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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十五ノ巻
157/460

第百五十七話 目覚めれば、俺―――

「あ・・・」

 ―――視線が合う。竹林の中で倒れる俺を彼女は見た。でも、その彼女はすぐに俺から視線を切る―――。


第百五十七話 目覚めれば、俺―――


「すまねぇ、颯希。今回はマジでやばかったぜ・・・死ぬかと思った」

「かたじけない、九十歩(くじゅうぶ)殿・・・くっ俺としたことが、、、」

「う、うんっいいって。それよりここもやばいかもっ、早く行こ・・・!!」

「やばい?どういうことだ、颯希」

「うんっあの黒いのがここまで迫ってる―――」

「「っつ!!」」

 定連さんと野添さん、それともう一人の女の人の姿が揺らいで、三人の姿が消えていく。


「―――」

 逃げる。逃げてしまう、、、あいつらが―――。ち、力が、身体に力が入らない。でも、、、俺はふるふると、この黯に塗れた右手を伸ばし―――、あぁ、、、ダメだ力が抜けていく。早く行かないと定連さん達が逃げて、しまう、、、と、いうのに・・・。

 あぁ、『剱氣』が抜けていく、、、『黯』が消えていく。俺の準えた魁斗の黯氣が、祖父ちゃんの剱氣が―――。

「―――、、、っ」

 あまねく視通す、『顕現(あらわし)の眼』が解けていく、、、。

 まるで穴の開いた風船のように、、、。空気中のドライアイスが昇華していくかのように、俺の中の『黯剱氣』がすぅっと抜けて・・・『黯』が消えていく、、、。

「、、、」

 じゃあな魁斗あばよ。

 でもこれで良かったかもしれないな。もう気張らなくていい。なんか楽になった。準えているときにはこんなこと思わなかったのに、、、。こんな気持ちにならなかったのに、、、。

「っつ」

 『黯剱氣』を失くし、、、力が、消えていく。もう俺の伸ばした右手はすっかり黯を失い、、、あぁこれは俺の手。あぁ、もうすっかりと元通りだ。でも、これで良かったのかも。魁斗を、準えているときの俺は、明らか・・・変だった。心も感情も全部。俺が俺で俺なのに。俺はいるのに、なにか別の人に、まるで魁斗や祖父ちゃんに俺が成っているみたいで。感情や気持ちをうまく扱えない、というか。まるで自分が、自分の心が、感情が魁斗に乗っ取られたかのような、、、。

 いつもの俺じゃない―――俺じゃなかった。

「あぁ、、、なんか眠くなってきた」

 眠い。とにかく眠い。俺は押し寄せる睡魔に勝てず、それに身を任せ、、、静かに、静かに、、、俺は―――すぅっと目蓋を閉じたんだ。


///


 目にわずかな光が入る。

「んっ、、、うぅ・・・」

 まぶしい。身体をうごかして、、、この眩しさから―――。

「?」

 温かい。ぽわぽわしていて、、、ん?やけに枕が柔らかい気がする。それに、頭が温かい。頭が温かいんじゃなくて、、、枕が温かいのか・・・。

 んっ、っと俺は目をうっすらと開き、、、

「―――」

 あっ、アイナだ。その藍玉のようなきれいな色をしたアイナの瞳と視線が合う。

「目が覚めましたか、ケンタ?」

 なんでアイナがここに?

「え?アイナ」

「はい、ケンタ。っ」

 にこっ、っとアイナが微笑む。きれいな笑みだ。そういえば、アイナを直に見るのは久しぶりだ。そのきれいな笑みも。

「―――っ///」

 なんかちょっと恥ずかしい。そうだ、そういえばここは?

「あれ?」

 見れば、俺は布団の中にいる。しかも、ここは俺の部屋だ。アイナに貰ったアイナの自宮の一室じゃなくて、祖父ちゃんの庵のな、祖父ちゃんが俺に自由に使いなさいと言ってくれたあの和室の一室だ。

 俺はいったい・・・、あっそうだ俺、、、『顕現の眼』で魁斗と祖父ちゃんを準え―――、その、、、逃げる定連さんと野添さんを追おうとして、竹林の中で『黯』に染まり、黯に塗れたその手で二人を掴まえようとして―――、

「―――()ぅッツ」

 ッツ―――ずきりっ、っと頭痛がした・・・。その鈍痛に思わず顔を歪めてしまう。

「だ、大丈夫ですかっ!?ケンタ」

 アイナが俺を覗き込み、、、その拍子に後頭部が少し揺れた。

「あ、うん大丈夫、アイナ」

 そっか俺。アイナに膝枕されてるんだ。っ///

「・・・大丈夫ならよいのですが、、、ケンタ」

「―――」

 もぞもぞ、っと俺は掛け布団の中から右手を出す。アイナに膝枕されたままの寝姿勢で俺は右手を眼前に(かざ)す。

 じぃ―――っと俺は自分の右手を見詰め・・・。ひらっ、っと右手を手の甲に、それから手の平に返すようにもとに戻した。

「・・・普段通りの右手だよな」

 この手は普段通りの俺の右手だ。あのときの俺の右手は墨汁より黒い漆黒の黯に塗れていた。いや、ううん右手だけじゃない左手も、そう腕全体が、俺の身体は魁斗を準え、黯氣塗れの真っ黯だった。まるで頭の上から墨汁を被ったかのように、全身が、心身が、黯い氣で覆われていた。

 ふと意識を戻せば、彼女アイナはやや俺を覗き込むかのようにその藍玉のような綺麗な眼で俺を見る、見つめていた。

「ケンタ?右手がどうかしたのですか」

「っ。あ、いや、アイナ―――・・・ううん、なんでもないよ」

 さっ、っと俺は右手を降ろす。ちょっと不自然だったかな?

「―――、、、」

 じぃ、、、っ、っとアイナさんは疑わしそうな視線で俺を見て。

「~~~」

 あっ、やっぱ今の俺の行動は不自然だったみたい、俺がさっ、と素早く手を眼前から退けたのが。

 右手を除ければ、見えた先。ちょっと目を細めたアイナは何となく疑わしく、納得がいかない様子で俺を見下ろしていた。そして彼女はそんな表情で口を開くんだ。

「ケンタ。その、、、なにが・・・、、、。でもケンタ貴方が無事で本当に良かった、、、っ」

 じわっ、、、っとアイナの(まなじり)が・・・。

「っ!!」

 ほんとに俺のことを心配してくれて、、、俺に心を砕いてくれているんだな、アイナ。そのきみの潤んだ藍玉のような眼の眦を見たら解るよ。

「―――うんっ俺は大丈夫、なんでも訊いてくれ」

 俺はにひひっ、っとアイナに笑って見せた。

「は、はいっ///ケンタ―――っつ」

 涙に濡れた湿っぽい声でアイナは。そこで『っつ』っと涙を拭う。そしてその華麗な口を開いた。

「ケンタ。私は今日もいつもの休息時間に、貴方に電話を掛けたのです。でも、貴方が電話に出ることはありませんでした」

 定連さんと戦っていたからな。だから電話に出ることができなかったというわけだ。

「うん、ごめんアイナ」

「い、いえ、、、それはいいのですが・・・」

 ややアイナは逡巡するように、アイナが自身の言葉を選んでいるのが、俺にも解る。

「なにか嫌な予感がしたのです。そして、公務も滞りなく終わり、、、焦燥感に駆られた私が急ぎこの庵に着てみれば―――ケンタ貴方はここの竹林の中で倒れていました」

「・・・」

 『顕現の眼』の力に俺の心身が限界にきて、ということが今ならもっとはっきりと解る。『顕現の眼』で準えた『黯き天王カイト』『剱聖小剱愿造』『黯剱氣』の度重なる行使―――心身に負荷がかかり過ぎたんだ。だから、限界に達した俺は、俺の『選眼』の異能が解けたんだ。

「私は従姉さんと一緒にケンタをこの庵まで運び、そして今に至ります、、、。あの・・・竹林の中で、いったい・・・なにがあったのですか?ケンタ」

「うん―――」

 ま、べつにアイナに隠すようなことでもないか。

「泥棒だよ、アイナ」

「泥棒、、、ですか?ケンタ」

 うん、っと俺は首を縦に振り、かたやアイナのほうは怪訝そうに首を傾げた。

「『第六感社』を名乗る二人組でさ、めちゃくちゃ強かった」

「だ、『第六感社』ですかっ!?」

 っ、アイナの膝枕が揺れた。

「知ってるの?アイナ」

 クルシュ=イニーフィナって祖父ちゃんが言ってたよな。『イニーフィナ』アイナと同じ・・・一族。う~ん、闇が深そうだな。

「え、えぇまぁ」

「いやぁ、でも強かったなぁ・・・。もうちょっとだったのにな、俺、氣を使い果たしてさ」

「―――・・・」

 じぃっ、っと不思議そうに俺を見てる? 膝枕から見上げるそんなアイナの顔。きょとんとさせた藍玉のような目。

「どした、アイナ?」

「い、いえ、ケンタ。その割には貴方に悲壮感や、、、その、怒りの感情も見えないものですから」

「あぁ、そういうこと」

「はい・・・、むしろ今のケンタは嬉々としていませんか?」

「そうかも。なんかさ、俺解ったんだよ。俺はもっといろんな強い人と手合わせして、経験を積んでさ。うん、もっと俺強くなりたいって」

「・・・なんとなく、それは私も解る気がします」

「お?やっぱアイナも」

「はい、ケンタ」

 なんかうれしいかも。カノジョと価値観のようなものが一致するのは。もぞもぞっ、っと俺は頭を動かし、柔らかいアイナの膝・・・っ///

「んぅっ、く、くすぐったいですっ、ケンタっ///」

 俺はアイナの膝の上で、もぞもぞするのをやめた。

「で、その錘使いの人がさ、めちゃくちゃ強くてっ。『先眼』使っても全然一太刀が入らなくてさ、、、俺、『顕現の眼』で魁―――っ」

 ッツ―――、ハッとして俺気が付いたんだ。アイナにとって魁斗『黯き天王カイト』はきっとトラウマ的なことで―――。俺の脳裏にあのときの場景が、、、俺はあのときの悲惨で、苦しくて、、、それから憎いあの光景が、脳裏にまるで閃光を放つかのように蘇ったんだ―――、

『いやぁああああっ逃げてッ!! 逃げてッアターシャ―――』

『いやぁああああああッアターシャっ・・・―――逃げてぇえええっ従姉さんッ!!』

 ッツ!!あのくそったれな魁斗がさも嬉しそうにヘラヘラ笑いながら、その黯き異能でアイナを操って―――、

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