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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十三ノ巻
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第百三十五話 血闘

「―――、―――、―――」

 左足で『紅手腕』と必死の攻防戦を繰り広げる塚本はまだ気づいてもいないし、このエシャールの静かな呟きも聴こえていないのだ。

 にゅるっ、にゅるっ、っと塚本の背後の地面から迫る二本の『紅手腕』、それがすでに己の背後にいることに。


第百三十五話 血闘


 その二本の真紅の腕『紅手腕』はこの『血世界』と化した血塗れの地より伸びたものだ。真紅の手こそ人の手の形をしているものの、地面から生え伸びるその腕は異常に長い。しかも血のように真紅で、見ているだけで禍々しく恐ろしい。まるでエシャールの内なる世界『血世界』という奈落の底に引きずり込もうとしているかのような、そのような真紅の手腕だ。

 がしっ、がしっ―――、っとその二本の『紅手腕』は塚本の背後より現れ出でて塚本の両手首を背後より掴む。

 いつの間に・・・、と言いたげな塚本の表情だ。

「な―――っ」

 ぐんっ―――、っと両腕の手首を『紅手腕』に掴まれた塚本は、地面に向かって両腕を引っ張られその身体が貼り付けられる。

 そしてついに―――がしっ、っと最後に残る左足をもう一本の、塚本が攻防戦を繰り広げていた左足首を『紅手腕』が掴む。

「―――、―――」

 今の塚本の様子はまるで、、、足元の地面の攻防戦で外来種のアルゼンチンアリ六匹に足を噛み囚われた在来種の憐れなトビイロシワアリのようである。

 塚本は悔しそうに、唇を噛んだ。万事休す、動くこともできず、もう一つの手榴弾を起爆させようにできず、おそらく無効化もされるだろう―――塚本はもはやなにもできない。

 にやっ、っと塚本のその様子を観てエシャールはその口元を愉悦に歪める。

「ふっ、、、ふふ『黯氣鏃』と言ったか『黯き御子』よ―――、お前は本当に面白いな。私の技を会得して見せ―――ふふっ」

 そして何かの思い出を思い起こすかのようにエシャールは微かな笑いをこぼした。

「―――く・・・っ!!」

 そして苦しそうに、苦悶の表情でその顔を歪める塚本は、手足を紅き血糊のような『紅手腕』に掴まれ、地面に囚われていて動くこともできず、、、。

 ―――ジジジジ、ジリ・・・―――ッ、『紅のエシャール』が塚本へと向ける真紅の『右手』の紅き指先に、小さな紅い稲妻のような氣が、まるでざわめくように、エシャールの右肩口から、右腕、右手から指先へと、紅き氣の稲妻が集束していく。

「『血世界』―――『紅氣鏃(くれないきぞく)』ッ!!」

 ヒュンっ―――

 エシャールの紅き指先から放たれた紅きアニムスの氣鏃。彼エシャールが放った妖しく赤く輝く煌めきと共に放たれた『紅氣鏃』はまるで紅玉の鏃のような紅い煌めきを放つ―――。

 ヒュンっ―――、塚本の胸に向かって飛来する『紅氣鏃』―――、

「ぐ―――っ」

 苦悶の表情とその声で塚本は、囚われた両脚を軸になんとかその上半身を捩じらせ、捩らせて―――、微々たる力となった己の『曲がる』異能も揮わせて、とにかく急所である心臓に命中することだけは回避するべく身体をなんとか捩って『紅氣鏃』から躱そうとするものの―――、

「・・・が―――は、、、ッ!!」

 『紅氣鏃』はまるで彼塚本の右胸に吸い込まれるかのようにドスっ、めりめりっと深々と右胸に突き刺さる。じわりっ、、、鏃が突き刺さった彼塚本の胸から彼自身の紅い血が漏れ出るように、塚本の服を紅く染めていく・・・。

 ずりゅっ、、、っとそしてついに塚本の身体を貫通―――、ふぅっと『紅氣鏃』は再び氣に戻り『血世界』へと還ってゆく。

「うぐ・・・っ」

 ぐぐっ、っと塚本は右腕を、まるで掻き毟るかのように右手を自身の胸に伸ばしたかったがそれも囚われていて、それは叶わない夢だ―――、自身の胸に深々と刺さったエシャールの紅氣鏃の傷跡に触れたかったというのだろうか。

「だがしかし、私の『紅氣鏃』は貴殿の心の臓には命中せずか―――であれば、だ『哂い眼鏡』よ」

 哂みの消えた塚本は胸を射抜かれても、だが、その射抜くのような鋭い視線はまだ健在だ。じわっ、っと徐々に大きくなっていく塚本の服にできたその紅い染み。エシャールの紅氣鏃に射抜かれた塚本が、そこから流す彼塚本自身の紅い血だ。

 きっともし、この『紅氣鏃』が心臓、もしくは動脈を斬り裂いていれば、たちどころに塚本の鏃傷からその紅い血を噴き上げることだろう。

「―――っ」

 塚本は余裕がなくなったとはいえ、なんとかその傷の痛みに耐えながらも、その厳しい視線をエシャールに向ける。

「私がもし、数を多く射れば、貴殿はどうなるかね?『哂い眼鏡』よ。ふむ―――」

 すぅっ、っとエシャールは伸ばしていた右手を下すと、今度はそれを、右手の手の平をぱぁの要領で開いた。先ほどまで塚本に対してその指先を向けていた手だ。

 エシャールはその右手をゆるゆるっ、と再び持ち上げて掌を自分の顔に向け、手の甲を下に向けた。顔と視線を下げ、己の掌をエシャールは見たのだ。ふっ、っとエシャールは余裕の笑みをこぼす。

 ジジジ―――ジリッ―――。エシャールの右手とその先の五本の指、その五本の指先にそれぞれ紅き妖しい稲妻の如き輝きが点る。

「いくぞ―――『哂い眼鏡』」

「―――っ」

 眉間に皺を寄せ、塚本の表情がさらに険しくなった。おそらく、今度は五つの『紅氣鏃』が自分に飛んでくる、とそう思っているのだろうか。

「喰らいたまえよ―――『哂い眼鏡』」

 それはエシャールの右手の指先に点ったそれぞれ五つの『血氣』だ。エシャールはもったいぶったかのようにおもむろに、血のように紅き稲妻が迸る五本の左手と五本の右手を―――、

 ばっ、っとエシャールはその紅き妖しい稲妻の如き輝きが迸る自身の右腕を振り被る。その振り被り方はまるで何かを投擲(とうてき)する右腕の撓り具合だ。

「!!」

 違う。先ほどの『紅氣鏃』ではない―――もっと別の危険な異能を行使した技だ―――。おそらく『紅氣鏃』のような一点に集中してくるような技じゃない、、、とそう塚本は思った。先ほどの『紅氣鏃』ならば、僅かに使える自身の『曲がる異能』で急所は外せるなどといった対処はできたのだ。

 だが、次のエシャールの技は―――。エシャールは未だに塚本の『曲がる異能』を警戒してか、塚本の間合い至近距離までは近づかない。その数歩前で―――、

「く・・・っ!!」

 塚本の顔が歪む。


 ジジジジ、ジリ・・・―――ッ、紅い稲妻のような氣がエシャールの右腕を走り回り、その輝きが一番大きくなったときに、ぶんっ、―――っとエシャールは右腕を思い切り振り被る・・・!!

 エシャールは右から左へと袈裟懸けにその紅氣右腕を、、、塚本から見て左肩先から右脇腹へとその紅い氣の稲妻の如き右腕を撓らせ、それが手指へと紅く集束する・・・!!

「『血世界』―――『紅血爪』ッ!!」

 しゅばっ―――!!

「―――・・・」

 塚本はもはや目を閉じることはなく―――あくまで『それ』を見据える。自分に向けてエシャールから放たれた紅い斬撃。それは指の数と同じ五つの血のように紅い五本の真紅の斬撃だ。真正面の塚本から見て、その斬撃はまるで紅い鋼線のように細くもあり、また真横からその斬撃を見れば真紅の三日月型をしていることだろう。

 ざく―――っ、ずばっ、、、と。紅々とした五指の『紅血爪』の紅い斬撃が塚本の衣服を切り裂き、その下の皮を裂き、その鍛え抜かれた肉体を易々と斬り裂いたのだ。

「うぐ―――・・・っ」

 ぷしゃあっ・・・パパパっ、っと塚本自身の紅い鮮血が血飛沫となって飛散する。エシャールが『紅血爪』の五指から放った血氣の五つの斬撃は、先ず塚本の左肩先から入り、左胸、腹を斬り裂いて、そして脇腹を通り、抜けていったのだ。

「どうかね?『哂い眼鏡』私の『紅血爪』の味は」

 どくどくっ、、、っと塚本は身体の前面、さきほどの血氣の斬撃を受けパクっと裂けた傷からその紅い血を流す。

「ちょ、、、ちょっと・・・っ、、、か、痒いかな・・・」

 塚本は笑みを作り努めて余裕に振る舞うが、己が流す紅い血は自身のズボンを紅く染め、地面に自身の血の血溜まりを作っている。

「そうかね、それは失礼―――」

「・・・あぁ、、、エシャールさん」

 こくりっ、と。塚本はそれ以上を答える力など残っておらず、、、塚本の『紅手腕』に掴まれた脚はかくかくと細かく震え、かくかくっ、っとそのように足元が覚束ない塚本は今にも倒れそうだ。

 ジジジ―――ジリッ―――。今度は反対側エシャールの左手とその先の五本の指、その五本の指先にそれぞれ紅き妖しい稲妻の如き輝きが点る。

 ジジジジ、ジリ・・・―――ッ、紅い稲妻のような氣がエシャールの左腕を走り回り、先ほどの右手と同じく、その輝きが一番大きくなったときに、ぶんっ、―――っとエシャールは左腕を思い切り振り被る・・・!!

 エシャールは左から右へと袈裟懸けにその紅氣左腕を、、、塚本から見て今度は右肩先から左脇腹へとその紅い氣の稲妻の如き左腕を撓らせ、それが手指へと紅く集束する・・・!!

「『血世界』―――『紅血爪』ッ!!」

 しゅばっ―――、左手から迸る五つの紅い斬撃。再び飛び散る塚本自身の血液。

「・・・っ」

 もはや塚本に自立する力など残ってはいない。

「貴殿の痒みは治まったかね?」

 エシャールの問いに塚本は答えることもなく・・・。

「・・・」

 しゅるりっ、っとそのとき塚本の足首手首を掴んでいたエシャールの『紅手腕』が解かれ、その紅い腕は血氣に還ってゆく・・・。エシャールが『紅手腕』を解いたのだ。

 すると、ふらふら・・・、っとついに塚本はよろめくように、、、後ろへとゆっくり背中側から―――まるでスローモーションを見ているように緩慢な動きで塚本は仰向けに倒れていく。

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