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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十四ノ巻
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第百四十四話 夜話のあと

第百四十四話 夜話のあと


「健太よ。儂はのう、あの戦いの後、『眼鏡の御仁』のはからいで日之国の警備局のお世話になることになったのよ」

「へぇ・・・、」

 ボーン、ボーン、ボーンっ、っとそのとき庵の柱時計が三回鳴った。つまりもう夜の三時。初夏のこの時期だったらもうあと一時間ほどで空が白み始めるかな。

 祖父ちゃんはちゃぶ台の上にあった湯呑に手を伸ばす。

「―――」

 それから湯呑を手に取り、ずずっ、こくこくっ、っと祖父ちゃんはちゃぶ台の上に置かれた湯呑を呷り、その喉を鳴らす。

「・・・そうなんだ」

 祖父ちゃんも小休止みたいだし、いいかな足を崩しても。俺は、祖父ちゃんが湯呑を呷ってお茶を飲んだの機に膝を崩した。

 祖父ちゃんの話に出てきたあいつ。そっかあいつ―――『日下』という俺の既視感の正体はあいつだったんだ、、、。俺は魁斗と会ったときにいたあの剣士だ。アターシャが俺に見せてくれた電話というかタブレット―――。それの液晶画面に掲載されていた情報を、、、俺はやっと思い出したんだよ、祖父ちゃんの話を聞いてさ・・・。

「っ」

 あのとき―――、

『ケンタ様これを―――』と、

 あのとき廃砦で合流したアターシャはその給仕服の中からどこからともなく取り出したタブレットのような通信端末を俺に見せてくれて、その液晶画面を俺が見えるように傾けてくれたとき。

『ケンタ様、この端末は日之国の警備局の幹部隊員が用いる通信機と同型のものでございます』

 クロノスのやつ―――っ。

「っつ」

 まさに、そのとき載っていたクロノスの情報とさっき祖父ちゃんが語ってくれた夜話の内容がぴたりと一致する。

 アターシャが俺に見せてくれたタブレットの画面。そこには写真付きでクロノスという男の簡易プロフィールと犯罪歴なるものが記されていたはずだ。若い時の学生時分のクロノス―――。あのクロノスのいくつかの写真はどれも若くて、しかも、学生証に使う写真と、在学中に撮られた写真ばっかりだった、たぶん。

「・・・」

 しかも、クロノスの名は偽名ということまで。本名のほうはいたって普通で―――日本人つまりこの世界では日之民と同じものだ。

 そして、特記事項に『先見のクロノス』『北西戦争の生き残り』『重犯罪者』『日之国三強の一人』の文言―――。そして、あいつクロノスの本名―――、、、

「―――日下 修孝(みちたか)

 そうだあいつクロノスの本名、姓は『日下』、名は『修孝』―――そうアターシャが俺に見せてくれたタブレットの液晶画面にはそう書かれてあった。さっき祖父ちゃんが語り終えた夜話に出てきた日下 修孝は『先見のクロノス』―――。

 そして、だからこそ俺はやっと『先見のクロノス』という男の本名を思い出したんだよ―――。

 それと同時に―――、ぐっ、っと俺は自分の右拳に力を入れた。

「っつ」

 くそっ、俺ってやつは!! なにも知らずに俺は。知らなかったとはいえ、アターシャに、彼女の親父さんのことを訊いちまった・・・っつ。

 祖父ちゃんの話に出てきた津嘉山(つきやま) 煉火(れんか)という男はアターシャと彼女の妹ほのかの兄貴―――アターシャが話してくれたあの塩派のお兄さんのことに違いない・・・と思う。そして、すでにアイナの親父さんルストロさんとお兄さんリューステルクさん同様、アターシャ達三兄妹の父津嘉山 正臣(まさおみ)は、、、すでにエシャールとかいう奴に殺されていて・・・っ、もうこの世にはいないってことが―――今判った、っつ。

「―――っ」

 自分勝手な、自分達の物差しで測って、革命の名の下にアイナの親父さんとお兄さんを殺めたチェスター。アターシャ達の親父さんを殺したというエシャールって男、、、はもういないのか。でも、魁斗をあんな残虐な人間に育てたラルグスとかいう奴。

「ッツ!!」

 『イデアル』―――!! 俺は奴らにきっとまた出会う。もし、ぶつかったときには全力でやらせてもらう・・・!!

「―――」

 そのために俺はもっと強くならないと・・・!! 最低でもあの『先見のクロノス』と互角以上に渡り合えるくらいにはなっておきたい・・・っ。

「・・・。健太よ」

 っ。はっ、っとして―――、

「祖父ちゃん・・・?」

 ―――その祖父ちゃんの声に俺は自身の膝の上に置いていた目を上げた。

「うむ、―――」

 にこり、と祖父ちゃんは笑う。そして、その笑顔で口を開く。

「―――儂の長話に疲れたろう?今日はもう早く寝なさい、健太」

「・・・うん」

 確かにもう午前三時だ。ちょっと眠い。くあっ、っと俺は欠伸(あくび)をかみ殺しながら俺は祖父ちゃんの言うことに従ったのだった。


///


 薙ぎ、突き―――。

「せいっ!! ふん・・・!!」

 あれから・・・―――、祖父ちゃんが俺に夜話を語ってくれた日から数日が経っていた。俺は剱術の修練に勤しんでいた。

 ふぅ―――、っと俺は修めていた木刀を納めた。あんな話を聞いたら(たかぶ)ってしかたがないだろう?

 俺は祖父ちゃんが稽古を付けてくれる時間以外もこうして道場にて木刀を持ち、剱術を修めている。

「―――、―――」

 息を吸って、吐き―――深呼吸。すぅっ、と神経を研ぎ澄ます。そうすれば―――

「―――」

 チチチチピーピー。ヒュオー・・・さわさわさわ―――って鳥の鳴き声と風の音、それに揺れる道場の外にある竹林の、遠くのそよぐ音だって聴こえる。

「っ」

 かたっ、っという小さな音。この道場に誰かやってきたのかな。ま、祖父ちゃんしかいないけどな。

「健太よ―――」

 ほらな、祖父ちゃんだ。俺はすぅっ、っと目蓋を開く。

「ん?祖父ちゃん」

 そして、道場の入り口に視線を移した。

「ほう一人稽古とは精が出るのぉ、健太よ」

「うん。まぁね、そうかな」

 俺は軽く。そして、木刀を腰に差す鞘に納めた。

「だが、稽古のやり過ぎはときに身体に毒だ。休養も大事なことだぞ?」

「そう、、、だね、祖父ちゃん―――でも、俺、さ・・・なんか焦ってて、、、」

 確かに祖父ちゃんの言うとおりだけど、俺は強くなりたい。早く強くなりたいんだ。

「―――。ま、ともかく夕飯ができたぞい健太」

「・・・、あ、うん」

 ん?祖父ちゃんってば一息置いた? そしてなんかちょっと、眉間に少しだけ皺を寄せて一瞬だけ難しい顔をしたんだ。


「とても美味でした、祖父ちゃん」

「ほほっそうかそうか、健太よ」

 今日の、祖父ちゃんが作ってくれた夕飯のメインディッシュは、俺の好きなハンバーグだったんだ。


///


『ところでケンタ、以前言っていたゲンゾウ師匠との修練はいかがでしたか?』

 あ、、、。アイナから届いた通信魔法をその電話で見ながらやり取りをしているときだ。

「・・・」

 そんなアイナの文面だ。すっかり忘れたぜ、アイナに言うのを。どうやら今のアイナに、、、公務中は、通話はだめかな。

「―――」

 ちょんちょんちょんっ、っとだから俺は電話の画面を指で、、、―――ちょんっと指で送信っと。

『まぁ、なんて言うのかな、アイナ。祖父ちゃんが自分の昔ばなしを俺に語ってくれたって感じかな。すっごい真面目で厳しそうな顔でさ。なんかほんとに稽古をつけてもらってる感じだった』

 修行や稽古って言うにはちょっと無理があるかな? 寝る前、今はちょうど二十二時ぐらいだ。正確には電話の画面上に21時58分の表示だ。

 ごろりっ、っと俺は布団の上で寝返りを打つ。今度の姿勢はまるで背筋の運動をやるような体勢で、今度は電話を枕の上に置く。

 しばらくして通信魔法の返信がある。

『へぇ・・・ゲンゾウ師匠の若い頃の武勇伝でしょうか?』

「・・・」

 あ、いやそうじゃなくて―――、

『祖父ちゃんがこのイニーフィネに転移してきたときの話かな』

 ちょんっ送信、っと俺は指で画面上のアイコンを押した。そういえばアイナって、、、チェスター皇子の臣下の『紅のエシャール』って知っているのかな?

「―――」

 ま、アイナにはそいつのことは、今は訊こうとは思わないけどな・・・。おっ、着信。

『へぇ・・・、その話私は聞いたことはありませんね。もし、よろしければケンタ、私にそのゲンゾウ師匠の昔語りを教えてはくれませんか?』

 『大いなる悲しみ』って前にアイナが言ってたっけ・・・。

「―――」

 うんいいよ、っと俺は、、、『紅のエシャール』って奴は本当に津嘉山の・・・つまりアターシャの一族を皆殺しにしたの?って俺はアイナには訊けず、、、俺は差支えの範囲でアイナと通信魔法で話し続けた。うん、俺とアイナの通信魔法でのやり取りはアターシャしてみれば、長時間だったみたいで、アターシャに止められるまで俺はアイナと語り合ったんだよ―――。


///

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