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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第二ノ巻
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第十七話 追懐のキャンプファイア

第十七話 追懐のキャンプファイア


 彼が俺に『着いたよ』と声をかけてから、立ち止まった場所。そこは洞窟のような地下隠し通路のどん衝きの前だった。

「ここで終わりか?」

「ううん健太。ここで梯子(はしご)を使うみたいだね。どれどれ・・・」

 彼はその淡い青白いランタンのようなものをかざしながら、それが放つ青白い光を頼りにこの隠し通路の最奥をくまなく探っているようだった。

「・・・」

 もし、ここで行き止まりだとしたら、本当に俺達はどうしたらいいんだろうか?

「お? 健太いいものを見つけたよ」

 彼はなにかを発見したみたいだ。手招きで俺を呼ぶ彼に引き寄せられるように俺はふらふらと彼のもとへと歩み寄る。

「まじでっいいものを見つけたんじゃねぇのっ!!」

 俺もそれを見て思わず飛び跳ねるほどうれしくなった。

「だよねっ健太」

 それは俺だけじゃなく、発見者の彼も同じだ。彼も俺と同じで嬉しさと喜びに顔を綻ばせていた。

 そこ、隠し通路の最奥のさらに奥の右側の土壁に、地上へと向かう木製の梯子と金属の錆びついた棒がともに斜めに立てかけられていたんだ。

「そっか。この隠しトンネルは最後どん衝きで梯子を掛けるってことか」

 俺達は見上げていた。彼が、その青白い光で照らし出してくれた隠しトンネルの最奥の上部だ。高さは俺達の背丈の少し上、高さにして二メートルちょっとほど。

「みたいだね。地上への出口も蓋になってるみたいだね。健太、僕と一緒に蓋を押し開けるのを手伝ってくれないかい?」

「もちろんだっ」

 俺達は互いに協力し合い、地下から鉄棒を持って蓋を押し開けたあと、その斜めに立て掛けられてあった梯子を取ってきて、それを立てかけた。俺は彼の後について梯子を這い上がるかのようにして外に出たんだ。

 うん。久方ぶりの外の空気。そして、この砂埃が舞いそうな、崩れた石壁の石が至る所に散乱している場所は?

「ここは?」

 はっきり言ってこの場がどれだけ砂だらけだろうか、石が散乱していようが、そんなこと俺にとって些細なことだった、あの生ける屍達が徘徊するようなあの街中に比べれば、ここは天国だ。本当に真っ暗な夜だけどな。しかもここには街灯がないみたいだから、本当の真っ暗闇だ。

「たぶん、廃棄された砦跡かな」

 そう言うと彼はズボンのベルトに吊るしていた小さな布袋を外した。

「?」

 俺は彼が何を始めるのか、気になったというわけだ。

「ちょっと灯りをね」

 そして彼は蝋燭のようなものを取り出すと、マッチを擦って火を点けた。それと入れ替えるかたちで彼は今まで持っていた青白い光を放っていたランタンのようなものを消した。

「―――・・・」

 彼は器用に溶けた蝋をそこらに落ちている朽ちた煉瓦の上に垂らし、そこに蝋燭の底とくっつけた。

「お?」

 蝋燭の淡い橙赤色の光が部屋の中を照らし出す。俺が初めに見えた石だと思っていたのは、実は煉瓦だった。このかつて砦の一階部屋だったところは崩れた煉瓦と瓦礫が散乱し、空を見上げれば大小の星々が散りばめられた夜空が広がる。俺はその星々にしばし、心を奪われていた。こんな夜空を日本で見ようと思えば―――どこだろう・・・人里離れた山奥に行かないと見えないと思った。

「―――」

 この廃砦はすでに天蓋は抜け落ちているみたいだったから、綺麗な夜空が見えたというわけだ。きっとこの廃砦は、昔は綺麗なヨーロッパ風の建物だったに違いない。

「ちょっと暗いし、肌寒いね、薪を拾って焚火にしよう」

 それは俺が感慨深く星々が散りばめられた夜空と過去の砦に想いを馳せているときだった。

「薪を集めるのを手伝ってくれないかい、健太?」

「あ、うん、いいぜ」

 そして、しばし俺は彼と一緒に、この砦の周辺の林のごく近いところに分け入り、木切れやこの砦内に転がっていた木材を集めたんだ。

「―――」

 焚火を燃やしてゆっくりとしているときに彼の名前でも訊いてみるか。彼はまた、腰ベルトの革袋からマッチとライターを取り出すと、ごく日常の動作とおぼしき手際の良さで、薪に火を点けたんだ。

 それからそこいらに転がっている煉瓦を取ってきて、椅子替わりにしながら、俺達は対面に、カッカっと燃える焚火を囲むように座った。

 彼が焚火に両手の手の平をあぶるように(かざ)す。

「この焚火を見ているとさ、あの子どもの頃の夏キャンプを思い出さないかい、健太―――」

 そんなことを切り出しながら、彼は木の枝を焚火の中に入れる。

「!!」

 子どもの頃の夏キャンプ―――俺は彼が切り出した言葉に驚いた

「―――」

 えっと・・・あれは―――そうだ、あのまだ小学生だった夏休みのときの―――。俺はゆらゆらと燃える焚火の炎を見つめながらそのときの事を必死に思い出そうしていた。ううん、いや、ほんとはあのときのことを忘れたことなんて一度もない。

「―――・・・」

 そのとき彼が無言で薪を足した拍子にきらきらと光る火の粉が舞い上がって、そして火の粉は空へと昇って消えていった。

「稲村や神田さんに辻堂さん、斎藤、それから誰だったっけ―――」

「ッ!!」

 俺は彼の発した言葉に、まるで雷で撃たれたかのように驚いた。なんで目の前にいるこいつが俺の幼馴染の名前を知っているんだろうって・・・。やっぱり彼は―――そうだ、あいつに違いない。そういえばそうだ、なんとなく当時の面影は残っている、彼の面立ちに―――。

「―――ほら、あの線が細くてあんまり喋らなかったやつ、えっと誰だったかな―――」

「―――赤羽・・・赤羽 己理(きり)というやつだよ」

 俺はぽつりとそうこぼした。

「そうそうっ赤羽くんだった。彼彼女らは日本で元気かい?」

「あぁ・・・元気だよ」

「うん、それはよかった」

 彼は俺に、にこりとその屈託の無い笑みを浮かべた。

「そっか」

「僕が健太を含めた稲村達六人と最後に会ってからもう十年近く経ったのかぁって思ったらさ、もう訊かずにはいられなくなったんだ」

「あぁ・・・」

 俺は終始、彼の問いかけに『あぁ』とか『うん』とかいう短い口数の少ないものになっていた。それは俺があのときの子どもの頃の夏の出来事を思い出していたからだ。俺はもう、焚火で俺と一緒に暖を取る彼が誰なのか判っていた。そうあれは―――そうあのときのことは、俺を入れた幼馴染六人―――稲村 敦司、辻堂 天音、斎藤 真、神田 美咲、赤羽 己理―――の間では禁句となっていることで―――

 うん、そう昔俺達幼馴染は六人じゃなくて七人いたんだ。もう一人、結城(ゆうき) 魁斗(かいと)っていう名前の幼馴染がいてさ。あれは、祖父ちゃんが失踪する一年ほど前の小学校四年生ぐらいの夏休みのことだった。俺達七人みんなで町内会の夏キャンプに参加しようって敦司が言い出して、各自が親を説得して俺達は町内会の夏キャンプに行ったんだ。

「・・・」

 あぁ、思い出してきたわぁ、その夏キャンプ。その夏キャンプは三泊四日の日程で他県の山間部にあるキャンプ場で行なわれたものだった。近くには川が流れているからって、キャンプ場の管理人のおじさんから夕立が降ったら絶対に川には行くなって言われてたっけ。でも、俺の見た目ではそんなに大きな川でもなかった。そんなキャンプ場の常設のログハウスでキャンプ参加者は泊まったっけ。虫取りや小川散策、あ、それとなんか夏の宿題の足しになるからって、木材を使ったクラフト作りをしたような気がする。俺は木片のパズルかなにかを作ったように思う。

 他の幼馴染はなにを作っていたかな―――確か真はその子どものときからかけているインテリメガネを指でくいくいとさせながら、木彫りの像か何かを作っていたような・・・。天音はあのときから敦司のことが好きだったから、『あっくん』『あっくん』って敦司にべったりだったかな、なんか、天音は敦司に手伝ってもらってなにか木片を磨いていた。でも、その中に、今、俺の目の前で焚火を挟んで座っている彼『結城 魁斗』の姿はなかった。結城一人だけが俺達六人からあぶれて、俺達じゃない地区の組に入れられたんだ。

 その『六人一組』という、当時小学生だった俺達はそれを不満に思って、町内会のおっさんに文句を言いに行った気がする。今、成長して思えば、『六人一組』って至極当然のことなんだよなぁ・・・あんな山の中で大勢の子どもを見ないといけない引率者の大人達、インストラクターの大学生のおにいさん、おねえさん達。大勢になればなるほど、参加者の子ども達へ目は行き届かなくなる。俺達七人の名字を五十音順に並べれば、あ『赤羽』、い『稲村』、か『神田』、こ『小剱』、さ『斎藤』、つ『辻堂』、ゆ『結城』となる。同じ地区の参加者は俺達だけだったから、主催者である町内会の名簿には、各地区参加者は地区ごとに上から五十音順に書かれたらしい。

 『あれ』が起こった後、そういった五十音順の理由で結城を外したことを、俺は後から町内会のおっさんに聞いて知ったことだ。

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