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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十三ノ巻
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第百三十九話 理想主義者の剣士は太刀を持ち

修孝(みちたか)―――」

 ざっ、ざりっと自身の大型バイクを愛莉に預け、信吾は戦場に降り立った。彼が修孝と言った男に近づきすぎず、遠すぎず。がぽっ、と信吾は被っていたヘルメットを脱ぐ。そのときに信吾のきれいな銀髪が日の光を受けて、白銀に輝いた。

 信吾に修孝と言われた男が日之太刀をその手にしたまま、信吾に振り向く。

「近角、さん・・・」

 修孝と信吾に呼ばれた男の歳の頃は十代後半から二十代前半といったところか。修孝という青年はごくごく普通の中肉中背の体格だ。


第百三十九話 理想主義者の剣士は太刀を持ち


 また彼修孝(みちたか)の顔は端正な顔立ちでイケメンだが、眼差しは厳しくどこかピリッとしたものを漂わせているような雰囲気を感じ、見る者にもそういった印象を与える。

 身体の容姿としては、修孝と呼ばれたその青年は中肉中背の、背は低くもなく高すぎることもなく身長は百七十五センチから百八十センチくらいだろうか。背丈は信吾と同じくらいと思われる黒髪の青年だった。髪の長さもいたって普通だが、いわゆるロン毛という髪型ではない。服装は、暗色のモノクロに近い色をした長ズボンに、上の服装も下衣に合わせるような色合いをしており、裾の長い羽織るような上着は、その下に着込んでいるくすんだ紺色の服を外に見せていた。この修孝という青年の着ている上衣も下衣も丈夫そうな布生地で作られているように見える。

 己の刀の鋩を向け、パイロットと対峙していた修孝は、身体の向きを変えて信吾を見遣る。その隙を好機と見て、一目散に戦闘機のパイロットは駆けて、逃げ出した。

「ここに来ると思っていましたよ、近角 信吾、、、さん」

 修孝の厳しい表情とそのぴりっとした緊張感のある声などもろともせず、ざりっ、っと信吾は一歩踏み出す。

「修孝、これはいったいどういうことだっ」

 少し強めの諭すようなきつい口調で彼信吾は知り合いとおぼしき修孝へと声を掛けた。

「・・・さぁ。俺にもさっぱり」

 修孝は、にやりと笑うこともせず、また臆することも、怒ることもなく―――淡々と信吾の問い(ただ)すような声色にも、動揺することなく冷静に答える。

「とぼけるな、修孝。その日之太刀は日下家に伝わる門外不出の『霧雨(きりさめ)』だ」

 ちらり、っと修孝はその右手に持つ『霧雨』を一瞥し―――、

「―――」

 わざととぼけるように首を傾げた。

「その名刀『霧雨』でパイロットを斬ったのは修孝だな?」

「なにを根拠に」

「・・・彼のあのパイロットを斬殺した刀傷を見た。水気がその迷彩服に着いていたよ、修孝。明らかにその『霧雨』で斬ったものだ・・・!! 俺は怒っているんだ、修孝。きみは親父さんの儀紹(よしつぐ)さんに何を教えてもらっていた?儀紹さんの剣の教えは『人を活かせ』のはずだ。なのに修孝きみは―――」

 修孝は、説教にも似た信吾の言葉に鬱陶しそうに顔を歪ませる。

「っつ」

 軽く舌打ちをし、修孝はその厳しい視線を信吾に向けた。そしてその表情のまま、口を開く。

「近角さん、刀を棄てた貴方はそんな講釈を俺に垂れる資格はない」

「―――っ。・・・論点をすり替えるな修孝、俺が言っているのは、そんなことじゃない。戦争終結後、ふらりといなくなった修孝きみをみんながどれだけ心配したことかっ!! そして帰ってきたと思ったら、『これ』だ。これはいったいどういうことだっ!! 悠や颯希が見たら、知ったら悲しむぞ、日下(くさか) 修孝(みちたか)―――ッ!!」

「―――っつ」

 僅かに怒りというよりは、激情の一端をその顔に現し、修孝は口を開く。

「修孝―――、俺を同門だと未だに思ってくれているのなら、正直に俺に話してくれ、きみは今までいったいなにをしていたんだ?そして、今になって・・・なんで第六感社が日下部に攻めてきたときに現れた? それとも第六感社がここに来ることを知っていたから帰ってきたのか?答えてくれ、修孝」

「近角さん、、、その『修孝』と言うのを止めてもらっていいですか? 今の俺はそんな『日下 修孝』という名前じゃない今の俺はクロノス―――、『先見のクロノス』そう俺は名乗っています」

「『クロノス』・・・だと?」

 信吾はその『クロノス』という言葉を、まるで反芻するかのように鸚鵡(おうむ)返しでそう答えた。

「あと・・・俺の父親だった男日下 儀紹(よしつぐ)の名前も出さないでもらえますか。あいつはあのとき八月十日自らの保身のためにこの戦場の街からさっさと日府に逃げました」

 ―――。信吾の頭の中で、友の勝勇がさきに語ったことと見事に符合する。かつて信吾の刀の師匠でもあった日下 儀紹―――。確かに彼は逃げたのかもしれない、息子の修孝がそう言うのであれば、なおさらそうだろう。

「・・・確かに儀紹さんは逃げたのかもしれない。でもきっとなにか理由があるはずだ、脱出する一般市民のまとめ役だったのかもしれないし、その戦場から市民を逃がすための輸送機を手配したのも、儀紹さんだったかもしれない」

 修孝のその眼が、眼差しが鋭くなる。

「―――っつ」

 すぅっ、っと修孝はその己の右手で握る日之太刀『霧雨』を立て、八相の構えを取った。


「信吾くん」

「・・・」

 後ろで様子を観ている愛莉は信吾に呼びかけ、呼びかけられた信吾は、あぁ、っと小さく肯いた。

「近角さん、死んでください」

 修孝は八相の構えのまま、その鋭い眼差しから放たれる視線と共にそう言葉を発したのだ。

「―――修孝」

 ちゃ―――っ、っと信吾はその己の氣導銃『日下零零参號』を構える。もちろん、その銃口が向いているのは修孝だ。

「「「!!」」」

 ピリリリリ、ピリリリリ、ピリリリリ―――、鋭い電子音だ。戦いに水を差すような電話の音。その出所は修孝だ。電話の着信音を自分好みに設定していないのが、彼修孝らしい。

「・・・出るといい、修孝。重要な電話かもしれないぞ?」

 ゆるゆる、っと信吾は腕を降ろし、、、その氣導銃『日下零零三號』の銃口を地面に降ろした。

「―――」

 修孝は、その鋭い視線を信吾に向けたまま、『霧雨』を持つその右手とは反対側の左手を使い器用に、羽織るような上着の内ポケットからその板状の端末を取り出す。修孝は器用に通話状態にし、それを耳に当てたのだ。

「―――」

 一方の信吾は表情を変えず、左手を後ろ手に回し、その手指を使い愛莉に秘密のサインを送った。

「・・・」

 その信吾の手指を動かし方で、愛莉は信吾がなにを自分に伝えたいかを瞬時に悟る。だが、それを知った所で顔に出すような彼女ではない。二人は信吾も愛莉も日之国の警備局に所属していた特殊部隊の一員なのだ、それぐらいのことを平然とやってのけるのは普通のことである。もちろん塚本 勝勇も諏訪 侑那も、だ。

「「――――――」」

 信吾と愛莉がいる前で修孝は堂々と自分の電話にかかってきたその相手に出る。修孝は、己の会話が傍受され、通話が筒抜けになってしまっていることを知らずに。

「『特務官』か、どうした?」

 修孝は低い声で、己の電話に電話をかけてきた相手と話し始めたのだ。電話を掛けてきたのは、『特務官』という者らしい。

『撤退します、クロノス』

 その声は少女のものだ。感情的な声色でもなく、また情緒的に落ち込んでいるような声でもない。凛としていて落ち着いた声質の若い女性の声だ。

「撤退だと?」

 一方の修孝は、表情は変えていないものの、俺は納得がいかない、のようなものを含んだ声色だ。

『先ほど、私達の同志である『執行官』の反応が消えました。さらには『紅のエシャール』のアニムスもすでに検知できません。おそらく斃されたものと推定されます』

 っ、っと目を見開き、ここにきて初めて修孝は驚きの感情を現したのだ。

「なに・・・!?」

『そして、もう一人の同志も苦戦しているようです。私は今からその同志の撤退支援を行ないますので、クロノス貴方は先に撤退してください』

「・・・解った」

『以上ですクロノス。では、後で落ち合いましょう』

「―――」

 つー、つー、つー、っとそこで『特務官』からの通話が切れた。修孝は、まるで信じられなかった。自分達は五世界から選抜された強者の集まりだ。三人と十二人いるその中の二人が敗れ去った。自分はその組織の新参者ではあるが、修孝は『執行官』と『紅のエシャール』の強さぐらいは知っていた。

 近角 信吾と愛莉―――、、、敵である二人を前に修孝は内心の驚きと動揺を顔には出さず、彼は『霧雨』を左手に持ち替え、上着ジャケットの中に右手を入れた。そしてその内ポケットに手を、指を突っ込むと内ポケットに仕込んでいた珠を取り出した。

「修孝」

「―――、・・・」

 信吾の呼びかけに修孝は、信吾を一瞥―――、その視線を再び手元に戻す。修孝改めクロノスは宝玉のような珠をその右手に持ち、それを天高く掲げたのだ。その珠はビー玉よりは大きくゴルフボールよりは小さい。珠の色合いは緑にも、赤にも白にも見え、本当に目を奪われるほど綺麗な色で彩られている。それはまるでタマムシの翅のようでもあり、またアワビの内側の貝殻の彩りのようでもあり、そしてプリズム色とも表現できる。

 クロノスがその珠を右手に握り込んだその瞬間―――、その珠に何かの仕掛けがあるらしく、チカッ、っと眩い光がその珠から僅かに放たれる。

 ダンっ、その瞬間、信吾は地を蹴る。

「っつ!!」

 逃げる。自分の師である日下 儀紹の息子であり、かつては自分を兄のように慕ってくれた修孝がまたどこへ行ってしまう。そう確信した信吾は修孝に向かって走り出す。

「さようなら、信吾さん。またどこかで会いましょう」

 ぽつりっとクロノスがそう呟いた瞬間―――、急速にその珠から発する光が強くなり、それは閃光のように輝いたのだ。

「クッ―――!!」

 信吾は眩しさから逃れるために、氣導銃を持っていないほうの左腕を眼前に翳した。そして、あらん限りの大きな声で、

「修孝ぁああああああッ!!」

 信吾はそう彼の名を叫ぶよりほかはなかった―――。

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