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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十五ノ巻
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第百五十六話 準えし『天王黒呪』。発動―――漆黒の暗殺者『黯影』

「『天王黒呪「黯黒呪界」』―――」

 ぎゅっ。じわっ、ツツーっ、ぽたっポタタっ・・・。

 木刀の柄を握り締める右拳からじわりとまるで墨汁のような黯い氣が。それは柄を握り締める指の間を濡らすように漏れ、そのまま、木刀の刀身を伝い、鋩からぽたぽた、ぽとぽとと竹林の地面に落ちて黯い染みを作る。

 黒い漆黒の墨汁のような水滴がポタっポタタっと何滴か、数滴地面に落ちて黒く染め拡がり―――、


第百五十六話 準えし『天王黒呪』。発動―――漆黒の暗殺者『黯影』


「野添・・・っ!!」

「定連殿・・・っ」

 定連さんと野添さん二人が同時に口を開き、その互いの呼びかけが重なり合う。

「この肌を焦がすような痛い感覚―――こいつはヤバすぎるっ・・・!!」

「定連殿っここは退きますぞ・・・!!」

 定連さんと野添さんは驚きのあまりに目を見開く。


「―――」

 それから魁斗のやつは何をしたっけ・・・確か、、、それから。


「定連殿っあれを―――!!」

「なっ、なんだよあれは・・・どうなってんだ!? く、黒い液体が地面に落ちた瞬間に紋章が、、、き、消えた、だと?」

「き、消えましたな、、、紋章。それにしてもあの明滅する魔法陣のような紋章、、、あれはいったいなんだったのだ・・・」


 竹林の竹葉の地面に落ちた準えし魁斗の、液体のような黯色の氣は落ちた瞬間に三角形や六角形が組み合わったような多角形の紋章を浮かび上がらせる。黯い冥光を放ち、それは明滅し、定連さんと野添さんがさっき驚いていた、ものだ。

 でも、その『印』は消える。否、消えたように見えるだけで、俺には視得るのよ―――ははっ♪

 魁斗のやつはそれ『黒印』を思念体として使っていたのう。だが、俺は違うのさ♪

 ―――じわじわ・・・じくじく―――その漆黒を見ているだけで・・・眼が疼くように痛いはずだ、定連さん達は。かつて俺も魁斗のそれを視たときは眼が痛かったのう・・・。もう全てが、魁斗との思い出自体がもう懐かしいわい。

「さて、、、」

 『黯黒呪界』はこの竹林を俺の領域と化するための下拵(したごしら)えだ。さて、ここからが本番よ。俺が祖父ちゃんを、『剱聖』を視て視得て得たもの。

 祖父ちゃんに稽古をつけてもらって、俺が全く歯が立たなかったのは理由がある。それはどうしても稽古中に祖父ちゃんの気配を追ってしまうからだ。この竹林の中をその異能『剱聖』を行使して縦横無尽に跳び、跳ね回っていた祖父ちゃん。祖父ちゃんはただ縦横無尽に跳び回っていたわけじゃない。その剱氣で、祖父ちゃんは自身の剱氣を行使して造り出した己の現身(うつしみ)の残像だ。それを、言い得て妙だけどその残像を竹林の中に置いていくんだ。ただの残像ならば、大したことはない。残像を見てもそれを意識しないようにすればいいだけだ。

 だが、祖父ちゃんが造りだした残像は気配をも纏う。祖父ちゃん自身の剱氣で造り上げた残像だからだ。だから、祖父ちゃんに稽古をつけてもらっている、戦っているときの俺はやっぱりその殺気のような気配を追ってしまって、どれが本物の、果たして俺が戦っているのはどの影だ?どれが本物だ?なんて目移りする。その隙を突かれて祖父ちゃんの『面』や『胴』が俺に入る、というわけだ。

「―――」

 だが、今の『魁斗』と『祖父』を準えた俺ならば、これができると、信じ―――。

「『天王黒呪「黯影」』―――」

 ふぅっ、っと俺は二人には聴こえないくらいの小さな声で呟いた。


 バッ、タタっ―――ダダダダっ、っと、

「―――、、、ッ」

「―――、、、!!」

 二人は、定連さんと野添さんは一目散に竹林を駆けて逃げていく、二人からしたら前の俺が立つ方向の反対側へと、、、つまり道場のほうに。タタタタっ、っと俺に背中を見せて遁走する二人、その際に薄い茶色をした細い竹の葉が舞った。


 なるほど二人とも、、、でも逃がすかよ。

「・・・」

 定連さんと野添さんは身を翻し、この竹林から、俺が魁斗のそれを準え造り上げた『黯黒呪界』から一目散に逃げていく。

「―――ははっ♪ 逃がさないよ」

 にぃっ、っと自然に口角が吊り上がる。魁斗のくそくらえな『黒印』と祖父ちゃんの『剱聖』現身の影分身―――。『黒印』のぷてぷてとした見てくれだけはかわいい姿じゃない。それ『黯影』は漆黒の黯い姿かたちだけど、その『影』は俺の姿をしている。その黯影を俺は、逃げて遠ざかっていく野添さんの背後に向け―――、

 その瞬間に―――野添さんは振り向く。

「むっ!!」

 そして、ダンっ、タタっと走りながら、野添さんは身体の向きも変えて俺に振り返る。

 さすがだ。背後に迫る俺の『黯影』に気づいたか、野添さんは。

「野添ッ・・・!!」

 僅かに遅れて定連さんの声。

「せい・・・!!」

 キィイインッ、っと、『黯影』の黒い木刀と野添さんの見事な日之刀が斬り結ぶ。

「お主野添殿・・・それは抜刀術か」

 俺の『黯影』をその刀で受け止めるとは中々やるのう。

 『黒印』と祖父ちゃんの『現身』を合わせ、実体化させた俺の『黯影』だ。それを野添さんは振り向きざまにその日之刀を抜き放ち、俺の『黯影』を正面で迎え撃ったというわけだ、野添さんは。

「小剱殿・・・!! 貴殿は先ほど―――く、、、」

(しか)らばこれはどうかのう、野添殿」

 何かを言おうとした野添さんに構わず、俺は『黯影』を肉薄させ、再びぎゃりんっ、っと斬り結ぶ。

「―――、、、く、くさ・・・、―――ッツ」

 俺は己の『黯影』を操り、なにかを言おうとした野添さんに差し向ける。

 ギンッ、っと斬り結び、

「ははっ・・・♪」

 チュインッ、っと俺はその黯き木刀の黯い影で野添さんの真剣をいなす。あぁ、楽しいな。いや、うむ俺は今とても愉しいぞ。

 もう一度、俺は『黯影』を操り、、、今度は―――、

「っ!!」

 ぶわっ、っと俺は『黯影』を跳ばせ、上から舞わせる。俺が狙うは野添さんだ。でも、その間に定連さんが割って入る。

「ッ」

 だんッ、っと定連さんが―――、

 ガッ―――、っと斬り結ぶ俺の黯い木刀と錘。―――っと俺はもう一体の『黯影』を操り、定連さんに差し向けたわけだ。

「ふっ」

 ふっ、っと定連さんは性懲りもなく―――俺の『黯影』に向かってその錘を振るう。ガッ、っと―――定連さんの二度目の錘の一撃を俺は『黯影』の木刀で受け―――

「ははっ♪やるねっ!!」

 だが、今度はその錘さえ、砕いてみせようぞ。俺は『黯影』をこの黯剱氣をさらに練り込み、氣を練り込んでいく。。

 より堅固にするには、黯剱氣をもっと練れねばならぬか、、、。だが、練れば練るほど氣を喰らうしのう、、、はてさて。

 俺はこの隙を突かれて、その隙に二人は。

「かたじけないっ定連殿・・・!!」

「いいってこった。それよりも―――」

 『うん』と、二人は視線だけでお互いに意思疎通を図り、タタタタっ、っとまた一目散に逃げていく。


 俺は一人、向こうは二人。定連さんと野添さん二人は示し合せて瞬く間に逃げていく。だが、今の俺なら―――、

 では、こちらも二人同時に仕留めるとしようかのう・・・。そっちのほうがやり易いというものぞ。

「―――では、ゆるりと追おうかのう、、、ははっ♪」

 ―――ぐっ、っと両脚に力と氣を籠める。黯剱氣を操る俺は、、、今の俺なら祖父ちゃんの『剱聖』の動きの真似ができるはずだ。

 ひゅっ、っと俺は地を蹴る。脇に生えている竹の節に足を掛け、ぴょんっ、っと次の竹に、またその次の竹にと、竹の反動を利用してさらに加速し、、、俺は一目散に逃げていく二人のあとを追う。オアっ、っと俺の後方には黯い氣が、まるで煙のように靡き、その残滓を遺す。

 僅かな刹那、俺は眼を瞑る。

「―――」

 俺は煤よりも黒い真っ黯な『黯影』二体を引き連れて、それはまるで俺が率いる黯殺部隊だ。

 ははっ♪もう二十メートル。十五メートル―――。

「・・・ふむ」

 常に竹の上にいる俺の眼下に、一目散に逃げる、必死に俺から逃げようと試みる定連さんと野添さんが視得る。

 あと六尺、四尺、、、だが、無駄というもの。ほれ、もうすぐだ。俺の黯い水に濡れるこの手がお主らを掴まえるのよ。

「ほほっ♪」

 ふむ、俺が少し手を伸ばせば、お主らにこの黯黒手腕が今にも届きよう―――。

 ドクンッ!! 突然視界が大きくぶれる。

「―――ッツ!!」

 俺の身体が大きく一度脈打つ感覚。―――こう、、、身体の奥から大きくドクンッ、っと脈打ち―――っ・・・、俺は竹の幹の上で体勢を崩す。

「くっ・・・!!」

 ガシッ、っとその黯に塗れたこの手で竹の幹を掴んだ。でも、ズザザザザっ、っと俺は竹の幹に黯を擦り付けながら、滑り落ちるように、、、その幹に黯の残滓を遺しながら地面に落ち、墜ちて。まるでバランスの崩した飛ぶものが墜落していくかのように、、、そして俺の身体は竹林の地面にあった。

 があ゛ぁああああああ、ぁああああああ―――ッ!!

「―――っ、―――ッツ、―――、、、」

 ドクンっ、ドクンッ、ドクン、、、っと心臓が痛いほど脈打つ。声すら出せないほど身体は辛くて、重くて、、、ぐるぐると回る視界、ゆらゆらと揺れる視界。そんな俺はなんとか前を視て、、、―――遠くに、竹林の出口へと至る定連さんと野添さんの姿が視える。

 もう一人誰かいる。

「シゲっ、ノッチっ迎えに来たよ。さ、早く・・・!!」

 女の人だ、その人。その薄い色の髪をした女の人は、、、黒いスーツ姿で、定連さんと野添さんを迎えて。

 でも、黒スーツの彼女はちらり、っと俺と―――、

「あ・・・」

 ―――視線が合う。竹林の中で倒れる俺を彼女は見た。でも、その彼女はすぐに俺から視線を切る―――。

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