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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十六ノ巻
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第百六十八話 彼女と一対一で

第百六十八話 彼女と一対一で


「―――くっ、ごめんアイナ」

「ん、、、っ・・・いえ、ケンタっ」

 ―――さっきから中々、決まらない。俺のその先がアイナには届かない、アイナの懐の奥には。だって好きな人に対して全力で殺しにいくような激しい打ち込みなんてできないさ俺には。

「アイナ」

「はいケンタ」

 アイナは、うん、っと頷く。

 そんな俺達、俺とアイナがすることなんて決まっている。そう、、、ま、俺も彼女も望んだことなんだけど、それは。

 俺達は夕日が差し込む道場で互いにその得物の先を向けてにらみ合っていた。

 『選眼』の異能は今は使うなよ、俺。もちろんアイナもその自身の異能は使わない。

 自分自身のことで試してみたいことがあるって言っていたんだよな、アイナのやつ。だから、俺はそれでアイナに付き合っているんだ。それにはまず俺の全力の打ち込みが欲しいみたいで、アイナは。

「今度こそいくよアイナ―――・・・」

 俺だって自分の剱術の実力を試したいんだ、アイナと。今日、俺が初めて見るアイナの道着姿だ。その道着の色は俺と同じ紺色だ。

「―――はい。手加減なく私に打ち込んでください」

 すりすり、と摺り足でアイナは。すいすいっ、っと袴の下から覗くアイナの生足が見える。

「っ」

 ごくりっ、っと俺は唾液を嚥下した。

「―――」

 そんなアイナは力強いその藍玉のような色をした眼に力を籠めた強い表情で木刀の柄を正眼の構えで握り、俺を見詰めている。まるでアイナに睨まれているみたいだ。

 彼女と今日初めて面と向かって手合わせして解ったことがある、アイナは『正しくて堅い』。そして、ときにその木刀の打ち込みはこちらの守りを叩き割るように重いんだ。どちらかと言えば―――、そのアイナの剱の業、太刀筋を見て感じて、、、それは、今アイナが使っている剣技は小剱流の剱術じゃない、、、と思う。でも、そのアイナのすいすいっ、とした摺り足の脚の動きは剱術のものだ。

 まぁ、とにかくアイナに付き合うのも楽しくていいかな。俺も手練れの剣士らしいレンカお兄さんのことでアイナに世話になったし、アイナの頼みも聞いてこそのお互いさまだと思うんだ、俺。

「・・・」

 ぱちんっ、っと俺は木刀を左に差している鞘に納めた。ここからが本番だ。アイナ曰く、初めて俺達が刃を交えたあの最初の街の再現をしてみたいらしい。アイナにはなんか前の勝負のことで思うところがあるみたいだ。

 でも。アイナのその様子、言動から俺が感じて、あのときの勝負の結果は無効です、とか、もう一度勝負を、と言うものではないみたいだ。

 アイナは俺に、抜刀式で自分に打ち込んでほしいそうだ。俺はあれこれ考えるのをやめて、目の前のアイナに集中する。

「―――」

 アイナの正眼の構え。その長い黒髪はシニヨンに結われていなく、いつものきれいに下ろしたアイナの黒髪だ。紺の道着で肩幅に木刀を構えているアイナ。手の柄を握った形は、鋩に向かって右手を前に、左手を後ろにした順手。

 アイナはどう出るか。どう動いてくるか。俺はそれを知るために順に視線を上から下へと持っていく。特に試合では相手の脚の動きを観て、行動を予測することなんかも重要だ。

 ―――、あっ。

「―――っ///」

 ―――ったく、どこ見てたんだよ、俺。集中できてねぇな、俺は・・・。

「っ」

 よしっ、っと俺は内心で気合を入れ直し、、、俺の視線はアイナの道着の上半身のふくらみを越え、帯の左側には鞘付木刀の鞘が斜めに差さっている。そして、アイナの脚―――。

 ん?これはアイナの癖かな?アイナは右脚を、少し進むべき先へと出すような、僅かに斜になる正眼の構えだ。

 なるほど、アイナの構えは分かった。じゃ、俺も―――。

「・・・」

 すっ、っと俺は左手を自身の腰の鞘に。そして、ゆるりと腰を落とし、右手でその鞘に納めた木刀の柄を握った。

「―――」

 アイナも、俺のその抜刀式を繰り出す準備ができた様子を見止めて、彼女自身攻めの行動に移っていく。すなわち、その木刀を正眼に構えたまま、すりすり、と摺り足で俺に向かって一直線―――。

「ッツ」

 くるッ!! その摺り足の動きが一転して瞬時に縦の動きに変わる!! ダンっ、っという強い踏み込みだ。アイナの右足の踏み込みは、道場の木の床が震わせて、その振動を俺は両つの足で感じ取り―――、

「せいッ―――!!」

 ―――せいッ、っと。直後に凛とした力強いアイナの掛け声が聴こえた。

 タタタタっ、っと軽快な足捌き、伸びる木刀。アイナは正眼の構えから真正面に俺の面を狙う。

「っ」

 相手の斬撃を躱して、迎え撃ってこそ抜刀式の神髄だ。アイナのその木刀の太刀筋を見切り、その刹那―――俺はふぅっ、っと上体を横に逸らしてアイナの木刀の太刀筋を避ける。相手の、こちらへと向かってくる斬撃の勢いをも糧にしてのこちらからの迎撃。

 ―――今だっ!! 勝機は一瞬。迎え討つは今ここっ・・・!!

 しゅ―――っ、俺は腰に差した鞘から木刀を抜き放つ!!

「刃一閃―――」

 斬撃が弧を描き、正確により速く、、、まるで光のように。疾風の如き抜き手で俺は、弧を描く斬撃をアイナの胴に繰り出す。

 アイナの胴を討ちぬく、、、ような気概で、俺の弧を描く斬撃はアイナの胴を真一文字に捉え―――、、、すぅっ、っとそのときだ。

「っ!?」

 俺が打ち抜くアイナの姿が薄らいでいく。俺が見えているアイナの姿がざわめくように揺らぐように薄らいでいく。まるで、凪いだ湖面に石を投じたような波紋が、アイナの姿に広がり、そうして完全にその姿が―――、

「ッツ―――っ!?」

 ―――き、消えた!? そうか、アイナの異能の空間転移か。こんな使い方もできるのか。

「―――」

 いる。気配と僅かな息遣いを感じる。その気配の出所は俺の背後―――、俺の真後ろだ。もし、この状態で俺に斬りかかってくるのなら―――、中々だけど、すでに俺はそのアイナの気配を感じ取っている。即座に振り返ってアイナの木刀の斬撃を受け止め、斬り結ぶ、だろう。

「ケンタ」

「っ」

 でも、アイナは俺を呼んだんだ、そのまますぐに俺に背中から斬りかかってくるのではなくて。だから、俺は振り抜き手元に戻した木刀を正眼に構えたまま、余裕を持ってゆっくりと背後のアイナに振り返った。

「これがアイナの試したかったこと?」

「えぇ―――。つまり、こう、たとえば相手の背後を取った私が、このような感じで―――」

 アイナは正眼の構えが袈裟懸け斬りを行なうような動作に移っていく。自身の動きを試すようなゆっくりとした動きだ。

 だってこの五世界は、異能が有り触れたものでさ。こんなふうに剣術と異能を組み合わせて戦うのがふつうなんだよな。

「うん、いいんじゃないかなアイナ」

 すっ、とアイナの木刀を持つ肩と上腕が上がり・・・でも、アイナは本気で俺をその木刀で打とうとするような勢いの動きじゃなくて、ゆっくりとした腕の動作で、その身体の動きの確かめ方というか、その所作、身のこなしの動かせ方を練習しようというつもりなんじゃないかな。

「え、えぇ。このように―――、っ」

 ビクっ、っとアイナは。俺に斬りかかる、斬る動作をしていたアイナの身体がビクっ、っと突然上下に震えた。

 どうしたんだ、アイナのやつ?

「??」

「―――っ・・・」

 その藍玉のような色合いの目を大きく見開いて、それはまるでアイナが何かに気づいたように見えたんだ。

 急に袈裟懸け斬りの動作を止めてどうしたんだろう、アイナ。

「アイナ?」

 アイナは、『このように―――、っ』と言って半ば顔を(しか)めて苦しそうな表情になり、

「、っ。けっこう、いえ、、、かなり心にきますね」

「心にくる?」

 苦しそうな顔でアイナは軽く苦い笑みをこぼす。

「はい。空間転移で相手の背後を取り、斬りかかるなど、、、己の心情に背くような罪悪感を、心の苦しみを今の私は、、、覚えていますね」

 そうかアイナはそう思うんだな。

「そっか」

 俺も全力で放った抜刀式を、ふわっ、っと避けられてちょっとムッ、っとしたはしたけど。アイナは木刀を鞘に納めて、

「うっ、ぅぅ」

 今のアイナの表情はさっきの苦笑いから進んで、まるで自分が嫌いな行為を自身がしてしまったかのような気分の悪そうな顔している。

 さっ、っと俺は木刀を腰の鞘に納め、アイナに寄って行く。

「大丈夫か、アイナ?なんかとても気分悪そうだけど」

 俺はアイナの肩を支えるように。

「え、えぇ、はい。大丈夫、ですケンタ」

「・・・」

 本当か?その言葉。アイナの今の苦しそうな顔を見ている俺は、その大丈夫、というアイナ自身の言葉を盲目的に信じることはできなかった。

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