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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十五ノ巻
159/460

第百五十九話 剣客が来たりて

「定連さん・・・か―――」

 あの人。俺に―――


『小剱お前―――。・・・お前の打ち込みは上等、さらに力量も咄嗟の判断力もある。だが、そんなお前の一撃を俺は防いだ。小剱お前自分に足りてねぇのがなにか解るか?』

『お前は今のままでも強ぇ。だが、この道場でくすぶっていればそこまでだ』

 あの人定連さん俺にあんなことを言っていたけど、定連さんのほうこそ強かったよなぁ。

「―――・・・」

 小剱流免許皆伝師範代。この祖父ちゃんの道場でくすぶっていれば俺もそこまでってか・・・?

 俺は鉈を振り下ろす。

「っつ」

 すぱぁんッ、っと薪竹が繊維に沿って裂け、二本になった。


第百五十九話 剣客が来たりて


 ふぅ―――っと俺は。

『そこまでの剣技を持っているお前だ。小剱お前にも師はいるんだろ?お前の師はなにか言っていなかったか?』

 ―――って定連さんは。こうして独りで黙々と竹薪を作っていたら、ますます今日あったことが、定連さんのこと、その人に言われたことを思い出してしまう。

「・・・・・・」

 祖父ちゃんか・・・。

 ッ。いや俺は全然満足していない―――!!

『そっか。ま、俺はお前の生き方も、お前の師匠の考えも否定はしねぇけどな。お前がそれで満足してるのならそれでいいけどよ』

 ばりばりばりっ、っと定連さんは錘を持っていない左手でそのスポーツ刈りの頭を掻いたんだっけ。

 小剱流や祖父ちゃんの教えを否定するつもりは全くもって、さらさらない。だけど―――、

「・・・」

 ―――現状で満足しているのか・・・俺?いや、俺は『自分』に全然満足はしていない。

『小剱お前はもっと強くなりてぇか? だったら経験を積め。お前がもっと強くなるにはいろんなやつと戦い、経験を増やすことだ。戦いの場数を多く踏めばそれだけ強くなれる』

「・・・場数、経験を増やせ、・・・か」

 あの人定連さんが言うには、幸い俺にはまだ伸びしろがあるみたいだし。

『―――お前は型がしっかりしてるから、基本が成っているから、きっとまだまだもっと強くなれる。磨けば光る。それは俺が保障してやるっ』

 ちょっと恥ずかしかったなぁ、そんなことを言われて。

「ッ」

『あとお前の戦闘経験な、それもちょっと足りてねぇ」

『お前その若さだ。あんまり戦ったことねぇんだろ?経験値不足なんだよ、お前。俺にしてみればな』

『俺と一緒に来ねぇか?小剱。俺ならお前をイカしてやることができるっ、より高みへとな!!』

 トントントンっ―――、カーン!!

 やっぱそこに帰結するんだよな―――。

「―――」

 すぱぁんっ、っと俺が薪を振り下ろせば、竹の薪がもう一本できた。鉈を持つほうの手は素手で、薪にする竹材を支える手には軍手を嵌めている。


 ざり―――っ、っと俺の背後から足音。おっ、アイナのやつ帰ってきたのかな?

「っ」

 後ろから聴こえてきた足音。

「アイナ・・・?」

 俺は薪を割るしゃがんでいる体勢から、後ろを、背中側に振り返る。

「ッツ」

 違う。アイナじゃなかった。庵のちょうど風呂場の外向きに設えられた電球の明かりに薄く照らしだされたそこ、俺の背後に佇む人間は。

「小剱殿」

「あ、あんたは!!あのときの」

 そう昼間に攻めてきた野添さん。俺の背後にやって来たのは、野添 碓水っていうおっさんだった。

 まさかまた戦いに。まだ『一颯』を諦めていなかったのか?

「そう睨みますな。俺は貴殿と戦いにきたわけではないのだ」

 俺と戦いにきたわけじゃない? 本当か―――?

「また『一颯』を性懲りもなく奪いにきたんすか?」

「いや、そうではないのだ、小剱殿。俺に殺気がないのは、貴殿も気づかれているだろう?」

「―――」

 確かに。

「俺は貴殿に話を乞いたいのだ」

 話を乞いに本当か? 視るか―――、いつも行使するときはやっているように眼に意識を集中させ、その眼をやや細める。

「・・・」

 殺気というか、、、ギラギラしたようなものは今の野添さんからは視得ない。それに、あの廃砦で日下 修孝クロノスを一目見て感じたピリッとしたような研ぎ澄まされた『剱氣』のようなものを、『それ』を抑え込んで押し殺した、でも僅かに漏れ出る、ゴゴゴゴゴゴ・・・っという『殺気』も全くもって、今の野添さんからは視得ない。

「―――・・・」

 むしろ今の野添さんを視て、視得て、、、野添さんは凪いだ海ように、今のこの人の氣は落ち着いている。

「その眼。小剱殿の凛々しい眼、それを見てますとなんとなくあの方を思い出しますぞ」

 ふうっ、っと俺は集中を解き、行使を止めた。

「あの方?」

「うむ。小剱殿の口からあの方の名前が出たときは、口から心臓が飛び出るほど驚愕致しましたぞ」

 あの方の名前? 自身が驚いただって?

「―――??」

 この人の言うことは、基となることが省かれているせいで、言っていることがよく解らない。以心伝心という言葉はあるけれど、それは信頼している間柄にだけ存在すると俺は思うんだ。俺はこの野添さんと会ったのは今日が初めてで、だからこの人の人となりも知らないし、よく分からない。

「失礼(つかまつ)った、小剱殿。何分嬉しさのあまり、気が(はや)ったのだ。どうか、お赦しを」

 この人、いちいち言い方が昔の人っぽいよな。普通に時代劇に出てくる剣客のような言葉遣いだ。

「はぁ・・・?」

 まぁその言葉遣いはいいけど。俺も子どもの頃は祖父ちゃんと一緒によく時代劇を観ていたしな。

「小剱殿」

 さっ―――、っと野添さんはその腰に差した日之刀を外す。刀を抜いたんじゃない。鞘ごと自身の腰から取り外したんだ。

「―――っ」

 ザッ、っとまるで時代劇に出てくる武士が行なうように。その一振りの刀を自身の脇に置いて俺の前に座する。

小生(しょうせい)―――野添 碓水は貴殿小剱 健太殿に話を乞いに参上したのでありまする」

 その顔も、言葉も、動作を観て、俺は野添さんがふざけてやっていると思えなかったんだ。

「・・・つまり俺と話を?」

「うむ」

「―――」

 俺と話をしたいって真面目に言っているんだし、俺も座るか。よっと、、、俺は薪の横に腰を落とす。鉈を脇に置き、左手に嵌めた軍手も脱いだ。

 すると、野添さんはかたじけない、と一礼をした。そして、彼はそのままの姿勢でその口を開く。

「小生―――故在(ゆえあ)って人を捜しておりまする。そのお方の名は『日下 修孝』―――」

 日下 修孝・・・ッツ!!

「―――ッ!!」

 野添さんの口から出た『日下 修孝』と言う名前―――、『先見のクロノス』のことだ。故在って人捜しって、まさか、、、仇討ちの相手がクロノスとか?

 うん。充分にあり得る話だ。魁斗も言ってたよな、クロノスはすぐに刀を抜く奴だって。それに祖父ちゃんの夜話の中で、日下 修孝は戦闘機のパイロットを斬り殺していたって。

「その反応。やはり貴殿は日下 修孝殿を知っておいでか」

「え、えっとまぁ・・・」

 出会いはなんだろう?クロノスとの出会いは最悪だったか? いきなりその刀を抜いてアイナに斬りかかってきたのは最悪だったけどな。

「拙者がいくら捜してもその修孝殿の手がかりは掴めず、今は『先見のクロノス』と名乗っていることしか判らなかったのだ・・・くっ」

 野添さんは悔しそうに歯噛みする。

「しかし、そんな折、小剱殿貴殿の口より『日下 修孝』と聞いた。俺は驚愕すると同時に嬉しくもあったのだ。そこに至り俺は再び小剱殿の下に足を運んだという次第でありまする」

 そういうことか。あのとき俺が魁斗化するときに、クロノスの本名を口に出して呟いたからか。

「なるほどそういうことだったんすか―――」

 俺は一息入れて、、、。やっぱり野添さんの理由は―――

「―――仇討ちっすか?野添さんの目的は」

 きょとん、と野添さんは。野添さんの顔から緊張のようなものが解ける。その顔は、俺(小剱 健太)は何を言っているんだ、とでもいうような表情だった。

「??」

「あ、えーっと小剱殿―――っ」

 野添さんは拳を口元に当てて、こほんっ、っと咳払い。そしてまたすぐにその拳を口元から除けてその口を開く。

「・・・小剱殿、拙者の話は、話すその内容は貴殿の内々に、その心の内に納めたままにしておいてくだされ」

 そう野添さんは真面目な顔で・・・。そもそもどんな話をするつもりかも俺には分からないのに。

「・・・えぇ」

 俺はややゆっくりと首を縦に。そう、俺は野添さんがあんまりにも真剣な目で、そんな力の籠った顔をするものだからさ。

「小剱殿貴殿はあの恐るべき黒い異能を使う直前、何かを呟いたあと確かに申されたな『日下 修孝』と。貴殿は―――、どうしてあの方の名前を知っていたのだ?」

 逸る気持ちを抑えきれないのかな、野添さんは。なんか意志の籠った、、、とにかく自分は話したい知りたい、というようなそんな眼差しだ。

「・・・」

 あぁなんかこの感じ・・・、よし焚火でもするか。うん、なんとなくあのときに、、、生ける屍が徘徊する街を抜けて、廃砦で魁斗と語り合ったときと似ているかもしれなって、俺は思ったんだよ。

 焚火を(おこ)すなんて、なんかちょっとなつかしいな。

 俺は無言でも、でも落ち着いたいい気分で、手を動かしてさっき割った竹の薪を集める。

「小剱殿?」

「なんかこんな感じだったんすよ・・・」

 そう、前に魁斗と廃砦で夜、火を熾して話し合ってさ。それはそのときは悪くはなかった、キャンプファイアみたいでさ。

 俺はもう慣れた手つきで、置いてあった裏紙を火種にして組んだ竹薪に火を点けた。

「あの夜は―――」

 パチパチ―――、しばらくして竹の薪で燃える焚火の火勢が安定仕出した頃だ。俺はぽつぽつと、あのときの廃砦で起きたことの話を切り出したんだ―――

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