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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十四ノ巻
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第百五十一話 錘使いとの戦い

「っつ」

 始まるんだ、戦いが。夜話のとおりに日下部市を襲撃したこともそうだけど、定連さんが人ん家の納屋を勝手に壊したこと―――。

「ま、それじゃあお前を黙らせたあとからでも探すとするか、妖刀を―――なッ」

 ダンッ、定連さんは右足を踏み締める。その右手には錘。

 でも一番俺の癪に障るところは―――この人が自分の勝手な正義を振りかざしているってところだ―――。


第百五十一話 錘使いとの戦い


 迎え撃つ!! 左手は鞘、右手は木刀の柄に―――。

「俺を黙らす、だと? じゃ、やってみろ・・・!!」

 俺は抜刀式を繰り出し、定連さんは錘を横に薙ぐ―――。

「「ッツ!!」」

 ギンッ、っと交差する俺の木刀と定連さんの錘。

「ッ」

 ぐぐぐ―――っ、っと、さすがに重い・・・!! だけど、斬り結んでいるからこそ解る。得物の長さでは俺のほうが木刀のほうが上だ。俺のものうちを定連さんはその錘の一番太い部分で受け止めている。

 ぐぐぐ―――。

「!!」

 圧される。圧し負ける!? ―――だったらこれでどうだ。すっ、っと俺は左手をその柄へと伸ばす。握るは木刀の柄だ。俺は順手となるように右手の下を握り締めた。

「っ」

 今度は俺が圧し返す番だ―――。ぐぐっ、俺は両手に両腕に、両肩に、そして全身に力と氣を籠め、前へと圧し返す・・・!!

「くっ!!」

 定連さんの顔が苦悶に歪む。

「―――」

 当たり前だ、なんたって錘という武器は先端に向かうにしたがって膨れていく形状の武器だ。尖端のほうが重い。そんな錘の先のほうを捉えて俺が木刀で圧し返してんだ。重さを倍増しで感じてんのは気のせいじゃない。

「「―――」」

 じりじり、、、徐々に定連さんの錘と膠着状態に陥り、俺から見て定連さんの錘が、その先端が近づいてくる。むしろ俺の木刀の柄のほうに錘が近づいてきている。いわゆる鍔迫り合いだ。

 そうか!! そこで俺は気づいた。俺の方が得物が長いからわざわざ斬り結んで、鍔迫り合いとなるような、定連さんの錘に付き合う必要はないんだ。もっと錘の、作用点のほうの先のほうじゃなくて、支点となる軸に近いほう小手を狙えばいいかもしれない。俺の木刀の鋩やものうちを使ってさ。

 狙う。

「―――」

 でも、今から木刀をいなして定連さんのあの唸る錘を避けられるか? 考えること僅か数秒―――、俺は頭の中で巡らした想像を実行すべく斬り結んでいる木刀をそのまま横薙ぎに切るように逸らす!! チィイイイイ―――っ、木刀を定連さんの金属の錘の表面を滑らすように動かす。もしこれが真剣だったら火花が散っているかもしれない。

 それに伴って、力の微妙なずれに伴い、定連さんの錘が迫ってくる。

「っ」

 だが、間合いは遠い。俺の木刀のほうが長い。タンっ、っとでも半歩後ろに退き、その凶悪な錘と充分な距離を置き―――、

 ブゥンッ、定連さんが横薙ぎに振るった錘が空気を裂く音―――、錘はすっかりと振り切られた。

「ハっ!!」

 ―――そこだ!!胴ががら空きだ、定連さん!!俺の揮う木刀の鋩からものうちにかけてが定連さんの腹にめり込み―――、ん?

「ん?」

 変な感触だ。変な感触が木刀を伝わり、、、その柄を持つ俺の手に伝わってきた。手応えはちゃんとある。でも、堅いというか、、、どすっ、っとなんだろ力を・・・吸い取るような。俺は定連さんの顔を見た。すると、

 にやりっ、っと定連さんが勝気な笑みをこぼす。

「―――っ」

「!!」

 その余裕の笑みを見ていれば分かる、定連さんは俺の木刀の一撃があまり効いていないようだった。どうやらなにかその黒服の下に仕込んでいるみたいだな。

「察しの通り、警備隊員が用いる防弾防刃衣だぜ」

「くそ・・・っ」

 その余裕の笑みのまま定連さんは口を開く。

「俺はれっきとした警備局境界警備隊部隊長なんでね」

 境界警備隊隊長―――?

「どういうことだ?」

 どういうことだ?定連さんは『第六感社』の人間だろ? 俺は木刀を手元に戻す。さっさと木刀を手元に戻しておかないと、そっちの空いたのほうで木刀の刀身を掴まれるかもしれないし・・・、これが真剣ならそういうこともないだろうけど。

「お前は知る必要なんざねぇさ。お前はこれから消えるんだからな!!」

 来る・・・!!

「!!」

「いくぜ」

 定連さんはその錘を持つ右手をやや自分の袂に引き寄せ、身体に近づいた錘の先に左手を添える。その構えのまま右肘を引き―――、、、

 脚!! 脚はというと、定連さんの脚だ。すぅっ、っと摺り足の要領で脚を引く。脚の動きを見れば判る。定連さんは跳びかかってくるぞ!!

 冷静に慌てず。

「―――」

 その動きをよく視る。俺の『選眼』ならきっとその動きを見切ることができるはず!!

 ダンッ、竹林の地面を踏み抜かれる脚。ビュ―――ッ、っと俺に向かって、否俺に向けて衝き抜かれるその錘。錘の尖端は丸い鈍器のような形状―――。

「え・・・」

 一瞬、、、視界がぶれるように視得る。おかしい。あの錘の尖端は丸いのに、なんでだろうなんか危険な気がする―――。

 ・・・。それを視て、、、受けるのはやめよう、なんか危なそうだ。なら避ける!! タンっ、っと軽やかなステップと足捌きで俺は錘の衝きを避ける。

 ぐわっ、っと直線状に迫りくる定連さんの錘を避けた。

 俺が錘を避けた先―――、俺が避けたことを見て、定連さんが返す錘で自分の手首を戻す前に俺は動く・・・っ。

 錘を振るう腕の動きは封じさせてもらう・・・!!

「っつ」

 そこだ・・・!! 俺は定連さんの上半身を目掛けて木刀を上段から袈裟懸けに斬り落ろす。手加減はしない、、、本当はしないといけないんだろうけど、この人は強くて、そしてなんか危険だ。そんな危なっかしいにおいがする。

 ゴ―――ッ!! 交錯する木刀と錘。でも俺の袈裟懸け斬りは定連さんにまともに入らない。定連さんはその錘を頭上に掲げることで、俺の木刀の袈裟懸け斬りを受け止めたんだ。定連さんに斬りかかって受け止められた俺よりも―――、

「グ・・・ッ」

 定連さんの口元が苦悶に揺れる。―――崩れた体勢で俺の木刀を受け止めた定連さんのほうが俺より辛いことだろう。

 まだだ、でもまだだ・・・っ。

「くっそ」

 中々定連さんは堅い。でも這いつくばって潰れろ・・・っ!!

「はぁあああああああっ!!」

 いやまだまだこれからだ。声を張り上げ、力と全体重と籠めた一撃で定連さんを押し潰す・・・!!

「ぐぅ・・・っ、、、てめぇ・・・!!」

 ばッ、っと定連さんは空いている左手を出す。出し、添え―――。

「っ」

 定連さんが何をするかと思えば―――、俺の木刀を受け止める錘の柄を握り締める定連さんの右手。その右手とは反対側の空いた左手を錘の中心に沿えたんだ。定連さんが左手を添えた部分とはいうのは、刀でいうところの鎬の辺りだ。

 丸い、、、まるでマラカスのような形の錘にそんな刀でいうところの『鎬』の部分なんて、俺の見た目じゃ解らないんだけどな。

 堅い・・・!!さらに定連さんが堅くなったっ!!

「く・・・っ」

 俺の袈裟懸けに斬り降ろす木刀。それを受け止める定連さんの錘。相反する力の拮抗だ。ぐくくっと俺は歯を食い縛り、かたや定連さんも苦悶の表情で。

 俺には『選眼』の力がある。

「ッ・・・!!」

 視得た!! そんな膠着状態の中、俺の視界が一瞬ぶれる。定連さんの右脚が文字通り飛んでくるように―――。俺の下腹部だ、この人右脚で蹴りを入れてくる。

 ダンッ、タタタ―――、俺が後ろへジャンプして退いた直後、定連さんの唸る右脚の蹴りが飛んでくる。それはまるで脚で繰り出す脚刀のように俺の立っていた場所を切り裂く。

「躱しやがったか」

 速い。なんて速い蹴りだ。きっと威力も物凄いものだと思う。その証拠に定連さんの黒スーツのズボンのビュッ、っという風切音がとんでもなく鋭く聞こえた。

「―――」

 あの蹴りもきっとヤバい・・・!!もらったらそれだけで致命傷とはならなくても、動きが鈍ってしまいそうだ。そうなったら終わりだきっとあの錘で蜂の巣にされるだろう。

 つーっと―――、ったく嫌な汗だ。そんな汗が俺の頬を流れる。


「ッツ」

 ダンッ、っと定連さんはその錘を右手で握り、再び俺へと肉薄―――

「―――・・・」

 冷静に、冷静に、冷静になれ俺。俺の木刀よりも短い間合いの錘使いとの戦いだ。とにかく俺の懐の中に入れないことが重要だ―――。

 こっちの懐に飛び込まんとする定連さんの猪のような俺への特攻。だったらそれは―――俺の得手だ。キンっ、っと俺は納刀し、木刀を腰に差す鞘に納めた。

「―――」

 ―――、神経を研ぎ澄ます極限までに。するとどうだろう・・・定連さんの動きが緩慢に視得ていく。

「―――、―――、―――」

 三歩。

「―――、―――」

 二歩。と、定連さんが歩を詰めて、、、俺へと肉薄―――。ダンッ、竹林の枯れた竹葉で染まる地を定連さんの右足が踏み抜く―――。

「ラァ・・・ッ」

 定連さんの掛け声。右腕を後ろに撓らせ、その右手の錘を振りかざす、俺へと。

「・・・」

 まだだ、まだ。もっと俺に引きつけて―――。俺にはその残虐な錘の動きが視得てんだ。その錘の軌道なんてすっかりとお見通しなんだよ。

 だから―――、この『選眼』と『小剱流剱術』がある限り俺はあんたなんかに敗けねぇ・・・!!

「小剱流抜刀歩法―――見切―――」

 ふ・・・、っと俺は紙一重で残虐な錘を避ける。

「なにっ!?」

 目を見開いて驚く定連さん。ブゥンッ、っと俺の身体すれすれをそのマラカスのような金属製の錘が抜けていく―――。

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