだ。三条 悠っていう人が魔法剣『朝凪の剣』を揮っていたということ。
「もしケンタさまに私の実家に来てもらえば、魔法剣をケンタさまに見てもらうことができるのですが、えへへ」
「えっ!!ミントの実家に魔法剣があるの?」
「はい」
おぉ―――まじか!! はい、なんて簡単に、ごくごく普通に当たり前のように答えたぞ?この子。
なんか魔法剣っていうその名前の響きだけで、かっこいいなおい。
「―――すげぇミントん家、魔法剣があるのかぁ」
ちょっと感動。
「はいっ次期当主の私の妹がしっかりと管理しています・・・っ」
自信たっぷりに、管理していますっ、っなんて。
「へぇ・・・、ミントの妹さんが」
「はい」
さっきの次期当主って言葉もあったし、ひょっとしてミントってお嬢様というか、、、お金持ちなのかもな。
「そうだケンタさま、一度魔法剣を観てみますか?」
!!
「え、いいの!?まじで」
そんなことをミントが言うものだから、俺は、いいの!?まじで、ってなるよ。
「はい。まぁ、ですがぁ―――」
ははは―――、なんてミントはかわいく苦笑いだ。その顔のまま言葉を続ける。
「―――私の実家の家宝の魔法剣をここに持ってくることはできませんが、似たような剣でしたら今すぐにでも見せることができますよ、ケンタさま」
ミントは簡単にそんなことを言う。
「おぉ・・・っ」
感動っ!! あの三条 悠っていう人の持っていた『朝凪の剣』のような魔法剣が今ここに、かっ。
「見ますか、ケンタさま?」
「あぁ、ぜひ俺に見せてほしい魔法剣ってのを」
俺は即答だぜ。
「分かりました・・・っ」
ミントは破顔一笑。こころよく快諾してくれた。
では私について来てください、と俺はミントのあとについて彼女についていく。
「ミントこっちって?」
ミントが歩いていく屋敷内のところは、俺が今まで行ったことのないところだ。角を何回か右に折れているから、どうやら館内を右に回っているみたい。
「はい、ケンタさま。裏庭になります」
館の中を、中庭を中心にぐるっと回るように、その赤い絨毯が敷かれた廊下を歩いていく。
「へぇ、裏庭か」
「はい。・・・ところでケンタさま、、、道すがらですが」
ミントはちらり、と俺に振り返る。
「ん?ミント」
ミントはわずかな時間立ち止まり、俺の横へと来る。俺と並行になったところでまたその口を開く。
「こちらです。さ、ケンタさま参りましょう」
「あぁ」
俺は自分のすぐ斜め下、左肩のすぐ向こうにきたミントに視線を合わせながら。
「そうそう道すがらになりますが、ケンタさまは魔法剣についてどのくらいご存知ですか?」
魔法剣? 俺がそれ魔法剣に抱いているイメージは―――、祖父ちゃんが話してくれた夜話の内容が一番の判断材料かな。三条 悠の持つ風の魔法剣『朝凪の剣』―――。
「『朝凪の剣』?風の魔法を放つんだっけ」
「、っシルフィード、、、ですか」
ミントがわずかに息を呑んだ、その息遣いが聴こえた。やっぱりイルシオン人のミントは朝凪の剣を知っているんだな。
「うん、俺も実際に見たことはないけどな、俺の祖父ちゃんに話を聞いただけ」
「そうなのですねケンタさま。実は魔法王国イルシオンにおいて魔法剣とは二種類あるんです」
二種類? どういうことだ? 二振りとかの意味じゃなくて二種類の属性とか? まぁいいやミントに訊いてみよう。
「二種類?それってどういうことミント」
「はい、おそらくケンタさまが想像なさっている魔法剣とは剣身に魔力を帯びた剣のことではないでしょうか。それと―――、ですね。おっと着きましたよケンタさま」
そこでミントは話を切り、ぴたり、っとその足を止めた。
「あ、うん」
俺はミントに向けていた視線を外して目の前を見た。そこには扉が。
「扉?」
入ってきた正門よりはやや小さい気がする、その扉は。しかも正門より地味な造りだ。
「はい、屋敷の裏手の門になります、ケンタさま」
ミントはさらに一歩進み、その手を扉に掛ける。そして、俺に振り返り、
「こそっとですよケンタさま。こそっと出ましょう・・・♪」
いたずらっぽくにこっと笑う。裏庭に出るだけだろ?こそっと出よう、なんてなにもやましいことじゃないのに。
「おうっ」
ま、いっか。
きぃ―――っ、っと裏手の開き戸の扉がわずかに軋むような音を立てて、その真ん中に一筋の光ができる。その一筋の光は扉が開いていくと大きくなり、やがて完全に裏口の扉が開いた。
「っ」
外の光がちょっとまぶしい。
「ケンタさま、さっ早く」
先に一歩踏み出したミントの手招きに俺は応じ―――、
「・・・っ」
―――俺も足を一歩裏庭に出した。
「ケンタさま、ここは私の好きな場所の一つになります」
一歩、裏庭に足を出して眺める光景は、
「うわぁ―――すげぇ、、、っ」
―――とてもきれいなものだったんだ。一面の緑―――、緑の中には石の道。まるで森の公園みたいだ。
「この裏庭は奥方様のおゆるしをいただかないと立ち入れない場所になります。ですが―――」
今は奥方様もアイナさまもおられませんしね、とミントは続けた。
「実はこの景色、私の故郷にある実家の光景とよく似ているんです、ケンタさま」
「そうなんだ、ミントの」
「はい」
やっぱりミントは、ミントん家はお金持ちかもしれない。裏庭を出て、一歩前に立ち、俺は。背後には白亜のアイナの自宮ルストレア宮殿の家並み。そして、俺の眼前には、遠くに青々とした森が背景として広がる。
手入れのされていないような雑多な下草だらけの雑木林じゃなくて下草はあまりなく、日の光が差し込むような綺麗な森に遠目でもそう見える。
その森の前には青々とした芝生の緑が広がっている。きっとふかふかだ。足元に視線をやれば、俺の靴の三センチほどが芝生のような緑に埋まっている。
でも、一面の青々とした芝生じゃなくて、この扉のすぐ前から石畳の、平らな石を埋め込んだ道が続く。
「ケンタさま、こちらへ。私が特にお気に入りのところへ案内しますね」
ミントの誘いに応じ、俺はそちらへ。
「うん―――」
ミントは石畳の道に乗り、俺も彼女に続く。
「ケンタさま」
「ん?なにかなミント」
「ケンタさまは魔法王国イルシオンやそれに私達魔法の民のことをどこまでご存知ですか?」
ふぅっと自然にミントは口を開き、そんなことを俺に言ったんだ。
でも、俺はそんなにはイルシオンのことを知らない。
「いや、、、ミントにはわるいんだけど、あんまり。魔法王国イルシオンに関して俺はあんま知らないかなぁ。魔法を使える人達で、マナ=アフィーナって果物をよく食べるんだよな?それぐらいかな、、、はは」
俺は苦笑い。あとは魔法王国イルシオンはイニーフィネ皇国の保護国で、かつてはイニーフィネ皇国のイルシオン総督が統治していたことぐらいだ。でも、イルシオン人のミントにそんなことを言う必要はないか。ミントが気を悪くしてしまいそうだから。
「マナ=アフィーナですか、確かにそうですね」
「うん」
「私達魔法の民は植物をとても大切にします」
唐突にミント。
「へぇ」
「はい。各家庭が庭に薬草を育てたり、森に分け入って薬効のある果実を採ってですね、それら薬草と魔法と組み合わせた魔法薬なども作ったりします」
「魔法薬?」
「はい。たとえばですがケンタさま」
「うん」
俺が相槌を打てば、にこりとミントが笑う。
「傷を癒す薬効成分を含んだ薬草があったとします。それ単体だけでも確かに回復効果があるのですが、その薬草から煎じた丸薬に回復作用のある魔法を掛け、掛け合わせることにより、その丸薬はもっと回復効果のある魔法薬になるんです」
!! なんかファンタジーなゲームの中みたいな世界だな。
「それはすごいことだよな?まさに世紀の大発明っ」
「えへへ、世紀の大発明なんてケンタさま・・・っ。ま、つまりはそういうことなんです」
「ん?なにがかなミント」
「もちろん材質も厳選するのですが、魔導回路を組み込んだ剣の柄、そして魔力を籠める剣身とそれを貯める性質を帯びた鞘」
!!
「そういうことか・・・!!」
「はい、ケンタさま。魔力とはイニーフィネの方々が言うアニムス、そして日之民や月之民が言う異能や氣になり、それを帯びた『朝凪の剣』のような魔法剣が、私の言った一種類目の魔法剣になります」
「へぇ・・・俺でも使えるかな魔法剣、、、」
「きっとケンタさまも自在に扱えると、このミントはそう思います」
そう言ってくれると俺もうれしいかな。