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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十五ノ巻
158/460

第百五十八話 ・・・この道場でくすぶっていれば俺もそこまでってか、、、

「で、その錘使いの人がさ、めちゃくちゃ強くてっ。『先眼』使っても全然一太刀が入らなくてさ、、、俺、『顕現の眼』で魁―――っ」

 ッツ―――、ハッとして俺気が付いたんだ。アイナにとって魁斗『黯き天王カイト』はきっとトラウマ的なことで―――。俺の脳裏にあのときの場景が、、、俺はあのときの悲惨で、苦しくて、、、それから憎いあの光景が、脳裏にまるで閃光を放つかのように蘇ったんだ―――、

『いやぁああああっ逃げてッ!! 逃げてッアターシャ―――』

『いやぁああああああッアターシャっ・・・―――逃げてぇえええっ従姉さんッ!!』

 ッツ!!あのくそったれな魁斗がさも嬉しそうにヘラヘラ笑いながら、その黯き異能でアイナを操って―――、


第百五十八話 ・・・この道場でくすぶっていれば俺もそこまでってか、、、


『あっそうそう健太。さっきも言ったけど、僕の『黒印』は人を金縛りにする技じゃないんだ、ほんとはね。『黒印』の真価はね、僕が『黒印』を打った者は僕の意のままに、僕は、『黒印』を打った者を僕の意のままに操れるんだ』

『僕の書いた筋書はこうさ。乱心したアイナ皇女は、憐れ自らの侍女であり従姉でもあるアターシャ姫を斬り殺し、その後、自らもその刀で後を追うのさっ―――ははっ♪』

 そして、くそったれ魁斗に肉体を操られたアイナは、その手にした刀で、自らの大好きな従姉のアターシャを―――、

『い、嫌っ・・・いやぁああああああッ!!』

 タンっと数歩退いたアイナは意に反してアターシャに跳びかかり、その日之刀の白刃煌めくその鋩が、いまアターシャの肩口に触れ―――

『ケ、ケンタ・・・わた、わた、わたしは―――・・・』

 あのとき俺が抱き締めたアイナはふるふると小刻みに震えてて、酷く傷ついて、きっと恐かったに違いないって。


「ッツ」

 そんな魁斗『黯き天王カイト』を俺のこの選眼の『顕現(あらわし)の眼』で準え、顕現させた。アイナに『俺はこの『顕現の眼』で幼馴染のあいつ魁斗、『黯き天王カイト』を準え、魁斗に成りきって定連さん達を圧倒したんだぜ(どやっ)』って言おうものなら―――、、、アイナはどう思うのか。

 きっとアイナをまた傷つけてしまうって・・・っ!! あぶね、もうちょっとでアイナに魁斗と口走るところだったぜ。ほんっとあぶなかったぁ・・・。

 ふぅっ、っと俺は内心で胸を撫で下ろす。

「『顕現の眼?』でかい?」

 きょとんっ、っとアイナはその藍玉のようなきれいな目をぱちくり。きっと俺が急に言葉を切ったものだから。

「『顕現の眼』でかいなぁ、なんて。ほら、眼球って意外と大きいんだよなって、はははは・・・」

「はぁ・・・?眼ですか?ケンタ」

「お、おう。あの二人が俺の思ったよりずっと強くてさ。まるで目が飛び出しそうになるぐらい驚いたってこと・・・っ」

「・・・」

「―――」

 思わず無言になっちまう。・・・ちょっと俺の話は無理くりすぎたかな?頭の回転が速いアイナの目には・・・俺の話は不自然に映ったかもしれない。

 とんとん、っと。

「「!!」」

 そんなとき襖が揺れた。外から誰かが襖を叩いた音だ。よしっ!!ちょうどいいときの、ノックだ。

「アイナ様。そろそろお時間のほうが押しております」

 アターシャの凛とした声だ。その声が襖の向こう、居間のほうから聴こえた。ナイスっアターシャさん!!

「え、えぇアターシャ。解っています。ですが、従姉さんもう今しばらく待ってもらえませんか?」

 即座にアイナがアターシャに答えたんだ。

「―――」

 はぁっ、っというあからさまなアターシャのため息が聞こえた。きっとこのため息はわざとだ。アイナに聴こえるようにわざと大きなため息を吐いたに違いないって。

「失礼致します、アイナ様―――」

 す―――っ、っと俺の部屋と居間とを隔てる襖が横滑り。

「あ」

 あっ、アターシャだ。アイナと同じくなんか久しぶり。そんな俺とアターシャと視線が合った。

 サっ、っと。

「―――。おはようございます、ケンタさま」

 アターシャは部屋の入り口で姿勢を正し、俺に一礼。その両手は重ねられた上で、その給仕服のお腹の上に置かれている。

「あ、うん。おはよう、ございます、アターシャさん・・・」

 祖父ちゃんの夜話の話を聞いた後だと、、、後でだと、ちょっとアターシャにかしこまってしまうぜ。すっ、っとアターシャは姿勢を戻す。

「はい、ケンタさま。ケンタさま、お目覚めになられていたのですね」

「えぇ、うん。はい」

「―――、それは大変ようございます」

 一瞬怪訝そうな顔をしたアターシャ。俺の言葉遣いと態度かな・・・? うっ、アターシャに接するときはいつもどおりの口調に心がけよう。アターシャは俺から視線を切り、アイナへと向き直る。

「ところで、アイナ様」

「えぇアターシャ」


「・・・」

 アイナの綺麗な(おとがい)、、、。それが膝枕されている俺には見える。アターシャに呼びかけられたアイナは、下の俺を向いていたその顔を上げ、アターシャを見たからだ。


「お時間のほうがそろそろ押しておりますが、自宮にお戻りになられますか?」

「そう、、、ですねアターシャ」


 アイナとアターシャ、、、二人の会話を聞いて俺は。

「・・・」

 ・・・アイナってば。アターシャの言う時間がそろそろ押しているっていうのは、アイナの公務の時間のことかな? イニーフィネに戻るのかな―――、、、アイナが戻る前に聞いておきたいこともある。

「―――」

 ―――よし訊いてみよう。

「ケンタ―――」

「っつ」

 よし、っアイナに訊いてみようと、俺が口を開けたときだった。アイナの、アイナが口を開いて言った言葉のほうが俺より僅かに速かったんだ。

「ん?アイナ」

「―――ケンタもご一緒しませんか?」

 ご一緒?

「え?」

 俺もアイナの公務に一緒するってこと? ・・・そうだな、、、アイナがせっかく俺を誘ってくれたんだし―――。

「どうでしょうケンタ。そろそろご夕飯のお時間ですし」

 ご夕飯!? 夕食のことだったのか。

「!?」

 アイナもこう言って俺を夕飯に誘ってくれているんだし。久しぶりに和食じゃないイニーフィネのちょっと変わった料理を食べてみたいかな。

「そうだな、アイナ。よろしく頼むわ」

 俺は二つ返事で承知した。

「聞きましたね、アターシャ。では戻りましょう従姉さん」

 アイナは俺からアターシャに視線を戻す。

「はい、アイナ様」

「従姉さん、私の肩を」

 アイナは斜め後ろに佇むアターシャのほうを振り向いていて―――、失礼致します、とアターシャが、すぅっ、っとその細い指を出す。そして、静かにそのアターシャの右手がアイナの右肩に触れたときだった。

 アイナはアターシャへと向けていたその視線を切り、ぱっと膝元の俺へと移したんだ。

 俺を見詰める藍玉のような目がぱちくりとする。

「そういえば、ケンタ。ゲンゾウ師匠の姿が見当たりませんでしたが、師匠はどちらにおられるのでしょう?」

 祖父ちゃんか。確か朝、、、『眼鏡の御仁』に会いにいくって言っていたな。一日二日帰ってこないとも。

「祖父ちゃん、出かけるって。今日は帰らないみたい」

「え?師匠が」

「うん。なんか知り合いのところに行ってくるって言ってなぁ、祖父ちゃん」

 ぱちくり。

「―――、、、」

 アイナは目をぱちくりとさせてからツイーっと、アイナのその藍玉のような目が斜め上を向く。でも、それも一瞬のことで、すぐに俺へとその視点は戻ってきた。

「・・・」

 にやっ、っとアイナ。その、にやっとの笑みは極上の笑みというものではないけれど、アイナのその笑みは、ほほほふふっ、っというものに近いかもしれない。淡く笑みをこぼす、そういったものに近い。

「アターシャ。せっかくですので、ケンタの言葉に甘えて今夜はこの庵で夕食といたしましょう」

「かしこまりました、アイナ様」

 しれっと。まじでアターシャまでシレッと。

「え!?」

 おぉう、まじか!?

「よろしいですよね、ケンタ?」

「よろしいですよね、ケンタさま」

 二人そろってよろしいですよね、俺って。一体誰が夕飯を作るんだろう?

「・・・」

「私達、よろしくないのでしょうか・・・ケンタ」

 しゅん。―――っ!! アイナが力なく、さも残念そうになんて。

「よし、わかった。夕飯は一緒に食べるようっみんなで!!」


///


「ッ」

 せいっ!! カーンッ!! 俺はひたすら鉈を振り下ろしていた。薪風呂の燃料の薪を作るためだ。薪は間伐した竹だ。鉈で竹の繊維に沿ってまず切り込みを入れた後、トントントンっとまずは軽く叩き切る感じにして、鉈の刃が下の方まで入ったら最後、カーンッ、っと薪ごと振り下ろせば、土台の木床に当たってスパッと綺麗な竹の薪が出来上がる。

 木を伐った薪を新しく仕入れるより、そこの竹林の間伐した竹を薪に使うなんていうところが祖父ちゃんらしいな。

「ふぅ」

 最初の頃、、、俺がこの祖父ちゃんの庵に着てすぐのときは、この薪割りだけでも腕が筋肉痛になったっけ。どうやら木刀を使う剱術の修練とは違う筋肉を使うみたいだからさ。

「ふむ、こんなところかな」

 俺の脇には結構な量の間伐竹の薪の山ができていた。青竹じゃなくて、納屋の中に仕舞っていた乾燥竹だ。納屋は定連さんの所為で土壁に大穴ができていた。あとで祖父ちゃんに告げてやる。

「定連さん・・・か―――」

 あの人。俺に―――


『小剱お前―――。・・・お前の打ち込みは上等、さらに力量も咄嗟の判断力もある。だが、そんなお前の一撃を俺は防いだ。小剱お前自分に足りてねぇのがなにか解るか?』

『お前は今のままでも強ぇ。だが、この道場でくすぶっていればそこまでだ』

 あの人定連さん俺にあんなことを言っていたけど、定連さんのほうこそ強かったよなぁ。

「―――・・・」

 小剱流免許皆伝師範代。この祖父ちゃんの道場でくすぶっていれば俺もそこまでってか・・・?

 俺は鉈を振り下ろす。

「っつ」

 すぱぁんッ、っと薪竹が繊維に沿って裂け、二本になった。

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