第百五十話 俺は祖父ちゃんの孫っすよ、正真正銘の
「定連さん、『名刀貸与』の許可証を出してくれるとして、祖父の刀はちゃんと返ってくるんですよね?」
「なんだそんなことか、安心しろちゃんと返ってくるぜ。ま、でも一時俺ら警備局が預かることにはなるな。刀を預かったあと、とりあえず俺が上に申請しておく。そこから『名刀貸与』の許可証とともに所有者に刀が返ってくる流れとなるな」
この人、爽やかそうな笑みを浮かべて―――っつ。第六感社にわたるんだから、刀が戻ってくるわけがねぇだろ。
第百五十話 俺は祖父ちゃんの孫っすよ、正真正銘の
なにか、、、定連さん説明がくどくどしく長く、俺を説き伏せようとしているように思ってしまったのは俺の気のせいかな。
「へぇ、、、解りました」
「ま、そう心配すんな、小剱。それより早く行くぞ、俺らを案内してくれや」
「あ、はい」
いや、俺の気のせいじゃない。というか、元より俺は小剱の宝刀『一颯』をこの人達に渡すつもりなんて毛頭ないし、渡してしまったら『一颯』はもう手元に返ってくることはないだろう。この人達は日之国政府の公的機関『警備局』の人間じゃない。この二人定連さんも野添さん、、、こいつらは『第六感社』の諜報員だ。
俺は踵を返―――、すふりをして、
「―――」
「どした小剱?」
あのとき定連さんが俺に見せてくれた最初の名刺。あのとき定連さんの肩書は指で見えなかったけれど、定連さんが内ポケットに仕舞ったとき、俺視得たんだ。その肩書には『第六感社諜報部』と、な。
魁斗が元々盗んだ『氣導銃』を胸ポケットに隠していたときと同じように、な。あの『氣導銃』の持ち主、祖父ちゃんの夜話では銀髪の人確か近角 信吾という人の物だったはずだ、元々は。
「っつ」
俺は祖父ちゃんに他にもいろいろと聞いているぞ・・・!! もっと突っ込んで訊いてやるっ。
「そういえば定連さん。広い日之国内でなんでここに名刀があるってことを知ったんです?」
「あぁ、なんかな―――」
ばりばりっ、っと定連さんは自身のそのスポーツ刈りの後頭部を掻いた。そして、定連は口を続ける。
「―――なんでもすぱすぱ切るという途轍もないやべぇ妖刀があるって情報はすでにあったんだ」
俺は定連さんに続きを促すように相槌を打つ。
「へぇ、あの名刀がっすか? そんなやばい刀には見えないんですけど。俺なんか子どもの頃、祖父に普通に見せてもらってましたよ?」
なんでもすぱすぱ切るやべぇ刀だって?それ『一颯』の、『一颯』に備わった能力じゃないから。祖父ちゃんの途轍もない異能『剱聖』、祖父ちゃんが使ってこそ顕現するんだって。
「おいおいおい、お前よく生きてんな。途轍もなく危険な刀だってことは聞いたぞ、俺。なんでも鞘から抜き放った瞬間に―――」
ぴたりっ、っと定連さん。そんな口を噤んだ彼に俺は訊きかえす。
「鞘から抜き放った瞬間に?」
瞬間に―――、で、そこで定連さんは言葉を切ったからだ。
「―――あ、いや」
言いよどむ定連さん。
「どうしたんすか?定連さん」
「いや、これ以上は警備局の守秘義務だ」
定連さんってやたら『警備局』『警備局』って自分が警備局所属であることを強調するよな。
だからこそ俺はあからさまに。
「え゛ぇ?ここまできて話してくれないんすか?定連さん。俺関係者っと言っても差し支えないのに。これでも俺、祖父ちゃんの孫っすよ。祖父ちゃんが過去にその刀でなにをやったか知る権利が俺にもあると思うんすけどぉ」
俺は目と口を尖らせ、さも不満げな様子を定連さんに示した。いや、俺の『選眼』の一つ『透視眼』を今は行使中だからさ。視得てるんだよ、それが。
視得てるぜ、俺その胸ポケットの名刺がさ。ほんとは第六感社の諜報部所属なのに。そう名刺にはその所属が記載されている。
「あぁ、もうお前、ほんと調子のいいやつだな―――」
ばりばりばり。定連さんは仕方ないなこいつって感じで自身の後頭部を掻いた。そして定連さんは口を開き語り出す。
「何年前のことだったかな―――、テロリストに支配された街があったんだ」
「へぇ、それは怖いっすね」
「まぁな。日之国政府としちゃぁそんな無法者どもに支配された街なんかあるだけで、百害あって一利なしだ。というわけで―――」
ばりばりばり―――っ定連さんは後頭部を掻いた。そんなにばりばりと掻いて頭皮は大丈夫なのかな?
「―――確か・・・六年前の秋だったか。ついに政府によるその街のテロリスト掃討作戦が開始された」
テロリストに支配された街?六年前の秋? じゃなにか、定連さんの言うテロリストに無法者って、まさかじゃなくて『灰の子』の人達のことか?
「・・・」
「政府は戦闘ヘリ十五機、特殊掃討部隊を、その無法者達に支配された日下部という街に投入した。テロリスト達は市民を楯に激しく抵抗してきたらしいぞ?」
なにそれ。祖父ちゃんと言うことがまるっきり正反対だけど?この人。テロリスト達が日下部市民を楯に?自信満々な笑みを浮かべてなに言ってんだ?こいつ。
「―――」
いやいや第六感社のほうが無抵抗な市民を狙い撃ちにしてきたって聞いたんだけど?俺。祖父ちゃんが嘘を吐いているわけがないし、あの魁斗から取り返した『氣導銃』の本当の持ち主近角 信吾っていう人のことも祖父ちゃんに教えてもらった。
「政府軍特殊部隊は輸送機を失うものの、激戦の末、激しく抵抗するテロリスト達を圧倒、制圧、ついに散り散りになって潰走させたらしいぜ、そいつら」
いやもう黙ってもらっていいっすか?定連さん。
「・・・」
テロリスト達を潰走させた?潰されたのはあんたらだろうが。第六感社の特殊部隊と『イデアル』。
「あぁ、そのときに敵のテロリスト達の中に一人の剣士がいたらしい。それがお前の祖父さんかどうかは知らねぇけどよ。なんでもその件の妖刀を手にした剣士が輸送機を一刀両断したそうだ」
めちゃくちゃだ。定連さんはテキトーなことを言ってる。祖父ちゃんが一刀両断をしたのは十五機のガンシップ!! 輸送機を仕留めたのは塚本っていう人って祖父ちゃんが言ってた!!
「―――」
「そして、俺らはその剣士がここに住んでいることを突き止め―――、、、」
定連さんはなにかに気づいたかのように、その言葉を発したまま唇を止めた。そして、後ろにいる剣士の野添さんに目配せをする。
「―――あの剣士に学生ぐらいの孫なんかいたか?」
「定連殿、確かあの老剣士は独り者だったはず、ときおり津嘉山家の門下生が来ているようだったが」
津嘉山家の門下生ってアイナとアターシャのことかな。定連さんの顔色が変わる。驚いたものからそして―――
「あぁ、俺もそう聞いている、野添」
そろそろ俺のとぼけた芝居も限界かな。
「どうしたんすか?定連さん野添さん」
俺のその言葉に定連さんの―――その顔は剣呑なものへと移っていく。
「お前誰だ。あの男にお前のような年代で孫を名乗る奴なんていないはずだ」
「・・・俺は祖父ちゃんの孫っすよ、正真正銘の」
「黙れ。お前どこの諜報員だ。お前の狙いも俺達警備局と同じであの妖刀か?」
この人まだ言うか。自分のことを『警備局』の人間だって。
さぁ、始めようかこの言葉で。定連さんとの第二回戦を。
「俺はほんとのことを言ってます。定連さんこそほんとのことを言ってくださいよ、俺に。自分が自分達ほうが日下部市を襲撃した『第六感社』の人間だってことを―――」
「てめぇ―――既に気づいていて・・・!!」
「はい。定連さんも野添さんも『第六感社』の諜報員ですよね」
「―――ッ」
それで完全に定連さんの顔色が変わった。驚きに目を見開かせ、その後は。
「ほう・・・っ」
ほう、なんて勝気に口元を吊り上げた。
「―――っ」
定連さん本人は自分のことをかっこいいと思っているかもしれねぇけど、俺から見たらはっきり言ってだせぇよ。
「てめぇはどこの組織の諜報員だ?」
諜報員だって、、、俺が。俺のことを。
「・・・」
「やめておけ。第六感社は組織のでかさで言うと、政府レベルだ。第六感社より、でかい組織は存在しねぇ。お前も知ってるよな?俺ら第六感社は日之国を護り、日之民を支えている巨大企業だ。物流も、認証アプリも通話アプリも、全て会社が開発したものだ。俺らは日之国になくてはならねぇ巨大企業第六感社。それと戦り合ったら、てめぇの組織なんか消し飛ぶぜ」
「・・・」
消し飛ぶぜって。日之国を護っているって。日之民を支えているってなんか、悪人が自分達のことを『必要悪』だと言って粋がってかっこつけているだけにしか見えねぇ。
「俺を納屋に閉じ込め、俺らを出し抜こうと思っていたようだが、諦めろよお前。さっさと妖刀の場所まで案内しろ」
納屋に閉じ込め、だったな。
「っ」
ということは、どうやってこいつ定連さんは納屋から出てきたんだろう?まさか納屋の鍵を壊して?
「納屋の鍵を壊したのか?あんた」
「いんや。納屋の壁をぶっ潰した。あー、なんか手が滑って派手に壺も割れたけどよ」
あの祖父ちゃんお気に入りの壺を割ったのか。
「っ」
よくもいけしゃあしゃあと。こいつあとで祖父ちゃんにぼこぼこにされろ。
「まぁ、とにかく小僧お前が刀の在処を知っているんなら、早く案内しろ。俺達は時間がねぇんだ」
あぁ、もう我慢できそうにねぇ、俺。
「―――断る」
「そうかよっ」
吐き捨てるように定連さんは口に出し、その右手がすすっ、っと腰にぶら下げている錘にいく。はじまる。
「っつ」
始まるんだ、戦いが。夜話のとおりに日下部市を襲撃したこともそうだけど、定連さんが人ん家の納屋を勝手に壊したこと―――。
「ま、それじゃあお前を黙らせたあとからでも探すとするか、妖刀を―――なッ」
ダンッ、定連さんは右足を踏み締める。その右手には錘。
でも一番俺の癪に障るところは―――この人が自分の勝手な正義を振りかざしているってところだ―――。