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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十三ノ巻
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第百四十話 理想主義者ルメリア帝国最高軍司令官、現る

第百四十話 理想主義者ルメリア帝国最高軍司令官、現る


 一方、三条 悠は日下部にある自分達の司令部を襲撃した男と対峙していた。

「―――」

 司令部の建物の外へと打って出た悠は無言で襲撃者とおぼしきその男に厳しい視線を向けていた。襲撃者はたった一人だ。日下部市民が立てこもるこの旧・日下軍の司令部とそこから繋がる地下水道が正体不明の者により襲撃されたのはつい先ほどのことだ。僅か数分前のことだ。

 襲撃者はたった一人だったはずだ。だが、その襲撃者の異能攻撃の初撃だけで、特殊装甲が施されていたはずの司令部の家屋が激しく揺れ、(きし)んだのだ。

 氣導回路が組み込まれ、あらゆる異能種の攻撃にも耐えうるとされていたはずの特殊装甲―――、だが、襲撃者の初撃を受けただけで、その防御機構が破られ崩された。だから、悠は打って出ることを志願したのだ。悠自身己の異能『絶対防御』ならば必ずや護りきることができる、と。

「やっと出てきやがったか―――っ」

 襲撃者の男はしかめっ面でまるで吐き捨てるかのように言い放った。

「あんた誰だ?何者だ?」

 悠が厳しい視線で半ば睨むように見つめる襲撃者は男だ。悠がその襲撃者を先ず見て思うのはその服装だろうか。―――その襲撃者の男は・・・明らかに日之民ではない服装と装備をしている。 

 襲撃者は一番下に布製の長袖長ズボンの無地で麻色の衣服を着込んでいる。それは上下ともで、ただ襲撃者の膝には膝を護るためにだろうか、膝当てが装着されている。

 襲撃者は上半身に、その無地の布製の衣服の上に銀色の鎖帷子のような軽鎧を着込み、さらにその上に筋骨隆々を模した筋肉型の鎧を着ている。さらにその上に、はためく外套(サグム)をばさっ、っと羽織っている。

 襲撃者の頭はというと、自身の頭を、その頭を護るためには兜の着いた銀色の鎖頭巾を被り、その目鼻口眉だけを外へ覗かせている。その兜は銀色に輝き、幻獣をあしらった金属装飾が美しくその兜の一部を成し、飾っている。腰に革紐を巻き、そこから繋がった剣帯に長い直剣(スパタ)を差している。その直剣の長さはこの襲撃者の足先から腰の高さより長いだろう。日之刀などの刀と比べて、その直剣の長さは短いが、その剣身の幅は広い。

 また襲撃者の体格は大柄ではなく、身長も悠に見立てでは自分と同じくらいか、もしくは少し低い百六十センチ後半から百七十センチほどだろうか。

 襲撃者は悠の『あんた誰だ?何者だ?』の問いに対して―――やや口を開く。

「てめぇこそ誰だ?あぁん?」

 襲撃者は憤りに顔を歪めた。

 それは明らかに悠を軽んじるような態度と表情だ。

「っつ」

 悠は舌打ち。悠は、なんだこいつ、じゃあこいつの名前は知らなくてもいいわ、と思った。

 にやりっ、っとだが、襲撃者のほうはといえば、悠のその態度に別段腹を立てなかったようで、すぐにその表情を変え、口角を吊り上げ愉悦を含んだような自信満々な笑みを浮かべる。

「いいだろうっ。なら俺の名前をてめぇに教えてやる―――っ!!」

 襲撃者は自信満々に、その態度で右手を前に伸ばし、その開いた右手の人差し指と中指を悠に向けた。

「いや、別にもういいし・・・」

 ぽつり、っと悠はその冷めた白い目で呟く。

「ハハハハッ・・・っ、俺は『不死身のラルグス』!! 『イデアル』にその人ありと云われるルメリア帝国最高軍司令官(ドゥクス)ラルグス=オヴァティオス様だっ・・・」

 ぴくり、っと悠の眉間に皺が動く。

「『イデアル』・・・の『不死身のラルグス』だと?」

 悠にとってその『イデアル』という言葉は初めて聞いたものであり、またこの襲撃者の大層な名前『不死身のラルグス』という通り名も聞いたことがなかった。ただ、この襲撃者・・・改めラルグスという男は日之民ではなく、月之民であるということが悠には判った。

 えっへん、っと自信満々に満足げにラルグスは口を開く。

「そうだっ『不死身のラルグス』とは俺様のことだ・・・っ!!」

「―――・・・」

 悠自身はこれまで月之民には会ったことはなく、このラルグスという男が初めて出会う月之民だ。元々、彼らは『月之国』やそこに住まうといって『月之民』と自称しているわけではない。日之民が便宜的に『月之民』と呼んでいるにすぎない。『月之民』は『月之国』以外の他の四世界とはあまり関わろうとせず、『月之民』は保守的で閉鎖的であるとも聞く。

「俺はお前に恨みはねぇが、、、・・・だが俺様のために死んでもらうぜッ!!」

 一、二、三・・・ぽう・・・ぽうっ、、、っと―――そして、五つ、十いくつか。突如ラルグスの身体の周囲に淡く光る球がいくつも浮かび上がる。それはふわふわと浮かび、漂い―――ラルグスの周囲を揺蕩(たゆと)う淡く輝く彼ラルグス自身のアニムスの珠だ。

 っ!!その様子を見て悠の表情に驚きの感情が走る。

「―――っつ」

 一方のラルグスはその顔を愉悦の感情に歪ませる。

「さぁ絶望の時間だ。見せてやる・・・『氣武化(アニマ・アルマ)』―――!!」

 ラルグスの頭上をふわふわと舞い浮く珠状の氣の群れ。そのうちの一つがすぅっ、っと音もなく―――。

 ラルグスが己より放出した氣だ。淡く光る球体の氣の珠。そのうちの一つがその形状をやわやわと変えていく。ふわふわした球状の氣は凝縮をするかのように武器の形状を獲得し、それは鋭く尖り、そしてその淡く光る氣の珠は鋩へとその姿を変えていく。

「く―――っ」

 悠が苦虫を噛み潰したような顔をした。悠の目の前でラルグスは、己の氣の珠を文字通り『氣武化』させたのだ。

 ラルグスの得物は氣を具現化させた『氣槍(サイコ・ハスタ)』だ。それは淡く輝く氣の投槍―――その形状になった氣の珠はラルグスの頭上でふわふわと浮いている。

 すぅ―――っとラルグスは自身の右腕を己の顔の前に掲げ、斜に構える。そして―――ブンっ、っと右腕を揮う・・・!! ラルグスは斜に構えたその姿のまま、その斜めに掲げた己の右手右腕をまるで薙ぎ払ったのだ・・・っ。

「喰らいやがれっ―――『氣槍』っ!!」

 ヒュン―――ッ、悠目がけて放たれたアニムスの投槍―――、

「ッツ・・・!!」

 悠の両目が驚きに見開かれ―――、悠は咄嗟に体勢を落とし、崩して、ざざざぁっと靴底を地面に擦らせるように、放たれた『氣槍』を間一髪かろうじて避けた。悠が紙一重間一髪で避けた、ラルグスが悠目がけて放った『氣槍』は遥か遠くへ、シュンっと飛んでいく。

「俺の一撃を避けるとは、お前なかなかやるじゃねぇか?おもしれぇ」

 にやりっ、っとラルグスが口角を吊り上げる。

「っ!!」

 どぉん―――っ、っと悠の後方でそれは盛大に、、、爆発し、四散。悠が確認するまでもない。その爆発はラルグスの『氣槍』によるものだ。

 このラルグスという男は中々に強い、と悠は内心でそう思った。悠はラルグスの実力を上方修正したのだ。その上で自分自身の異能『絶対防御』ならば、このラルグスの攻撃を必ず防ぐことができる、と。

「―――」

 見れば、ラルグスの周囲に浮かぶ氣の珠はおよそ十個ほど。おそらく、この不定形の氣の珠を武器に具現化させて攻撃してくるようだ。

「だったらこれならどうだっ・・・!! はぁあああっ!!」

 ラルグスは両の拳をぐっ、と握り締めて、心身ともに気合を入れて力む。―――ぽうっ。するとどうだろう、ぽうっと、ラルグスの全身が淡く光り輝き、、、ふしゅっ、っとラルグスは氣を放出したのだ。それらは溢れ出したラルグスの闘氣(アニムス)はまるで淡く光輝く雲のようであり、雲の中で氷の粒が成長していくかのように、ラルグスが放出した氣の雲の中で鋩のような武器が次々と形成されていく。

 『氣武化(アニマ・アルマ)』―――。剣の鋩、鑓の穂先、あるいは鏃のような鋩―――様々な種類の武器の鋩刃を模すように氣で形成された淡く光る『それ』の鋭く尖った先がくくっ、っと悠を向く。

 あの、幾百の『氣武化』の氣刃が自分目掛けて飛んでくる―――。いやラルグスが自分目掛けて放つのだ。何もしなければ、あれらの氣刃で自分はきっとズタズタに斬り裂かれて貫かれるのだ。痛いどころでは済まされない。きっと死ぬ、殺される。

「―――・・・」

 だが、悠はあくまで冷静に、キッ、っとした目つきでそのラルグスの『氣武化』の様子を観ていた、自分に向けてラルグスがあの技を放つ瞬間を見極めるために。

 すぅ―――っとラルグスは自身の額に開いた手の平の人差し指と中指を触れるか触れないで当てる。

「喰らいやがれっ俺様の必殺技―――、敗者は勝者の糧と成れ―――『氣刃投射(サイコ・バリスタ)』ッ!!」

 ぶんっ、っとその額に当てた右手を思い切り前へと降り出した。

 ゴアぁっ―――、そしてそのラルグスの右腕の動きが『氣刃投射』を放つ合図だったようで、放たれた氣刃が一瞬で悠へと肉薄する!! 迫る刃、迫る鋩、迫る鏃・・・発射された兇刃の群れ―――。

 にぃっ、っと、だがしかし悠はその口角を吊り上げた。すぅ―――っ、悠は左手を出してその手で顔半分を覆う。そして、悠が叫ぶはあの言葉。

「『絶対防御』・・・っ!!」

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