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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十五ノ巻
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第百六十四話 灰の子アッシュの都市伝説集 一

「失礼致します、アイナ様」

「うひゃぁぅ―――っ!!」


 びくっ、っと俺までその大きな声に驚いた。

「っ!!」


『うひゃぁぅ―――っ!!』っという、アイナのとても大きい素っ頓狂な声風呂場から聴こえたからだ―――。


第百六十四話 灰の子アッシュの都市伝説集 一


「ちょ―――っ、従姉さん、、、っ!!」

「なにか、露でも天井より落ちてきたのではないでしょうか?アイナ様」


「ッツ ど、どしたのアイナ?そんないきなり驚いた声出して・・・」

 あの『うひゃぁぅ―――っ!!』っていうアイナの大きな叫び声には俺も驚いた。本当に結露が上から落ちてきただけで、あんなに素っ頓狂な声を上げるか?ふつう。しかも今は初夏・・・、結露?


「い、いえ、ケンタ。従姉さんがいきなり私の脇の下から手を―――」

「いえ、アイナ様はなんでもありませんよ、ケンタさま」

 ぴしゃりっ。しれっと、アターシャさんはそう言う。


「あ、さいですか。・・・―――、―――」

 と俺は言うものの、、、アターシャはきっとアイナを―――っ///

 ぶんぶんぶんっ、煩悩退散―――!!俺は首を左右に振ったんだよ。

 でも、収穫はいろいろとあった、これから俺が手合わせをお願いするだろうアターシャの兄レンカの事、その人となりだ。

 いつもは一人で祖父ちゃんと自分の風呂の湯を湧かしながら、夜は深みを増していくのに、今夜は楽しかったんだ。


 風呂の灯りが消える。アイナとアターシャは風呂を上がったんだ。

「・・・」

 あ゛ーっと俺は腰を摩りながら、、、焚口の側でしゃがんでいた俺は風呂番から立ち上がった。

 カラカラカラ―――、

「おっ」

 ―――庵の扉が横滑りする音が聞こえた。庵の中から出てきた人影が一人。部屋の中、玄関から漏れる光―――、それに照らされて。

「アイナ」

 あの姿かたちはアイナだ。その姿が、アターシャの着ている給仕服姿じゃないから、それが一目見てアイナだと分かる。今のアイナの服装は自宮で見たあの水色のドレス姿でもなく、はたまた廃砦で見た外套を纏った服装とシニヨンの髪型でもない。

「ケンタ、お待たせしました。お風呂あがりましたよ」

「うん」

 その後ろからアターシャも現れる。

 今は初夏だ。初夏だけに、真夏のむわっとするような夜じゃない。それなりには気温が下がる、それにここは田舎だし。

「―――」

 アイナは夜空を見上げ、すぐに俺に視線を戻す。

「っ」

 にこっ、っと俺に微笑みかけるアイナ。

「きれいですね、星々―――」

「あぁ―――」

 俺もアイナに倣って夜空を見上げたんだ。俺が居た日本とは、世界とは違う星々の位置。明るい星や暗い星々、、、。この『五世界』にも星座ってあるんだろうか―――。

 ひゅおぉ―――っ、と。

「っ」

 一陣の夜風が吹いた。ちょっと肌寒い。アイナは大丈夫かな。アイナも肌寒かったかもしれない。せっかく風呂に入ったのに湯冷めしたら元も子もない。

「アイナ―――」

 家の中に入ろう、とアイナに右手を伸ばす。

「はい、ケンタ」

 あたたかい。アイナのその手を取ればあたたかい手だった。

「っ」

 俺は無言で、彼女も無言で、でも―――、

「、、、っ///」

 きゅっ、っとアイナは手に力を入れてくれたんだ―――。


///


「・・・・・・」

 暗闇に俺の電話の光だけが浮かんでいる。時刻は日付が変わった零時十二分、俺は電気を消した自分の部屋に布団を敷いた状態で、いつでも寝ることができる体勢を取り、電話をいじっているというわけだ。

 ちなみに言うと、アイナ達は一旦イニーフィネ皇国にある彼女の自宮に帰った。明日もまた来るけどな。先ほど、俺は心に一大決心を抱き、アイナに気持ちを伝えたところ彼女は快く快諾。もちろんアターシャも、だ。なんだかんだ言っていても、アターシャはレンカのことを兄として大事に想っているに違いない。

「―――」

 そして、もう一つの一大決心を、俺は心に刻み、電話をいじっていたんだ。これで、どうすることもできなかったら、相談してみようかな。

「『雷切』か、、、出ねぇな」

 でも『天雷山』という語は、その情報は日之国のネットの海から簡単に出てきた。『天雷山』とはむしろ『天雷山脈』と言ったほうがいいらしい。

 日之国の南部、、、南部のさらに南、最南部は『日月地方』というらしい。そこはもう月之国、、、アイナ達イニーフィネの人々がいう『オルビス』という中世世界との境界付近で、ネット上の百科事典によれば、南に行けば行くほど、標高が上がって天雷山脈へと繋がっていくそうだ。

 その天雷山脈の一番の頂き、最高峰が『天雷山』というらしい。天雷山脈は過酷な環境で、登るにしたがって、雷氣を帯びた悪天候となっていき、終いには雷が止むことはなくなり、―――未だに最高峰を踏破した者はいない、と記されていた。

「そういえば、、、―――」

 野添さんは『雷氣に満ち溢れる神域』って言ってたっけ。

「―――・・・」

 画面を地図に切り替えて、、、っと。今俺がいる祖父ちゃんの庵はここだろ?日之国の首都日府から見たら、西の端の日宇(にちう)州というところに、矢印が立っている。しかも、その日宇州のさらに北の山間の地域。祖父ちゃんの庵だけがポツンと建っている。

 俺は親指と人差し指を使って、さわさわもむもむと動かし、画面の地図を拡大縮小―――。

「全部、『日』が付いているだと?」

 日之国の首都日府の東が日向(ひなた)州、南東が日夕(にっせき)州、北東が日晶(にっしょう)州。転じて西が日宇州。

 これが日下国だった―――、

「・・・」

 ―――北西の日下自治州。日下が一番広く。転じて俺は地図の下、つまり南に目を向け、どうやら南に標高が高い山脈が東西に横たわってるみたいで、その辺りを含めた南部が日月(ひづき)地方となっていた。そして日府の周囲を一回り大きく取り囲むような感じで日和(にちわ)州が設置されてるようだ。

 祖父ちゃんが転移したっていう、、、えっと

「ここが日下だろ。その日府よりにあるのが、日下部市か」

 この庵、今俺がいるのがここ、、、日宇州の北の端。俺がいる庵のここと割と近いな、日下って。

「・・・」

 まぁ、いいや。それよりも―――。ついついっ、っと俺は指で画面をなぞり、下へ下へ南の方に地図を持っていく。日月だけが、『州』じゃなくて『地方』なんだよな・・・。そこへと至り、もむもむさわさわ―――、電話の画面に表示された地図をさらに拡大。

 道までもが見えるほど拡大させていく。天雷山脈を登っていくような道は確かにあった。

「っ」

 それを指で追うようになぞり、なぞり―――、消えた。その道は、山の途中、でもだいぶ下、麓の辺りで点線になり、そして道を示す点線は消えたんだ。地図を縮小させて、天雷山脈全体を見ても真っ白。

「―――」

 この白地図なにやら作為的で恣意(しい)的なものを感じるのは俺だけか? いやきっと俺だけだ。第六感社とかイデアルとか、警備局とかを俺が知ってしまったからそう思ってしまうに違いないって。

「ふぅ、、、もう―――」

 零時四十八分か。午前一時前だ。俺が初めて独りで過ごす庵の夜だ。もうちょっともうちょっとだけ夜更かしをしてもいいよな―――、明日も祖父ちゃんいないんだし、朝稽古は、、、ないし―――『雷切』に関してもうちょっと電話で調べてみようかな。

 ちょんちょんっ、っと地図から検索画面に切り替える。


『灰の子アッシュの都市伝説集』

 ネットの海をサーフィンしていたら、

「・・・・・・」

 なんかこんなサイト(もの)が出てきた。

 名前も見るからにふざけているし、ユーザーを誘導して個人情報を抜き取る怪しいサイトじゃないだろうな。

 でも、気になる、なりすぎる、その名前。祖父ちゃんの言っていた―――、

「っつ」

 ―――『灰の子』に明らかに通じるものがあるよな?『灰の子アッシュ』って―――。

 『灰の子アッシュの都市伝説集』―――、そこで俺はそのサイトに飛んでみた。くるくる、っと僅かな待機時間のあと。


灰の子アッシュの都市伝説集―――

『北西戦争『灰と死刑確!?』

『六巻を知ると一巻の終わり!?』

『我々は人である!?』

『三の理想化とは拾った二つで成功される!!』

『羽っ子いいもの探し物!!』

『混じって濁って内と外!!』


「―――」

 なんじゃこりゃ。その各章はスラングがいっぱい使われていて、いかにも怪しい。解る者にしか解らないようになっていて、その人達の連絡手段のサイトかもと、ふとそんなことを思ってしまう。そんな、いくつか出てきた項目のうち―――

「ここは―――」

 これだな。俺は『北西戦争『灰と死刑確!?』を指で、ちょんちょんっし、そこのページを開いた。


『なぜ、北西戦争が急に終息したのか。それは『灰と死刑確』である。字を変えれば―――『廃都市計画』となる。七年前に起きたイニーフィネ皇国軍による日之国北西部、日下国への大侵攻。日之国とイニーフィネ皇国との境界戦争において何者かの意図により日之国北西部にある日下国の首府ごと灰燼に帰した恐るべき惨劇である―――。北西戦争末期、日之国日下の首府で日之国軍とイニーフィネ皇国軍は一進一退を繰り広げていた。そして、その戦いは双方の総力戦の様相を呈していった』


「やっぱりか、、、」

 まじか。まじでこんな感じに話に聞いた『北西戦争』のいきさつがネット上に上げられているなんて、、、。きっと上げたのは、祖父ちゃんの言っていた『灰の子』の人達だと、思う。

俺は、記事を視で追うように次を読んでいった。


『そんな中、それは起きた。日下国の首府、及びその半径十数里を包み込むほどの超巨大な火球が突如襲い掛かり、日下国首府は灰燼に帰した。そして、そのとき戦っていた多くのイニーフィネの軍人達と日下の民、日夲の義勇兵も業火に巻き込まれ、一瞬で消滅した、といわれている。なぜ、そのような大惨事が起こったのか、真相は定かでない。その大惨事以降、イニーフィネ皇国は撤退し、日下国は日之国日夲政権に統合された。しかし、旧・日下国の首府に行くのはお勧めできない。なぜなら今でも同地は政府によって立入禁止地域に指定されているからだ。理由は廃墟になった街並みと瓦礫がそのまま放置され、大変危険だからということだ。さらに同地はイニーフィネ人とそれに追随する日之国の民達が住みついていて日之国政府の支配を受け入れないという噂だ』

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